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頭上輪廻戦士アーサー  作者: 川口大介
第二章 出陣! 二代目女神様
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「白の女神よ! おるのは判っておるのだぞ! どうあっても出て来ぬのなら、」

 角の変わりに机を生やしたドラゴン、机ゴンは相変わらず校庭で吠えていた。

 ホワイトワ―ズ中学は校庭を中心にして東に校門、西に体育館と裏山、北に校舎、そして南側にはホワイトワ―ズ小学校がある。もちろん小学校も大騒ぎになっているが、机ゴンはそちらには背を向けている。

 そして、中学の校舎に向かって歩いていきながら、また吠えた。

「とりあえず手始めに、ここの学童どもを皆殺しにしてくれるっ!」

 校舎を揺るがすような、男女合わせて七百名の悲鳴が轟いたが、机ゴンは揺るがない。

 その七百名の大部分がパニックに陥る中、何人かの教師や学級委員が必死に避難誘導をするも、机ゴンが尾を振り上げる方が早い。

 そして振り下ろし、一気に校舎をブチ砕き割ろうと……

「待ちなさいっ!」

 鋭い声がして、尾が止まった。

 机ゴンは左側、校庭の西側を見た。

 そこにいたのは、ホワイトワ―ズ中学の制服を着た女子生徒。蒼い髪をポニ―テ―ルにした女の子だ。校舎から全速力で走ってきたらしく、息を切らしている。

「何だ貴様は? 白の女神以外に用は……」

 と言いかけて、机ゴンは言葉を切った。そして、鼻をひくひくさせる。

『あの小僧の匂い……残り香だな。この娘、あやつと近しい者か……』

 机ゴンが、ニヤリと笑う。その笑顔に、

「な、なな何よっ。何が、おかしいのよっ」

 最初から怯えていたその女の子は更に恐怖倍増となったらしく、机ゴンにもはっきりと判るほど震えだした。

 だがそれでも、冷や汗まみれになりながらも必死に、毅然とした表情を作っている。

「わ、わたしは、一年五組の、イルヴィアっていって、その、」

「誰もそんなこと聞いとらん」

「そ、そう? それなら、えっと、」

 イルヴィアはじりじりと後退する。

「そ、そうだ。あなた、白の女神がどうとか言ってるけど、それって何なのよ? 全然、わからないんだから、詳しく説明、しなさいよっ」

 イルヴィアは後退する。西に、山の方に。

「……ほほう、なるほど」

 机ゴンが、ニヤリ。

「さすがよのう。貴様、あの女の助手か? 従者か? 相棒か?」

「な、何を訳のわからないこと言ってるのよ。それより白の女神って、わたしは見たことも聞いたことも、ないんだから。ちゃんと説明を」

「そうやってわざとらしく時を稼ぎ、学童どもからも街からもわしを離して、騎士団の到着を待つか。いやはや、大したものよ」

 ニヤニヤしながら机ゴンが言う。

「だが甘いな。わしにとっては平和ボケしたこの時代の騎士どもなど、屁でもないわ」

 と言って、ぺこり。まるでお辞儀をするように、机ゴンが頭を下げた。

 すると突然、まるでその頭に引っ張られたかのように、一筋の稲妻が流星のように空を貫いた。まっすぐに机ゴンの頭の机へ……

「え?」

 落雷! その瞬間、昼間の太陽をも上回る閃光が瞬き、イルヴィアも校舎内にいる生徒たちも目を伏せた。

 全くの快晴、青い空にいきなりの雷。それだけでも充分に異常な現象だったが、真の異常はその直後にやってきた。

 今の雷を追いかけるように、上空から降って来たのだ……イルヴィアがいるその場所に、無数の机が。

 上を向いたイルヴィアが、それに気づいたときにはもう逃げられない。

「きゃああああぁぁぁぁっ!」

 イルヴィアが腰を抜かして尻餅をついた、その直後!


 ドゴォドゴォドゴォドゴゴゴゴォォ!


 無数の机による豪雨。それも教室に置いてあるような、木製の机ではない。暗く透き通った、見たこともない鉱物でできた机の、悪夢のような超局地的豪雨だ。

 それらは遥か上空から落下してきて地面に激突したというのに、折れず欠けず割れず全くの無傷。当然の結果として、地面に突き刺さり、めり込んでいる。

「う、ぅ……あ……」

 机の豪雨の轟音が止み、土煙が静かに漂う。

 そんな中でイルヴィアは、ぱたりと倒れそうになる上半身を、後ろについた両手で必死に支えていた。

 イルヴィアの、大きく開かれた左右の脚。その間に机の脚がある。斜めに傾いて半分ほど地面に埋まっている、黒水晶の机の脚だ。

 そういえばさっき後頭部を掠った机が、ごく僅かだがイルヴィアの髪を削いだ。そのせいだろうか、ほんの少し焦げ臭い。

 イルヴィアが今、全身を砕かれ潰されて死ななかったのは……わざとだろうか偶然だろうか。

「解ったか? 並のドラゴンなら倒せるような戦士でも、このわしには絶対に勝てぬ。黒の力をもつ、このわしにはな」

 机ゴンがイルヴィアに近づいていく。

 言葉を失い身動きもできず、紙のように白い顔のイルヴィアに向かっていく。

「貴様の悲鳴であやつを呼んで貰おうと思ったのだがな。その様子では無理か」

 机ゴンが近づいてくる。

 地面に刺さった黒水晶の机に囲まれて、震えるイルヴィアに向かってくる。

「た……た、たす……」

「だから、助けを求めるのなら、もっと大きな声を出せと言うに」

 だが机ゴンがイルヴィアに近づいていくと、悲鳴はイルヴィア以外の人々からしっかりと聞こえてきた。

 机ゴンの左右、小中学校の校舎から、千を越える数の悲鳴が響き渡る。

「おお、これはこれは。これなら、あやつも出て来るだろう。というわけで、」

 机ゴンが、その大きな口を開けた。

 ズラリと並ぶ白い牙。イルヴィアの身長ほどもありそうなその牙を、数本の唾液の糸が繋いでいる。

「腹ごしらえだ。喰うぞ」

 平然とそう言って、机ゴンはイルヴィアに、ゆっくりと襲い掛かった。

 もう既にイルヴィアは、

『……あ、あ……』

 声を出すどころか、思考を恐怖によって押し潰されていた。心の中ですら、思うように言葉が紡げない。

『あ……あ、あ、あ~く……!』

「てええええぇぇ――――――――いっ!」

 突如、机ゴンの右側、中学の校舎の方から出てきた人影が疾走、跳躍して、机ゴンの横っ面を踏み抜くような、強烈な跳び蹴りを叩き込んだ。

 影、といってもその影は黒くない。白い。机ゴンに加えた矢のような一撃は、まるで魔を討ち払う東方の白い矢、破魔矢のよう。

「うぐぉぉおっ⁉」

 予想だにしなかった一撃を受けて机ゴンの顎が歪み、そしてそれに引っ張られるようにして体が、ぐらりと傾く。

 そこへダメ押しするように、影はもう一発、机ゴンの顔を押し蹴って跳んだ。

 傾いたところを更に押されて、机ゴンは地響きを立てて倒れる。

 影は、くるりと空中で身を回転させて、イルヴィアのそばに着地した。

 そして、

「大丈夫? ケガはない?」

 と言いつつ振り向いたその顔は、

「えっ……」

 イルヴィアを、心の底から驚かせるに充分なものだった。

「ええええぇぇぇぇっ⁉」


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