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 桧原の家についた頃にはすっかり暗くなっていた。まるでデジャヴだな、と金田は思う。そうして頭の中で桧原に「あんたデジャヴなんて知ってんだ」とつっこまれるが、笑って「だって漫画とかにもよく出てくんじゃん」と返す。そうして笑い、インターホンを押した。


 再び戻ってきた、桧原の部屋の前。金田はノックし、「俺だぜー!」といつものように、いつもより呑気に、元気に声をかけ扉を開けた。


 中は暗い。金田は手探りで電気をつける。そうしてまたベッドの上で布団が丸くなっているのに気づく。


「はっはー。またデジャヴだぜ」


 金田はそう言い、ベッドの前に座る。


「お前今さー、『あんたデジャヴなんて知ってんだ』って思っただろ?」


 返事はない。


「寝てんの? まー寝てても起こすけどよ。なんにしたってさ、これ読んだら寝てらんねーぜ!」


 金田はそう言い、カバンから漫画の原稿を取り出す。


「読めよ。こればっかりはさ、何がなんでもぜってー読んでもらうぜ。マジの傑作だからな。冗談抜きでよ、俺の最高傑作だ。多分俺はこの先描き続けてもこれ以上のもんは描けねーよ。ほんとこれが描けたから今すぐ死んでもいーくらいの気持ちだけどよー、でもまだ死ぬわけにはいかねーからなー。まだ桧原に読ませてねーし、一緒読んでねーし、それで感想言い合ってねーし、一緒に笑い合ってねーからさー。それにその後だってよ、俺はこれからもお前と一緒に生きてくんだし。したらやっぱまだまだ全然死ねねーなー。逆によ、桧原、お前がこれを読まねーっつーなら、俺は死ぬぜ。んなの死ぬのと一緒だからな」


 金田のその言葉に、桧原はピクリと反省する。


「あー、つーかなにいきなり三日ぶりに突然来て漫画読めって話だよなー。いやーよ、お前のこと考えてさ、でもやっぱ俺バカだから答えわかんねーし。でもさ、漫画だと思ったんだよ。漫画ならちゃんと伝えられるし、描けるって。ちゃんとお前の共有して繋がれるってな。俺とお前が会ったのもよ、話したのも、仲良くなったのも、一緒に色々やったのも、全部漫画じゃねーか。漫画から始まってんじゃねーか。だったらよ、これしかねーだろ。俺はさ、本気で信じてんだよ。本気で信じて描いたんだよ。漫画は世界を変えられるって。俺の描いた漫画で、桧原の心を動かせるって。マジで信じて、描いたんだよ。でもそういうのだってさ、全部桧原が俺に教えてくれたんじゃねーか。桧原が、漫画が、桧原が描いた漫画とか、描くその姿勢とかがさ。だからこの漫画は、俺一人で描いたもんじゃねーよ。お前も一緒だよ。お前だけじゃねー。てかお前あの読み切り、『俺バカだからよくわかんないんだけどさ』読んだ? とにかくそれもさ、あれのおかげでもあるし……バトンだよな。全部漫画っていうバトンを、もらってもらって、それでここにいんだよ。漫画描いてんだよ。その漫画が描けたんだよ。色んな漫画からもらったバトンでさ。俺だってさ、お前だってそうだろ。色んなバトンもらってきて、だから漫画描いてて……そのゴールだよ。一つのゴール。俺とお前の、二人の、一緒の、そういう漫画の、スタートでゴールだ。だから読めよ。最高だから。全部さ、ほんとに全部、わかると思うから。


 だってこれはさ、俺が桧原に読ませるためだけに描いた漫画なんだから」


 桧原は、顔を上げた。その顔色は三日前よりさらに悪くなっている。ずっと寝ていたのだろう。それでも眠れないせいか、心労か、隈が出来ている。


「……そこまで言うなら、最後に、読んであげる……」


「おう、あんがとな! ほんとうよ、桧原のそういう優しさに、俺はずっと助けられてきたから」


「……優しさでもなんでもないでしょ。ただしょうがないだけだし、これが最後だからっていう、最終通告で」


 桧原はそう言い、紙を受け取る。原稿の束。その表紙。


『バカが吠える』


 タイトル。タイトルにしてはあまりにも直球で暑苦しく古臭いもの。しかしともかく、桧原はその先を読む。読んでいく。読み進めていく。ゆっくりと。けれどもそのページをめくる手は止まらない。ページの上を動く視線は、止まらない。次第に桧原の目元には涙が滲んでくる。押し殺したような嗚咽が漏れてくる。そうしてページを閉じ終え、うつむいた。


 それは、有り体に言えば、ただ男の子が女の子を必死に助けようとする、そういう漫画だった。


「――なんであんたは、なんであんたはこうなのよ……」


「それは俺がバカだからだろ」


 金田はそう言い、へらっと笑う。


「俺がバカでよー、軽薄で、でも友達は一番大事だし、桧原のことすげー大事に思ってる人間だからじゃねー?」


「だからって、こんな漫画……こんな、あまりにもでしょ……はは、ほんと、ほんとにさ……」


 桧原はそう言い、顔を上げた。


「あんたバカじゃないの?」


 その涙がきらめく顔には、輝くような笑顔があった。


「バカでしょほんと……こんなのたった三日で描いてきて……これでさ、これ読めば、私が外に出るようになるとか思ったわけ?」


「ああ」


「私がこれ読めば、私の自己嫌悪とか、どうしようもない性格とか、それがなくなるって、考えたりもしなくなるって、そう思ったわけ?」


「おー」


「……これを読めば、私があんたのこと受け入れられるって……また元に戻れるって、普通に前に戻って、また何事もなかったかのように、二人で、仲良くできるって、そう思ったわけ?」


「おうよ。だから描いたんだよ、だから描けたんだよ。心底信じてんだよ俺は。俺の、俺たちのこの漫画で、世界は変えられるってな」


「……ほんと、ばっかみたい」


 桧原はそう言い、涙を流したまま笑う。


「ほんと、こんなさ、こんな、漫画で、漫画なんかで、私のこと、どうこうして、知った気になって、助けようだなんてして……こんな漫画の中で、漫画の、みんなや、みんなが、私で、あんたで……こんな必死に、必死に思ってて……私のこと、私なんかのこと……」


 桧原はそう言い、泣きじゃくる。


「私は、そんな人間じゃないのに、あんたにそんな思ってもらう、そんな資格ないのに、私が裏切って、私が勝手に一人で拒絶して、あんたに酷いこと言って、傷つけて、それなのに……なんであんたは、こんな私を、助けてくれようとすんのよ……」


「……俺バカだけどよ、それもはっきりわかんぜ。そりゃ愛だろ愛!」


 金田はそう言い、ビシッと親指を立てて笑っていう。


「……は?」


「愛に決まってんじゃねーか。子供もが塞ぎ込んでる時にさ、親が温かいスープとか出してくれるのなんて、そりゃ愛だろ? 愛じゃねーか。友達をよ、自分の大事なやつを、ほんとに好きなやつをさ、死ぬ気で助けようって。ぜってー支えになってやろうって、一緒にいるぞって、そういうのはよ。俺にとっちゃ当たり前だけど、でも全部愛じゃねーか。いつだって助けになりてーじゃねーか。力になりてーじゃん。だって大事な友だちなんだしよ。それが俺のふつーで常識で、夢で理想で愛なんだよ。それが俺だしよ、それがなりたい俺だし、俺のしたいことなんだよ。俺がそうしたいってだけなんだよ。だからお前がどーとかは全部関係あるわけねーじゃん。桧原がなんだろうと桧原だろ? 俺の大事な友だちで、大好きな仲間でさ。そこに理由はいらねーだろ。


 愛だぜ桧原。愛。俺は桧原を愛してっかんな。だから当然なんだよ全部」


 金田はそう言いハッと笑った。


「とにかくよー、俺が一番言いたいことはなー、お前は一人じゃねーってことだな。お前のよ、その、嫉妬だの自己嫌悪だの、なんかまー色々あるんだろし、それは多分さ、今後も簡単にはなくなんねーだろ。少しずつさ、努力してって、なりたい人間になろうって、そうやってって少しずつは変わるかもしんねーけど、でも時間はかかっかもしんねーしな。でもそれがお前って人間なわけだろ? したらそれとうまいこと付き合って時間かけて変えてくしかねーじゃねーか。お前が変わりたいっていうんならよ。それにこの先も漫画描いてくなら、どうしたってそういうもんは残ると思うしな。それはそれでしょーがねーし、そういうもんじゃねーの?


 大事なのはよ、お前は一人じゃねーってことだろ。全部一人で向き合って一人で抱えて一人で変えてくってわけじゃねーだろ。俺がいんじゃんか。俺も一緒だろ。だからよー、一緒に変わってこーぜ。全部一人でやるんじゃねーよ。一緒だよ。全部分け合おーぜ。俺はそーしてーしよ。だからまあ、全部ばっちこいだぜ! お前が自分が嫌とか俺といてつれーとかいってもよ、それ全部半分は俺も背負うからな! 半分なら軽いだろ。なんとかなりそーだって思わねー? お前が自分嫌う分まで俺が好きでいっからよー。なら大丈夫そうだと思わねー?


 桧原よー、一緒に乗り越えよーぜ。俺にも背負わせてくれよ。俺がしてーからさ、頼んでんだよ。考えてみろよ。一緒のほうがいい人間になれそうじゃね? 自分が思う自分になれそうじゃね? おもしれー漫画もさ、描けそうじゃね?」


「……あんたは、ほんとに、私なんかを背負ってくれるの?」


「おー、もちろんだぜ。俺がそうしてーかんな。それによー、俺案外力あんだぜ? 試してみっか?」


 金田はそう言い、桧原に背中を向けしゃがむ。


「ほら、乗れよ。ちゃんと背負えっからさ」


「……いや、そういうことじゃ」


「そーいうことなんだよ。全部一緒だろ。ほら、おぶされって」


 桧原は、戸惑いつつも金田の背に体を預ける。


「よっと! はは、桧原かりーな!」


 金田は立ち上がってそう言った。


「……そりゃね、体は」


「おーし、じゃあこのまま外行くか!」


「は?」


「お前何日も外出てねーんだろ? ちょっと外の空気吸いに行こーぜ」


「え、いや、ちょっと」


 桧原の抗議など聞かず、金田は桧原を背負ったまま部屋の外に出る。


「いや、ちょ、おろしてって!」


「いーからいーから。俺の決意表明でもあんだからよ。お前背負って行くぜー!」


 金田はそう言い、階段を降りる。外に出る。十一月の夜が、寒さが広がっていた。


「ちょっと、ほんとおろしてって! 恥ずかしい!」


「だーいじょぶだって人なんていねーし! おら行くぞー!」


 金田はそう言って走る。揺れる。振動が伝わる。桧原は、振り落とされないようにぎゅっと金田の背中にしがみつく他なかった。


「はは! どーだよ久々の外は! 空気いーだろー!」


「わかった、わかったからおろしてよ! 自分で歩けるし!」


「そうかー? まー俺も疲れてきたしなー」


 金田はそう言い、その場に桧原を下ろす。


「じゃあ次交代すっか?」


「……無理」


「だよなー。はは……止まるとケッコーさみーな。ていうか桧原部屋着のままだったな。わりー。さみーよな」


 と金田は上着を脱いで桧原に差し出す。


「いや、あんたが寒いでしょ」


「まーそーだけどよー、お前知らねーの? バカは風邪ひかねーんだぜ!」


 金田はそう言い、ハハッと笑った。


「……ほんとバカね」


「おー。でもさすがにさみーからなんかあったけーもんでも飲みてーな。お、丁度自販機!」


 金田はそう言い、自販機まで駆ける。


「あったけーのなー……あ、財布忘れたわ……急いでたかんなー。桧原金ある?」


「あるわけないでしょ」


「だよなー。ポケットん中入ってねーかな……おぉ! 小銭だけあったぜ! 頼む足りてくれよー……桧原、そっちの俺の上着にも入ってねえ?」


「……百円一枚」


「おっしゃあ! ギリギリ一人分! しゃーねーから分け合って飲むか」


 金田はそう言い、温かい缶のお茶のボタンを押して取り出す。


「ほら桧原。持ってるだけで暖まんだろ」


「そうね……ありがと」


「いいって。でも俺の分も残しといてくれよなー」


 金田はそう言って笑い、前を見る。


「あれ? 暗いからわかんなかったけどここ公園じゃん。懐かしいなー。覚えてっかー? 初めて会った日よー、ここで一緒にチャンプ読んだよなー」


「……覚えてるに決まってんでしょ」


 ――バカで、底抜けに明るくて、やかましいあんたが、いきなり私の前に現れた日なんだから。


「ちょうどいいわー。ちょっと座ってくかー」


 金田はそう言い、公園に向かう。夜の公園に人影はない。夏ならともあれ、十一月の夜は寒く公園に居着く人間もいない。二人は、あの夏の夕に座ったベンチに腰を下ろした。


「はー、温まんなー……やっぱ内蔵から温めっと違うよなー」


「そうね……ごめんね、上着」


「いいって。走れば温まっかんなー。俺よりそっちのほうが寒いの慣れてねーだろ。でよー、どうだった? あの漫画。まだちゃんと感想聞いてねーからさー」


「……面白かった。すごく」


「だよなー! ほんと、やべーよなーあれ! さすがによー、俺天才なんじゃねーかとか思っちまったよなー。まーもっかいあれ描けとか言われても無理だけどよー。まーでも別にいいわ。あれはさ、桧原に読ませるためだけに描いた漫画だからな」


「……そういうのってさ、そういうのって、ほんと……はは……なんかこう、ありえないよね、すごく。なんていうかさ……」


「かもなー。でもよー、漫画ってそんなんだっていいし、そもそもどんな漫画も最初は誰か一人のためだけに描いてるようなもんじゃねーの? 自分のためにさ。自分が読むために。それがよー、今回は桧原だった、というより俺と桧原の二人のためだったってだけで。漫画はよー、そういうとこもいいよなー。なんでもいーっつうか、漫画でさえありゃいいっつうかよー」


 金田はそう言って笑う。


「でよー、まーそのなんだ……桧原さ、俺と仲直りしてくれる?」


「……仲直りって、そういうもんじゃないでしょ」


「そうかー? まあケンカっつうか、んー……確かにケンカとは少し違う気はすっけどよー。でもさ、とにかくよー、また俺と、これからも友達でいてくんねーかな。もっかいさ、一緒にガッコー行って漫画のこと話して漫画描いてよー、それで笑ってって。そういさ、これまでみてーにやろうぜ」


 金田の言葉に、桧原はうつむく。


「……正直に言うけど、私は、怖かったの」


「何が?」


「あんたのことを、嫌いになるのが」


 桧原はそう言って、一つ息をついた。


「色々、色々あったけど、色々怖かったし、嫌だったけど、でも、一番は、あんたのことを嫌いになりそうな、そういう自分がいて、それが一番怖くて……あんたは何も悪くないのに、私が全部悪いのに……わた、私は、ほんとはあんたのことが好きなのに……すごく、すごく好きなのに……ッ! それなのに、自分が幼稚で、クソガキで、甘えてて、自分のことしか考えてなくて、醜いから……そのせいで、ほんとに、好きなのに、なのに、私がバカだから、あんたのことまで嫌いになりそうで、それが、ほんとに怖くて……」


 桧原はそう言い、顔を手で覆い嗚咽を漏らす。


「――でも、やっぱり、それ以上に、あんたに嫌われるのが、怖かった……あんたに見放されるのが、嫌われるのが怖くて、私がどんな人間か、それを知られて、愛想尽かされるのが怖くて……あんたにまで、あんたにまで受け入れてもらえなかったら、私はもう、ほんとに一人で……好きなのに、好きな人に否定されたら、そしたらもう、私なんか……だったら、そんなことになるくらいなら、自分の方で全部壊して、なかったことにしたほうが、自分から拒絶したほうが、まだマシで、傷つくこともないから……ほんとに、自分のことしか考えてないから、私は……そういう、卑怯な人間だから……」


 二人の間に、再び静寂が訪れた。


「――まー……ほんとあれだけどよ、俺やっぱバカだからさ、桧原がそんないっぱい必死に話してくれてもやっぱわかんねーことはわかんねーし、それはほんとに申し訳ねーんだけどよ。でも、わかることはわかるぜ。桧原が色々考えてて、悩んでて、でまー、俺みたいなバカで単純なやつとは違うっていうこととさ。それになにより一番はよ、俺も嬉しーぜ? 桧原が俺のこと好きでいてくれて。それはマジで嬉しかったからさ。嫌われてなくてよー。でもよ、だったらさ、大丈夫じゃねえか全部。お互い好きなんだからよ。だったらなんも悩まねーでまた一緒にやってこーぜ! 全部元どーりだろ! ほら! 仲直りだ! 桧原もそれでいーよな?」


 金田はそう言い、手を差し出した。桧原は、顔をあげる。涙で濡れた目元。赤くなった瞳。桧原は、差し出された手を見つめ、涙を拭き――ふっと笑った。


「うん」


 桧原はそう言い、金田の手をとった。


「……私、あんたのことが好き」


「おー。俺もだぜー」


「……まあ、薄々気づいてたっていうか、あんたバカだし、でもさすがにそこまでバカじゃないとは思ってたけど、でもほんとになんもわかってなさそうだから言っとくけど――これ告白だからね? 私の、私みたいな陰キャでインドアで元不登校コミュ障の一世一代の告白」


「おー? ……おぉ……」


「……マジでわかってない? ほんと、正直自分で認めるのも言うのもキツいんだけどさ、多分あんたが言ってる好きと私が言ってる好きは違くて、私が言ってるのは、私が、友達とかじゃなく、あんたのことを、その……異性として、好きで、それでずっと一緒にいたいっていう、そういう好きで……とにかく! そういう好きなの! そういうふうに好きだって言ってんの! ここまで言えばバカのあんたでもわかるでしょ!?」


「おぉ……え、それってあれ? 告白ってやつ?」


「だからそう言ってんじゃん!」


「……え、桧原俺のこと好きなの?」


「だから何度もそう言ってんでしょ!」


「あー、そういうかー……まー、それもまー、そりゃ嬉しいけどよー……俺マジでバカだからよー、そーいう恋愛とかどうこうってのほんとわかんねーからさー……ていうか、えー!? え、俺これどうすりゃいいの!?」


「知るわけないじゃん! 自分で考えてよ!」


「おー、そりゃそうだよなー……あー、その、まーあれだけどよー……桧原的にはその、その好きっていうのは付き合うとか、彼氏彼女とか、そういうやつってこと?」


「……正直、友達とそこの間に境界があるかはわからないけど……とにかく、私にとってはあんたは特別で、できるものならその、あんたにとっても、私は特別であってほしいというか……」


「そっか……え、でもさ、それってあれ? チューとかするってこと?」


「チューってあんた、マジで小学生なの?」


「いやーだってよー、知らねーけどそーいうもんなんじゃねーの?」


「そうだろうけどさ……でも、私は別にそんなのなくてもいいっていうか、そういうのなくたって、私は、私たちは大丈夫だと思うし……それよりあんたはどうなの!? あんたの気持ち聞いてないんだけど!?」


「いやー、そうだけどよー。俺やっぱバカだしガキだかんなー。そういう好きとか彼女とか恋人とか正直よくわかんねーしよー。でも桧原のことは好きだし、ずっと一緒いてーかんなー……そーいうと恋人とかより家族とかのほうがピンとくんだよなー……結婚?」


「は? ――はあ!? 結婚ってあんた、バカじゃないの!?」


「バカなんだってマジで。いやでもよ、そりゃ今すぐとかじゃなくてさ、まー結婚を前提にした付き合いっつーの? 人生のパートナーでしょ。パートナーなー。そっちのほうがしっくり来るわ。それより戦友なんだけどよ。漫画の、人生の戦友。どっちにしたってずっと一緒に生きてくってとこは一緒じゃね?」


「……まあ確かに、そういうほうが……さすがに私も、自分が彼女とか、あんたが彼氏とか、そういうのはあまりにもなんかこう、ゾワゾワするし」


「ハハハ! 毛虫かよー。あー、まーでもさ、結局今までとそんなたいして変わんねーってことだろ? 一緒にいてよー、しゃべって、遊んで、どっか行って。んで一緒に漫画描く。これからもそうやっていこーぜーってだけの話で」


「……ま、そうかもね。でも、私としてはそれだけじゃなくてあんたが絶対他の人と付き合わないとか他の人のこと好きにならないとかも重要なんだけど」


「あー、そういうー……俺も恋とかしたことねーかんなー。でもこの先いきなり一目惚れで電撃的な恋に落ちるとかもあんのかもしんねーなー」


「あんたねぇ……普通そういうこと言う?」


「いやーでもよ! だとしても桧原より好きになることなんてぜってーありえねーって!」


「……あんたね、ほんと、ほんとよくそういうこと言えるよね……」


 桧原はそう言い、笑い、笑い、吹き出した。


「ほんと、アハハ! ほんとあんたってさ、ほんと、バカだよね!」


 顔を上げたそこには、泣くほどおかしい満面の笑みだけがあった。


「おうよ! バカだぜ俺は!」


 金田はそう言い、誇らしげにピースして笑うのであった。




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