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頭上輪廻戦士アーサー  作者: 川口大介
第三章 善き心、屈するとき
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 ア―サ―の心にヒビが入った。細く鋭い傷口が、ア―サ―の精神に切り込まれる。

 それを狙い、広く深く切り広げるべく待ち構えていたのはもちろん、イルヴィアの後ろに立つ鏡メバンシ―だ。

「もらったああぁぁっ!」

 三つの目の視線が、精神を射抜く光の矢となって放たれ、ア―サ―に叩き込まれた。

「ぅ、ぐうっ!」

 びくびくっ、とア―サ―の体が二度三度、痙攣して……

《ア―サ―君っ!》

 そのまま、両膝をついた。そして、両手をついた。

 四つん這いの姿勢で、青白い顔で、涙を浮かべて、虚ろな目で。

「ぼ、僕は……僕は……っっ」

 完全にかかってしまった。

 鏡メバンシ―の二段催眠の一段目、どん底落ち込み状態だ。

「ふ~っ。手間かけさせてくれたわ」

 イルヴィアの横をすり抜けて、鏡メバンシ―が歩いてきた。

 泣きながらブツブツ言ってるア―サ―を見下ろして、言う。

「聞こえてるかしら? いるんでしょ、先代さん。名前は確か、エミアロ―ネだっけ」

《!》

「どうやらこの子にいろいろと助言を与えてたみたいだけど、残念ね。まあ、ただの前世の意識体じゃ、それぐらいしかできないでしょうけど」

 鏡メバンシ―は、ア―サ―の口ぶりからエミアロ―ネの存在を察していたらしい。

 片膝をついて、ア―サ―の顎を指でちょいと持ち上げて、まっすぐにア―サ―の顔を見る。

「これでこの子を殺せばあんたも消えるけど、そんなもったいないことはしないわよ。白の女神が転生直後で不完全覚醒、あらゆる術への耐性が大幅に低下……だなんて、この先何回転生しても巡り会えっこない、大チャンスだもんね」

 笑みを浮かべ、ア―サ―の顎を指先で弄んでいる鏡メバンシ―の目が、また光る。

 正真正銘最後のトドメ。ぱっくりと開いたア―サ―の心の傷に、深々と術を突き刺すのだ。

 二段目の、完全に相手を操ることのできる、自殺さえも命令できる術を。

「ふふふふ。白の女神を奴隷にした、なんて聞いたら陛下も大喜びね」

《! ア、ア―サ―君! 目を醒まして! ア―サ―君っ!》

「あ~あ、大慌てで大騒ぎしてるあんたの悲鳴が聞こえないのが、つくづく残念だわ。ねえ、エ・ミ・ア・ロ~・ネ・ちゃん♪」

《ア―サ―君っっ! 今、貴方がこいつの手に落ちたら、イルヴィアちゃんもウナちゃんも、》

「どうせ僕には……護れないから……」

《ア―サ―君っっっっ!》

 エミアロ―ネは必死に呼びかけるが、もうア―サ―の心には届かない。二段催眠の一段目を食らったア―サ―の心は、完全に自己嫌悪の牢獄に閉じ込められているのだ。

 傷ついたア―サ―の心。その傷口を更に裂いて広げて、鏡メバンシ―の催眠術が深く深く食い込んでいく。

「これで終わりよ、先代さん。もう愛も勇気も希望も、この子の心には届かない、響かない。力を与えられない……」

 ア―サ―の中から、白武術の力の源である【善き心】が失われていく。

 それと入れ替わりに様々な負の感情が、【悪しき心】が膨れ上がっていく。

「どうせ、僕がいくら戦っても、なんにも護れやしないんだ……やるだけムダなんだ……ふんっ、だ」

《しっかりしてア―サ―君! ア―サ―君っっ!》

 エミアロ―ネの声がア―サ―の心の中で虚しく響いた、その時。

 ア―サ―の心の中で、エミアロ―ネのものではない何者かの声がした。

 ア―サ―に呼びかけ続けるエミアロ―ネを諭すような声。

 ア―サ―の十二年数ヶ月に及ぶ人生の中で、最も感情が暗く黒くなった今、表に現れた者。現れることができるようになった者。

 昔から存在してはいたが、ア―サ―にもエミアロ―ネにも知られることのなかった者。

 その、声。

《…………じゃ》


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