一章 琴葉 14 故障
私は走る、全力で。
時音の待っているであろう場所へ。
約束したときには考えもしなかったが、こんな時間に時音みたいな可愛い女の子を外に一人で待たせるのはいくらなんでも気が引ける。
もし時音に何かあったら、その時は私が守ってあげなくては。
私は強いのだから。
周りの景色の流れが異常に早い。
不思議と今までに感じた事のない程の速度で走っている事がわかった。
きっと時音を心配して急いでいるのだろうと気にも留めなかった。
一刻も早く。
もっと早く。
「・・・時音。」
約束した分かれ道に到着すると、電灯の下に小さなバッグを持った時音が立っていた、ポツンと。
いつも通りの平然とした姿で。
・・・・よかった、時音は無事だ。
私の姿が声をかけると、なぜか時音は泣き出した。
「あ、・・・・琴葉。よかった。来てくれた。・・・・・ごめんねこんな夜中に。」
涙を流しながら、時音は無理やり笑顔を作って、声を震わせながら言った。
「・・・なんで泣いてるの?」
時音が泣くようなことが何かあったのだろうか。
私は不安でたまらなかった。
「・・・・琴葉が全然来ないから、無理なこと言って嫌われちゃったのかと思って・・・。」
時音は少し俯いて、小さな声を震わせて言った。
時音を泣かせたのは私だった、申し訳ない事をしてしまった。
「ごめん、色々してたら遅れちゃって・・・。」
とても申し訳ない気持ちで、言葉に詰まった。
嫌いな奴を殺しまくってたら遅れたなんてとても言えなかった。
「ううん、私が急に言ったのが悪いから・・・・、琴葉は気にしなくていいんだよ。」
時音は俯いたまま首を小さく横に振って言う。
なんだか時音の事がとても可愛く見えた。
もちろんいつも可愛いのだがそれよりも可愛く。
「・・・ありがとう、ごめんね、時音。・・・・そう言えば、本、持ってきたよ。」
「・・うん。」
時音は俯いたまま、バックから本を取り出して私の方に差し出す。
「ありがとうね、面白かったよ、この本。」
時音は本を差し出すと、いつも通りの笑顔に戻って言った。
よかった、いつも通りの時音だ。
私は安心して時音の差し出す本を受け取った。
「・・・うん、そう言ってもらえると嬉しい。」
私も時音の笑顔につられて笑顔になった。
背負っていたリュックを地面におろす。
しゃがみ込んで、中から本を取り出そうとファスナーを開ける。
本を出そうと、電灯の明かりを頼りに中を探っていると、立ったままの時音から不意に声をかけられる。
「・・・そのリュックについてるのって、・・・血?」
・・・・急いでいて気が付かなかった。
このリュック、赤いリュックなんかじゃなかったんだ。
目の前にあるのは渇いた血塗れのリュックだった。
言い訳をしようと立ち上がろうとしたが、動作の途中で身体が崩れ落ちた。
私はその場に倒れこんだ。
「・・・なん・・・で・・。」
意識はある。ただ体が動かないのだ。
「・・・琴葉?琴葉?」
時音が私を呼ぶ声だけが聞こえた。