ちょっと見せてみて
牛人の小屋にて
Dが弱々しい火を灯してくれた。小屋の中、作業がめっちゃ真面目でさ、甘くて濃厚な匂いが漂ってる。作業員たち、すっかり夢中になってるみたいだけど、搾り出したミルクが絶妙にバケツに落ちてるよ。
「どう?試してみる?」Dがめっちゃ熱心に聞いてきた。Dの頬、緑がかってるのに赤みも混じってて、この場の雰囲気にやられてるっぽいね。
心の準備できてないのに、どの乳搾ればいいか分かんないよ。僕、ゆっくり首振って、この提案やんわり断った。
Dに視察終わったって合図して、出る前に一番近くの乳をモミッと揉んでみた。そしたら「キャッ!」って叫び声上がって、液体が僕の手ベチャッと濡らしちゃった。
D、それ見て、出る時に僕に手を洗えって言ってきた。
「このロット、純度高すぎるから、ちゃんと洗ってね。」
「どのロット?何が純度高いって?」
「なんか分かんないけど、君、この場の影響あんまり受けてないよね。加工してない乳汁って催情効果もあるんだよ。」
「機能多すぎて便利すぎじゃない!?」
「まあ、便利じゃない時もあるかもね。」D、肩すくめた。
僕、Dにこの村の種族の違いちゃんと聞いてみることにした。
獣人:元々その種族で、Dみたいに人間に九割近いタイプ。
獣化人:元は人型生物で、先天か後天で獣化能力持つタイプ。大狼とかね。
X人:獣人より動物の特徴が強いタイプ。小屋の牛人とか。
X頭人:頭だけ動物の形してるタイプ。
心の準備さえできれば、牛人なら僕でもイケるかな。
***
道中にて
道すがら、Dが禿尾って子呼んできて、指示出した。
「この人、大事な客人だからさ。僕らの村の自慢できるとこ紹介してあげて。任せたよ、分かった?」
「分かったよ!僕、一人前だって証明してみせる!」
禿尾、めっちゃ期待してる感じ。大きな任務もらったからかな?
「よし、君の仕事、誰かに代わってもらうから、ちゃんと客人接待してね!」
D、僕をチラッと見て意味深にニヤッとした。僕、まだ何考えてるか分かんないよ。Dが前に言ってた感じだと、この子、次の巡回実習で『天択』に淘汰される可能性高いのに、なんで……。
天択なら、拾われる可能性もあるってことか?
D、お前、マジで遠回しすぎだろ!
禿尾、目をまん丸くして僕見てた。顔立ちは整ってるけど、ちょっと汚れててさ。肩まで伸びた髪、ずっと切ってないみたいでボサボサ。ボロいズボンから出てるツルツルの尻尾が微かに揺れてる。
見た目は悪くないけど、禿尾のペラペラでガリガリの体じゃ普通以下だよ。
禿尾、犬狼族の中じゃ間違いなく弱者だね。でも人間目線だとまあまあイケる。これ、審美観の違いだな。
禿尾、僕が尻尾見てるのに気づいて、恥ずかしそうに尻尾挟んで、両耳もペタンって下がっちゃった。
「見ないでよ…。昔はキレイな毛あったんだけど…。」
「ちょっと見せてみて……」
僕、軽く尻尾握ってみた。禿尾、尻尾にめっちゃコンプレックスあるみたいで、下唇噛んで我慢してる感じ。
僕、まだDの意図に乗るか知らんぷりするか決めてないよ。
こんな孤独に生きてるのって、スライムに出会う前の僕みたいだ。
僕に何の救い与えられるか分かんないし。
このまま消えちゃうのも、そんな悪いことじゃないのかもね。
「真言術:癒せ。」
僕、尻尾に術かけた。
根元にちょこっと毛が生えてきた。ストレス性の抜け毛には効かないみたいだね。
こんなちょっとした慰めもできないのかよ。
「わっ…ありがとう!」
禿尾、めっちゃ喜んで飛び跳ねて、僕の周りグルグル回り始めた。
次に禿尾、僕をいろんな「素敵な場所」に連れてってくれた。これもDの意図?禿尾が仕事しなくていいように遊ばせてあげてる感じなのかな。Dの心、こんな繊細だとは思わなかったよ。
まあ、このくらいなら付き合ってあげるか。
「ねえ、この尻尾ってもっと毛生えるかな?」
「もちろん可能性あるよ。」
嘘じゃないよ




