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一章 琴葉 10 却下

私は階段を下る。

一段。

また一段。

一歩踏み出すごとに心が躍る。

あの男を殺す瞬間にまた一歩近付いたという実感を踏みしめる。

・・・・早く殺したい。すぐに殺したい。今殺したい。

自然と顔が笑顔になっていくのを感じた。

最後の一段、降りる。

ここはもう一階。

殺したくてたまらない、あの男のいる一階。

もう抑えきれない。

早く殺そう。

ゴルフクラブなんてもうどうでもいい。

なんでもいい、そうだ、包丁。

包丁なら台所にある、すぐそこの扉を開けて、リビングから行けばすぐだ。

リビングの扉を開ける。

中は真っ暗、誰もいない。当然だろう、どうせあの男は自分の寝室でもう眠っているだろうし。

これから妹に殺されるなんてこれっぽっちも考えずに。

「ははっ。」

私はもうこみ上げる笑いを声に出さずに留めておくことができなくなっていた。

電気の点いていないリビングから台所へとゆっくり歩く。

「・・・包丁♪包丁♪・・・・いけない、ははっ。」

 あまりに楽しい気分なのでつい小声で歌い始めてしまった。

あの男に聞かれたらこの楽しい気分も台無しだ。

「・・・・みーつけたっ、うふふ。」

 台所の戸の中に収納されていた包丁を手に取る。

真っ暗な空間に鈍く光る刃。

自分の心臓の高鳴りを感じた。

この刃があの男を切り裂く。なんて妄想をしたら喜びで身体が震えた。

これでもうあの男を殺せる。

「・・殺す。楽しみ。」

 また声に出してしまった。

もう、今すぐ殺したい。

ううん、殺したいんじゃない、殺すの。

 包丁を握りしめて台所を出る。

リビングを経て廊下へ。

廊下の暗闇の中、包丁を握りしめて歩く。

この時間がとても長く感じられた。

「到着♪」

 兄の寝室の戸の前まで辿り着いた。

思わず声に出したが、中には聞こえないように声を抑えていた。

 この戸を開けたら即、この包丁を突きたてよう。

逃げる隙、ううん逃げようって考える時間も与えないように。

絶対に殺せるように。

 私は戸に手を掛けた。

そーっと、中に気づかれないように。


 よし、殺そう。


「ガタン!」

私は勢いよく戸を開け、部屋の中に全速力で踏み込んだ。

「死ぃねええぇぇぁぁぁ!」

私の言葉は、興奮のあまり奇声になっていた。

姿なんて確認もしないで、あの男の眠る布団に飛びかかり包丁を突き立てた。

何度も、何度も、メッタ刺しにした。

笑いながら。

一心不乱に。

ズタズタに。


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