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竜の卵と盟友

森での出来事が済んだので、久々に中央都市に戻ってきた。いつもと変わらず、街の広場や市場は賑わっている。喧騒を後にして、その広間にある特に大きな石造りの建物に向かった。冒険者ギルドの集会所だ。大きな扉を開けると、熱気と喧騒が押し寄せてくる感じがする。内部はかなり広くて天井も高い。ところどころに、各地から持ち帰った戦利品や依頼達成の記念品が飾られている。中央には大きな掲示板があって、冒険者たちは群がって依頼を物色している。


また、この集会所は食堂と酒場も兼ねている。飲み食いや休憩するためのスペースが、クエスト受付や掲示板から離れたところに設けられている。そのために昼も夜も誰かしらがいて騒がしい。片隅では早朝から酒を飲んでいる冒険者たちが、昨夜の武勇伝を大声で語り合っている。別の場所では真剣な顔で地図を広げて作戦会議をしているパーティもいる。食堂からは焼き立ての肉やパンの香ばしい匂いが漂っている。


この前行った丘陵地帯の集会所は比較的静かだったが、ここは都市部の集会所。規模が違う。今となっては本部を差し置いて、各地にある集会所で一番の規模と売上を誇っている。本部はギルド創始者の故郷である歴史風情ある街にあるため、静かで清閑な雰囲気が流れているためだ。そんな本部の厳粛さを嫌ってここに流れ着く冒険者も数多い。


それらを横目に、普段から関わっているギルド関係者の元に直行した。どんな依頼があるのか聞くと、用意していたかのように即答した。乾燥地帯の納品依頼。持ってきて欲しいものは、大きな竜の卵だ。両手で抱えるほどの大きさと重さがある。しかも2個。また、乾燥地帯の奥まではかなり距離があり、付近は凶暴なモンスターの縄張りにもなっているので、普通の人が取りに行くのは危険が伴う。石頭の竜も卵の取れるあたりを徘徊しており、この竜を狩ることがサブターゲットになっている。


竜の卵は人気のある食材だ。タイミングが良ければ、この食堂でも食べることができる。卵の中身を煮たり焼いたりするほか、殻ごとゆで卵にもできる。かなりのボリュームがあり、一個あれば何人分もの料理が作れる。俺も食べたことがあるが、けっこう美味しかった。適切に調理すれば、ふわふわの口触りとクリーミーな味わいが楽しめる。


この種の依頼はいつも俺がやっているな、と思わず苦笑いが出てしまった。運搬依頼は面倒かつ大変な割に、報酬もそんなに多くないので人気がない。冒険者の間でも進んでやる人はほぼおらず、賭けで負けた奴が罰ゲームでやらされることからもわかる。そんな中でも、特に嫌な顔をせず引き受けている俺は、ギルドでも重宝されているんだろうな。今回も真っ先に運搬依頼を押し付けてきたし。俺の心の中では、大変だが拒絶するほど嫌がっていないようだ。もしかしたら、自然のものを押し頂いて持ち帰ることに喜びを抱いているのかもしれない。今回もそんなに躊躇することなく、この依頼を受けた。


とはいえ、乾燥地帯の荒地に行くため、念入りな準備が必要だ。雨はほとんど降らず大半の場所が乾燥している。昼は暑く夜は寒いと、気温の日較差が大きい。おまけに拠点の村が近くにないからこの街まで持ってこなければならない。そんな大変さを考慮してか、ギルドも荷車を貸してくれた。これなら一通りのものを入れて運べる。卵は抱えるほどに大きく、その上でデリケートなので持ち運ぶには防御も必要だ。収納する木の箱には藁と布を多めに入れる。また、強力なモンスターと戦うことも考えられる。それらを考えて持っていくものを決めた。装備はいつも通りだ。金属を部分的に使った、革と布の鎧。革で覆った木製の鞘に納めた、刃渡り1m以上の曲がった大刀。それらの準備を済ませたら、乾燥地帯の荒地に向けて出発した。

ーーー


荷車を引いてしばらく歩くと岩陰があった。ここは乾燥地帯の入り口にあたり、冒険者ギルドのキャンプが設営されている。ギルドの担当者も度々ここに来ては、冒険者のための食糧や薬などを補充している。キャンプ内部にはベッドがあり休むことができる。また、装備の修理をするための簡易キットもある。とりあえず、困ったらここに戻って来ればいい。


ここから行く先々を眺める。強く照りつける日差しは進む者の体力を確実に消耗する。青い空の下に広がるのは荒涼とした大地だ。地面が剥き出しであり緑はまばらにしかない。それらはどれも、昼と夜の寒暖差・強い日差しと乾燥に耐えられるように独自の進化を遂げている。水を蓄えられる肉厚の葉と茎、艶のある小さい葉、頑丈な樹皮。動物も同様で、分厚い皮や殻を持ち、効率的に水を蓄えられる。過酷な環境でも独自の生態系が存在している。それらの産物を求めて冒険者たちがたびたびやって来る。


少し歩くと開けたところに着いた。日差しは照りつけ、あたりは岩だらけの不毛な場所だ。硬い小さい葉を備えた草が、身をかがめるように慎ましく生えている。真ん中には特徴的な形をした大きな蟻塚があった。


その蟻塚より大きい、4つ足の獣と恐竜を合わせたような姿の生き物もいた。身体を覆う岩のようにゴツゴツした殻、特に目立つ冠のような形状の頭部、間違いない。石頭の竜だ。荒地地帯や火山地帯などの暑くて過酷な環境を中心に生息しており、食物と付くものなら何でも食べる。全身の甲殻、特に頭部の成長のためにも、石や砂を摂取することもある。餌が多いとはいえない環境なので、縄張り意識が強く、邪魔者には容赦無く攻撃する。その時には、自慢の大きな頭部を生かした突撃行為を行う。この威力は凄まじく岩も壊す。


早速ヤツに見つかってしまった。縄張りを侵されたと判断したのか、こちらを威嚇している。このまま荷車を引いて逃げても追いつかれる。運搬の帰りに出くわしたら更に面倒だ。サブターゲットに指定されている。色々考えると、ここで仕留めておくか。


すぐそばの岩壁に荷車を寄せてから、背負っている大刀を抜いて構えた。すると相手も戦うことを決めたようだ。

「グウゥウアアアァァァ!」

甲高い雄叫びをあげた。戦闘開始だ。


荷車を壊されては色々と困る。俺はすぐそこから離れて、相手に近づいた。相手は頭を下にして身をかがめた。突進の合図だ。大きな頭部にぶつかればタダではすまない。俺は刀を構えて待つ。こちらに突進してきた。少し動いても軌道修正してくる。ギリギリまで引き付けてからかわす。攻撃が空振ったと気付いたようで、竜は停止しようとする。その時に隙ができる。装甲が薄く弱点になっている、腹か尻尾付け根を攻撃する。


今度は近くの蟻塚を背にして刀を構えた。相手はそのまま突進してきた。すぐには止まれないようで、そのまま蟻塚に激突した。その衝撃で真っ二つに折れて壊れてしまった。ぶつかった反動で少しの間動きが止まった。すかさず攻撃する。頭から突っ込んだが平気なようだ。すぐに振り向いて次の行動を始めた。頭だけでなく首や背中も頑丈な殻に覆われており、ずんぐりした首周りは発達した筋肉と共に、突進の衝撃を逃す構造になっている。さすが、石頭の竜と呼ばれるだけある。


今のところ、攻撃しても浅い感じがする。この大曲刀は切り裂く攻撃を得意とする。柔らかい相手には効果は絶大だが、硬い殻や金属をまとった相手には分が悪い。大剣のように重いので、刃こぼれを気にせず振り回してもダメージは入るが、不利なことには変わりない。


そのため爆弾を使うことにした。この戦いの前に街で買っておいたのだ。従来の爆弾を、新素材と技術革新によって小型化したものだ。威力は変わらないが、取り回しと所持数が増えた。


そのまま地面に置いて来るのを待つ、ことはしなかった。相手は頭部をショベルのように地面を抉り、岩を飛ばしてきたのだ。危うく当たるところだった。大人しく、相手が向かってくるのを待つ。来たら、お互いの体がすれ違う時に、俺は爆弾を投げて炸裂させてやった。相手の表面で爆発し、あたりに轟音が響いた。今のが効いたようで、相手は怯み、大きくのけ反った。甲殻の一部も損傷していた。


基本的には突進や頭突きの後隙を狙って攻撃する。一方で相手も、ずんぐりした見た目の割には軽快に動き、硬い頭や背中を見せようとする。そこに大刀が当たってしまうと、文字通り刃が立たず、ガキン!と弾かれてしまう。その隙に強烈な一撃を受ける可能性がある。そうした事情もあり、その後は爆弾も織り交ぜて戦った。相手の足元で炸裂させると、突進中の脚に衝撃が入り、竜はそのまま転倒してしまった。もがいている最中の隙を逃さず、そのまま弱点に連撃を浴びせた。

カキン、カキン、カシャン!殻に鉄を打ち付ける音が響いた。

爆弾によって甲殻は損傷しているようだ。傷の入った割れた殻なら、この武器でもダメージが期待できる。

「グィエエエェッ!」

一撃を叩き込んだ時には、時に相手は仰け反った。


しばらく戦っていると、突然相手はそっぽを向いて歩き始めた。ヨボヨボとした足取りだ。こちらの攻撃が効いたようで、その竜は体力を消耗し弱っていた。このまま休息を取るつもりなのだろう。これはチャンスだ。武器を納め、置いていた荷車の方に駆け出した。そのまま荷車を引いて、こっそりとヤツの後を追っていった。どこに向かったかは足跡でわかる。


辿っていくと、洞窟のような場所に着いた。俺が到着した時には、すでに竜は眠っていた。ここで休んで体力を回復するようだ。ここまで来れば試合終了だ。もう準備はいいだろう。ポーチから、赤い色の液体が入った瓶を取り出した。これは麻酔薬だ。弱った相手の動きを止めて眠らせる薬で、捕獲に用いることができる。瓶の中身を相手の口元付近で散布した。液体はすぐに霧状に広がった。呼吸と共に相手の体内に吸収されるのだ。動き出さないように、粘着罠で相手の動きも止めておいた。これにより、石頭の竜の捕獲が終わった。


狩りは終わった。開けた場所に行くと、俺は煙幕弾を打ち上げた。ここでモンスターを捕獲したと、気球から地表を見ている観測員に伝えるためだ。

ーーー


落ち着いたところで、俺は周囲を見渡す。どうやらここは高い岩に挟まれた谷のような場所だ。はるか高い空から白い日差しが降り注いでいる。外のような焼け付くような熱気はなく、その場一帯を明るく照らしている。高い岩の日陰は、昼間でも暑くならず夜でも程よく涼しい。いくつか大きな穴が空いていて、外の場所に繋がっている。端には水が湧き出る小さな泉がある。岩の隙間から差し込む光が、水面をキラキラと照らしている。水辺には草が生え、小動物も集まっている。泉の水が溢れている箇所もあり、藻が生えていて、小さな魚もいる。小さく肉厚な緑の葉を付けた、分厚い石のような木も何本かある。オアシスだ。この荒地でも数少ない豊かな場所だ。動物たちが安らげる聖域でもある。


聞いた話ではこのあたりに卵があるようだ。周りを見渡した。あった、木の根元だ。木の枝や枯れ草が集められ、その上に幾つかの卵が置いてあった。今回の依頼では2個と指定されていた。いくつかある中から良さそうなものを選んだ。どちらの卵も、大きさと形は少しの違いがあった。自然にできたものに同じものは2つとない。


その物体は、両手で抱えるほどの大きさだった。砂岩のような薄茶色で、色にムラがある。ところどころに鉱物のような光沢があり、日差しを受けると微かに煌めいた。シンプルな形状に、大理石を切り出したかのような色合いを持つ竜の卵は、まるで大地を凝縮したかのようだ。


持ち上げると、見た目以上に重かった。生命の源が入っているだけのことはある。触り心地は石のようにザラザラしていた。質感からして殻は分厚そうだ。持っている間、中から鼓動のような振動が伝わってきたような気がした。


そのまま卵を布で包み、たくさんの藁が入った木箱に収納した。それから、箱が開かないように紐で縛り、荷車の安定した場所にくくりつけて動かないようにした。卵は少しの衝撃で割れてしまうかもしれないからである。


「少しばかり頂くぞ」

こうして俺は依頼の品を搭載し、その場を後にした。今、運んでいるものは自然の宝だ。卵がかえって幼体が生まれる。十分に大きくなって成体になる。そしたら、今度は自分が卵を作る番だ。自分の食べたもので卵を作る。準備が整ったら外に生み出される。これは次の代に繋ぐためだ。こうして生命は循環していく。巨大な植物の種を運んだことがあるが、どちらも生き物が誕生する前の姿だ。二つのつながりを考えると、何とも言えない尊い感覚を覚える。


歩く途中、大きく育ったサボテンを見つけた。大きさは直径60cm程度で、玉のように丸く整った形をしている。一番上にある小さな蕾は膨らんでいて、もうすぐ花が咲きそうだ。棘は長さ10cmほどあり、一定間隔で規則正しく並んで生えている。葉が退化したこの棘は、迂闊に触ろうとする者から身を守る効果もある。それなりの価格で取引される。観賞用のほか、食品や日用品としても需要がある。持っていっても損はない。よく育ったものを2つほど、根っこごと掘り起こして、荷車に乗せた。そして卵入りの箱の近くに置いた。

ーーー


帰り道を進んでいる途中で、大型の草食獣が、小型の肉食竜に襲われているのを見かけた。獣は3m近い体躯で、その大きさ通りに力も強い。分厚い皮を持っており、頭や背中は殻のようになっている。しかしそれをもってしても太刀打ちできないようだ。すでに2匹の肉食竜が、草食獣の背中によじ登っていた。振り離そうと暴れても適わない。


この肉食竜は砂漠地帯や湿原地帯を中心に生息する。基本的に群れで行動し、その地に大きなコロニーを築く。後ろ脚の筋肉が発達しており、軽快な動きで相手を翻弄して狩りを行うという。牙には麻痺性の毒があり、大きな動物の動きも即座に止めてしまう。小型とはいえ竜だから、獲物を仕留めるほどの力と凶暴性は持っている。すでに相手の弱いところである、首の後ろや腹部に噛みつき、麻痺毒を入れている。こっちにも獣の悲鳴が聞こえてくる。大きな体は地に倒され、3匹の肉食竜が群がっている。その後の行く末は想像がつく。これも食物連鎖、生態系のピラミッド、食うか食われるかの関係か。そう思うと、俺はこの場から早く離れようと道を急いだ。


そうしてある場所に着いた。ここは高い岩が迫り上がった岩場だ。程よい日差しになっていて昼間でも涼しい。大小さまざまな隙間があり、いろいろな場所への出入り口になっている。乾燥しているものの、草がまばらに生えていて、サボテンも見かける。比較的快適な場所であるが、ここを歩く頃には疲れがドッと来ていた。荷車を押すペースが落ちていた。持つ手が重い。行き帰り合わせてかなりの距離を歩いただけでなく、石頭の竜の相手もしていたから、当然である。しかも、もう夕方だ。まもなく日が沈む。急かす気持ちが荷車を早く動かす。


もうすぐ出口だ、という時に、さっきと同じ肉食竜が前方にいた。獲物を狙うような、冷たい目が俺を見据える。前だけかと思ったら、後ろからも視線と鳴き声を感じた。もしかしたら、と思った時には遅かった。すでに待ち伏せされていた。何匹かの小型竜が俺を囲っていた。身を低くかがめ、ジリジリと距離を詰めてくる。犬のように低いうなり声をあげながら。目の前にいるものは、小型とはいえ肉食の竜。一頭だけでも、獣の分厚い殻も食いちぎる力と、自身と同じくらいの高さまで飛び跳ねる身軽さを、兼ね備える。大型の動物も即座に動けなくする神経毒も持つ。これが数頭。疲れていたから逃げたかったが、追いつかれて、先の草食獣のような運命を辿ってしまうだろう。


すでに刀を掴み手に取っていた。それが合図と見たのか、1匹が飛びかかってきた。その毒牙が俺に触れそうになる、その前にはすでに帯刀していた。お互いがすれ違う合間に、居合を決めた。相手は胴体から真っ二つになった。残りも一目散に向かってきた。胴体をおもむろに撫で斬りにしてやると、吹っ飛んで起き上がることはなかった。攻撃をかわしても、犬のように前に食らいついてくる。相手を仕留めようとする執着は、自分の守りを忘れさせる。


気づけばその場の竜はすべて倒れていた。これで全てだろうと思い込んだ。今の戦いで、肉食竜の体が荷車に当たったような気がした。もしかしたらと思って、荷車に向かった。卵が無事かどうか確認しなくては。


そのとき、何かが俺の背中に乗っかった。なんだ、と思ったら、装備の薄いところに鋭い痛みが走った。その刹那、身体の自由は奪われ、地面に倒れ伏してしまった。その後、甲高いかすれたような叫び声が上がった。まるで勝ち鬨をあげたように。身動きの取れない体で、視線だけを動かす。そこに、俺に一撃を入れた者が映っていた。


そいつはさっきの竜の伏兵だった。気の緩んだところを狙われた。こんな狡猾な戦いをするのか。見た目だけじゃなく中身もそうなのか。今の鳴き声に呼ばれたのか、何匹かの肉食竜が岩陰から出てきた。そのまま荷車に群がり、食料や採取したものを奪い取って行った。さっき俺をやった奴はすぐそばにいた。仲間を倒されたことで気が立っているのか、顔を近づけて舌をわなわなと動かしていた。しゃがれた恨めし気な鳴き声も出ている。ああ、俺もここまでか。視線が下に沈む。


「ギャアアァッ!」

その時、俺の一番近くにいた竜が叫び声を上げて、のけぞった。見ると、竜の首筋にナイフが突き刺さっていた。その後、人影が俺に近づいた。

「あなたともあろう人が、こんな有様とはね」

凛とした、よく通る声が聞こえた。その人影も、女性のシルエットをしていた。


自分に思わぬ一撃を与えた対象が目の前に現れたことで、怒りに任せて犬のように飛びかかった。それを舞うようにかわすと、ガラ空きの胴体に痛打を入れた。そいつは吹っ飛び、起き上がることはなかった。他の仲間たちは恐れ入ったのか、一目散に逃げ出した。


「これを飲んで。もう大丈夫よ」

そう言いながら、彼女は俺に解毒薬を飲ませた。全身の痺れが取れて、ようやく動けるようになった。

「なんとお礼を言えばいいのか。危ないところだった」


さっきはよく見えなかったが、改めて彼女の外観を観察する。顔立ちからして年齢は20前後か。目鼻立ちはちゃんとしているが、まだ幼さも残っている。銀色の髪と、健康的な小麦色の肌。それらは夕日に照らされて銅のような光沢を放っている。踊り子のような衣装をしている。露出は多いもののいやらしさはなく、ミステリアスな雰囲気が出ている。先端が球状の棍棒をふたつ、背に携えていた。


「初対面がこんな形なんて。あなたともあろう人が竜の餌になりかけるなんて」

「あれは運搬中だったんだ。その前も、石頭の竜を仕留めていた。それで疲れが来ていたもんだから、油断してた」

「わぁ、ひとりでそこまでやるなんて。タフなものね。その竜の討伐依頼を受けてここに来たけど、途中で煙幕が上がったから、もしやと思って向かったら、別のものを見つけたわ」

彼女は笑いながらそう答えた。そこで思い出した。

「あ、そうだ!卵はどうだ!」

咄嗟にそう叫んだ。早速荷車に近づいた。箱はそのままだった。中を見ると、卵は、無事だった!持ってきた食料も生肉もとられてしまったが、近くのサボテンに守られたようだ。

「へぇ〜、見事な卵だね!あなたがとってきたのね」

「今回の依頼の品だからな。それより、ここで話すのも何だから、移動しようぜ」

「あら、そうだったわね。ここからならキャンプは近いし、今日は一緒に泊まっていこうよ」

思わぬ提案に、俺は上ずった声を出した。

「ありゃ、何か期待していたのぉ?」

「違う、そんなんじゃない。これは必要に迫られたからだ」

恥ずかしげに声を張り上げて答えた。


あたりはすでに暗くなり始めていて夜になりそうだった。その日はキャンプに泊まった。翌朝に荒地地帯を後にして、中央拠点に向かった。それまでの間、お互いに色々と話した。彼女の名前はマイラといった。各地を旅して回っているそうだ。冒険者カードを見せてもらったが、俺と同じランクだった。かなりの手慣れのようだ。衣装の見た目通りに踊りにも長けていて、各地の拠点でも振る舞うそうだ。踊りでチップを貰えるようになったのは最近になってからのようで、その時の様子を嬉しそうに話していた。

ーーー


ギルド本部に着いたら、取ってきたアイテムを鑑定してもらった。今回取ってきた卵は、長さは一番長いところで60cm、重さは10kgを超える大型のものだった。色味もはっきり出ていたし、これほど見事な卵はそうそう採れないとのこと。何の卵か尋ねたら、あの石頭の竜のものらしい。確かに、砂のような微妙な輝きと色合いは、アイツに相応しい。


今回の報酬は、石頭の竜の捕獲と合わせて、かなりの金額になった。モンスター全般の中ではグレードはそんなに高くないが、それでも素材は貴重だ。特に頭殻は用途が多く、慣れた冒険者からも需要がある。


「今回もお疲れ様です。まさかあなたが女の子と一緒にいるとはね。二人で積もる話もあるでしょうし、ここで失礼します」

顔馴染みのギルド職員は、ニヤついた笑みを浮かべて去っていった。どんな仲だと思っているのか。

「がっぽり儲かったわね。流石、運搬魔と呼ばれるだけのことはあるわね」

「その呼び方はやめてくれ。というか、口ぶりから俺のこと知ってたんだな」

「実力がある冒険者だからね。他の人のこと見るの、あたしは好きなのよ」

「あまり目立ちたくないんだけどな。それはそうと、あの時は助かった。アンタが来なかったら俺はここにいなかったからな」

「ふふーん、もっと褒めてもいいのよ」

「このくらいにしておくさ。それより、帰りの荷車で話していたけどよ、もう他の町に行っちまうのかよ。もう少しゆっくりしていけよ」

「流石に何日かはいるわよ」


今、この集会所は賑わっている。今夜、宴が開かれるようだ。ギルドの職員も冒険者たちも、準備に忙しそうだ。

「宴のことなんだけど、あたしも出て踊ることになっているの。あなたも、時間があるなら見に来なさい」

「!、そうだったのか。こりゃ見ものだな。宴は好きじゃないが、アンタがいるなら行ってもいい」

「なら嬉しいわ。それと、タクト。あなたとは盟友になっておきましょ。困った時に、助けになれる仲は、多いほうがいいじゃない」

マイラは視線を逸らして、おずおずした調子で答えた。

「いいぜ。アンタはいいヤツそうだし」

「またさりげなく嬉しいことを言う。あ、仲間が呼んでるわ。宴の準備をするそうよ。タクト、今夜に、また会いましょう!」

そう言うと、彼女は仲間のもとへ向かっていった。


「はいよ、今日の宴では特別料理があるよ!それも、竜の親子丼!竜の肉と卵を両方使った豪華な一品だよ。さあ、寄っていって!」

それと同時に、食堂のほうから声が聞こえた。さっき倒した石頭の竜のものかな。

俺は口角が上がり、微笑ましげな表情になっていた。

今夜が待ち遠しい。

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