表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/37

これが愛ってやつだよね

今日の仕事が終わって、おばちゃんの掃除を手伝った。部屋をピカピカにしたら、おばちゃんがめっちゃ感謝してくれてさ、俺を連れて仕事しながらずっとこう言ってた。「最近じゃあ、こうやって初心を忘れない若者って少ないよねぇ~」


俺としては、単にこの仕事の稼ぎが少ないからってだけなんだけどね。口には出さなかったけど。ていうか、まだお金もらってないし。


ギルドは食事の他に宿舎も提供してくれて、大事なものは立派な魔法の錠付きボックスで保管してくれる。基本的に部屋は寝る以外に使い道がほとんどなくて、風呂は共同浴場があってそこで済ませる感じ。俺が掃除してるのは一般冒険者向けの仮宿舎――受付のお姉さんが俺が掃除道具持ってるのを見て、さらに見下した目でこっちを見てくる。「こいつ、ほんと使えないね!」って顔でさ。そんで振り向いて、甘ったるい笑顔で冒険者たちに対応してる。


ふんふん、俺はお前が地面のモノを舐めてるとこ見てるからな。しかも妄想じゃないんだぜ!


冒険者の宿舎は収入によって何種類か選べるんだよね:

一、仮宿舎。一番安くて、今俺が掃除してる場所。

二、定期部屋。ちょっと高いけど、長期で活動する人はこれ選ぶ感じ。

三、私有住宅。不動産買うみたいなもんかVIPルームみたいなやつで、住む場所もだいたい秘密になってる。


俺のプライベート小屋は例外でさ、誰もいない荒れ地に自分で建てたやつ。村までは馬車で1時間くらいで着くから、生活機能と近所付き合いがない以外は不便なとこないよ。なんて心惹かれる環境なんだろうね。


一晩かけて服の下にいっぱいポケットを縫った。一つのポケットに全部の髪の毛入れてもいいけど、一気にスライムに読み込ませたらヤバい結果になりそうだからさ、一つずつの方が安全だよね。


髪の毛なんて冒険者が大事にするもんじゃないし、床とかベッドにちょいちょい落ちてる。すぐにサンプルをポケットに詰め込んだ。


でもこのクルクルの毛をポケットに入れるの、ほんと嫌だな!

もし美少女のだったら……まぁ悪くないか。

でもおっさんのだったら……うわ、気持ち悪っ!


うっ……

リスクは冒さないとね。この毛もポケットに突っ込んだ。


仕事が終わって、おばちゃんがニコニコしながら感謝してくれた。好感度が上がったっぽい感じだ。

「君、ほんと真面目だね。すっごく助かったよ。仕事の手当申請しといてあげるからね。」

「あぁ、ありがとう。最近出費が増えてて……」

「彼女でもできたの?」

友達すらいないよ。「ペットを飼ってるんですよ!」

「ペットか! いいねぇ、狩りの手伝いとかできるじゃない!」

「そうそう、へへ。」


スライムの知能がどこまでいくのかわからないから、図書館で育児書を何冊か買ってきた。

***

モノが自分とやり取りできるようになったらさ、ゴミを食わせるのがなんか申し訳なくなってくるよね。

しかも人型だし。

腐った果物から「もうすぐ腐る果物」にランクアップしたから、出費は増えたけど、前より臭いもマシになった。今はバイト増やして、なんとかやっていけてるかな。


楽しい実験タイムだ!


ポケットの髪の毛を順番にスライムに食わせて、記録をつけてった。


くそっ、体が痒いぞ。たぶんシラミだな。


この部屋はアダム……とアーサー? 二人のゴツいおっさんか……

この部屋は……8人? やりすぎだろ!

こっちは団長と……受付のお姉さん? バイトしてるのか?

これは……? あ、胸を大きくしてみて、エリスだ。


いつの間にか結構なネタを握っちゃったみたいだ。ただ、ここに住むのは大体一時的な奴らだし、俺が手を出せる相手じゃない。脅して逆に消されるとか、そういう展開は見飽きたしね。平凡こそ一般人の最強の護身術だよ。


知能があるなら学習できるし、本能だけより教えやすいはずだ。

でもまずは息を吐いて声出す方法を教えないと。

スライムに呼吸器官を模倣するように指示して、俺は空気入れポンプをその体に突っ込んで気管につなげて、押してみた。

「あ~~」

「ㄚ~~」


ポンプを取り出したら、スライムが体内でポンプを模倣して、「あーあーあー」って鳴き始めた。


学習速度めっちゃ早いじゃん。次は発音だな。発音には舌が大事だろ。

俺は口を大きく開けてスライムに見せて、文字ごとに発音してみた。スライムも真似したけど、いくつかうまく発音できない音があった。

俺はスライムの擬態した舌を軽く押して教えてやった。柔らかくてモチモチした舌で、つい何回か捏ねちゃった。


そうそう! これぞスライムだよ!!

あとで舌の使い方も教えてやるか。

***

あと一つ疑問があってさ。

スライムに聞いてみた。「池いっぱいあったのに、なんで今は……こんなちょっとしか残ってないの?」

スライムが池に飛び込んで、ゼリーみたいに広がって、ほぼ池を埋め尽くした。

「濃縮してるのか……」


さらに聞いてみた。「お前って……何匹いるの?」

スライムが人型に擬態して、2体に分裂、さらに3体に分裂して、それぞれ違う姿に変わった。


そしたら一体が俺の横に来て、俺が見てた本を覗き込んで、他の体に戻って合体。そのあと偽足でさっきの本の内容――馬車を模倣してみせた。

「たくさんでも一体でもいけるってことか……」


馬車を見てみたら、この擬態がやたら頑丈で、叩いたら反響までした。


密度のせいか?


「動いてみて?」

馬車がブルブルって震えて、それから人型がもう一つ擬態して、馬車を引っ張って歩いた。


見た目は模倣できるけど、動力にはシステムが必要なんだな……

もっと大事なことに気づいた。

「長時間分裂できるなら、俺が毛をいっぱい持ち帰る必要なくね!?」


スライムが俺の考えを察したみたいで、体からスズメを擬態させて分離させて、俺の肩に止まらせた。


でもこれじゃまだ不安だな。俺は紋章のない部分がある指輪を見つけて、スライムの分体に入らせた。

「どれくらい離れていられる?」

スライムが手話で俺とやり取りしてきた。栄養さえあればずっと維持できるらしい。


俺、読めるよ。


言葉通じなくても、コミュニケーション取れるんだ。

これが愛ってやつだね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ