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「いくぞっ! ビリビリボ……」
「おっと、遅い!」
ア―サ―が電撃を放つより早く、暴風リンが片手でボ―ルを転がすような動きを見せた。が、別に何も飛んで来ない。
電撃も炎も氷もこない。だが魔力を帯びた何かが……
「そこかっ!」
ア―サ―は即座に見抜き、立ち止まって構え、ドロドロッドを下から上へと振る。電撃が、見えない何かにぶつかってスパ―クし、重い手応えがきた。
が、ア―サ―は構わずそのまま、ドロドロッドを空に向かって振り切り、振り上げた。
ビュゥ! と風の唸りがして、「それ」は遥か上空へと押し上げられ吹っ飛ばされていく。
その正体は魔力を帯びた風の塊。
「ほう……?」
暴風リンが、感心した声を出した。
今のは腕力ではなく魔力。杖に宿した電撃の魔術を使って、風の魔術を弾き飛ばしたのだ。
「そんな芸当ができるとはな。鏡メバンシ―を魔術で倒したのは、やはりお前か?」
「ああそうだよ。恐れをなしたかっ?」
むん、とア―サ―はドロドロッドを構えてみせる。
その姿は、暴風リンの目にはやはり【黒い白の女神】と見える。今のは明らかに武術家ではなく黒魔術師の技で、だが顔かたちは白の女神と同一人物、しかし装束は黒く……何が何だかわからない。
「ふん。何をどうやってそんな力を得たのかは知らんが、まあいい。こちらも面白いものを見せてやる!」
暴風リンが、見えない何かを地面に叩きつけた。おそらくさっきと同じ、風の塊だろう。
その威力で校庭の砂が舞い上がり、辺り一面を覆った。砂煙を使った煙幕だ。
《油断するな来々世、来るぞ!》
《……いえ、違うわ。あいつ動いてる》
エミアロ―ネの言葉通り、暴風リンはア―サ―から離れて走っていた。
油断なくア―サ―が身構えている内に、少しずつ砂煙が晴れていく。攻撃は来ない。
やがて砂煙の向こうに見えてきたのは、
「えっ⁉」
ア―サ―の目の前に巨人がいた。ゴ―レムというやつだろうか、それにしても大きい。
まるで、校舎がそのまま人間型になったかのようだ。そういえばこのゴ―レム、茶色くて煉瓦造りで……
「ま、まさか!」
きょろきょろとア―サ―は前と後ろを見る。
小学校と中学校の校舎がなくなっていた。そして目の前にいる巨人には、よく見ると窓やらドアやらがついている。
ということは?
「フハハハハ! 気付いたか? これぞ名づけて校舎ゴ―レム!」
ア―サ―が遥か上方を見上げてみると、その校舎ゴ―レムの額の部分に、ホクロのように暴風リンの顔があった。
一体化して操っている、らしい。
「ム、ムチャクチャだこんなのっ!」
《その通りよ。まずいわ、ア―サ―君》
エミアロ―ネの緊迫した声がする。
《これほどの亜空間を維持するには、かなりの魔力を要するはず。その上であんなゴ―レムを創るなんて、普通じゃ考えられない》
「考えられないって、じゃあどういうことなんです?」
《さっき、カユカちゃんが言ってたことよ》
《そうじゃ。空を見よ、来々世。あの門からこの空間に、邪神の力が流れてきておる。あの者は、まだ完全ではないにせよ、神の力を身に受けておるのじゃ》
「門?」
ア―サ―は空を見上げた。
勢いは弱まりつつあるものの、まだ体育館全体から暗い霧が立ち上り、空の赤黒い渦へと吸い込まれていく。
そしてその渦の回転が、徐々に徐々に速くなっている。
「あ、あそこから邪神の力が?」
「よくわかったな、その通りだっ!」
ふっ、とア―サ―の体全体に影が落ちた。
反射的にア―サ―が跳び退る、と、
グボォォン!
一瞬前までア―サ―がいた場所に、巨大な拳が突き刺さった。
「ふん、かわしたか。だが、」
校舎ゴ―レムの拳が引き抜かれる。
額にいる暴風リンが笑う。
「次はどうかな? お前の察した通り、今の俺は刻々と神に近づいている」
と言った暴風リンの右腕、肩口から拳の先までが突然、風に包まれた。大蛇のように巻きついて回転する強い風。竜巻だ。
暴風リンはその腕をア―サ―に向け、拳を握ってゆっくりと肘を引いた。
「白の女神よ。お前は陛下の魂を消滅させ、二度と転生させまいと考えているのだろうが……知っているな? 魂への攻撃は、強い魔力さえあれば誰にでも可能だ」
《! ら、来々世、逃げよ!》
珍しく、恐怖したカユカの叫びが響いた。
その声が次の言葉を紡ぐ前に、その恐怖の対象はア―サ―に襲いかかった!
「喰らって喰らわれるがいい、白の女神!」
暴風リンの拳がア―サ―に向かって突き出され、その巨大な腕から拳に巻きついていた大蛇が解き放たれた。大蛇のように見えていたその竜巻は、解き放たれると同時に、正に大蛇そのものの姿へと変化していく。
暴風によって創られた大蛇が疾風の速さで飛来、ア―サ―を餌食にせんと牙を剥く。
「くっ!」




