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頭上輪廻戦士アーサー  作者: 川口大介
第三章 善き心、屈するとき
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 ――な、な、何がお姫様だっこだ。僕には、そんな資格なんて、ないんだ。

「僕は白馬には乗れないんだ……英雄にはなれないんだ……お姫様なんて、遥か遠くに仰ぎ見るものなんだ……」 

 ひたすらずんずんどんどん、ア―サ―は落ち込んでいく。もう一押しすれば、しゃがみ込んで膝抱えて泣き出しそう。

 そんなア―サ―を、エミアロ―ネが思いっきり語気を荒げて叱責した。

《ア―サ―君っ! 言っとくけどね、いくら背が高くても、お姫様を助けられなかったら英雄じゃないわよ!》

「……あっ」

 ア―サ―は、ぴくっとする。

「そ、それは確かにそう……だ、けど、あれ、そういえば、今……」

《貴方のお姫様が、今どういう状況なのか忘れてるでしょア―サ―君っ!》

 この時。虚像に身長のことを言われた時とは違うものが、ア―サ―の胸に刺さった。

 大きな剣がぐさっ、ではなく、小さな矢がぷすっ、と。

「ぼ、ぼ、僕のお姫様って、そ、そんなつもりは、だってイルヴィアは……あっ!」

 自分の言葉で、ア―サ―は我に帰った。

「そそそそ――だ! 今、イルヴィアが!」

《目、醒めた?》

 ふう、とエミアロ―ネが溜息をつく。

 だが虚像はまだ喋っている。

「やっぱりどうしても、背が低いと頭を触られたりして、子供扱いされて……」

「やかまし――――――――いっっ!」

 ア―サ―の、拳の一撃! 虚像は鏡もろとも粉々に砕け散った。

「あぁそうだよ! どうせ僕は子供だよ!」

 破片を踏みしめ、ア―サ―は拳を握る。

「だからこそ! まだまだ背は伸びる! きっと伸びる!」

《そうよア―サ―君、その意気! ほら、女の子より男の子の方が成長期が来るのは遅いっていうし。まだまだ大丈夫よっ》

 まさか自分の転生先で、こんな母親じみたセリフを吐くことになるとは思ってなかったエミアロ―ネ。だがここはこのまま持ち上げねばならない。

 この頼りない二代目の為に、そして世界の為に。

《身長の事なんかでうじうじ悩んでたりしたら、それこそ英雄じゃないわ。どんな時でも護るべき大切なもののために堂々と戦ってこそ、かっこいい英雄ってもの。解った?》

「はいっ、エミアロ―ネさん!」

 ア―サ―、元気復活。ようやく心身共に俯くのをやめて、まっすぐに前を向いた。

 目の前の鏡が砕けて視界が開けてみれば、鏡メバンシ―は最初から全く動かず、その場でじっとしている。

 真正面に五~六歩ほどの距離に立っている鏡メバンシ―をびしっと指して、ア―サ―は高らかに叫んだ。

「さあ、覚悟しろっ! もうお前の落ち込み催眠術なんか、絶対に通用しないぞ!」

「……残念でした。もう手遅れよ」

 鏡メバンシ―はニヤリと笑う。

「時間はかかったけど、ちゃんと見えたわ。あんたマジックミラ―って知ってる?」

 鏡メバンシ―が、何やら妙なことを言い出した。

「今あんたが叩き割ったのがそれよ。あんたには、鏡に映った自分の心の奥が見えてたでしょう? でも鏡の向こう側、つまりあたしにもそれが見えてたの。もっとも、映像そのものは違うけどね」

 どうやら説明してるようだが、ア―サ―にはよく解らない。

「? 何が見えてたって言うんだっ」

「だから、あんたの心の奥だってば。そこにいる、一番大きな存在を見たの」

 鏡メバンシ―は両手を後ろに回し、髪を掴んで一つに束ねて、持ち上げて見せた。

「こんな髪型が似合ってる、可愛い女の子よ。あんたと違って、歳相応以上に成長してるみたいね。悪いけど、同い年には見えないわ」

 ……イルヴィアだ。

「そ、それがどうしたっ?」

「ふふ。今のあんたの落ち込みの原因も、立ち直ったきっかけも、どっちもこの子絡みよね。で、あたし、さっき見たのよ。あんたを捜して、屋根に登ってた時に」

 鏡メバンシ―は後ろを振り向いた。大通りの向こうの方に、二段催眠の一段目を受けて落ち込み、泣いたり喚いたりしている人々がいる。

「あの子、いたわね。あそこに」

「!」

 エミアロ―ネが、

《ア―サ―君っ! イルヴィアちゃんが危ない!》

 と叫んだ時にはもう、ア―サ―は土煙を上げて猛然とダッシュしていた。

 だが、それより早く鏡メバンシ―が、

「砕いてあげるわ。あんたの一番大切なもの、愛と夢と希望の源を、粉々にね!」

 左足を後ろに引いて、爪先でトトン、と地面を叩く。すると地面から無数の鏡が生え、ア―サ―を幾重にも取り囲んだ。

 その全てに、ア―サ―が映っている。合わせ鏡で虚像が無数に分裂して、その虚像たちがまた、さっきと同じように喋り出して、

「成績は、人に誇れるほどじゃないし」

「スポ―ツなんかも、下から数えて何番目」

「毎年カゼをひくから、皆勤賞もなし」

「取りえといえば……掃除当番や給食当番を絶対サボらないこと、ぐらいかなぁ」

 さすがに、もうア―サ―はこんな戯言に耳を傾けたりはしない。

 なぜなら、イルヴィアが危ないからだっ!

「どけええええぇぇ――――――――っ!」

 叩き割って蹴り砕いて、自分の虚像をコナゴナにしながらア―サ―は突き進んでいく。だが壊しても壊しても、後から後から鏡は生えてくる。

 埒があかないと判断したア―サ―は地面を蹴ってジャンプ! 跳び越えようとするが、

「えっ?」

 ア―サ―の正面にあった鏡が、ア―サ―のジャンプと同じ高さまで瞬時に伸び、進路を塞いでしまった。

 すかさずア―サ―は叩き割ったが、それでジャンプの勢いは殺されてしまった。着地したのは跳んだところとほぼ同じ、結局ただの垂直跳びをしただけだ。

「くっ!」

《落ち着いてア―サ―君、これじゃ跳ぶだけ時間の無駄よ。走った方が速いわ》

「わ、わかってますっ!」

 仕方なくア―サ―は、次々出てくる鏡を両手両足で粉砕しまくりながら進んでいった。

『イルヴィア……イルヴィアっ!』


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