<森林地帯>森の中の依頼と盟友
丘陵地帯を覆うように広がる樹海。温暖湿潤な気候に育まれ、多くの生命がこの大地に抱かれている。
豊かな大地の養分をたっぷりと吸った木々はまっすぐに伸び、見上げるほど高くにある梢からは木漏れ日が差し込んでいる。少しだけ降りる光の筋は斜めに降りてきて、空気中の細かな塵がキラキラと輝いている。ひんやりとしているが寒さはなく、心地よい涼しさが身を包む。
俺の名前はタクト、冒険者だ。今は森の中にいる。険しい道なりや戦闘にも耐えられるように、それなりの装備をつけて。防具は、革と布でできた鎧である。冒険者の標準装備だ。武器、刃渡り1mを超える大曲刀だ。大きな刃物なので、革で覆った木製の鞘に納めて背負っている。
この丘陵地帯の麓は森の入り口になっており、その近くに村がある。村は冒険者ギルドの拠点になっており、集会所や酒場で俺たち冒険者は依頼を受注する。納品や討伐などの依頼が人々から寄せられており、達成すれば報酬を受け取ることができる。この報酬を求めて俺たちは日々汗水を垂らして動いているわけだ。
この森を歩いているのも、依頼を達成するためだ。内容は、イノシシの化け物の討伐だ。ここ最近は数が増えていて被害に遭う人が増えているので駆除してほしいそうだ。だいたい10頭を仕留めればいいとのこと。もし彼らのボスを見かけた場合、出来るなら倒して欲しいとのことだ。ボス猪を倒せば、ここの猪は大人しくなるからだ。そのほか、丘陵地帯には赤い竜も確認されているようで、見かけても交戦は控えるように言われている。
この依頼の他にも、個人的に気になっているものがある。それは、千年樹の種だ。千年樹という、この森の一番奥にあるとてつもなく大きな木になる種だが、たまにしか落ちないらしい。巨木に見合った大きさと重さがある。その希少性と運搬の大変さゆえに入手は困難だが、拠点まで持ってこれば多額の報酬がもらえる。どんなものか見てみたい、という興味ゆえだ。
自然はいいものだ。ここにいる動物も生えている植物も、ありのままに自分を出している。それぞれが精一杯に生きていて、自分の生を力強く誇らしげにしている。彼らの清々しさと力強さは古代の神々の石像のようだ。
自然はいつも堂々としていて嘘をつかない。俺も自由にありのままでいられる。人の世界にとっても、見習えるところも多いと思うんだ。
ーーー
歩いていたら、猪の化け物と遭遇した。この森の猪はかなり大きい。体高は大人の背丈近く、全長は2mを超える。牙は丸みを帯びて鋭くないが、遠くからでもわかるくらいには大きくて、石のように硬い。これに突撃されたらタダでは済まないだろうという迫力がある。
俺はやり過ごそうとしたが、距離が近かったせいか、互いに目が合ってしまった。奴は興奮したのか、「プシュー!」と威嚇し、頭を上下に振り始めた。これは突進の合図だ。
こうなることもあろうかと、すでに俺は刀を抜く準備をしていた。実はこの猪の怪物は何回も倒している。相手が自ら突っ込んでくるのだから、その力を逆に使ってやる。特に力は要らない。刀を構えておき、相手の体が近づいたきた時に刃を相手に沿わせる。
突進してきた。お互いがすれ違う時に、俺は奴の体を撫で斬りにしてやった。今のがかなり効いたようだ。突進の終わり際にはよろけた。その隙を逃さず、俺は奴の横っ腹になぎ払いを決めた。この時もすーっと相手の体をなぞるようにおもむろに振るった。刃の重さと鋭さにより、これだけで相手の表面は切れて傷が入る。今の一撃で猪の化け物は横に倒れ、そのまま沈黙した。
俺を敵だと思ったのが運の尽きだったな。これも駆け引きだ。倒れた猪に近づき、何か使えそうなものはないかと様子を見る。生肉を剥ぎ取り出発する構えを取った。
その時、遠くで独特の鳴き声がした。「グウォオオォン!」老人のしゃがれが混じった唸り声だ。猪のものではない。となると、依頼で警告がなされていた赤い竜のものかもしれない。今回は竜と戦う予定はない。見つからないようにやり過ごさなくては。
その後も猪の化け物と何回か戦った。草木の影に隠れて見つからない時もあったが、バレたこともあった。そもそも狭い鬱蒼とした森の中だから、意図ぜずに互いに顔合わせになってしまう。その時には戦いになる。といってもやることは変わらない。肉のほかには、毛皮と牙が使える。
他地域の個体よりは牙は鋭くないので、これで服を裂くことはない。どつかれても吹っ飛んで痛いくらいで済む。また、小回りが効かないようで、突進し始めると真っ直ぐにしか進めない。そんなこともあって、撃破するのはそんなに難しくない。毛皮で覆われているので、刀による斬撃が有効なのもある。
気づけば討伐数は依頼の10頭には達していた。しかしまだ引き返さず、奥に進んだ。この先に、俺の求めるものがあるから。
ーーー
奥まで来ると森は深くなり、昼でも薄暗い。起伏や岩肌もあちこちに目立つようになり、道も険しくなり始める。この辺りは危険な化け物の目撃も報告されている。初心者が行くにはきつい場所だ。
開けた平らなところに着いた。木漏れ日も多く差し込んでいてまわりより明るい。渓流の流れもあり、小さな水たまりになっている。小さな魚が住めるくらいはあり、大型の動物も水を飲みに来るそうだ。周囲を見渡す。すると、今まで戦ったよりも一際大きな猪の化け物がいた。背中の毛が逆立っており、先のほうは白く染まっている。おそらく、ここのヌシだろう。
ここの猪たちは群れる性質があり、普段は臆病なくらいだが、ボスであるヌシが現れると群れ全体が活性化して性質が凶暴になる。それまでは見向きもしなかったのに突進を好んでするようになる。なるほど、ギルドに猪にまつわる苦情が来たのはコイツが原因だったのか。放置しても収まらないし、倒してしまった方がいいか。
そのまま戦うには疲れる相手だから、アイテムの力で楽にしよう。今回は戦闘になる前にあらかじめ罠を設置しておいた。引っかかった者の動きを止めることができる。材料は全て天然素材でできているから、使い終わった後でも全て自然に還る。設置したら、罠から離れたところに移動した。
俺は口笛を吹き、ボスを呼び寄せた。音に反応したのと、距離が近かったのもあり、猪たちの親分はこちらに威嚇した。「ドシュルルルッ!」一際大きな鳴き声だ。
早速戦闘開始だ。親分だとしても、戦い方は子分たちと変わらない。こちらは待ちかまえて、あっちから攻めてくるのを待つ。早速突進してきた。さっきと同じくすれ違いざまに撫で斬りにする。
浅い。刀から伝わる感触でわかる。デカいだけあって毛皮が分厚い。こりゃ時間がかかりそうだ。毛皮には刀は有効なものの、こりゃ時間はかかりそうだ。鼻先と牙は頑丈で刃が通らないから、毛皮の薄い腹付近を狙う。この武器はカミソリのような鋭さがある。同じ箇所を連続して狙えば傷は入る。
そのまま何回か同じように戦った。ただ、ボスなだけあって行動は強くなっていて、突進して走り抜けてもすぐに向き直って突進してくる。精度も上がっていて、こちらが少し軸を逸らした程度ではすぐに軌道修正して正確に突っ込んでくる。前方60°くらいまでは修正してくる。このせいで、俺は攻撃を避けるのが精一杯になっている。また耐久力も高く、少し傷を受けた程度ではびくともしない。
俺の振るう大曲刀は業物であり、大剣の威力と刀の鋭さを両立しているが、それだけに扱いは難しく、長時間持って振るうと疲れる。それに集中力も切れてくる。今のところは突進を受けてはいないものの、何回か革鎧に擦れた感覚がある。このままではジリ貧になる。そろそろ決着をつけたいところだ。
ボスの方は俺を本気で敵と判断したようで、明らかに殺気立っている。背中の白い毛は逆立ち、ガチガチと音が聞こえる。一方で相手は刀傷により少し消耗しているようだ。そろそろいいだろう。こっちは相手を待っているようで実は攻めていて、相手はすでにこっちの領域に入っているんだよ。
俺はさっき仕掛けた罠のところに移動した。俺は待ち構える。猪は今度こそ俺を倒そうと突進してきた。そこで、俺は猪を罠に誘導した。何も知らずに猪は罠を踏んだようで、滑って横に倒れた。もがいて立ちあがろうとするが適わない。その隙にすでに傷のある箇所を中心に斬撃を浴びせた。シュパン、シュパン、ドシュ。刃を振り回す音が響く。何回か当てると、ボス猪はもう起き上がることはなかった。
ボス猪を倒した証拠として、背中の白くなった毛皮と大きな牙を剥ぎ取っていった。これは、自然との駆け引きで勝ったご褒美だ。
猪の身体にあるもの全部を剥ぎ取っていくことはできないし、そもそも鞄に入り切らない。ちゃんと自然に還る分は残さなければならない。人が持っていくのは、必要な量だけで十分だ。この親分も、今までの子分も、元の猪のかたちが消えて土になる。それは草木を育み、実をならす。他の動物がそれらを食べて大きくなる。生命は循環する。
荷物を整え、先を急ごうと前を向いたら、すぐ近くにいた。赤い竜が。それは唸り声をあげ、こちらに威嚇していた。身体は赤い鱗で覆われていて、背中はトゲ付きの甲殻になっていた。一対の大きな翼、鋭い鉤爪を備えた脚、野太く発達した尻尾。この森の生態系の頂点に位置している。手慣れの冒険者でも相手するのは容易ではない。
俺は逃げようとした、が、唖然とした。この広間の出口に、やつは塞ぐようにして立っていたからだ。
退かないことに業を煮やしたのか、竜は大声をあげた。「グウワウォォォン!」火災のように、炎が爆発的に広がるような迫力があった。あまりの声量の大きさに思わず耳を塞ぐ。動けるようになった時、竜の口元が光った。あ、これは。そう思った時に、口から火を吐いた。そのままの状態で俺に迫ってきた。そこに生えていた草木は焼け焦げ、黒ずんだ大地だけがあった。
すんでのところでかわした。危うく焼かれるところだった。俺はそのまま道をふさいでいる竜に向かっていった。俺を仕留めようと、まずは足蹴り。その後に尻尾でビンタ。それらをスレスレのところでかわすと、出口に向かって駆けていった。
広間の出入り口に着いた、それと同時だった。赤い竜は一発の火球を放ってきた。それは俺の近くで炸裂した。その衝撃で俺の体は吹き飛び、道に投げ出された。
直撃は避けたようだ。竜が近寄ってきた。俺は急いで近くの低木の中に隠れた。ところどころ木の枝が当たった。見つからないでくれ。あたりをキョロキョロ見渡した。その後、ひと吠えした。「グウワアァァン!」バレたか!?と思ったら、そのまま広間へ駆けていった。
なんとか撒いたようだ。茂みから出た。攻撃は受けていないが、炎が掠ったのか、鎧の一部が溶けていた。こりゃ修理しなきゃな。どうやらこのあたりも赤い竜の縄張りだ。また向かってくるかもしれない。早くこの場を去ろう。
ーーー
急ぎその場を後にして、再びこの森と丘の最奥地に向かった。もう少しで着く。途中、起伏の激しさのために、岩肌や崖に生えたツタをよじ登らないと進めない場所もあった。近くに渓流があるようで、水の流れる音も聞こえる。木の根と岩の上には苔が柔らかく広がっている。湿気を含んだしっとりした触感が気持ちよさそうだ。
遂にたどり着いた。千年樹が見えた。この木は小高い丘のようなところから生えており、周囲の木々がこの木のためにスペースを作るようにどけているため、この木の周りは明るくなっている。ただ一つ高く聳え立っている。
俺は巨木の根元に立つ。今までの他の木々とは比べものにならないほどの大きさと高さだ。幹は非常に太く、大人ふたりが横になるよりも太い。上を見上げれば、青々と茂った枝葉が光を受けて輝いている。周りの何倍も高くまで伸びたこの巨木は、誰も追いつけない高さで思う存分に伸び伸びとしている。どうだ、ここなら邪魔されないだろうと。今までは他の木々の日陰で地道に頑張ってきたが、今まで耐えてきた分が報われた。今彼は、この生を謳歌している。あまりに枝葉を広げてしまっているので、根元からだと空の半分近くはこの木が覆ってしまっている。梢の先は確認できず、天に繋がっているんじゃないかと思えるほどだ。
言い伝えによると、人間が生まれる前からあるらしい。そうすると、この樹は千年どころか万年に近い年月を生きていることになる。どうやら、今でもこの樹木は大きくなっているようだ。
この木を見上げて想いにふけり始めたその時、遠くで「ドスッ」と鈍い音がした。何事かと思ってその方向に行ってみたら、黒褐色の丸い物体があった。大玉スイカと同じくらいのサイズで、両手で抱えないと運べなさそうだ。金属のような艶を放つ外殻は見るものに威圧感を与え、質量と年月の重さを思わせる。その周りの地面は少しへこんでいた。上から落ちてきたようだ。さっきの音の正体はコイツか。もしやこれか、ギルドで話題になっていた、千年樹の種っていうのは。こうして実物を見るとすごいな。ちょっとした隕石のようだ。
聞くところによると、この種はたまにしか落ちないようだ。確かに、ここまでの大きさと重さになるまで成長するのには、結構な時間がかかりそうだ。そうして十分に伸び伸びと大きくなった種子は時期が来ると、元の木から離れて地面に落ちるようだ。大きくなった子どもが、今まで育った親元を離れるように。
どうやら俺は運が良かったようだ。これを持って帰ればいいみたいだ。早速持ち上げる。見た目通りに結構重い。地面に落ちても平気なだけあってかなり硬い。なんとか俺はその種を風呂敷に包み込んだ。背負って運べるようにカバンにくくりつけた。
そんなこんなで俺は帰路に着いた。背負っている種はかなりの重さがあったが、持って帰る途中は嫌な気はしなかった。報酬を受け取るためなのもあるが、それだけではない。次のことを感じるからだ。
あの巨木は、自分の次の世代に繋ぐために、時間と手間をかけてこの種を育て上げた。地面に落ちると同じように芽を出して成長し、やがては自分と同じように大きくなる。背中にいるこれは、それだけの可能性を秘めていて、あれだけ大きくなるためのエネルギーが詰まっている。大自然の作り上げた恵みを、俺たちは有り難く頂いているわけだ。
途中、あのボス猪の死骸に向かった。腹部あたりに抉ったように削れていた。鋭い牙の跡もある。あの赤い竜が捕食していったようだ。結局のところ、帰りに竜を見かけることも、襲われることはなかった。途中で猪も見かけたが、おとなしかった。ボスが倒されたことで、群れの士気がなくなったからだろう。
その日は寝ずに夜通しで移動した。新鮮なうちがいいのと、夜は生き物は寝ているからだ。
すっかり明るくなった頃、なんとか拠点の村に着いた。狩った猪の肉に毛皮、ボス猪の白い毛と牙。それと、山奥から運んできた千年樹の種。これらを一同に見せた。俺の仕事ぶりに驚愕と賞賛の言葉が送られた。これらを合わせると、かなりの量の報酬となった。しばらくはこれだけで生活できそうだ。
あの持ってきた種は、直径は40cm、重さは20kgだった。あんな森の奥からこんな巨大なものを運ぶなんて、慣れた者でも困難だろう。何に使うのかと聞いたら、いろいろだとのこと。外側の殻は硬いが、中身は柔らかく、甘くてとろけるような味がするという。果肉は料理の味を引き立てる調味料になり、成分を抽出すれば薬の材料になるという。
この森の依頼をこなして、生命の循環を感じ取った。たとえ今の形がなくなっても、他のものに変わる。それらの助けになる。こう考えると、自然と一体化しているような、心地よい気分になる。
ーーー
そう思いながら、集会所兼酒場の休憩所で休んでいると、聞き覚えのある声がした。
「わぁ、タクトだ。驚いた。私の故郷にあいさつに来てたなんて」
女性にしては低めだが滑らかでハリのある声だった。振り向いてみたらびっくりした。まさかこっちに来ていたなんて。
その声の主は、セレナ。俺と同じく彼女も冒険者だ。かなり背が高くガタイがいい。金属鎧で全身を覆っており、ランスと盾を担いでいる。いかめしい兜は外して、長い金髪を靡かせている。
「こっちは依頼で来たんだ。お前こそ里帰りか?」
「さっき着いたんだ。久々の帰省、と言いたいんだが、休む前に一仕事を頼まれている。赤い竜の討伐依頼だ。」
「そいつなら、さっき森で見かけたぜ。危うく焼かれるところだった」
「危なかったな。ところであれだけの量、タクトは森から採ってきたのか?」
「ああ、イノシシ討伐依頼で採ってきた。ヤツらのボスも倒した。あの巨大な種も奥から持ってきた」
そう言って、俺は持ってきたものを指差した。
「おぉ、すごいじゃないか!千年樹の種は実物は初めて見た」
彼女は眉が上がり、声を張り上げた。
「まぁな。それより、もう森に行くのか?」
「そのつもりなんだ。準備が終わったから」
「何だ、明日でもいいだろう。お前もさっき来たばかりなんだし、依頼だって急ぎじゃないんだろ?」
「ああ、偉い人から素材が欲しいと頼まれていてね。被害が出てるわけじゃないようだ」
「なら明日でいい。俺も行くからさ」
「っ!、タクトも手伝ってくれるのか?」
「そうだとも。お前と行くのは楽しそうだからな。それよりここに座っていけ」
俺はテーブルの反対側の席を指差した。
「ああ、有難い」
そう言ってセレナは腰かけた。女性用に調整された鎧の胸部の膨らみが、テーブル近くに来た。
「これで、依頼の参加人数は2人、出発は明日で決まりだな」
「相変わらずタクトはゆっくりしているな」
「今日はゆっくりする日なんだ。こっちは徹夜してきたんだ。装備の修理も明日までかかる」
「ふふっ。それよりも、タクト。あの巨大な種は食べたことはあるか?」
セレナは緩んだ表情で、空のように青い瞳をまっすぐに俺に向けてきた。
「まだないな。そもそもあれって美味しいのか?砲弾みたいだけど」
「あれでも中はミルクのように白くてクリーミーなんだ。甘くてとろけるぞ。それとここには、あの千年樹の種の中身を使った酒もあるんだ。甘い香りがクセになるのさ。私も結構気に入っている」
「それは美味しそうだな」
「せっかく今日は一緒なんだ。タクトの持ってきた肉もある。どうだ、一杯やらないか?」
「いいぜ。明日の英気付けにもなるからな」
「ふふっ。じゃあ決まりだな」
セレナは目を細めて微笑んだ。
「へいマスター。今晩は肉を焼いてくれ。その時に、いつものアレを頼む」
彼女は棚で準備をしている中年くらいの男性に声を張り上げた。
「わかったよ、セレナ嬢ちゃん。アンタ、好きだもんね。ここに来るといっつも頼むもんね」
マスターと呼ばれたミドルガイはそう答えた。
「だってあの酒を飲まないと始まらないんだ。明日の依頼に必要なんだ」
「本当は値が張るんだけど、ここは村一番の美貌のセレナ様に免じてサービスだ。あそこの彼を連れてきたのもアンタか?」
「そんな、照れるじゃないか。それに、彼とはそこまでの仲ではない、あくまで盟友だ」
彼女は頬を赤らめて早口で答えた。ここの村のことはよく分からないが、確かにセレナは美人なほうだ。目鼻立ちはしっかりしてるし。
「まぁ夕方まで時間はある。2人で積もる話もあるだろうし、ワシは準備してくるさ」
そう言うと、マスターと呼ばれた彼は奥に行った。
「はぁ、やれやれ。そうだな、タクト。このあと時間があるなら、村を散歩していかないか?」
「おっ、いいぜ。この村に来るのは初めてなんだ。案内をしてくれ」
「いいぞ。そういうのは私は得意なんだ」
そう答えると、セレナは自信ありげに金色の眉を吊り上げ、自信ありげに口をV字にした。普段見せない彼女の表情に、俺は思わず怯んだ。それを見ると、彼女はクスクスと笑っていた。
その後、2人で席を立ち、彼女に連れられて村に出た。




