これが愛ってやつだよね
今日の仕事が終わって、おばちゃんの掃除を手伝った。部屋をピカピカにしたら、おばちゃんがめっちゃ感謝してくれてさ、俺を連れて仕事しながらずっとこう言ってた。「最近じゃあ、こうやって初心を忘れない若者って少ないよねぇ~」
俺としては、単にこの仕事の稼ぎが少ないからってだけなんだけどね。口には出さなかったけど。ていうか、まだお金もらってないし。
ギルドは食事の他に宿舎も提供してくれて、大事なものは立派な魔法の錠付きボックスで保管してくれる。基本的に部屋は寝る以外に使い道がほとんどなくて、風呂は共同浴場があってそこで済ませる感じ。俺が掃除してるのは一般冒険者向けの仮宿舎――受付のお姉さんが俺が掃除道具持ってるのを見て、さらに見下した目でこっちを見てくる。「こいつ、ほんと使えないね!」って顔でさ。そんで振り向いて、甘ったるい笑顔で冒険者たちに対応してる。
ふんふん、俺はお前が地面のモノを舐めてるとこ見てるからな。しかも妄想じゃないんだぜ!
冒険者の宿舎は収入によって何種類か選べるんだよね:
一、仮宿舎。一番安くて、今俺が掃除してる場所。
二、定期部屋。ちょっと高いけど、長期で活動する人はこれ選ぶ感じ。
三、私有住宅。不動産買うみたいなもんかVIPルームみたいなやつで、住む場所もだいたい秘密になってる。
俺のプライベート小屋は例外でさ、誰もいない荒れ地に自分で建てたやつ。村までは馬車で1時間くらいで着くから、生活機能と近所付き合いがない以外は不便なとこないよ。なんて心惹かれる環境なんだろうね。
一晩かけて服の下にいっぱいポケットを縫った。一つのポケットに全部の髪の毛入れてもいいけど、一気にスライムに読み込ませたらヤバい結果になりそうだからさ、一つずつの方が安全だよね。
髪の毛なんて冒険者が大事にするもんじゃないし、床とかベッドにちょいちょい落ちてる。すぐにサンプルをポケットに詰め込んだ。
でもこのクルクルの毛をポケットに入れるの、ほんと嫌だな!
もし美少女のだったら……まぁ悪くないか。
でもおっさんのだったら……うわ、気持ち悪っ!
うっ……
リスクは冒さないとね。この毛もポケットに突っ込んだ。
仕事が終わって、おばちゃんがニコニコしながら感謝してくれた。好感度が上がったっぽい感じだ。
「君、ほんと真面目だね。すっごく助かったよ。仕事の手当申請しといてあげるからね。」
「あぁ、ありがとう。最近出費が増えてて……」
「彼女でもできたの?」
友達すらいないよ。「ペットを飼ってるんですよ!」
「ペットか! いいねぇ、狩りの手伝いとかできるじゃない!」
「そうそう、へへ。」
スライムの知能がどこまでいくのかわからないから、図書館で育児書を何冊か買ってきた。
***
モノが自分とやり取りできるようになったらさ、ゴミを食わせるのがなんか申し訳なくなってくるよね。
しかも人型だし。
腐った果物から「もうすぐ腐る果物」にランクアップしたから、出費は増えたけど、前より臭いもマシになった。今はバイト増やして、なんとかやっていけてるかな。
楽しい実験タイムだ!
ポケットの髪の毛を順番にスライムに食わせて、記録をつけてった。
くそっ、体が痒いぞ。たぶんシラミだな。
この部屋はアダム……とアーサー? 二人のゴツいおっさんか……
この部屋は……8人? やりすぎだろ!
こっちは団長と……受付のお姉さん? バイトしてるのか?
これは……? あ、胸を大きくしてみて、エリスだ。
いつの間にか結構なネタを握っちゃったみたいだ。ただ、ここに住むのは大体一時的な奴らだし、俺が手を出せる相手じゃない。脅して逆に消されるとか、そういう展開は見飽きたしね。平凡こそ一般人の最強の護身術だよ。
知能があるなら学習できるし、本能だけより教えやすいはずだ。
でもまずは息を吐いて声出す方法を教えないと。
スライムに呼吸器官を模倣するように指示して、俺は空気入れポンプをその体に突っ込んで気管につなげて、押してみた。
「あ~~」
「ㄚ~~」
ポンプを取り出したら、スライムが体内でポンプを模倣して、「あーあーあー」って鳴き始めた。
学習速度めっちゃ早いじゃん。次は発音だな。発音には舌が大事だろ。
俺は口を大きく開けてスライムに見せて、文字ごとに発音してみた。スライムも真似したけど、いくつかうまく発音できない音があった。
俺はスライムの擬態した舌を軽く押して教えてやった。柔らかくてモチモチした舌で、つい何回か捏ねちゃった。
そうそう! これぞスライムだよ!!
あとで舌の使い方も教えてやるか。
***
あと一つ疑問があってさ。
スライムに聞いてみた。「池いっぱいあったのに、なんで今は……こんなちょっとしか残ってないの?」
スライムが池に飛び込んで、ゼリーみたいに広がって、ほぼ池を埋め尽くした。
「濃縮してるのか……」
さらに聞いてみた。「お前って……何匹いるの?」
スライムが人型に擬態して、2体に分裂、さらに3体に分裂して、それぞれ違う姿に変わった。
そしたら一体が俺の横に来て、俺が見てた本を覗き込んで、他の体に戻って合体。そのあと偽足でさっきの本の内容――馬車を模倣してみせた。
「たくさんでも一体でもいけるってことか……」
馬車を見てみたら、この擬態がやたら頑丈で、叩いたら反響までした。
密度のせいか?
「動いてみて?」
馬車がブルブルって震えて、それから人型がもう一つ擬態して、馬車を引っ張って歩いた。
見た目は模倣できるけど、動力にはシステムが必要なんだな……
もっと大事なことに気づいた。
「長時間分裂できるなら、俺が毛をいっぱい持ち帰る必要なくね!?」
スライムが俺の考えを察したみたいで、体からスズメを擬態させて分離させて、俺の肩に止まらせた。
でもこれじゃまだ不安だな。俺は紋章のない部分がある指輪を見つけて、スライムの分体に入らせた。
「どれくらい離れていられる?」
スライムが手話で俺とやり取りしてきた。栄養さえあればずっと維持できるらしい。
俺、読めるよ。
言葉通じなくても、コミュニケーション取れるんだ。
これが愛ってやつだね。