<渓流地帯>渓流でトレジャー!
※本作品では、制作にAIツール(Claude)を用いています。ご理解の程お願い致します。
ここか後書きに、設定などを記入したほうがいいでしょうか?
◆大陸の東側に位置する渓流地帯は、温暖で雨の多い気候のため、動植物が育つのに十分な土地である。急峻な地形ながらも自然に抱かれて、動植物は競うように逞しく育っていた。切り立った岩壁が幾重にも連なり、その間を縫うように清流が流れる。
秋も深まり出す頃、緑の山々は赤や黄に染まり始めていた。紅葉は燃えるように鮮やかな色合いを見せていた。竹林は風に吹かれて涼やかな音を奏で、滝は白い糸となって崖を伝い落ちる。季節ごとに色を変える景色は、訪れる者の心を楽しませる。
村は、そうした渓流の近くに位置していた。伝統的な建築の家々が寄り添うように建ち並び、石段と細い路地がそれらを繋いでいる。家々の軒先には干し柿や薬草が吊るされ、秋の実りを感じさせた。村人たちは朝早くから起きて、それぞれの仕事に取り掛かる。人々は穏やかに、健やかに過ごしていた。
つい最近、この村に温泉が湧き出した。山の奥より湧き出した霊泉は、ほのかに硫黄の香りを放ち、身体を芯から温める。湯に浸かれば疲れも痛みも溶けていくようで、その効能は一躍評判になった。温泉を求めて多くの旅人や冒険者が訪れるようになった。村は、新たなる賑わいを見せ始めていた。湯煙が白く立ち昇る温泉宿は、そんな賑わいの象徴でもあった。
「いいところだなあ、賑やかだし、宿もある。しばらくここにいよう」
一人の少女が、温泉宿の入り口にて呟いた。
名はリアンという。亜麻色の髪をポニーテールに結い上げ、緑の瞳をしている。幼さを残しながらも整った顔立ちは、森に住む妖精族を思わせる。全体的に細身だが、程よく露出した装備からは、女性的な丸みが見える。体のラインにフィットした衣装は、体のメリハリを際立たせる。ブーツから覗く太ももは筋肉が程よくあり健康的である。
冒険者として幾多の険しき依頼を成し遂げてきた彼女は、噂に聞いた温泉を求めて、この村を訪れた。先ほど冒険者ギルドの拠点に立ち寄った時、温泉地近くの魔物退治の依頼もあった。しばらくここで活動するのもいいだろう。
リアンは、村の名物の温泉に身を浸していた。山間から湧き出た湯は、凝った身体を芯から温めて癒した。その余韻で、頬とエルフ耳はほのかに赤く染まっていた。ここ最近の依頼の疲れが、湯気と共に身体から抜けていくのを感じた。
湯浴みを終えた彼女は、亜麻色の長い髪と色白の肌をタオルで拭くと、バスローブを纏って休憩所に向かった。華奢ながらも、冒険者として鍛えられた均整のとれた体つきが、歩くたびに優雅に動いていた。
休憩所で先ほどの温泉の余韻を楽しんでいた。敷居を超えた外には、渓流の険しくも美しい景色が広がっていた。お茶を飲みながら佇む彼女の口から、思わず口から声が漏れた。
「っはぁっー、いい湯だったー」
「そうか、いい湯だったか。お前さんは問題なく楽しんでいるんだな」
至福のときの中、思わぬ声合わせがしてギョッとする。振り向くと、ひとりのドワーフ族の中年男性が座っていた。しかもいつの間にか近くに来ていた。怪訝そうな態度をとる彼女を気にすることなく、ドワーフは語り出した。
「見たところ、お前さんはここの者ではなさそうだな」
「ええ、外部からの観光客です。おじさんこそ誰ですか、何しにきたんですか」
デリカシーのない者だ。先ほどの惚けた声色が、素っ気ないものに変わっていた。
「ああ、わしのことか。とりあえず、トレさんとでも呼んでくれ。わしは、トレジャーと呼ばれる、大自然の中にある宝を求めて世界中を旅して回っている者だ。まだ見ぬ宝を求めてこの渓流地帯にもやってきたんだが、村の集会所に行って話をしたら、『トレジャーハンターは禁止!』って言われちまった。それでふてくされてこうして休んでいる」
そう言って、トレさんは力なく肩を落とした。しかし、その表情が曇っているのは、単に宝探しを禁じられたからだけではなさそうだ。彼の腕と脚には、痛々しく包帯が巻かれていた。
リアンはチラリと視線を送り、無関心を装いつつも、つい話を聞いてしまった。
「その包帯といい、どうやら何かあったようですね。少しだけなら話を聞いてあげますよ」
「本当か!それはありがたい。ちょうど話し相手が欲しかった頃だ。それで文句を言ったら、『そんなに宝探しがしたいなら、タケノコでも取って来い』って依頼を突きつけられたんだ。取ってきたら考えてやる、って言われたから、渋々行くことにしたんだ」
「そうだったんですね。それで、無事に取れたんですか?」
「それが、目的地まであと一歩、と言うところでダメだった。熊型の化け物に襲われてた。並みの魔物じゃねえ、一撃が岩をも砕く怪力だ。おかげでこのザマさ。ギルドの依頼も宙に浮いちまった」
「なるほど、それはお気の毒です。でもタケノコかぁ……」
リアンは眉をひそめた。難しい依頼を着々とこなしてきた彼女にとって、それは簡単な報酬源に見えた。
「その依頼、わたしが引き受けましょうか?この通り、動けますから」
「おお!本当か!手伝ってくれるのか!」
「ええ、ちょうどどうしようか迷っていましたし。何か面白いことないかなと探っていました」
「おお、これは嬉しい限りだ、感謝するぞ!これで宝に近づけるぞ……!」
「そんなに宝が欲しいんですね。でも、なんでここの村人は宝探しを嫌がっているんでしょうね?うちらのいるところでは、ギルドを介するなら宝をとってきてもいいんですけどね」
「それなんじゃよ。理由を聞いたら、前に冒険者が宝を取ってきたせいで、渓流全体に厄災が降り注いて大変なことになったからだそうだ。それで警戒して取り締まっている。まったく、困ったもんだ!」
「はぁ、そりゃとんだ災難ですね。でも、おじさんは宝探しをしたいようですね」
「そりゃそうだ。集会所の人間は何か隠しているのは間違いない。この下の広場で冒険者が宝の噂をしているのを聞いたからな。この目で見るまでは、わしは諦めないからな!」
ーーー
◆翌朝早く、リアンは村を出発した。依頼の内容は、希少なタケノコを5本採取することだ。場所は依頼の時に教わっていた。
そのタケノコは、この村の希少な特産品であり、この渓流地帯の最奥地の竹林にだけ自生するという。取れる数が少ないため、食べるには高い金を出す必要がある。普通のタケノコと異なり、身は雪のように白く、火を通せば豆腐のように柔らかくなり、口に入れれば甘い香りにとろけるような味わいがするという。
そう言われると美味しそうでよだれが出てくる。とってきたら食べてやろうか。
渓流地帯は、切り立った岩肌と清流が織りなす険しい地形だ。今回進むのは森の深いエリアだが、それでもあちこちに剥き出しの岩盤が並び、木々が途切れれば起伏の激しい地帯が続く。
しかしリアンは、生まれ持った高い身体能力を活かし、それら大自然の脅威をものともせず進んでいく。浅い川を渡り、険しい山あいを飛び跳ねていく。動きやすさ重視の適度に露出のある軽装と、ポニーテールに結んだ亜麻色の長い髪が、その動きをさらに際立たせた。
途中、切り立った崖に丸太が架かっている場所を見かけた。これはラッキーだ。ここを通れば大きく道のりを短縮できる。軽快に丸太橋を渡る。
もう朝が終わりそうな時刻だ。でこぼこの地形を抜けると、竹やぶが見えた。葉が触れ合う涼やかな音が聞こえてくる。教わった場所はここだ。その時、竹やぶの入り口から、何かがこっちに向かってくる。
それは武者のような人影だった。この地方特有の甲冑を全身に纏っている。頭の兜はタケノコのように先が尖っていた。面頬の奥から放たれる視線は虚ろで、とても生きている人間のものとは思えない。ところどころが錆びた赤褐色の鎧は、陽の光を反射していない。そして、すでに刀を抜いてこっちに歩み寄っていた。
リアンは眉を顰め、怪訝そうな表情で見ていた。話が通じ無さそうだと判断すると、すかさず弓を構えた。
準備が出来たと見たのか、その人影は凄まじい速さで斬りかかってきた。リアンは問題なく避ける。距離を取ると、また斬りつけてきた。
「なんの!」
同じように避けた。すると、相手はそのとんがった頭をこっちに突き出すと、勢いよく突っ込んできた。少し位置をずらしても正確に向かってくる。
十分に近づいたとき、そのまま突っ込む。のではなく、身体を回転させると、刀で一閃を放った。ブゥン!と風を斬る音が響く。あたりに木の葉が舞い散る。
「ぬっ!」
自分の体すれすれのところで攻撃をかわす。しかし、思わぬ技を持っていたことに彼女は驚いたようだ。目を開き、口が少し開いた。
不思議なのは、これだけ激しく動いても、相手の口元からは息遣いが聞こえてこないことだ。
どうやら早めに決着をつけないとならないようだ。
リアンは弓を前に出して相手に向けた。同じように相手は突っ込んできた。また避ける。しかし、さっきとは違う。弓の弦を引きながら避けた。この時矢は持っていない。すると、緑の魔力の光が弓の中央に集まり、矢の形になった。魔力の矢である。そして相手に隙が生じたところに矢を放った。それは相手の兜を射貫いた。
ものを言うことなく動きが止まる。そして、甲冑ごと霧のように姿を消した。
「……はぁ、終わったみたいね」
武器を納めた。刺客を仕留めたリアンは、息を乱すことなくその場を後にした。
竹やぶを進むと、目的のものはすぐに見つかった。白く光るタケノコが整然と生え揃っていた。まるで後光が差しているかのような神秘さがあった。あれが、依頼にある希少なタケノコのようだ。
近づくと根元から引き抜く。あっさりと地面から離れた。目的の数である5本だけ採取する。それらは引き抜かれた後でも白く光っていた。それらをまとめて布に包んで、鞄に収めた。
「さて、これで依頼は完了ね」
依頼の品を手に入れた彼女は、薄暗い竹やぶを後にした。村への帰路につく。日は真上には至っていなかった。
ここで帰り道に着く描写を入れてもいいか
よく晴れた渓流の荒々しい道を行く。背に荷物を背負っても、その足取りは衰えることはない。
切り立った崖の上からは、視界をさえぎるものがなく、秋の渓流の風情ある長閑な景色が広がっている。
しかし穏やかさとは対極に、火山活動も至る所で見られた。白い煙があちこちから上がり、鼻をつく硫黄の匂いがする場所もあった。熱を持った黒い溶岩が出ている場所もあり、周りの空気が歪んでいた。陽炎だ。
鉱脈も見つけた。汎用的な鉄や銅以外に、希少鉱石さえあった。
これらの火山活動は元からあったのではなく、村で語られる異変の後に起きたという。眠っていた火山が、突如活動を始めたのだ。
ギルドではこれらに注意さえすれば好きに活動していいとのことだ。
「ここは矛盾したところね。自然の緑と、火山の中。でも、希少鉱石は頂いておこう」
森の入り口に着いた。しかしリアンは呆気に取られていた。行きの道でショートカットに使った丸太橋が跡形もなく消えていた。
「えっ、どうして…?」
この短時間で消えるものだろうか。岩場に固定されていたし、そう簡単に動くようなものではないし、強い風も吹いてないし。考えても仕方ないので、崖を避けて森の中を進んだ。
そういえば、もう昼になっていた。リアンは空腹を感じた。見上げると、木の上に赤い果物が実っているのを見かけた。手を伸ばしても届かない高いところにある。そこで、弓を使うことにした。
狙いに向けて弓を構えて弦を引く。緑の光が集まり矢の形となった。弦を離すと、放たれた矢は果物を射抜いた。果物は地面に落ちた。魔力の矢はすでに消えていた。
先ほど狙った果物を拾い上げると、かじりついた。口の中に程よい甘さと酸っぱさが広がる。
「うん、いい感じだ」
そうして食べ終わった。再び道を進もうとしたとき、ドスン、と何かが落ちてきたような音がした。その方向に顔を向ける。そこには、大きな黒い影が見えた。さらにまずいことに、こっちに近付いてきた。リアンは急ぎ、近くの低木の影へ逃げ込んだ。
木の枝の間からそれを覗く。薄暗い森の中だったからよく見えなかったが、その頭と全身のシルエットから、熊の化け物だと分かった。4本足で歩いているときでも、高さは大人ほどはあった。温泉宿にいるトレさんが、熊に襲われたって言ってたのを思い出した。
熊の化け物は、木に向かって体当たりをした。木はガサガサと揺さぶられた。なっていた果物がいくつも落ちた。それら一つひとつを頬張り出した。ひとつ食べ終わると別のものへ。
その隙にリアンは逃げ出した。相手に見つからなかった。
その後も森の中を進む。秋も深まる頃の森の中は、色づいた紅葉と、まだ青い葉っぱの組み合わせが続く。近くに川があるようだ。水の流れる音がする。同じような景色と音が続いた。まるで森の迷路を進んでいるかのようだ。景色がループしているんじゃないかな。
「もう夕暮れか……けっこう時間かかったものね」
やっと森を出た。森に入った時はまだ午前だったが、森を抜けたら日没だった。かなりの時間、森の中を歩いていたようだ。でもリアンにはそれだけの距離を歩いたようには思えなかった。
違和感は感じていたが、気にしてもしょうがないので帰り道を進んだ。あたりはすっかり暗くなっていた。月が白い光を放っていた。今日は村に着きそうにない。そう思い、リアンは野宿することにした。
目を向けると、開けた場所があった。そこは平らで乾いた岩棚だった。ゴツゴツした岩が剥き出しになっているが、それらを押し除けて竹が生え揃っていた。この奥は竹やぶになっている。近くには切り立った断崖があり、渓流の雄大な景色が見える。月下の渓流は、荘厳な美しさがあった。ここに泊まることにした。準備を始めた、その時だった。
ゾッ、と全身に鳥肌が立つ。無数の視線が突き刺さるのを感じた。竹やぶ入り口の大きな岩の上からだ。その方向を恐る恐る振り向く。
そこにはいくつもの黒い影があった。その目だけが、赤や黄色に妖しく光っている。それはまるで、夜の暗闇が形を持ったかのような存在だった。じっとこちらを見据えていた。
「っ!」
怖気が全身を走った。逃げなければ。そう思い、リアンは全ての準備を放り投げて走り出した。
ちなみにその場所には、動物を象った石の像がいくつも並んでいた。
やっぱり異変は本当だったんだ!この渓流は、何かおかしかったが、これで確信した。ここは、狂っている!化け物どもの棲家だ!
結局、その晩は村まで進み通した。途中、止まることはなかった。
それでも、なんとか出発した温泉宿に着いた。月は真上に昇っていた。あたり一面は静かで何も音がしない。深夜なので宿の扉は空いていない。既にクタクタだった。そのまま力尽きるように眠りに入った。
翌朝、村の人に起こされた。宿の入り口を塞ぐように横になっていたのだ。すぐさま慌てて起きて、道を譲った。
その後、宿にて依頼の品である希少タケノコを見せた。あれだけでこぼこ道を動き回ったにも関わらず、傷もなく無事だった。布に包んでおいたため。これにて依頼完了だ。
◆ギルド関係者から報酬を受け取った。入手が困難な希少品の納品に加え、タケノコを取る前に刺客とも戦闘を交わした。それだけあって、採取クエストにしては中々の金額になった。
その時にリアンはギルド関係者に伝えておいた。この依頼はトレジャーハンターのおっさんの代わりに受けて達成したものであること、本当に渓流に宝はないのか、もしあるなら取ってくる依頼はないのか、と。その時の彼女の表情は迫ったものだったようだ。ギルド関係者は怖気づいていた。リアンは用件を伝えると、旅館の休憩所に向かっていった。
トレさんの姿はなかった。どうしちゃったんだろうと首をかしげる。まだ湯治中のはずなんだけどなあ。いないなら仕方ない。
ブラブラと庭園が望める場所まで移動した。するとそこには、ひとりの女性が座って休んでいた。
その人は、この地方特有の神官の服装をしていた。白の上着に赤の袴姿である。腰には何か器具を携えていた。手入れが行き届いていると思える艶やかな長い黒髪に、透き通るように白い肌をしていた。まだ幼さが残るものの、目鼻立ちが整った顔立ちである。ミコトの外観説明
その人は、リアンの姿を見ると、声をかけてきた。
「あなたでしょうか。昨日、この宿でタケノコの納品依頼を受けて行ったのは」
「ええそうですけど、何かありましたか?」
「特にございません。そのタケノコの件で、もしかしたら近いうちにあなた、リアンさんに依頼がかかるかもと思い声かけを致しました」
綺麗な人だな、と思っていたが、その言葉に、リアンは狐につままれたような気分になった。
「ところであなたは誰ですか?どうしてわたしの名前を知っているんですか?」
「急に名前を呼んでしまい失礼いたしました。申し遅れました。私はミコトと申します。この村のギルド関係の仕事をしております。以後、よろしくお願いします」
そう言って丁寧に自己紹介をした。寝不足でボケた顔が困惑したようになる。
「いや、そこまで丁寧にしなくても大丈夫ですよ。もっと普通に話しても。ご存知の通り、わたしの名前はリアンです。冒険者をしています」
「そうですか、ならもっと柔らかいものにしますね。すみません、仕事柄先程のような言葉遣いが板についてしまいまして……」
「それはそれで大変そうですね……」
やつれた様子のリアンを見て、ミコトは尋ねた。
「お疲れのようですね。昨日は渓流に夜までいたようですね。もしかして、アレを見たんですか?『黒い影』を」
リアンは小さくうなづくと、ミコトは深刻そうな顔で答えた。
「見てしまったんですね。言い伝えによると、アレを見ると不幸が起こるらしいですよ。ずっとついてくるみたいです。ほら、あなたの後ろにー!」
リアンはすっかり怯えてしまった。しかし、ミコトはすぐにニヤリと笑って言った。
「なーんて、嘘ですよ。アレはフクロウのような、ただの夜行性の生き物です。人間には無害です。今度見かけたら近寄って見ればいいですよ。耳をすませば『ほーほー』って鳴き声がしますから。あれは異変の前からいる、この土地の住人です」
リアンは拍子抜けしていた。ミコトは続けた。
「さっきは騙して悪いことしちゃいました。どうですか、このあと、一緒に温泉にでも入りませんか?私、ここに入るのが好きで、よく来ちゃいます。リアンさんも疲れが取れそうですよ。すでに動き回って汗かいているでしょう?」
思わぬ誘いが来た。そういえば、リアンは最近は誰かと一緒に何かしたことがなかった。久しぶりに乗ってみるか。
「いいですよ。わたしもこういうの好きです」
「それは嬉しい限りです。では早速、行きましょうか」
ーーー
◆リアンは至福の時を過ごしてきた。冒険者ギルド関連の仕事をしているというミコトと知り合い、一緒に温泉に入ってきたのだ。湯気が立ち上る中、秋の渓流の風景が目に飛び込んでくる。
「ああ、身体に染みるぅ…疲れが出ていくぅ…」
「ほんと、リアンさん、幸せそうな顔してますね。でも、それも納得の湯ですから。私もこの温泉が大好きなんです。仕事の合間とかによく入りに来ますから」
そうミコトはつぶやいていた。リアンを真っ直ぐに見て、口の端が上がって目を細めていたのを思い出す。
湯浴みの後、脱衣所にいた時も、ミコトは声をかけてきた。
「リアンさん、いい身体してますよね。亜麻色の髪に緑の目、肌も白く、出るとこも出てますし……見惚れそうです」
「いやぁ、ミコトさんもいいですよ。その艶のある黒髪に、透き通るような白い肌にと。昔からの淑女のような顔立ちなのに、身体も細身ながら均整が取れていますから」
照れながらそう返す。ミコトもまんざらではなさそうだ。
着替えを終えると、ミコトが村を案内するとのことで、彼女に付いていった。人々はそれぞれの活動に勤しんでおり、所々から陽気な声が聞こえてくる。石段を登り、大きな道を進むと、やがてふたりは集会所にたどり着いた。
暖簾をくぐり中に入る。そこには、木彫りや張子の置物がいくつも並んで飾られていた。この地方の伝統工芸品だろう。それらの中に、特に目を引くものがあった。
大きな弓である。それは、リアンが普段使っている弓より遥かに大きく、左右非対称の独特な形状をしていた。弓の中央には、日輪を模したと思われる飾りがあしらわれている。
興味深そうに眺めるリアンに、ミコトが声をかける。
「この武器に興味があるようですね。ざっくりと話しましょうか?」
リアンがうなずくと、彼女は流暢に説明を始めた。
「これはこの村の伝説の弓、大和弓です。大きいだけでなく、威力も凄まじく、何枚もの鉄板を貫通するほどです。また、かなりの力がなければ弦を引くことができないとされています。他にも秘密があります。知りたいですか?」
「はい、教えてください」
「この弓は材料に特別な素材を用いて作られています。巨大な生物の角です。でも、それは他地方の生き物です。どうやって入手したと思いますか?」
「ええと……交易で手に入れたとか?」
「正解は、この村の英雄がそのモンスターを撃退して手に入れたのです。その生き物は、かつては他地方を徘徊して被害をもたらしていました。しかし、この地方の弓の名手が退治し、見事にその素材を持ち帰ってきました。不思議なことに、その素材はこの地方の加工方法と見事に調和しました。加工の方法は口伝のみで伝わる、秘伝の武器です」
リアンの瞳が輝いた。アーチャーとして、そのような名弓を一度は引いてみたいものだ。
「もしよければ、引いてもよろしいでしょうか?」
「お気持ちは察しますが、これは村に伝わる秘宝なので、認められた者以外は触れることもできない決まりなんです。あなたがそれに相応しいかどうかは定かではないので、まだしばらくお待ちください。ごめんなさい」
リアンはしょげたような表情をした。すぐさまミコトがフォローする。
「でも、いずれあなたが持つかもしれません。この弓の使い手は今はいませんから。もう長い間、誰かの手に渡るのを待っています」
そう言われると、リアンは気を取り戻した。表情が元に戻る。
「紹介しておきながら、がっかりさせてしまいごめんなさい。お詫びと言って何ですが、美味しいお店を知っているんです。一緒に食べて行きませんか?」
再び誘いが入る。そういえばお昼はまだだった。お腹も空いている。その誘いに乗ることにした。
お昼を食べ終わると、ミコトはこの後も仕事があるとのことだった。ふたりはその場で解散となった。
その後は特にすることもなかったので、早めに寝た。
◆宝の情報があるとのことで、リアンは、村にしばらく留まることにした。最初こそ興味がなかったものの、宝って本当にあるのかな、どんなものなんだろう、と気になっていた。
翌日、温泉の休憩所にいたリアンの元に、トレさんが駆け込んできた。何やら興奮した様子だ。先日までつけていた包帯はなかった。
「嬢ちゃん!やったぞ!村の資料を漁って情報を掴んだ!昔、この地方を治めた殿様の埋蔵金が渓流に眠っているらしい!」
「それは本当ですか。というか、トレさん、動けるんですか?」
「ああ、怪我ならもう治ったわ!さあ、今すぐ集会所にいくぞ!」
「でも、その埋蔵金は掘っても良いという許可は下りたんですか?」
その言葉に、トレさんは首を横に振った。そしてしょんぼりして肩を落とした。
「……そこなんだ!」
その時、2人の人物が休憩所を訪れた。ミコトと、タケノコの件で関わったギルド関係者だった。
「前置きは話さなくても良さそうですね」
ミコトは神妙な面持ちで話し始めた。
「確かに、その方の仰る通りに、財宝は実在します。ではなぜ今まで隠していたかというと、宝をめぐる争いを避けるため、そして何より、埋まっている場所が強力な熊の化け物の住処となっているからです」
実は、ギルドでもこの財宝を手に入れるために、何かいい案はないかと考えていた。そんな中、タケノコの依頼で動いたリアンに白羽の矢が立った。ギルドはリアンの冒険者としての実績を調べ上げ、彼女を依頼を託すのに相応しい人物と判断した。ミコトはリアンを真っ直ぐに見て話し始めた。
「リアンさん、あなたは優秀な冒険者です。この依頼を受けますか?埋蔵金の回収と、熊の化け物の狩猟。これは村の発展にもつながります」
「優秀と言われると照れますね、悪い気はしません。ところで、この宝って私たちも貰えるんですか?」
「どんなものがあるかはわかりませんし、ものにもよりますけど、一部なら……。それか、報酬を弾ませましょう」
リアンの眉が上がった。
「ほお、ならおいしい話ですね。この依頼、引き受けましょう」
トレさんがすかさず叫ぶ。
「よっしゃあ!この時を待っていた!おれも参加するぞ!」
ギルド関係者が口を挟む。
「この前まで怪我してましたが大丈夫ですか?でも、リアンさんがいるなら大丈夫でしょうね」
「トレさんも参加でお願いします。この時をずっと待っていたようですから」
すかさずリアンが言う。すると、ミコトが口を開いた。
「それでは、この場でクエストの受注と説明を行います。少し長くなります」
すると、ミコトから2人に対して、クエストの説明が始まった。
「これで決まりです。では出発は明日にします。当日はできる限り、ギルドのほうからも支援しますが、何が起きるかわかりません。警戒は十分に怠らないようにして下さい」
ミコトの説明が終わった。長い話から解放された2人はホッとした。すると、ミコトはリアンに尋ねてきた。
「ちなみに、お二人はどんな関係ですか?仲がいいんですか?」
「いやそんなことは」
その言葉をリアンは否定しようと言ったが、すぐさまトレさんが割って入った。
「ワシはトレジャーハンター。世界中の宝を追い求めて旅をする者。そしてこの娘はワシの弟子じゃ!」
「ちょっと!いつ弟子入りしたんですか!」
すかさずリアンが言う。はっきりした口調だった。
「そうですか、弟子ですか……」
ミコトはニコリと笑い、トレさんに近寄った。妬いたような視線だった。そしてミコトはトレさんに圧力をかけた。
「弟子を取るのはいいんですけどね、もしリアンさんをいじめたり、怪我をさせたりしたら、タダじゃ済みませんよ。あなた、病み上がりなんだから、無茶はしないことですよ」
その視線にトレさんは怯む。
「ああ、わかりました……」
クエストの受注が終わり、一行は解散となった。ミコトとタケノコギルド関係者はその場を後にした。2人は別々になった。
その場にはリアンとトレさんだけが残された。トレさんが声をかける。
「なぁ、嬢ちゃん。あの赤白の服を着た娘と知り合いなのか?なんだか仲良さそうだったけども」
「そうですけども。ちょっとわたし、用があるので離れますね」
そう言うと、リアンはその場を後にした。そしてミコトのほうに向かっていった。遠くからリアンの声がトレさんの元に届いた。
「ミコトさん、この後は空いてますか?もしよかったら、昨日と同じように、温泉でも一緒に入りませんか?」
ひとり残されたトレさんはボソッと呟いた。
「なんかオレ、雑に扱われてないか?」
ーーー
◆次の日の朝、リアンとトレさんは渓流に出発した。依頼を受けた時に、この前のタケノコ採取とは異なる通路を案内された。前回は森の道だったが、今回は水と岩の道だ。地図を見つつ道を進む。
二人は川の近くを進んでいた。急な流れの水の音があたりにこだまする。水飛沫がこっちまで飛んでくる。
道は細い上に起伏が激しい。岩を掴んでよじ登る箇所もあった。水と苔で濡れて滑りやすい箇所もある。
それでもリアンの足取りは軽快で、険しき山道も彼女の身体能力の前には無きに等しい。怪我が治ったばかりのトレさんもまた、リアンに遅れをとるまいと、ドワーフ族の頑健さを持ってついていく。背中には長年愛用のツルハシを携えていた。それは、トレジャーハンターとしての矜持を示していた。
途中、苔に覆われた石像があった。それは人型に象られており、独特の模様があった。何らかの精霊を祀ったものだろうか。早速トレさんが触れようとする。
「おおっ!これは貴重な遺物じゃ。ゲット、トレジャー!」
「何勝手に手に入れた気になっているんですか。この手のものは持っていくのはダメって、村で言ってましたよ」
「ケッ。この貴重なもののありがたみが分からぬとは、底の浅い者どもばっかりだな」
「村人が言ってた異変だって、こういうものに由来したようですよ。ミコトさんに言いつけます」
トレさんの顔がひきつった。
「それは勘弁してくれ、この通り諦めるからさ」
そう言って、トレさんは渋々手放した。リアンが言いつける。
「今は財宝を見つけるのが先です、目的を間違わないでください」
結局のところ、トレさんは触れることなく、その場を通り過ぎた。
やがて、周囲に巨岩が転がる広々とした場所に至る。今まで険しかった川は広くなだらかになっていた。柔らかな水の音が響く。
そこには、例の熊の化け物がいた。四足歩行の時でも大人の背ほどの高さがあった。全身は栗色の剛毛で覆われ、両足と背部は鎧のような外殻に守られていた。分厚い守りは、並の武器えは傷一つ付けられないほどに堅牢だった。その硬さは竜をも凌ぐ。
その魔物は、川面と睨めっこをしていた。突然後ろ足で立ち上がると、前足を振り上げて勢いよく薙ぎ払った。すると1匹の魚が宙に舞い河原に落ちた。それを押さえると、腹を満たすべくむしゃぶり始めた。すぐに腹の中に入っていく。
食事の余韻に浸っていた。ヤツはあたりをぼんやりと眺めていた。そして再び四つ足で散歩を始めた。普段は温厚なのかもしれない。
「あれじゃ、わしを襲ったのは!ぐぐぐ、見ておれ!トレジャーのため、戦おうぞ!」
「ええ、準備はできています。打ち合わせ通りに行きましょう」
食事終わりに悪いけど、こっちも仕事なんでな。トレさんは角笛を吹いた。リアンも弓矢を前に突き出していた。熊型のモンスターはこっちに気づいたようだ。近くの岩を掴むと自分の頭の上に持ち上げた。戦闘開始だ。
相手は持っている岩を勢い良く投げつけてきた。トレさんは横に避ける。岩は砕け散った。しかし、避けた先にはすでに熊の姿がある。すでに右腕を振り上げていた。相手の視界を遮った隙に飛びかかってきたのだ。その勢いを殺さずに腕で一閃する。ブゥン、と風を切る音がする。トレさんは相手の目と鼻の先でかわす。
ターゲットがトレさんに向かっている間、リアンは援護射撃をする。弓を引くと、矢がないにも関わらず緑色の魔力の光が集まり、矢が出来上がった。それを何発も放つ。その威力は竜の外殻も貫く。しかし熊の化け物に当たっても、分厚い体毛を貫くことはなかった。
今度はリアンにターゲットが移った。熊は助走をつけて飛び掛かる。彼女のすぐそばに着地すると、体を回転させ周囲一帯を薙ぎ払う。彼女は顔色を変えることなくかわす。すでに近づいていたトレさんがツルハシの一撃を当てる。しかし硬い殻に阻まれ、攻撃が弾かれた。その隙を逃さまいと、またターゲットを変えて、トレさん目掛けて何度も腕を振り下ろす。
リアンは援護射撃をしなかった。それを尻目に見つつ、弓に細工を施していた。猛攻撃がトレさんに及ぶ。凌ぐにも限界が来ていた。反射的にツルハシを前に差し出そうとする。これでガードすると体勢を崩されるとわかっていながらも。
その時、リアンからの援護射撃がやっと始まった。チクチクした刺激は有効打にはならないが、気を紛らわすには十分だ。トレさんへの攻撃は収まり、再びターゲットはリアンへ向かった。
こんな調子で一進一退の攻防をする。しかし、相手の守りは固かった。リアンの弓矢も、トレさんのツルハシも、熊型魔物の毛皮や外殻には効き目が薄いようだ。
一方で相手は相変わらず、自慢の怪力を振るっていた。硬い外殻に覆われた前足から放たれる一撃は岩も砕く。硬い岩盤も抉れる。しかし熊の前足は傷がつかない。
しかし2人には余裕が生まれた。動きのクセに付いてこれるだけではない。はじめよりも、熊の動きがおとなしくなったのだ。また、時々動きを止めて休む素振りも見せる。トレさんは、リアンが何かしたのを感じていた。
その通り。リアンは毒矢を放っていた。トレさんにターゲットが向いている間、リアンは弓に細工をしていた。それは、毒液の入った瓶を弓に括り付けていたのだった。これにより、矢を放つ時に毒が矢尻に毒がつくようになる。
毒は、今までの冒険で集めた毒キノコを液状にしたものだ。この毒によって相手を弱らせる。それで立ち回りに余裕ができた。2人の表情が緩む。
しかし熊の怪力はなおも強力だった。相手は低く身をかがめると、前進しながら右腕を横に広げ、対象に近づくと大きくアッパーを繰り出した。近くの岩は砕け散り、破片が2人に降り注ぐ。それらを避けても、熊はすぐに距離を詰めて一撃を当てようとしてくる。
今度はトレさんを狙った。大きく振りかぶり腕で一閃。反射的にツルハシでガードしてしまった。大きくのけぞってしまった。まずい、もう一発はいなせるかわからない。再び熊が一撃を繰り出そうとする。
しかし、トレさんに当たらなかった。腕を振り上げて予備動作をした時に、大きく叫びを上げてのけ反ったのだ。ターゲットが逸れている間、リアンは弓を引く力を強めて、それまでより太い魔力の矢を拵えていたのだ。それを熊型モンスターのケツを目掛けて射った。貫通こそしなかったが、熊の分厚い体毛を超えて効いたようだ。ヤツはズッコケた。トレさんは一息ついた。
しかしこの強い魔力の矢も、発射まで時間がかかるし隙もできる。そう簡単に使えるものではない。
そろそろ畳み掛けよう。そう思い、リアンは再び薬を使うことにした。トレさんに攻撃が向いている間、別の瓶を取り付ける。
それが済むと、同じように何発も撃ち込む。トレさんが熊の連撃を捌いていた時だった。また限界が来そうになる。トレさんの限界が近づいた時、熊は急に横に倒れた。そして寝息を立て始めた。どうやら寝たようだ。
次に使ったのは、相手を眠らせる薬だ。これは、昏睡性のある野花のエキスを集めたものだ。相手の表面で揮発した薬は、呼吸と共に体内に入り眠気を誘う。
ぐっすりと寝息を立てた獲物を横に、2人は準備を整えていた。
トレさんはツルハシを構えた。そして、寝ている熊の化け物めがけて連続攻撃をお見舞いした。
いくら頑丈な守りを持っていたとしても、目覚めの一撃は効いたようだ。熊は大きく怯む。
このまま反撃してくる。そんなことはなく、突然踵を返した。そして遠くへと駆け出した。
図体の割に走るのは素早く、荒い岩壁も苦にせずよじ登っていく。今戦っていた河原から、近くの岩山の頂へと姿を消してしまった。
リアンとトレさんも熊を追いかけて岩山を登る。それでも周りの山よりは低く傾斜もなだらかだった。先の戦闘にも関わらず、息を乱すことなくリアンは登っていく。トレさんは登るのに手間取っていた。岩山の緩やかなところをゆっくりと登っていた。消耗しているトレさんを気遣って、リアンは途中で待っていた。時々、休憩も兼ねて水と食料も摂った。
「ハァ、ハァ……。いったい嬢ちゃん、お前さんは何者なんじゃ」
「ただの冒険者ですよ」
「そんなわけあるか。あの手慣れ、相当な実力じゃろうて」
「今はそんなこと言ってる場合じゃありません。さあ、追い込みますよ」
この日は晴れていたが雲が多かった。すでに太陽は真上にあった。
◆やっと岩山の頂に着いた。山の頂にしては遠くの岩山よりは低いこの場所は、平らな場所だった。一本の巨大な樹木が聳え立ち、悠々と存在を誇示していた。太い幹にはしめ縄が巻かれ、太古にこの場所で人々の信仰があったことを物語っている。奥は森になっていた。岩盤は所々に草や低木が茂っていた。
この場所からは秋の渓流の荘厳な景色が望める。東洋の理想郷を思わせるような、静かで美しい場所だった。しかし近くは火山活動があるのか、ところどころから白い湯気が上がっていた。硫黄の匂いも漂ってくる。また端は断崖絶壁になっており、落ちたらどうなるか分かるようなものだった。
熊の化物は巨木の下の前にいた。取ってきたものが集まっているのか、ごちゃごちゃしていた。おそらくやつの寝床だろう。両手にはこの近くで取ってきたのか、ハチの巣を持って食べていた。
2人が追いつくと、熊はこちらの存在を認識したようだ。雄叫びを上げると、熊の周囲に衝撃波が走った。その後、赤いオーラを纏うと、熊の姿が変わり出した。毛の大半は赤く染まり、金色に鈍い光を放つ外殻には棘がいくつも展開した。目つきも鋭くなり赤い眼光が出た。その姿はまさに魔物といえよう。
思わぬ変化に2人の表情が戸惑う。その後、2人に襲いかかってきた。今までの思い一撃は変わらないものの、速度は格段に上がっていた。今まで余裕な表情を見せていたリアンもこれには汗が出る。彼女の端正な顔がひきつる。
元々固かった守りはさらに強固なものになった。リアンの魔力矢も赤いオーラにかき消されてしまった。
すでに毒は完治しているようだ。低木にあるハチの巣がかじり取られていた。2人がここに来るまでの間、熊はそれを食べてキズを治し、更なるパワーアップを遂げたようだ。
まずリアンにターゲットを定めた。彼女に向かって大きくジャンプすると、着地と共に周りに衝撃波と振動が走る。小さな地震が起きたかのような事態に、リアンはふらついて動きが止まった。その隙に両腕で素早く引っ掻いてきた。しつこく追ってくる。熊は右腕を振り上げた。彼女は何事かと思い距離を取る。すると、目を疑うスピードで距離を詰め、大きくアッパーをかましてきた。弓と装甲で咄嗟に受け流した。しかしその衝撃でリアンは崖の下へ落ちてしまった。
「嬢ちゃーんっ!」
トレさんが叫ぶ。赤い眼光は彼を見定めた。次はお前の番だと。
ーーー
今いる場所は暗い。はるか上に光があった。両側は岩の絶壁だった。草木はまばらにしか生えていない。
「うぐっ……かふっ……」
谷底に落ちたリアンは、全身を強打し、激しい痛みに襲われていた。頭からは鮮血が流れ、身体は痺れて動けない。意識は途切れとなり、視界が滲む。
(終わり……ここで、わたしの冒険は終わるのか……)
力ある者、知力ある者といえども、自然の脅威と魔物の力を前に、無力な瞬間はある。諦めにも似た無念が彼女の心を覆い始めた。
「フォッフォッフォッ。まだ諦めるには早いぞ」
その声と共に、リアンの傍らに一人の老人が現れた。小柄な身体に白く長い髭を蓄え、絹のように滑らかな衣装を身に纏っていた。彼は人ならざる、渓流の精霊のような存在に見えた。しゃがれた声で、しかしゆったりした調子で語りかける。
「怪我を負うたようじゃ。まずはこれを飲むがよい」
そう言うと、爺さんは小さな瓶を取り出した。その中には透き通るような翡翠色の液体と一枚の葉が入っていた。それを動けない彼女にゆっくりと飲ませた。
ミントのような爽やかな香りと甘い味が口の中に広がる。飲み込むと、全身に温かい力が巡った。痛みは引き、体の傷も癒えていく。痺れは消え、身体は再び自由に動かせるようになった。
「ありがとうございます、なんとお礼を言ったらいいのでしょうか……」
「礼はいらんよ。ここに来たものを助けるのがわしの役目じゃからのう。お主らはここの殿様の財宝を探しに来たんじゃろ?」
「ええ、そうなんです。しかし、そこには熊の化け物がいて、先の戦いでやられてしまって……」
「なるほどのう。実は、お主らが探している宝というのは、この岩山の頂上、さっきお主らがいたところにあるんじゃよ。されど今はあの熊のものじゃ。やつを倒さぬ限りは手に入らんよ」
「やはりそのようですね。ギルドの方でもあの熊の狩猟依頼も出ているんです」
「あの熊型モンスターは、異変の前からいる渓流地帯の住人じゃ。昔から人間にとっても恐ろしい存在じゃが、今や手に負えない相手になっている。異変後、この場所に迷い込んだ熊に、力が与えられたようじゃ。
元々はこの渓流にいるごく普通の種なんじゃが、あの個体が異変の後からとんだパワーアップを遂げたようじゃな。ここにある宝自体が、あの熊を自身の番人として選んだんじゃ。それで類稀なる怪力と硬さを手に入れたんじゃ。今のあやつは竜も素手であっさりと倒す。上級の冒険者でも苦戦する相手じゃ。そう簡単には勝てなかろう」
「そんなに強い相手なんですね。ではどうしたら……」
「一応、相手にも弱点はある。毒や眠りなどの搦手に弱いことじゃ。すでにお主は試したようじゃな」
「ええ、ですがもう残りがありません」
そう言ってリアンは空になった瓶を取り出す。先の戦いで使い切ってしまったのだ。
「そのようじゃな。しかしあの姿になったということは、もうあやつの体力は少ない。あと一息じゃ」
「それは嬉しい知らせです。でも、どうやって上に戻りましょう……」
「心配は要らぬ。そのためにわしがおる。ところでお主。珍しい武器を使うのう。その弓は矢がなくても射ることができるようじゃのう。昔はそんな弓矢の使い手もこの地にいたからのう。今から渡すものをお主にも見せてやろう」
そう言うと、爺さんは近くの岩肌に生えている蔦をつかんだ。それらを手で寄せると、すぐに大量に集まり、一本の縄になった。手でギュッと引けばよくしなる。
「これをお主の胴体に括り付けるんじゃ。それから矢として放つ。そうするとお主も引っ張られて上に行ける。あとこれもあげよう」
そう言うと、爺さんは白い小包を渡した。
「この中には白い粉が入っている。これを浴びれば力がみなぎってくる。お主らで使うといい。まっ、あの熊にかかっても効果はないから安心するんじゃ」
リアンはお礼を言うとポーチに包みをしまった。
「色々と、ありがとうございます」
「礼には及ばんよ。お主が元通りになってよかった」
「最後に聞きたいんですが、爺さんって何者なんですか?」
「それはまた今度の話じゃ。今は熊を倒すのが先じゃ。さあ、行っておいで」
それを聞くと、リアンは弓を構えた。さっき落ちてきた崖のてっぺんに照準を合わせて、蔦のロープを矢として放った。するとリアンの姿もロープに引っ張られて昇って行った。
◆また戻って来れた。しかし戻ると、トレさんの姿が、ない。帽子だけが、あった。まさか、やられた?
熊の化け物はまだそこにいた。しかし赤いオーラは出ていない。戦いの疲れを癒すためか、しめ縄の巻かれた巨木の下で寝ていた。寝床には壺や朽木などがあった。
今度こそやっつけるべく、熊の元に足を進めようとする。その時、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「おーい、嬢ちゃん。ワシだ、トレジャーハンターだ。」
そこは、なんとトレさんだった。囁くように返す。
「トレさん……、よくご無事で……、どうやって生き延びたんですか?」
「奴に狙われている時に、帽子と一緒に餌を投げたんだ。そしたら、奴が夢中になった。その間に逃げ出して、今までエリア外に隠れていた。というか嬢ちゃんこそ、怪我は大丈夫なのか?」
「それなら大丈夫です。下に落ちた時、なぞの爺さんに癒してもらったんです。もう平気ですよ、ほら」
そう言って、リアンは自分の身体をトレさんに差し出した。均整のとれた身体を薄く露出のある装備が覆う。装甲に傷あれど、肌には傷ひとつなかった。
「それは何よりだ。で、やはりあいつを仕留めるのか?」
「そのつもりです。やられっぱなしは嫌です」
「そう来なくっちゃな。嬢ちゃん、ワシに作戦がある。今まで指を見ているだけだったから、ワシも恩返しをしたいんだよ」
そういうとトレさんは合図した。トレさんはリアンの耳元で囁いた。リアンは時々うなずきながら聞いていた。
「それはいいですね。頼みにしてますよ。それと……」
そう言って、リアンはさっき爺さんから貰った薬をポーチから取り出した。
「はい、爺さんからこの薬を頂いたんです。これを振りかけると力がみなぎるようです。早速まぶしますよ」
そう言って、リアンは小包の中身を二人に振りかけた。すると、体の中心が熱くなるのを感じ取った。
「おお!なんか力がみなぎるようだ」
「それじゃ行きますよ、最後の仕上げに」
「おうよ!レッツ、トレジャー!」
二人が近づくと、気配を察知したのか、熊の化け物は起き上がった。また戦闘が始まった。
熊の化け物はまた赤いオーラを纏った。残る体の部位も姿が変わったままの、凶暴な姿をしていた。
まずはリアンにターゲットが向いた。走り寄ってきた。その間にトレさんは駆け出す。さっき同様にリアンは攻撃をいなす。さっきの薬のおかげか、不思議と体が軽く、動きに余裕があった。リアンは避けながらトレさんに近づく。
「おーい、こっちじゃこっちー!」
そう言って、トレさんはクマに奪われた自分の帽子を振っていた。
熊は自分の獲物に執着する。せっかく得たものを取られるのは許さない。攻撃の矛先がリアンからトレさんに向かった。返せと言わんばかりに、熊は自分の寝床に向かって猛ダッシュしていった。リアンに余裕が生まれた。作戦通りだった。
トレさんに攻撃が及ぶ。連続で腕を振り下ろす。その度に腕から出る衝撃波がさらに攻撃範囲を広げる。この時、熊の後ろがガラ空きになった。その隙を狙い、リアンは太い矢をやつのケツに叩き込んだ。思わぬ一撃に熊は大きくのけぞった。それで体勢を崩してズッコケた。
トレさんも、熊の動きがわかってきたようだ。熊がジャンプして飛びかかってきた。トレさんは避ける。しかしこれで終わりではない。熊はすぐさま腕を振り回し、最後には抱きかかえるように前に引っ掻いてきた。この後に休むような隙ができた。トレさんは逃さなかった。ジャンプすると、自慢のツルハシを振り下ろした。相手の頭上にヒットした。それによって熊は大きく仰け反り、体勢を崩した。トレさんは逃すことなく追撃を加えた。
また起き上がった。しかしヤツの動きは遅かった。もう体力がないようだ。作戦の最後の段階に移る。
トレさんが走り出す。もう余裕のない熊の化け物は一目散に追いかける。あらかじめリアンは罠を仕掛けていた。熊は罠を踏んだ。すると、木箱のような罠から植物の蔦のようなものが相手に絡みつく。それは動きを拘束した。さらにそこから液体が分泌された。それは麻痺毒を含むいくつかの麻酔成分だった。神経毒が身体中を駆け巡る。さらに意識を奪う成分が作用する。それらにより動きが止まる。赤いオーラが消えた。そのままぐっすり眠ってしまった。
「ハァ……やっと、終わった……」
熊の化け物の捕獲が終了した。こうして、長い戦いが終わったのだった。
ーーー
熊の怪物の動きが止まった後、トレさんはすぐに動き出した。熊の寝床である巨木の根元に向かうと、そこを探り始めた。
「確か、言い伝えではこのあたりに宝があったような……」
「もう、まだに宝を掘り出す体力があるなんて……」
「当たり前だ、トレジャーハンターたるもの、どんな時でも宝を探し出すものだ!」
トレさんはそう言うと、呆れるリアンを気にせず、ショベルで地面を掘り出した。
偉大な御神木の根を傷つけないように、トレさんが一心不乱に掘っているところに、別の2人の声がした。
「どうやらここにあるようですね。裏道を通れば、集会所から宝の場所までは近いんですね」
「熊退治の必要は、もうないようです。あの2人がやってくれました」
リアンが振り向くと、そこにいたのはミコトとギルド関係者だった。
「リアンさん、トレさん。お疲れ様です。よくぞ、この村の脅威を退け、村の発展につながるものを探ってくださいました……!」
そうギルド関係者は感激していた。リアンは答えた。
「そちらこそわざわざお疲れ様です。この通り、獲物はあそこにいます」
「おーい、嬢ちゃん!なんかあったぞ!これが財宝か?」
トレさんが呼びかけた。皆が近寄った。
トレさんのショベルが硬いものに当たったようだ。感触からして石とは異なるそうだ。慎重に掘って、周りの土をどかしていく。すると、その正体が明らかになってきた。どうやら壺のようだ。全体を露わにすると、持ち上げて地上に出した。それはずっしりと重かった。
壺自体はあまり大きくなかった。高さ40cm、直径30cmほどだった。早速蓋を開ける。その中には、大量の金貨ーーこの地方特有のもの、小判大判と呼ばれるーーが入っていた。やはり、埋蔵金伝説は本当だったんだ。トレさんの執念がついに実った瞬間だった。
「ほぉ……これじゃ、この発見こそ、トレジャーをやってる甲斐があるわ!ゲット、トレジャー!」
トレさんは歓喜の叫びをあげた。
「ふふっ、まだトレさんのものって決まったわけじゃないですよ」
リアンはクスリと微笑みながらも目を細めていた。
「そんなことあるか!ワシは一生懸命に頑張ったんじゃ!少しだけでも貰ってもいいだろ……ああ、なんかクラクラするぅ……」
そう言うと、トレさんは仰向けに倒れ、意識を失ってしまった。
「あっ、トレさん!そういえば、今日一日中、無理していましたもんね。わたしも、もうヘトヘトです」
ギルド関係者が労いの言葉をかけた。
「本当にお疲れ様です。あとはギルドでやりますから、あなた方は休んでいていいですよ」
「お言葉に甘えてそうさせて頂きますね。ただ、わたしたちが頑張ったから宝にありつけたんで、少しはくださいよ」
そうリアンは言い残すと、トレさんを引っ張っていき、その場を後にした。ギルド職員に教えられた裏道を通ると、あっさりと村の温泉宿に着いた。
◆それから数日間、リアンとトレさんは村の温泉宿に滞在していた。この地方の珍味である熊の手を食べながら、2人は話していた。
「トレさん、なんで温泉の入り口にいたんですか。お風呂上がりにわたしを待っていたなんて。それも宝とか言うんですか?」
「ワシは宝にしか目がないが、それは宝とは思っていない。そもそもワシはドワーフだ、他種族の身体は求めていないわ」
「そうですか……。それじゃ、例えば教えてくださいよ。例えば、トレジャーって、どんなものがあるんですか?詳しく教えてくださいよ」
「ああ、その話ならいくらでもしてやろう。夜通しにしでも、いくらでも語ろうぞ。ゲット、トレジャー!」
そこにミコトが割り込んできた。
「盛り上がっているところ失礼します。その後のギルドの調査結果が出たので、報告したくてお伺いさせて頂きます。お2人が掘り当てた以外にも、宝が出てきました」
その話に2人は引き寄せられた。そしてミコトからその後の顛末を聞かされた。
リアンとトレさんが熊狩りの依頼を果たした後、ギルド関係者があの場所で採掘調査をしたそうだ。
宝のあった場所、すなわちあの熊の寝床からは、新しい温泉も一緒に出てきた。その場所では、東洋の理想郷を思わせるような雄大な景色が眺められる。村は、新たな観光資源と共に、更なる整備開発を始めることとなった。
さらに嬉しい報告として、他にも宝が見つかったようだ。トレさんが掘ったものは、ほんの一部だったそうだ。
そのままミコトに案内されて集会所の奥の部屋に入っていった。そこにはタケノコのギルド関係者がいた。それだけでなく、年季が入った陶器製の箱がいくつかあった。
それらを一つひとつ、蓋を開ける。中には、かつてこの地方を治めた殿様の財宝が埋蔵されていた。それらは、輝く翠色の宝石、精巧な細工が施された工芸品、煌びやかな光を放つ金属器、古い刀剣だった。
「ホオオオオオオオ!これは、究極の宝だ!」
財宝はまだあったんだ。どうやら、殿様は幾つかに分けて埋めさせたようだ。
ミコトとギルド関係者は、ここから好きなのを一つ持っていっていいと言う。
トレさんは、見つかった財宝の一部を譲り受けた。それは、古代の刀剣だった。金の煌びやかな飾りと宝石が眩しい一品だ。昔のお偉い方が儀礼に使ったもののようだ。祝祭の際には重要な意味を持っていた。そのほか、財宝の中から、古い時代のエルフの金貨や珍しい装飾鉱石を報酬として受け取った。
「この時を待っていた!ついに手に入れたぞおぉ!ゲット、トレジャー!」
トレさんは満面の笑みを浮かべていた。
リアンもまた、それらの財宝すべてを眺めた。どれも値打ちがありそうな代物だった。持っていたら自慢できるだろうし、高く売れるだろう。
それらを見て、彼女は切り出した。
「どれも素晴らしいものです。しかし、わたしには兼ねてより気になっている一品があります。それは、この村の伝説の武器です」
その受け答えにミコトはハッとした表情だった。リアンは続ける。
「あれだけの依頼を達成しました。熊の怪物も退治し、これだけたくさんの財宝も見つかり、さらに温泉までも出ました。私たちが動いたことで、かなりの恵みが村にもたらされました。そのため、わたしにもあの弓を引く資格があってもいいんじゃないかと思いました。どうでしょうか?」
ミコトは神妙な表情をして答えた。
「今回の依頼で、あなたたちにはそれだけの資格があることが十分に確認できました。認めるのが遅くなってしまい申し訳ありません。ただいま準備をしますので、こちらまできていただけますか?」
その答えにリアンは頬が上がり、目が輝いた。
それからは皆で移動した。集会所に寄って弓を取って行き、備えられた弓場に移動した。すでに着替えの済んでいたリアンに、ミコトが弓を渡した。
弓の弦を持ち、早速引く。
「……っ!」
今までのどの弓よりも弦の力が強い。かなりの力が要りそうだ。
力を込めてゆっくりと弦を引く。腕全体がプルプルと震えていた。眉間にシワを寄せて、歯を食いしばっている。このままでは引けない。そう思い、彼女は弦から手を離した。そして深呼吸して整えた。
再度引き始めた。今度は、引く手から緑色の光が出た。魔力を込めて補強する。丹田を意識し呼吸する。少しずつだが弦を引く手が動く。今までの弓よりゆっくりだが、そしてついに引き切った。
そして手を離した。ビュン、と風を切る音が響き、あたりに少し風が吹いた。矢は勢いよく飛んで行った。遠くの的の中心に当たると、そこに深く突き刺さった。
「......おお、見事です…!まさか使い手が現れるとは……」
ミコトが感嘆の声を上げた。
「まだ使えるわけじゃないですけどね、とりあえずは引けました」
そうリアンはにこやかに笑いながら答えた。額には汗が滴っていた。ミコトはさらに答える。
「もしかしたら、あなたこそ、この弓を継ぐ者かもしれません」
それからもリアンは練習を続けた。回数を重ねる度に、弦を引く動きが滑らかになっていく。手の震えはなくなった。
何日か練習すると、ついに一通り弓を引けるようになった。彼女の華奢な腕でも弓を引くことができるようになったのだ。
また、この弓でも、彼女の十八番とも言える、魔力の矢を使えるようになった。破壊力も乗っており、この弓によってより強力な射撃ができるようになった。これらを見たミコトが言う。
「リアンさん、これは素晴らしいことです。あなたこそ、この弓の使い手です。この弓をあなたに授けましょう」
ようやく許可が降りた。リアンの顔に満面の笑みが浮かんだ。
それから数日後、温泉宿にはトレさんとリアンの2人の姿があった。どちらも、少なからぬ量の荷物を携えていた。
「おう、嬢ちゃん。この後はどうするんだ?」
「これといって考えていないですね。今まで通りあちこち冒険して、依頼を受けて、報酬を受けて、の繰り返しですね。トレさんも行くんですか?」
「そうだな。このあたりの宝は見つかったことだし、他のところに行こうと思う。世界中の宝がわしを待っておる!レッツ、トレジャー!」
「ふっ、相変わらずですね。お気をつけて」
「ああ、うかうかしておられんわ!ところで、もし良かったら、お主もトレジャーハンターにならないか?今回の冒険で色々と得ただろう。ワシお手製のメモ書きもプレゼントした。他にもトレジャーについて色々と教えた。あとはいつでもトレジャーを探ることができるぞ」
「あのメモ書きは、頼んでもいないけど渡してきたじゃないですか。こうして何人にも渡した、って言ってたじゃないですか。でも、取っておこうと思います。なんなら、宣伝でもしておきましょう。こんなトレジャーハンターと出会ったと。」
「そう言われると嬉しいな。お前さんはもう、ワシの弟子……いや、それじゃ、一廉のトレジャーハンターだ!」
リアンは、その言葉に思わず笑みをこぼした。
「でも、宝探しも悪くないですね。金にもなりますし、依頼ついでに取っておきましょう」
「フォフォフォ。その言葉を待っていたぞ」
そうトレさんは誇らしげに微笑んだ。
「色々とお世話になりました。また機会があったら、よろしくです」
「こちらこそ、お前さんには助けられてばかりだった。また何処かで会おうぞ、レッツ、トレジャー!」
そして2人は別々の道を進んだ。帰ろうとした時、ミコトが温泉宿にやって来た。また温泉に入りに来たらしい。リアンは向かって行った。遠くから声が聞こえる。
「あ、ミコトさん!温泉に入りに来たんですか。わたしもそろそろ行こうと思ってましたが、最後にまた一緒に温泉に入りませんか?」
トレさんは黙って聞いていた。
「あ、そっちに行くのは変わらんのな」
◆渓流の村は新たな時代を迎えた。異変の後、火山活動が活発になり、温泉が湧き出た。さらに今回の依頼によって、古の財宝と新たな温泉も出てきた。村には多くの宝がある。それに惹きつけられて、多くの人々がこの村を訪れるようになった。
渓流の地は、今日も旅人を迎え、そして送り出す。
今回訪れた2人の旅人、リアンとトレさん。彼らのお陰でさらなる宝がこの村にもたらされた。リアンに与えた伝説の武器は、彼女の新たな冒険の始まりを告げるだろう。トレさんの手に入れた財宝もまた、彼の次のトレジャーへの道標になるだろう。彼らの旅はまだまだ続く。
宝を得る過程で彼らと戦うことになった熊の化け物もまた、自然からの恵みである。
異変によって力を得てモンスターとなってしまったが、元はこの地の普通の熊だった。殿様の財宝が番人として選んだ存在。その役目を十分に果たし、次に託したのだった。その変異体の素材は、毛皮から肉から肝に至るまでどれもかしこも使えるものであり、捨てるところがなかった。
そして、渓流の奥深く。といっても村から近い。
かつては熊の化け物の寝床だった岩山の山頂も、今では温泉地として整備が進んでいる。先日新しく開拓されたばかりのこの温泉で、ミコトは1人で入浴していた。
夜も更け、満月は空高く昇っている。
きめ細かい白い肌は月光に輝いていた。普段は長い黒髪に隠れている細いうなじも、服で覆われた撫で肩も、細くくっきりした鎖骨も、月明かりに照らされていた。
形のいい丸い双丘が水面に山を描いている。とりわけ大きいわけではないが、全体的に華奢な彼女の身体でも目立つ部位である。薄く狭い胸板からはお椀のように丸く盛り上がっている。
誰もいない温泉で、彼女は目を閉じ、身体を伸ばして座っていた。温かさが身体の芯まで染み渡る。その快感に、端正な顔立ちが緩む。
「あぁ〜、気持ちいい〜、真夜中に1人で温泉に入るなんて、すっごい解放的ッ!たまらないねぇ……」
開放的になっていて、つい惚けたような声がでてしまった。普段より半音高い声だ。
と言うのも、真面目で几帳面な彼女は、普段はどうしても自分を抑えがちだからだ。その上で、次から次へと仕事が増える。
新しくできたこの温泉への安全な道筋、村の観光客の整備、村の内外の有力者との折衝、そして異変後の渓流に起きた一連の変化……
時には自分が最前線に立ち、実力を振るう時もあった。
たまに村に訪れた旅人や冒険者を見つけては話しかけるのも、そんな激務の中の一休みを兼ねている。時には温泉で休みたい。今回も、温泉地の偵察にと、抜けて出てきたのだった。
ふと、遠くを見つめる。月夜の下、晩秋の渓流には厳かな景色が広がっていた。一方で、所々からは白い湯気が上がっていた。時々、硫黄の匂いが鼻をつく。
それらを見つめると、彼女の表情は、懐かしむように、しんみりしたものになっていった。
彼女には十分な力があるので、山賊だろうと獣だろうと、この姿でも退けられる。しかし、ある憂いがあった。
「これから、どうなっていくことやら…何事もなければいいんだけど……」
ここ数年で、特にあの異変の後を経て、渓流もすっかり変わってしまった。私が幼少の頃に見た景色は、もうどこにもない。
温泉や財宝や資源が見つかってから、村は豊かになり、多くの人々が訪れるようになった。それ自体は嬉しいことだ。しかし、彼女にとって一番大切なものは、金でも財宝でも資源でもなかった。
それは、人々とのつながりだった。
この変化していく渓流を見て、それらが失われてしまうのではないか、バラバラになってしまうのではないかと思い、怖くなったのだ。
またこの気持ちになってしまった。そう思った彼女は、目を瞑り、深呼吸をした。気持ちが落ち着いた。水面に視線を移すと、満月が映っていた。
「未来のことを憂いても仕方がないか。その時のことは、その時に決めるか」
そうボソッと呟くと、冷たい風が、何かを運んでくるように、静かに吹き抜けていった。




