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頭上輪廻戦士アーサー  作者: 川口大介
第二章 出陣! 二代目女神様
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「は、はい」

 イルヴィアは大人しく下がった。あの伝説の、白の女神様の言うことだ。従うしかない。

 だがしかし。白の女神は金色の髪をしていたはず。肖像画から考えると、背ももっと高いように思える。そして、あの見事なプロポ―ションが……見事に、ない。

 目の前にいる少女は、身長と同様に腕も脚も腰も、全て子供サイズの子供デザインなのだ。特に胸なんか、どう見たって(学年で一、二を争っているサイズの)イルヴィアの方がある。

 やはり白の女神ではないような気がする。

「よ――――――――っし、決定!」

 ドでかい声が、校舎の方から聞こえた。

 それは一年五組の教室の窓、鈴なりの生徒たちの間からニョキッと突き出された、白い扇子のところから聞こえた。

 遠い異国の物らしい、白地に赤い丸印がついた扇子。これを常備し振り回すのは、「ホワイトワ―ズ中学名物男」の座を自他共に認めてる少年オデック。外見はク―ルな二枚目で中身はカ―ニバルな三枚目、通称オデッ君だ。

「あの子は、何だか白の女神にそっくりだが明らかに別人! とは言っても謎のドラゴン、おっと机ゴンか、の出現に合わせての登場から考えるとぉ~、」

 将来、世界を笑いでひっくり返すと宣言しているオデックの声は、大きくて張りがあって、時報の鐘の音よりもよく通る。ジョ―クや手品の研究と共に、日々怠らぬ発声練習の成果だ。

 なんとなく窓際の人垣が割れた。オデックは軽く一礼すると窓枠に片足を乗せ、ぬっと体を突き出して、

「おそらく、白の女神の生まれ変わりか何かであろうと思われる! よって、不詳このオデっ君が命名しよう! あの子はぁ……」

 ホワイトワ―ズ中学と、校庭を越えて小学校までが、静まり返ってオデックの言葉を待つ。

「そう、ズバリ! 【女神二号】だっ!」 


《……ぷっ》

『オデっ君……』

 小・中学の全校生徒の耳に突撃したオデックの声は、もちろんエミアロ―ネとア―サ―にも届いた。

 思わず力が抜けたア―サ―だったが、とりあえず今は、目の前に敵がいる。

 机ゴンが、ア―サ―を威圧するように見下ろしている。

「……愉快な名を授かったな、転生した白の女神よ」

「ま、まあね」

 机ゴンの言葉を軽く受けて気持ちを切り替え、ア―サ―はじりじりと間合いを測る。今、その身には白武術の達人としての技が染み込んでおり、また、前世での戦いの経験も本能的なレベルで体が覚えている。

 だから、ある程度は攻防が先読みできる。

『……来る!』

「喰らえぃ!」

 机ゴンが頭を下げる、と青空を切り裂く一条の雷が、頭の机に落ちる。間髪入れず、ア―サ―の頭上に黒水晶の机が降り注いだ。

 だが落雷の閃光に紛れたその一瞬の内に、ア―サ―は突進していた。下げられた机ゴンの頭、その首に抱きついて素早く反転、机ゴンに背を向けるようにしながらしゃがみ込んで、

「そぉぉれっ!」

 机ゴンの首を巻き込んでの、豪快な背負い投げ! 机ゴンの巨体がア―サ―を中心にして縦に一回転して、

「ぬおおう⁉」

 先程の、蹴り倒された時よりも遥かに大きな地響きと共に、背中から地面に激突!

 ア―サ―は手を放して立ち上がり、素早く後ずさる。激突のショックで息を詰まらせた机ゴンは、苦しそうにしながら体勢を戻し、ア―サ―の方を見た。

「お、おのれっ!」

 前後の校舎から興奮した生徒たちの歓声が響く。そんなものは無視してア―サ―を追おうとする机ゴン、だが丁度そこへ、


 ドゴォドゴォドゴォドゴゴゴゴォォ!


 ア―サ―を潰すために降らせた机の雨を、自分がしこたま浴びてしまった。今の背負い投げで、ア―サ―と机ゴンの立ち位置がぴったり入れ替わっていたのだ。

 ア―サ―は油断なく、机が届かない距離まで下がっている。空から机ゴンに向けての机の一斉射撃はすぐに止んだが、机ゴンは既に充分、ボコボコのアザだらけ。

「う、うぬぅおおおおぁぁっ!」

 机ゴンがまた吠えた。今度は先程までの前世の恨みだけではなく、たった今生まれたばかりの新鮮な怒りが入っている。

 その津波のような迫力に、歓声を上げていた小・中学校の生徒たちが飲み込まれ、黙り込んでしまった。

「おのれおのれおのれおのれっ! もう許さんっっ!」

 机ゴンは、大きく頭を振り上げてから振り下ろし、頭の机を地面に突き刺した。

 地面から何か来る、とア―サ―は判断したが、今度は一瞬遅かった。

 ア―サ―が回避行動をとるより早く、地面がア―サ―を持ち上げた。いや、地面ではなく、地面から盛り上がった大きな黒水晶の机が、だ。

「うわっ⁉」

 バランスを崩したア―サ―が机の上に尻餅をつく、と机が飛び上がった。まるで空に向かって落ちていく滝のように、どこまでもどこまでも上昇していく。

 ア―サ―は机の上で、まるで手術を受ける病人のように、真上からの猛烈な風圧に押さえつけられていた。机の上昇スピ―ドは凄まじく、校舎が見えなくなったと思ったらもう雲の中に突っ込んでいる。

 それでもまだまだ、机の上昇は止まらない。

《ア、ア―サ―君。これ、ちょっと、危ない》

「わ、わかって……ます、けど、んぐっ、」

 ア―サ―はじりじりと少しずつ、体をよじって机からの脱出を図る。腕も脚も胴も重くて思うように動かせないが、全く身動きがとれないというわけでもない。

 机の縁まであと少し、もう少し……が、雲を突き抜けたところで唐突に風圧が消えた。

「えっ?」

《! 危ない! 早く逃げてっ!》

 一瞬呆けてしまったア―サ―の視界を、机が塞いだ。背から机の感触が消えている。

 自分が寝させられていた机が、上に回り込んだのか、とア―サ―が理解した時にはもう、

「ぁぐっ!」

 落下してきた机に激突! さっきとは正反対、逆さになった机を抱きしめる形で大の字になって、上から机に押されて落ちていく。

 今度は空に向かって落ちる滝ではなく、本物の滝のように上から下へ、空から地面へ。

 机を押し付けられて机に押さえ込まれて全く身動きできないまま、ア―サ―は雲の上から雲を突き抜け、地面に向かってまっすぐ落ちていく。

「う……う、う、動けない……っ!」


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