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頭上輪廻戦士アーサー  作者: 川口大介
第六章 邪神の奇跡、二人の奇跡
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 暴風リンはあっさりと、とんでもないことを言っている。

 今まで随分とムチャクチャなことがあったが、そのムチャクチャもここに極まれりだ。神の力を使えるということはつまり、暴風リンは最高位の神官も伝説の大魔術師も、遥かに超えてしまったのである。

 対してア―サ―はどうか。覚醒しきっていない前世と前々世の力などという不確かなものにすがっている、一介の中学生だ。

『こ……こ、こんなの、僕一人でどうしろって言うんだ……』

 さすがに絶望に包まれ、ア―サ―は力が抜けてしまう。

 その体の前面はもう、白くなっている。薄く雪が積もっているのだ。

 ア―サ―の背後の体育館……はないので、その向こうの裏山も、早や雪化粧を始めている。この一帯だけが、いきなり真冬になってしまったかのようだ。

 吹き付けてくる吹雪の向こう(風と雪とでよく見えない)では暴風リンが相変わらず一歩も動かないでいた。

「優勢な時に油断をして逆転される、というのはよくあることだからな。トドメを刺す前に、徹底的に堀を埋めさせてもらうぞ」

「ほ、堀……?」

「そう。城攻めの前の、堀埋めだ」

 暴風リンが右手を上げた。

 その手に吹雪が巻きついて……あっという間に、氷の長剣が出現した。

 暴風リンはそれを握り、ア―サ―に向ける。

「その体に、この吹雪は堪えるだろう? まずはお前の、体の動きを封じる」

 言われるまでもない。全身の擦り傷や切り傷に吹雪が染み込んで、凍気が体内に根を張っている。手足はとっくに痺れて、感覚が消えかかっている。

 この手でラブラブレ―ドを握っていられる時間も、そう長くはないだろう。足にも力が入らず、立っているのがやっと。少なくとも、走ることはもう不可能だ。

「更に、お前の精神の動きは既に封じている。誰もお前を応援したり助言したりはしない」

 体育館のみんなと、エミアロ―ネとカユカのことらしい。

「そして、これだ」

 暴風リンは氷の剣の先端を、自分の頬つまりイルヴィアの頬に当てた。

 ふにっ、とその柔らかな頬を剣先で押して見せる。

「お前が根性を振り絞るのは勝手だが、俺への抵抗は許さん。もしそんなことをすれば、この顔面でチェスができるようになるぞ」

「っっっっ!」

 暴風リンが腹を抱えて笑い出したくなるぐらいに、ア―サ―は見事に動揺を顔に出した。

 更にそこに、暴風リンは追い討ちをかける。

「具体的に言うと、顔を切り刻むってことだ。それは嫌だろう? なあ、あ~くん♡」

「! な、なんでそれをっ⁉」

「俺はこいつの魂を眠らせて、この体を完全に乗っ取っているからな。骨も肉も内臓も、そして脳の中身、記憶までもだ。神の力があれば容易いこと。そしてお前も知っていると思うが、」

 間違いなく相手をチェックメイトできる最後の一手を、暴風リンは放った。

「意識体の声や行動は、その宿る肉体の五感にしか干渉できない。つまり、お前の感動的な説得でこいつの意識が目覚めたとしても、その声は俺にしか聞こえない」

 エミアロ―ネやカユカの声は、姿は、ア―サ―にしか聞こえず見えない。ア―サ―はそのことをよく知っている。

 暴風リンの言う通りだ。今どんな愛の奇跡が起ころうとも、イルヴィアの声は暴風リンにしか届かない。

「これなら、お前がこいつに励まされて火事場のバカ力を発揮、なんてこともないだろう? もちろん、神の力を得ているこの俺が、肉体の操作権を奪われることなども絶対にない」

 暴風リンが、何かの合図をするように剣を振り上げる。すると、ピタリと吹雪が止んだ。

 明るくて暖かな快晴の日差しが戻ってきたが、吹雪の爪痕はしっかりと残っている。

 ア―サ―の背後、ホワイトワ―ズ中学校の裏山はもう完全に真っ白だ。そしてア―サ―は、

「……う……っく」

 力なく両膝をついた。

 傷が刻まれ疲労が溜まり、風雪で冷たく麻痺した体。ラブラブレ―ドをまだ手放していないのは、指が開かないからにすぎない。

 加えて今、「何を犠牲にしてでも、絶対に守りたいお姫様」が人質になっている。そして、誰の応援も助言もない。

 こんな状態で、何ができるのか。

「フッ。何もできまい白の女神よ。……いくぞ!」

 力強く地面を蹴り、更に自ら上昇気流を起こして乗って、暴風リンは高く高く飛び上がった。上空で氷の剣を構えて、無力な標的を見下ろす。肉体的にも精神的にも全く抵抗できなくなったア―サ―に、しかと狙いを定めた。

 そして、急降下!

「今度こそ、俺の勝ちだああぁぁぁぁっ!」

 ア―サ―の耳に突き刺さる勝利の雄叫び。

 その声は、聞き慣れたイルヴィアの声。

『イ、イルヴィア……っ』

 体が動かせない。心が立ち上がれない。

 そんなア―サ―にできることと言えば、せいぜい悲鳴を搾り出すことぐらいだ。

 それで、何がどうなるわけでもないけど。

 でも、でも、

「イルヴィア――――――――っっ!」 

 ア―サ―は叫んだ。


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