一章 琴葉 12 快感
「ピンポーン。」
玄関のチャイムが鳴る。
やっと来た、一人目。
待ちくたびれた。
「ははははっ。・・・・・やっぱり男って馬鹿ばっかり。」
笑いをこらえる事が出来なかった。
単純で、原始的な脳をしているらしい。
私はただ全員に一通ずつメールを送っただけだ。
今晩、家に誰もいないから、二人きりで楽しい事、したい。
だから11時30分に私の家に来てほしいな。
たったこれだけの文章に自宅周辺の地図の画像を添えて、少しずつ指定の時間をずらして送っただけ。
本当に?とか、楽しい事ってHな事?だとかの質問をされたりはしたが、返事は一様に、行く。とのことだった。
たったこれだけの文章で、信用して、私の身体が目的でやってくる。
殺されに次々と集まってくる。
セックスすることしか考えられない、精子の詰まった脳みそで物事を考えているような最低な男どもには一番似合っている殺し方だ。
私はたくさん、笑った。
もうこれ以上笑ったら私が死ぬというくらいに。
そして、これから十三人もの嫌いな人間を殺す事が出来る。次々と。最高だ。
私は玄関の扉を開け、外の男を招き入れる。
「こんばんは。」
ニヤニヤした男がこちらを見ている。
・・・気持ちが悪い。
「入って、部屋に案内するね。」
内心とは裏腹ににこやかに応対する。
本当ならすぐにでもここで殺したいけど、玄関であと十二人の応対をしないといけないのだ。
それにしても殺したい。
もう少し、もう少しだけ我慢。
「お邪魔します」
男は靴を脱ぎ、家に上がる。
「ついてきて。」
階段を上る。
男を連れて。
玄関から見えない二階で殺すために。
「霧崎、俺なんかでいいの?」
階段をのぼりながら男が私に尋ねる。
私は深く考えもせずに、答える。
「もちろん、・・・あなただから良いの。」
本心からの言葉だった。
もちろんこの男の意図していた意味と違う意味で言っているけど。
あなただからこそ、嫌いな相手だからこそ、殺したい。
そんなやり取りをしている間に私の部屋の前に着いた。
・・・・やっとこの時が来た。
やっと殺せる。
「入って。」
私はドアを開けながら、自分にできる限りのかわいらしい声で言った。
男は疑いもせずに真っ暗な部屋に入った。
私もその後ろをついて部屋に入り、ドアを閉めた。
「死んで。」
私は男に向けて言った。
きっと今の私の声はさぞ嬉しそうな声なのだろう。
「え?・・・・な・・・・え・・・・・ぁ・・・。」
部屋の入口の近くに置いておいた包丁で一突き。
二突き、三、四、五、六・・・・・・・・。
何回か刺したころから私は狂ったように笑っていた。
気持ち良い。
気持ちいい。
きもちいい。
私の脳は嫌いな人間を包丁で刺している事によって生まれる快感に支配されていった。
気が付いたら男はもう動かなくなっていた。
死んだのだろう。
何十回包丁で刺しただろう。
いや何十回では足りないくらい刺しただろう。
私の手は血塗れになっていた。
殺すのって楽しい。
早く次の奴来ないかな。
「・・・・血だらけになっちゃった。次はインターホンで出ないと。」
さっきまで男だったものを部屋のクローゼットに隠し、玄関から男の靴を取ってきて、同じくクローゼットに放り込んだ。
「・・・一人。」
私は微笑した。