一章 琴葉 11 嫌悪
私は狂喜していた。
殺した。
殺したはずなのに。
おかしい。
手ごたえがない。
「・・・・どうして。」
狂ったように叫び散らしていた声が途端に小さくなった。
居ない。
あの男が居ない。
ここで眠っているはずのあの男は影も形もなく、そこには包丁でズタズタに引き裂かれた布団があるだけだった。
部屋の中を見回しても何処にもいない。
おかしい。
「・・・・どうして、どうしていねぇんだよぉぉぉぉ!」
私は再び叫んだ。
叫んでも不満の発散にはならず、むしろこれまでよりも爆発しそうになっていた。
殺したい。
どうしても。
私は包丁を握ったまま、血眼になってあの男を探した。
リビング、台所、私の部屋、トイレ、しまいにはクローゼットの中まで、家中のいたる所を探したが、あの男はどこにも見当たらなかった。
見当たらないどころか、玄関の靴が一つ足りなくなっていた。
「・・・出かけてるんだ。」
心当たりがない、何処にいるか判らない。
・・・・・どうしよう。殺さないと気が済まない。
あぁ、そうだ。帰ってきたら殺せばいいんだ。
簡単なことじゃない。
帰ってくるまで、退屈だなぁ。
携帯を開いて時刻を確認する。
10時3分。
時音の約束の時間まではまだまだあるし、どうしようかなぁ。
「・・・そうだ、良い事思いついちゃった。」
嫌いな奴なら他にもたくさんいた。
同じクラスの男ども。
みんな同じように言い寄ってきて、私の趣味を知って離れていく。
あいつらを殺してやろう。
そうしたらきっと楽しいに違いない。
「ははははっ」
殺す相手を見つけて落ち着いた事で、また自然と笑いが出てきてしまった。
今度は周りを気にせずに笑えるから楽だ。
・・・・さて、どうやって殺そうかな。
携帯のアドレス帳に名前があるやつで数えて十三人。
いっぱい殺せるのがわかって私は涎が出そうになっていた。
アドレス帳を眺めていて私は妙案を思い付いた。
私はその嫌いな男どもに順番にメールを送っていった。
我ながらよくできている。
吐き気がするほどの出来だ。
やっと嫌いな奴を殺せる。
楽しみで楽しみで仕方がない、心が躍る。