頭上に二人、眼前にも二人
体育館が崩壊していても、授業はできる。
ホワイトワ―ズ中学は暴風リン戦の後、一日だけ休校したものの、二日目にはもう授業を再開した。あの事件では結局誰も怪我などはしていないので、いつも通りの生活があっけないほど簡単に戻ってきている。
まだ寝込んでいる約一名を除いては、だが。
「……う~……」
他ならぬア―サ―である。
エミアロ―ネとカユカが前世・前々世の力を引き出してくれているので、常人よりは回復が早い。が、それでもまだまだ完治には遠い。戦いで負った傷もあるが、あの「輪廻狂わせムリヤリ変身」と「白黒半分」とによるダメ―ジが大きいのだ。
結局、「女神二号を探して裏山に入っていたら、いきなり雪が積もって滑って転んでそれから凍傷と風邪と」という説明で何とかごまかし、ア―サ―は学校を休んで自室で寝込んでいる。
『正義の味方は辛い……か。にしても、あの状況で学校の裏山で遭難って、思いっきりかっこ悪いよなあ。とほほ』
と落ち込んでいたところにドアがノックされ、ウナの声がした。
「おに―ちゃん、入っていい?」
「ん? ああ」
かちゃっ、とドアが開いてウナが姿を見せる。
「イルヴィアおね―ちゃんが、お見舞いに来てくれたんだけど……」
「え?」
ウナの後ろから、学校の帰りに来てくれたらしい制服姿のイルヴィアが顔を出した。
ア―サ―は驚いて、思わず威勢良く起き上がる、と傷が痛む。
「い、たたたたっ」
「あっ、あ~くん。ちゃんと寝てなきゃ」
イルヴィアが、とたとたと部屋に入った。
ウナは部屋を出て、ドアを閉める。すると部屋の中には、タヌキのパジャマのア―サ―と、制服姿のイルヴィアの二人っきりになった。
『……う、う~』
最近いろいろあったおかげで、ア―サ―はイルヴィアのことをかなり意識している。今も緊張で鼓動が早い。
イルヴィアはというとそんなア―サ―を優しく寝かせて、布団をかけてくれ……ようとしたところで、手を止めた。
「……あ~くん」
「ん?」
「ちょっと、ごめんねっ」
イルヴィアはア―サ―のパジャマの上着の裾を掴んで、いきなり捲り上げた。
そしてア―サ―の胸を、じ~っと見つめる。
「イイイイイルヴィアっ?」
何事かとア―ア―は真っ赤になって混乱する。
イルヴィアはしばらくすると、溜息を一つついてパジャマを元に戻した。
そして布団を掛けながら、頭を下げる。
「ごめんねあ~くん、変なことして」
「い、いやその、あの、確かに変だったけど、いきなりどうしたの?」
イルヴィアは少し恥ずかしそうに答えた。
「あ~くんが、本当に男の子かどうか、どうしても確かめたくなったの」
「え?」
「でも考えてみたら、あ~くんとは昔、何度も一緒にお風呂に入ってたもんね。今更こんなことしなくても……やっぱり、ちょっとおかしくなってるのかな、わたし」
こつん、とイルヴィアが自分の頭を叩く。
その発言内容でア―サ―はまた赤くなっているのだが、イルヴィアは気付かない。で、自分の本題に入る。
「あのね。実はね、あ~くん」
「な、何?」
「わたし、こないだの事件で自分の気持ちに気付いたの」
真剣なイルヴィアの顔。
「わたしね…………女神二号さんのことが好きなの」
『っっ!』
再びア―サ―は威勢良く起き上がった。だってこれって、噂に聞く「告白」っ!
ア―サ―の脳は瞬時に沸騰し、心臓は燃え上がり爆発しそうに……なったのだが。
『あっ……でも』
そういえば正体はバレていない。たった今、性別を確認したのもそういうことだろう。
だが、そうするとつまり。
「え、え~と……?」
ア―サ―は悩む。
と、突然ドアが、ば――――ん! と開かれた。
「つまりすなわちこ―ゆ―こと、イルちゃんVSボク様で、愛しいあの子の奪い合い!」
白地に赤丸の扇子を振りかざしたオデックだ。
くるくると踊りながら部屋に入ってきて、ベッドの脇に立つ。
「だがだがしかし、ちょいとイルちゃんちょいと待てい。ア―サ―ならばいざ知らず、自分が少女でありながら、同じく少女に恋するなどとは、いやはや全く恐れ入る」
歌うオデックに、むっとした顔でイルヴィアが反論する。
「そんなの関係ないでしょ! 誰が何て言ったって、好きになっちゃったんだもん。性別とか年齢とかそんな些細なことは、」
「いかにもタコにも、その通り」
パチン、とオデックは扇子を閉じた。
「解っているならそれで結構、遠慮は無用で容赦は不要。正々堂々思いっきり、恋のライバルさせてもらうよ」
「臨むところよっ!」
ケガ人のベッドの隣で、二人が盛り上がっている。
そのケガ人はどうしたらいいのかわからず、ただ、ぼ~ぜんとしていて。
と、二人は同時に、くるりっとア―サ―の方を向き、それぞれにア―サ―の手を取って、
「そういうわけだから、応援よろしくっ!」
声をハモらせて言ってくれた。元気良く。
「え……は、はあ……」
つい、気迫に負けてア―サ―は頷いてしまう。相変わらず、強く押されると弱い。
とはいえ右手を握ってるオデック、左手を握ってるイルヴィア、二人とも本当に本気の目をしているものだから。
本気で、女神二号という名の少女に恋してしまっているらしいから。
『う……う~~~~ん……』
ア―サ―は、困って悩む。
その頭の上に、にょこ、と生えた。
金色の髪と、白い戦装束のエミアロ―ネが。
「何だか、ややこしいことになったわね」
更にその上に、にょこ、と生えた。
銀色の髪と、黒いロ―ブのカユカが。
「ま、これも試練じゃろうて」
助言をくれない白と黒とを頭に乗っけて、イルヴィアとオデックに迫られて、ア―サ―は固まっていた。
『……ど、どうすりゃいいんだ僕はっっ?』
勉強もスポ―ツも、得意ではない。自慢できるような特技も趣味もない。
性格的にも気弱で、どちらかというと後ろ向き。すぐにいじいじと悩み落ち込む。
謙遜ではなく本当に「どこにでもいる普通の男の子」なア―サ―。
そんな彼が、白い女神様と黒い大神官様を頭に乗っけて、世界の命運を賭けた戦いに身を投じることとなった。それも、女の子に変身するというオマケつきで。
はたして彼は、この戦いに見事勝利して、憧れの「かっこいい英雄」になれるのか。そして、女神二号としてでてはなくア―サ―として、かっこ良く「お姫様だっこ」をキメられる日は来るのか。
ア―サ―とエミアロ―ネとカユカとの三人二脚の戦いは、まだ始まったばかりなのである。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
最初にも書きました通り、「転生した後」にまで「転生前の意識がついてきてる」って、
本来こういうことなんですよね。
エミアローネ自身が、赤ちゃんとして新しく生まれたのでないのなら。
物語開始時点で、ある程度の年齢を持っているのであれば。
その肉体には、赤ちゃんからそこまで生きて来た歴史があるはず。
つまり別の人格があるはず。それがアーサーです。
でなければ、無の空間からポンと湧いて出た謎の生物です。それでは
「転じて生まれる」とは言えません。生まれたのではなく、湧いたのですから。
本作でいうところのアーサーを、エミアローネが悪霊のように憑いて
乗っ取ってしまっている状態。そういう「転生」作品が多すぎる気がしております。
それはもう「転生」ではなくて「憑依」だろと。
例えばセーラームーン。前世でセーラー戦士であった者たちが、
現代の日本に赤ちゃんとして生まれて、十数年の月日を過ごして成長してから、
前世の能力が覚醒して……と。これが正しい転生。というか昔はこれが当たり前
だったんですけどねえ。
と言っても。
実は、私がこの作品を描いたのは、軽く十年以上昔です。
今のような「異世界転生」作品のブームはなく、ですから私自身、
上記のような思いを込めて描いたわけではありません。
が、十数年の間に世の常識が大きく変わってしまったので、
こんな文章を書かせて頂きました。
皆様が「転生」について考える時、こんな話も意識の片隅に置いて頂ければ、
光栄の行ったり来たりにございます。
ではまた、次の作品で!




