三木宗一郎
「モーニング二つ」
対面に座り勝手に注文する男。
「さて、行きずりで妙なことになりましたけど、これなら死ぬにしてもいい冥土の土産になりそうな出会いじゃないですか?」
「……」
男がドリンクバーからホットコーヒーを淹れてきてくれた。
「……ありがとう」
「わっ! 初めてじゃない? 普通に礼言ったの! いや~新鮮!」
「礼くらい言える」
「あ、バカにしたわけじゃないです、すみません。
そうだ、まだ自己紹介してなかった。
俺、三木 宗一郎と言います。名前に漢数字二つも入ってるんですよ」
ペコっと頭を下げる。俺もつられて会釈する。
「……八雲 幹雄です」
「八雲さん! 『みき』が俺と被ってますね!」
どうでもいいよ、そんなこと。
「俺、こういう仕事してます」
と言って、スッと名刺を差し出した。
『ホストクラブ Starlight
オーナー 美輝-miki-』
「ベタな店名でしょ~」
いや、あんたの源氏名も相当ベタだと思うが。
「ホストクラブのオーナーやってます」
へえ。
「あれ? 驚かないんだね」
「夜だとよくわからなかったけど、明るいところで見たら、それっぽい顔してるし」
「それっぽいw」
ファミレスの人工的な明かりでも綺麗な顔してるのは一目瞭然。冷たい感じはなく、でも暖かい感じもしない。
物凄い美形だけど掴みどころがない、そんな印象。
「八雲さん……幹雄さんの方がいい?」
ホストらしい入り込み方だな。
「どちらでも」
「『みき』が被るし八雲さんにするね、
八雲さんはなんの仕事してるの?」
「してた、だな」
「辞めたの」
「そう。死ぬのに働き続けてたら迷惑かかるでしょ」
「あーなるほど」
「だから辞めた」
「なにやってたの」
「銀行員」
「うわっ! それっぽい!」
お互い様かよ。