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 翌日。金田は朝から桧原を迎えに家まで行っていた。今日も今日とて朝から猛暑。ぎらぎらの太陽が照りつける。しかしそんな暑さにも負けず朝からテンションの高い金田は鼻歌交じりに桧原宅のインターホンを押すのであった。


「……おはよ」


 と金田とは対象的にテンションの低い桧原が出てくる。


「おーおはよー! 今日も朝からあちーなー!」


「ほんと……なんでこんな暑いのにそんなテンション高いのよ」


「そりゃテンション上がんだろー。昨日から店の画像とか見ててよー、どんどんテンションあがってきたぜー! まーさすがに暑すぎっけどさー、暑いほうが負けじとテンション上がるしなー! だいたい夏休みなんだしテンション上げんなって方が無理あんだろー。補習だって終わったんだしようやく俺の夏休み開始だぜー!」


「あ、そう……あんたもこの気温に負けず劣らず暑苦しいわね」


「そっかー? 桧原はテンション低いなー」


「そりゃね。こんな暑さの中出かけるって考えただけで倒れそうだし。そもそも朝弱いし、暑いのも苦手だから」


「そっかー。そりゃわりーことしたなー」


「別に。暑さに慣れてないのもほぼ引きこもりのせいだし」


 桧原はそう言って日傘をさす。


「おー。桧原はお嬢様だなー」


「は? なにそれ。日傘くらい普通でしょ。てかないと倒れるし」


「大変だなーマジで。ほんと俺迎えきてよかったなー。一人で途中で倒れてたら大変だったろ」


「ほんと……あんた今日はコンタクトなんだ」


「あー、万全をきしてなー。メガネも持ってきてっけど。けどあれだなー。桧原のちゃんとした私服始めてみたけど結構意外だなー」


 金田はそう言って桧原の格好を見る。大きめの無地の白Tシャツに黒のスキニー、キャップにボディバッグというスポーティなものであった。


「は? なにそれ。ちゃんとしたって何よ」


「いやー私服なんて最初に見たのとか部屋着くらいだからよー。これが本気の桧原かーって」


「別に本気じゃないし。外行き用の服くらいはあるでしょ」


「そうだけどさー、全然オタクっぽくねーしフトーコーっぽくねーからなー。なんっつーのそういうの? スポーティ? キャップがイカスよなー」


「そりゃ服装と趣味は別だからね。こういうほうが動きやすいし」


「だなー。でもめっちゃ似合ってるわー。すげーいい感じ。なんか桧原っぽいわー」


「なにそれ。さっきは意外とかオタクっぽくないとか言ってたくせに」


「それは別だろー。なんかでもアーティストって感じだよなー。スニーカーもエアマックスじゃん。いいねー。バッチリ決まってるぜ。それに日傘はさすがに合わねーけどよー。キャップだけじゃやっぱダメなん? 日焼け?」


「というより暑いのほんと無理。あんた男子だから日傘とか使ったことないよね? 全然ちがうよほんと」


「マジで? じゃーちょっと貸してよ」


 金田は桧原から日傘を受け取りさしてみる。


「おー、なるほどなー! 日差し直接当たんねーだけで違うなー! 一瞬でこれだと時間なげーと全然違うんだろうなー!」


 そう言って日傘を桧原に返す。


「まーでも見てみっとその格好に日傘もありかもなー。逆にそういうファッションっつーの? アクセントっつうかさー。イカすイカす。でもそんだけ暑がりならハーパンのほうがいいんじゃね?」


「あんまり脚出したくないからね……」


「なるほどなー。そこは男の方が得かー。俺なんかバリバリ出してるしよー」


 と金田はハーフパンツからむき出しの脚を上げてみせる。


「ほんとね。そういうあんたは普通だよね、服装。金髪のくせに」


「関係あっかそれー? まー金ねーからよー、基本GUとかでしか買わねーからなー。バイトのこと考えてもよー、そっちでも使えるやつのほうがいいし。いちいち考えんのめんどくせーから同じのばっか買ってるしなー。無地だよ無地。服とかどうでもいいかんなー」


 金田はそう言って笑うのであった。



 二人は電車を乗り継ぎ新宿にやってくる。目的の画材屋「世界堂」。モナリザの旗が二人を出迎える。


「おー! ほんとでけーなー! これ全部文房具とかすげーなマジで!」


「文房具っていうか画材だけどね。同じだけど。とりあえずコミックのとこ直行する?」


「せっかくだから下から見てっかー。俺はそんな絵ちゃんと描かねーけど桧原は違うだろーし色々見てーだろ?」


「まあね。せっかくだし。まあコミック用品は二階だからすぐだけど」


「じゃー二階最後にして行ってみっかー」


 そう言い、二人は早速中を探検することとする。


 一通り見終え、二人は本来の目的地である二階にやってくる。


「いやーすげーあったなー。画材ってマジであんな色々あんだなー。見ただけじゃ使い方想像もつかねーよーなもんまでいっぱいさー。つーかたけーよなーマジで」


「ほんと。当たり前だけど絵描くのってすごいお金かかるよね」


「なー。桧原も欲しーのとか色々あったんじゃねーの?」


「そりゃね。せっかく来たんだし目の前で見てるから目移りするし。でもそんなお金ないし必要なものでもないから。でもこういうの見てると少しもったいないって思っちゃうかな」


「なにが?」


「全部デジタルでやってるから。デジタルなら全部あれ一つでできちゃうし。でもこうやって色々画材とか見てるとそういうのも使って色々やってみたいとか思っちゃうからさ」


「そうだなー。楽しそうだよなーマジで。図工の時間に色々使って好き勝手やるみたいによー」


「学校の使えるってほんとにいいよね。道具っていうのはさ、物理的にあって、用途で使い分けて、減ってって、だんだん手に馴染んでいって、とか、そういうのはすごく良さそうで。漫画だって昔はそうだったんだけどさ」


「じゃー桧原もやれば?」


「今更アナログ戻るのも大変でしょ。第一お金ないし」


「じゃー漫画家なって金稼いでやりゃいいじゃねーかー」


「簡単に言うけどねー……まあそれもいっか。そういう夢もってやるのも。まーやるにしても趣味だろうけど。道具も好きだけどああいうデジタルのガジェットも好きだしね。どっちもやって」


「ガジェットかー。知らねーけどなんかロボットっぽくてカッケーな!」


 そう言いヘラヘラ笑う金田であった。



 目的の二階のコミック用品コーナーを見て回る二人。金田はある種の「お上りさん」といった具合に感嘆の声を上げながら見て回る。そうして「これなに?」「何に使うのこれ?」「どうやって使うのこれ?」と子供の好奇心で桧原に質問を繰り返す。桧原もその度説明しつつ、知らないものはネットで調べ共に「へ~」と驚嘆するのであった。


「いやー、すげえな漫画……舐めてたわ。これは奥が深すぎるぜ……」


「ほんと。今ほどデジタルが広がってなかった頃は多分もっとたくさんあって売り場も広かったのかもね」


「そうだなー。トーンとかあれ全部見てるだけで一日終わらね? 昔の人っつうか今もだけどよ、あーいうの集めて『これここに使おー』とかやってんだろ? あんなよー、何に使うかわかんねーのまであってさー、でもそれだからこその表現ってのもあんだろうなー」


「ほんとね。トーンまではそこまで深く考えて読んでないもんね。濃淡っていうか色の表現っていうか、影になってるなーとかくらいで。よっぽど特徴的なのじゃないとよく見ようとしないし。トーンもさ、逆にデジタルだからこそなのかもしれないけど、どうしてもワンパターンになりがちなんだよね。無限に使えるからこそ使ったことあるやつばっかりになるし引き出し増えないし。でもさ、こうやってアナログでちゃんと物として持っといたらもったいないからこれ使おうって、活かせる場面探して積極的に使ってったりするのかもね」


「かもなー。けど珍しくてあんまねーやつとかだと逆にもったいなくて使わねーかもなー。使ったらなくなっちまうしよー」


「逆じゃない? 使わない限りはいつまでも引き出しにしまいっぱなしだけど、使って漫画にすれば何万って紙に刷られて存在が増えるしずっと残るわけで」


「あーそっかー。なるほどなー。使わねーと存在しねーのかー……ほんと漫画と一緒だなー」


「なにが?」


「自分が描かねーと漫画は存在しねーだろー? 描いても見せねーと存在しないのに近いしよー、見せて広げて増やしてってやらねーとさー。やっぱ俺もあの漫画ちゃんと存在させてーって思って今描いてるし賞とかも出そうとしてるからなー」


「そうね……たしかに同じかもね、漫画と」


「なー。でもあんな色々あんの見てっと使わねーけど欲しくなっちまうよなー。コレクター魂っていうかよー、ジュースのおまけとか意味もなく集める感じで。その前に使うもん必要なもんだよなー。ペンだよペン。ミリペン。さすがにここにばっか時間使ってらんねーし腹も減ってきたから用事済ましちまおうぜ」


 そうして二人はようやく本来の目的のミリペンのコーナーにやってくる。


「考えてみるとこれのためだけにわざわざ来たんだもんね……」


「そーでもねーだろ。おまけも本番みてーなもんじゃねーか。楽しかったしよー。これで帰るわけでもねーんだし、これのおかげでわざわざ遠出して色々見れんだからいいじゃねーか」


「確かにね……あんたのそういうポジティブシンキングみたいなのほんと見習わないとね」


「だろー? 得しかねーぜーマジで。桧原もバカになれよー」


「バカはやだ。留年したくないし」


「確かになー。桧原までバカだと俺も困るしよー。でよー、どれがそのミリペンっての?」


「このへん全部」


「はあ!? え、このへんのペン全部?」


「多分」


「え、なんでこんな種類あんの?」


「メーカーと太さ、あと一部色」


「マジかよー……どれ買えばいいの?」


「試し書きできるのはして確認するのが一番だけど。あとは値段見て。でもやっぱり日本のメーカーのがいいんじゃない? ネット見るとコピックとピグマが定番みたいだけど私も使ったことないから。こういういろんな太さがセットになってるほうがいいとは思うけど、実際使うかはわからないからね。わからないからこそあったほうがいいけど買って使わなかったらもったいないし」


「へー。まあ太さの使い分けとかはまだ全然わかんねーからなー。でも色々あったほうが楽しそうだからセットのやつの方がいいな!」


「理由が子供じゃん……まーそのほうがいいけどね実際。それに一応0.3と0.5は追加で買っといたほうがいいかもね。一番使う太さだろうから」


「なるほどねー。じゃあ試し書きしてよかったほうだな。けど思ったよりだいぶ安く収まったなー。せっかくきてこれしか使わねーってのもなんかもったいねー気もすっけど」


「でもミリペンなんてネットでも近くでも買えるしね。どれくらい使うかはわからないけど先々デジタルにするならそんなたくさん買っといても無駄になったらもったいないし。さすがに0.3と0.5二本あれば読み切り分は描けると思うけど」


「じゃあいっかー。いやーでもよー、ちゃんとこういう道具買うってのはやっぱテンション上がんなー! すげーやる気出るしやるぞーって思うしよ! ちゃんと使えるようになりてーって思うからなー」


「そうだ、あと修正液。ホワイト。間違ったとこ直すために。最悪デジタルでもいけるけど買っとかないと。ていうか初心者だし間違えまくってインク使うとかもあるか……やっぱ三本?」


「まー二本追加程度なら数百円だしいーんじゃねー? 俺の金だしよー。んじゃ描いててなんかよかったこっちにしよー」


「オッケーね? んじゃホワイトはこっちか。あと消しゴム、練り消し!」


 そうして二人は買い物を終え、無事本来の目的を果たし終えたのであった。



 その後二人は昼食をとり、予約しておいた好きな漫画の原画展に行き、好きなアニメの映画を見に行き、帰路につく。


「はー、楽しかったなー……なんかすげー充実だよなー」


「そうね……詰め込みすぎてさすがに疲れたかな」


「体力ねーなー。つっても元フトーコーじゃしゃーねーか。あんま外とか行かねーの?」


「行くわけないでしょバリバリインドア派なのに。しかもこんな暑い中」


「そうだなー。でもさ、夏は暑いけど得した気しね?」


「なにが?」


「だってよー、外見てみろよ」


 と金田は肩越しに電車の車窓の外に広がる景色を見る。沈みかけの夕日の日差しが川に反射しきらめいていた。


「あんだけ遊んでもよー、まだこんな明るいんだぜ? もうすぐ七時になんのにさー。なんか得した気しね?」


「……まあね」


「だよなー。マジ充実だったわー。この一週間分の夏休み取り戻したって感じだよなー。まー明日からまた毎日家にこもってやることやらねーとだけどよー」


「それ家ってどうせ私んちでしょ」


「まあなー。もちろん自分ちでもやるぜ? でもバイトの事とか考えても効率的にゃおまえんちが一番だからなー。でもさー、目標のためにやることやんのも大事だけど週一くらいはこうやってどっか行って遊ばねー? お前だってそのほうが健康的でいーじゃん」


「えー……くもりなら」


「ははっ! くもりかー。ねーなーそりゃ。俺はお前んちとかバイトで出歩くからいーけどよー、お前はやっぱこもりっぱじゃん。出かけるにしても買い物程度だろー? んじゃやっぱどっか行かねーと。取材だよ取材。色んなもん見てさー、色んな体験して。だろ?」


「……確かにそういうのも大事かもね」


「だろー? じゃあ決まりだなー! けどそんなことやってっと金もたまんねーなー。なるべく金かけねーで行けっとこ探すかー。定期の範囲内とかさー」


「暑い中外歩くのはマジ無理」


「慣れだろ慣れー。歩かねーといつまでたってもよえーままじゃん。桧原もよー、漫画家なんなら体力つけねーとなー。週刊連載なんて体力勝負だろ?」


「そうだけど、今の時点でそこまで考えるっていうのもね」


「欲しいときになかったら困んだろー。体力なんて日々の努力なんだしよー。あって困るもんじゃねーしなー。走ったらいーじゃん。夏休みなんか時間あんだし。朝から走って暑さと日差しに慣れてよー。そうすりゃそのうち漫画描いてても疲れなくなるぜー」


「かもね……やってみよっかな。でも体力つけるだけなら水泳のほうが断然いいし」


「水泳かー……俺泳げねーんだわ」


「え、マジ?」


「マジマジ。やっぱバカだからなのかねー。海もプールも好きだけどさー、まーじで泳ぐとかどうやっか全然わかんなかったんだよなー。桧原そんな泳げんの?」


「昔習ってたから」


「はー、そりゃバリバリだ。んじゃ海行っても俺は足までで桧原はイルカと一緒にスイムだなー」


「はは、なにそれ。どうせなら足つく限り腰まで入ればいいじゃん」


「いやー海舐めるなよーお前ー。海でカナヅチが腰まで浸かったらなんかあった時マジで一瞬で持ってかれるぜー。プールならいいけどよー」


「そりゃ大変だ。でも私も海で泳ぐとかないし」


「なんでー? 泳げるやつからしたら楽しくねー?」


「かもしれないけど水着とか着たくないし。着るというか人前でだけど」


「あー、そうなー。そういうのあるかー。んじゃ服着て海眺めるだけだなー。砂浜で遊んで。でもそれでもおもしれーからいーかー! ていうかそれならプールだって無理じゃん」


「うん、まあ、女性だけ入れる時間とか場所あればいいんだけど」


「あんじゃねー今は? ちょっとお高そうだけどよー。でも安全第一だもんなー。俺にとっちゃプールは全部安全ねーけどよー」


「はは、ほんと。けど泳げないのはあまりにもイメージ通りすぎて逆になー」


「なんだよ逆ってー。別にキャラ付けじゃねーぞー? ガキの頃なんか本気で悩んだんだからよー。だからお前が川とか落ちても助けらんねーからマジ気をつけろよー」


「逆にこっちが助ける方ってことね」


「そーそー。いつも通りだな」


「え?」


「いつもこっちばっか桧原に助けられてばっかだからよー。絵とか勉強とか、そもそもお前んちそのものが助けだしなー。今日もマジ助かったぜ全部。世界堂に画材はもちろんだけどよー、昼飯もあんな高くなくていいとこ見つけて。あの原画展だってずっと行きたかったの前日のうちに俺の分まで予約取ってくれてさー。映画もそうだったしマジ全部やってもらってばっかだったよなー。そもそもそういうの提案してきたのも全部お前だしよー」


「それは、まあ、そもそも私が行きたかったとこ全部詰め込んだだけだし? 自分が行きたいってやってただけだから」


「それ全部俺も行きてーんだからほんと趣味合うよなー。いやーでも趣味合うやつとの遊びってこんなんなんだなー。こういうの初めてだったからすげー楽しかったわー」


「そうなの? あんたなんか散々友達と遊び言ってると思ってたけど」


「まーそうだけどよー、言ってもカラオケだのファミレスだのゲーセンだの誰かんちでたむろすとかだからよー。アニメ映画なんてマージで無理だかんなー。そもそも映画は騒げねーから行かねーってやつらだし。原画展とかもよー、桧原と一緒じゃなかったらぜってー行かなかっただろうなー。マジでやばかったよなーあれ!? マジ感謝だでさー。ほんとよー、もうこのあとずっと語り尽くしてーくらいでー。あれ原画生で見っと修正の跡まで浮き出て見えてよー」


「あー、ああいうの印刷じゃ絶対わかんないから感動だし見に来てよかったってすごく思うポイントだよね」


 二人はそうして、電車が着くまで語り合うのであった。



 二人は乗り換えのため一度電車を降り、別のホームへと立つ。そうして次の電車を待っていると、


「あれー? 金田じゃーん!」


 と声をかけてきたのは金田の友人レンであった。


「おー、レンじゃねーかー」


「おーっす何してんの、って、桧原さん……?」


 とレンは金田の隣の桧原に気づき目を丸くする。


「えー!? なに!? 金田お前ついに彼女できたの!?」


 と他の友人もニヤけながら話しかけてくる。


「いやー。友達だけどー?」


「とかいってよー! やべ、すげーかわいいじゃん! やるなーお前w」


「お前最近付き合いわりーとか聞いてたけどそういうことかよーw」


「え、てかそいつあれ? 例の不登校とかいうやつ?」


 などと言ってくるのは金田の顔なじみではあるが「友人」ほどの距離ではなく別のグループの男子たち。


「あのなー、お前らそういうこと言うんじゃねーっつうの」


「は? なにキレてんの? ウケんだけどw」


「お前そういうキャラじゃねーじゃんw」


「キャラとかじゃなくて常識だろー」


「常識ってw バカのくせに常識とかわかってたのかよおw」


「バカだからこそ常識くらいは気をつけてんだよー」


「マジウケんだけどw どこ行ってたんだよデート」


「だからなー、そういうんじゃねーっつうの。中学生かよマジで。買い物とか行ってただけだかんなー。てかお前らが一緒の方が珍しいんだけど」


「お前が最近付き合いわりーからだろー? てか付き合い始めたなら言えよなーマジで。したらこっちだって遠慮すんのによー」


 と友人の一人が言う。


「だからなー、めんどくせー。とにかくよー、ダチと遊ぶくれー普通だろうが。なんで女子だとんな騒ぐんだよおめーらは」


「だってユウカとかとは全然違うじゃん。え、桧原さんこいつのどこが良かったの? こいつマジでやべーバカだけどw」


「……いや、というかそういうのじゃないし」


「冷たw なに、コミュ障? マジで全然金田とタイプ違うじゃん! ほんとどうやってものにしたんだよてめー。てかこんな美人で不登校とかもったいなくね? コミュ障なのもさ」


「やっぱ女は愛嬌だよなー」


「お前らもそのへんにしとけよ。せっかく二人なんだからあんま邪魔すんなよな」


 とレンが愛想笑いを浮かべながら制止する。


「そうだなー。お前もたまには男同士で遊ぼーぜ。彼女大事なのもわかっけどさー。付き合いわりーってマジで不評だぞー?」


「バーカこいつは夏休み中に童貞捨てようって必死なんだよw 察してやれよ」


「あーお前だけだもんなこん中で。まーお硬そうだけどがんばれよー!」


 そう言って背を向け騒ぎながら歩いていく。その中でレンだけ少し後を振り返り、


「悪かったな金田ほんと。桧原さんも。まー色々あんのかもしんないけどたまには遊ぼうぜ。あれならあいつらは呼ばねーし」


「あー。まーこっちもわりーな。夏休みなのに全然付き合わねーでよー。こっちも色々あっからさ」

「そうだな。じゃ、また今度な」


 レンはそれだけ言い、小走りに友人らの後を追う。


「はー……ほんとわりーな桧原。大丈夫、じゃねーもんなー。どっか座って休んどく?」


「……いや、大丈夫。すぐ電車来るでしょ。まあ座りたいけど別に座れなくてもいいし」


「そっか。ほんと悪かったわ」


「あんたが謝ることじゃないでしょ。全部あの人達がしてることなんだし」


「そうだけどよー、俺と一緒いたせいで桧原まで絡まれたわけだかんなー。あいつらもよー、まーバカだしあーいう絡み方しかできねーみてーだしよー。桧原もなー、嫌だったろ。ほんとわりーな」


「……別に。いちいちあんなの気にしてどうこうされてるのもバカらしいし、そんな他人に、ああいうのに感情支配されてられないし。それに謝らないでよ。あんたは何もしてないし何も悪くないし、こっちのことかばってくれてたんだから」


「いやー全然だろー。もっとなんかできただろうしさー。まー今後はなるべくないようにすっからさー」


「金田がどうこうすることじゃないでしょ。あっちが変わらなきゃどこだろうと誰が相手だろうとああなんだろうし。私だって、ほんとはああいうのも笑ってあしらえるくらいはできるようにならないといけないんだろうし」


「桧原がー? はは、それは見てみてーなー。面白そうだわ」


「なにそれ。面白がるもんでもないと思うけど。でもまあ、私も強くならないとだし」


「強くかー。強いのかもわからねーけどなー。あーいうのまともに相手してるっつうのもよー。俺なんかバカだから全部ヘラヘラ笑ってテキトーに流してるだけだかんなー。まー一人ならそれでもいいけど誰かがいんならそういうわけにもいかねーしよー」


「そう……あんたさ、言っちゃなんだけど、なんでああいうのと友達やってるの?」


「いやー? 半分くれーは別に友達ってわけでもねーからなー。ほとんど遊ばねーし一応顔なじみっつうか。ダチのダチつうかさー。まー俺もあんま好きじゃねーからなー。なんっつうかああいう感じっつうかよー、とにかく人のことどうこう言ってばっかだしなー。そんなん楽しいかーって思うし」


「そう……あんたってさ、なんかほんとこう、例外だよね。意外じゃないけど、全然違うっていうか」


「そうかー? 何がよ」


「いや、ああいう人たちとっていうか、印象とはだいぶ違うっていうか……あんたもさ、もしかして結構無理してんじゃないの?」


「無理って?」


「なんていうか、ああいう人たちと付き合ったり、その、バカなフリしてるっていうか」


「そうだなー……まー別に無理してるつもりはねーけどよー、もう慣れちまったしなー。色々考えんのもめんどくせーしよー。バカなのも事実だしなー。まーでも、たまに疲れるわなーやっぱ。まーとにかくさー、あんなやつらの言うことは気にすんなよ。気にしてねーならよかったけどさー、マジでどうでもいいかんなー。そもそも桧原だってもう不登校じゃねーし、お前らみたいなのとそんな話したくねーだろっつうなー。人それぞれなんだからほっとけって感じだよなー」


「そうね……まあでも、ありがとう。かばってっていうか、ちゃんとこっちに、立ってくれて」


「当然だろー? 俺はいつだってダチの味方だぜー。それに自分の気分のいい方の味方だしよー。でもまー桧原も無理すんなよ。色々あって大変だったろうからなー」


「いや、別にいいわよ。そんな気にしてないし。それにあんたみたいな明るいバカがいたほうが気も紛れるしね。一緒に好きなこと話してさ。そうやって忘れたほうが、全然」


「そっかー? じゃあいっぱい喋っかー! やっぱ好きなもん話してなんぼだもんなー! あのよー、映画のやつだけどさー……」


 二人はそうして電車に乗った後も、降りた後も今日の思い出を話し続けるのであった。



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