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月末。発売された『チャンプ』本誌に、その名前は載っていた。「金田正太郎」の文字。その漫画のタイトル。連名なのだからもちろん「ひのき香」の名前も。けれども、それは桧原の漫画ではない。自分の漫画ではない。確かに手伝ったが、一部を描いたが、けれども自分が描いた漫画ではない。
一応連絡はあった。といっても電話ではない。最終候補まであと一歩。そういう「賞」と名のつかない賞もどき。賞金一万はありがたかったが、特別担当がつくわけでもない。今後も投稿をお待ちしております。そんな社交辞令のような言葉。何にしても、あの金田の漫画より「下」だったのは事実。
「おー! マジで載ってるわー! マジのマジだったんだなー! すっげー!」
と掲載された受賞者発表ページを見てはしゃぐ金田。桧原はそれをどこか冷ややかに見ている。というより、妬ましさしか浮かんでこない。そんな自分にも嫌になる。いつもであれば、これまでであれば。こんなふうに純粋に喜ぶ金田を見て、そのバカらしさを見ても呆れと笑いしか出てこずそれに救われていたというのに。
なんで。なんで金田が。なんで自分じゃなく。
「おーいテンション低いな桧原ー。お前もちゃんとよく見ろよー。お前の名前もちゃんと出てんだぜー? さすがに実感わいたろー」
「そうね……でもまあ、これはこれでもう終わったことだし大事なのはこれからでしょ。いちいち結果に一喜一憂しててもさ。これで満足してちゃ次なんてないんだしここまでで終わりだし。あくまで始まりでしょ始まり。これからどうしてくかってほうが重要で。それこそ編集者との面談のほうがさ、はるかに重要なわけだし。先のこと考えていかないと」
「それもそうだなー。やっぱ桧原はストイックだよなー。マジで助かるわー。俺一人じゃぜってーたるんじまうしよー。桧原にケツひっぱたいてもらわねーとなー。そこが二人のいいとこだよなーやっぱ」
「なにそれ。言っとくけど私だって自分のことがあるんだし、ずっと一緒にやってくわけじゃないんだからね? ちゃんと自分一人でできるようにならないと先なんてないんだから」
「わかってるってー。そのためにも今必死に絵練習してんだしなー。賞金とバイトでアイパッドとかも買えそうだしよー。でも賞金がだいたい二ヶ月後ってのもおせーよなー。今すぐほしーよやっぱ。けどこうなると次描いてかなきゃなんねーわけだもんなー」
「そりゃそうでしょ。これだってさ、毎月やってるんだし。そしたら毎月佳作以上が出てるようなもんじゃん。毎月毎月新しい新人が生まれてるようなもんでさ。描かない漫画家なんてあっという間に担当からも忘れられるでしょ。いくら高校生っていったって。新人なんて競争しかないんだから」
「厳しい現実だなー。競争とかマジ苦手なんだよなー俺。やっぱ好きな漫画描きたいもんだけ描いてなんとかしてーよなー」
「なめすぎでしょ。そんなうまくいくわけないじゃん」
「そうだけどよー。厳しすぎねーか桧原?」
「あんたが現実わかってない分ちゃんと忠告してあげてるだけじゃん。あんたは初めてなんとなく描いた漫画が運良く賞もらったって感じかもしれないけどさ、他の人達は何年も漫画家目指して必死に描いて描いて描きまくってそれでようやく賞もらったり落ちたりしてるんだから。あんたがこれから戦ってくのはそういう環境なんだからね?」
「そういうなー。まー全然考えたことなかったし意識したことないよなーやっぱ。けどよー、自分がやることは変わんねーだろ?」
「なにが?」
「だってよー、そりゃ新人の中でも競争とかはあんのかもしんないけどよー、別に直接戦うわけでもねーし相手をどうこうコントロールできるわけでもねーしなー。結局は自分が自分の描きたい漫画をなるべくうまく描いてくしかねーわけじゃんか。そりゃ面白い漫画描けるように意識してよー、色々考えて頑張ったりはするんだろうけど、でも賞のために勝つために描くわけじゃねーからなー。自分にできっこと向いてることなんて限られてるわけだしさー、俺もまだ全然自分の描きたいもん以外は描けねーしよー。まーそうやって色々描いてるうちにそれじゃダメだとかなんかなってくんのかもしんないけど、そん時はそん時でその時考えればいいだけじゃねー? 楽しくねーと描く意味なんかねーし続かねーしさー」
「……そんな甘いこと言ってるようじゃ先が思いやられるけどね」
「そんなかー? 桧原ももう少し楽に考えたほうがいーんじゃねー?」
「……あんたが舐め過ぎだからこっちが必死に考えてやってんじゃん」
「かもしんねーけどよー。でも今からそんなピリピリしてちゃしんどくねー? そりゃ漫画家なんのは大事だけどさー、描いてて楽しー方が大事だろうからなー。結局人生楽しむために漫画描いてんだしよー。逆ではねーだろ」
「……あんたはそれでいいでしょ。自分でそれでいいと思ってるなら。初めて描いて一発で賞取っちゃうような才能もあんだしさ」
「才能かー。どうだかなー。まーそういうのもこの先続けてかねーとわかんねーしなー。結局続けられんのが一番の才能なんだろうし続けねーと才能なんか意味ねーしよー。それよかさ、面談ってか打ち合わせの話しよーぜー。いよいよ来週じゃん。マジきんちょーしてきたわー。どんな話すんのかなー。俺喋り方普段通りでよさそう?」
「……さすがにもっとちゃんと喋れるでしょ。どうなんだか知らないけどバイトの時と同じようにちゃんと敬語使ってればいいんじゃないの?」
桧原はそう言い、呆れと諦めと、それに疲労が混じったため息をつくのであった。
*
十一月になった休日、金田と桧原の二人は担当編集者との面談のために昭栄社のビルにやってきていた。
「うおー、マジでけえ……さすがに怖くなってきたわ」
「いや、あんたがビビってると困るんだけど」
「さすがにビビんだろこれは……てかでかすぎじゃね? 会社ってこんなサイズいんの? これビル全部がそうなわけ? 何人入ってんのこん中に?」
「知らない……千人?」
「千かー……だと俺らのガッコーとあんま変わんねーからたいしたことねーか」
「そう考えるとね。でもあんたでも緊張したりビビったりすんだね」
「そりゃなー。だって会社だぜ? みんな仕事でいんだし大人ばっかだろ? 完全に大人の世界じゃねーか。俺だって一応バイトはしてっけどよー、んなたいしたもんじゃねーしそんな話もしねーし、客だって遊びに休みにきてるようなのばっかだからな。マジじゃねーっつうかさー。でもここにいんのはマジで仕事してる人ばっかなわけじゃん? そりゃコエーだろー」
「確かにね……でも私よりあんたのほうが断然社会経験と言うか、人とだって話してるんだしコミュニケーション能力あるんだからあんたががんばんないとマジで詰むんだからね。私なんておまけだけどさ」
「おまけじゃねーだろ。俺たちゃ二人合わせて藤子不二雄みてーなもんじゃねーか。とりあえずあの漫画に限ってはよー。桧原だって当然話すんだぜ? 第一持ち込みすんだろ? あっちにもそう伝えてるし」
「うん、まあね……」
「なら大丈夫だろー。あっちにもちゃんとお前のこと話してあるしさ。最終候補まであと一歩で賞みたいなのももらってんだしあっちだってちゃんと認識してっから問題ねーって」
「だといいけどね……」
「おいおい念願の昭栄社だぜー? 今からそんなテンション低くてどうすんだよー。俺だってキンチョーしてっけどよー、だからこそマジでめちゃくちゃテンション上げてくからなー! 別に取って食われるわけでもねーんだし楽しんでいこーぜー!」
「そうね……ま、あんたがいつも通りならこっちも助かるけど」
「任せとけって。第一仕事で大人だっつってもあっちも漫画好きな人間なんだろうしよー、あっちが会いてーって言ってきたんだし漫画の話しかしねーんだからなんも心配すっことねーだろー! 別に俺たちもこのでけービルに用があるわけじゃねーしこれと話するわけでもねーんだからさー。入っちまえばデカさなんてかんけーねーだろ!」
金田はそう言っていつものようにヘラヘラ笑い親指を立てる。その様子からは、本人が話していたような緊張や恐れなどは微塵も感じられない。桧原が見る限りは、どこまでもいつも通り。なんでこいつは、こんなところに来てもどこまでもいつも通りで自分のままなんだろう。桧原はそれを心底不思議に思うし、羨ましくも思うし――そして同時に、妬ましさすら覚える。なんでこんな軽いやつが。軽いからこそかもしれないけれど、自分もこんな軽くなれたら……でもその無神経さ、肝の太さが今は軽薄にしかうつらない。不真面目にしか映らない。そういうふうに歪曲してしか、とらえられない。もっと真剣に、もっと本気で漫画に取り組んでる人はたくさんいるのに。自分だってそうなのに。なのになんで今ここに立っているのが、金田なのか……
しばらく前からあるそれ。おそらく、というより間違いなく「あの日」から、ずっとそのようにしか考えられない自分。ここまで来てもそんな自分に、桧原は心底嫌気が差す。なによりも当の本人がそんなこと微塵も思わず一切関係ないのはこの顔を見ているだけでわかる。わかるが、だからこそ、ますます憎らしさが増してくる。誘われて、請われて、ここまで来てしまったけれど、やっぱり自分は来ないほうがよかった……そんなことを考えてももう後戻りはできない。金田は意気揚々と本社の入り口から中に入ろうとしている。今更、自分だけ帰るなんてことは出来ない。第一自分だって目的があって、チャンスを掴むためにここにきたんだろ。金田の受賞とか、そういうのは関係ないし終わったこと。これからのこと。自分のこと。自分を売り込み、見てもらい、認めてもらうそのチャンス。
桧原は一人拳を握り、金田のあとに続くのであった。
昭栄社のエントランスは、それまで二人が見たこともないようなものであった。
「おおー。すげー、マジで会社だわ……」
「そりゃそうでしょ」
「やべーなこれ。俺場違いすぎね? こんなとこにガキ来てたらそっこー警備員に追い出されんじゃねーの?」
「昭栄社なんてしょっちゅう子供来てるでしょどうせ。漫画描く高校生なんてたくさんいるんだろうから。それよりここからどうすんの?」
「あー、なんか指示されてんだよなー」
金田はそう言いスマホを操作する。
「なんか受付の人に言えばいいみたいだなー。すいませーん」
と金田は臆することなく受付と思われる場所にいる人間に声をかける。そのさまは、どこまでもいつも通り。緊張だの不安だのはすべてポーズであり嘘であり、全部自分のために無理に合わせてるだけじゃないのか、ほんとはなんとも思ってないんじゃないのか、という疑念すら桧原の中には湧いてくる。
「週刊少年チャンプのタナカミツオさんって人と十一時から約束してるんですけどー。なんか打ち合わせ? とかで。自分は金田っていいます」
などと淀みなく話し、桧原のもとに戻ってくる。
「なんか降りてくるから待ってろってよー」
「そう……慣れた感じね」
「俺? でも別に名前言うだけだしなー」
などと話していると、エレベーターからメガネをかけた男性が降りてくる。
「君たちが金田さん?」
「あーそうですー。金田正一ですはじめましてー」
と金田はへらへら笑って答える。
「そうですか……そちらが共作の桧原さん」
「あ、はい、桧原です。よろしくお願いします」
と桧原も会釈する。
「はじめまして週刊少年チャンプ編集部の田中です。じゃーとりあえず編集部まで行って」
と田中は二人を伴いエレベーターに乗るのであった。
チャンプ編集部内の仕切り板に囲われた小スペース。机と椅子くらいしかないそこに、二人は通された。
「それじゃあ改めまして田中です。今日はわざわざ来てもらってありがとうね」
と編集者の田中が名刺を差し出す。
「ありがとうございまーす。すいません俺まだ高校生なんで名刺のもらい方とかよくわかんなくて」
「あーいいよ全然気にしなくて。そうかまだ高校生だもんねー。えーっと一応確認しとくんですけど、君が金田くんで、原作と作画にあるペンネーム金田正太郎くんで間違いないですよね」
「そうですねー」
「金田正太郎ってのはやっぱ鉄人28号から?」
「AKIRAの方ですねー」
「AKIRA? って大友さんの? あの金田って正太郎って名前なの?」
「らしいっすねー。まーほとんど名前同じなんでそれにしました」
「そうですか。で、そちらがペンネームがひのき香さんで作画で共作の桧原さん」
「あ、はい。そうです……」
「女性の方だったんですねー。いやーでも男女ペアは結構珍しいかなー。プロでは普通だけど。それでまー色々話す前に確認しときたいんだけど、まず原作は金田くんってことだけどどこまでやってるの?」
「一応話考えたのは俺ですねー。キャラとかも。それで一回自分で描いたんですけどー、それを漫画描ける桧原にネームから作り直してもらったって感じっすね。俺もネームやってみたんですけど全然下手でー、桧原はめっちゃ上手いんで手伝ってもらった感じっす」
「なるほどねー。プロットは金田くんでネームが桧原さんと。作画が連名っていうのは?」
「下絵とキャラのペン入れまでは一応俺なんすけどー、でもそれもめっちゃ桧原に手伝ってもらってますねー。下絵の段階で描けない絵とかポーズいっぱいあったんでそういうのいちいち桧原に見本描いてもらってそれ真似してって感じっす。ペン入れは一応全部俺ですねー」
「そういうねー。じゃあ絵は基本金田くんの絵なのか。でもこれ背景は別だよね。デジタルで」
「そっすねー。ペン入れまでは紙で自分でやったんですけどー、あーちなみにミリペンっての使いましたねー。んでそっからは桧原がデジタルでトーンとか背景とか仕上げやってくれてー。なんでぶっちゃけ作画はほとんど桧原っすねー」
「なるほどねー。それだと確かに作画は共作、というより半分は桧原さんになるのか。了解です。それじゃあまあちゃんと面と向かって感想言わせてもらうけど、まず面白かったよね」
田中はそう言ってふっと笑う。
「今回の賞の中では一番笑ったと思う。笑いってさ、ちゃんとやるのなかなか難しいっていうか、年齢考えると勢いもあると思うんだけど狙いすぎずにちゃんと自然に行動や会話の中で笑いが生まれててそこが一番良かったと思います。ラブコメとしてもさ、ド定番もド定番、鉄板も鉄板だけどだからこそいいっていうかさ。こー、ほんと引っかかるとこ一つもなくてねー。読みやすくて気持ちがよかったよね。逆に言えばそこで尖った部分がなかったっていうかさ、だからこその努力賞止まりなんだけど。でもキャラはよかったよほんと。短編でキャラしっかり立てるっていうのは難しいからねー。ラブコメってぶっちゃけキャラがすべてみたいなもんだし。ちなみに金田くんはラブコメは主人公とヒロインどっちが大事だと思ってる? もちろん男主人公だけど」
「あーそれっすかー。まーやっぱヒロインがめちゃくちゃ大事っていうかー、ヒロインかわいくないとラブコメも読まねーって感じですけどー、でも主人公もめっちゃ大事っすよねー。どんだけヒロインかわいくても主人公が『なんだこいつー』って感じだと応援できないっていうかー、なーんか読んでてもキツイなーってなりますもんねー」
「そうそう。そういう点ではラブコメの主人公としてはすごく好感持ててよかったよ。すごく大事なポイント。いい意味でバカでさ、でもバカすぎないし自分勝手じゃないし、それでいて情熱的っていうか熱血でさ、すんなり応援できるし感情移入できるし。読んでて気持ちのいい主人公だったかな」
「そうですかー。ありがとうございまーす」
「ほんとね。そういうこというとちょっと金田くんっぽいっていうかさ。まー会ったばっかで君の性格なんてまだわからないけど、でも話してて明るいなーって思うし、そこは結構あんまり漫画描く人にいないっていうか。結構見た目と違うけど。最初その頭見てびっくりしたっていうかすごいの来たなーとか思っちゃったけど。高校生で金髪で漫画描いててしかもあのラブコメだからあまりにも印象違いすぎてさ」
と言って田中は笑う。
「そっすかー。でも金髪もそろそろ終わりっすからねー。めんどくさいんでもう染めるつもりないっすし」
「へー。でまあ漫画だけど、もちろんヒロインも良かったよね。好きなもんつめこんだ感じで。ほんとそういう意味では寄せ集め感はあるけど丁度いいっていうかそこまで詰め込みすぎず、でも定番のキャラの特徴とかインパクトはあって。キャラ作る能力はあると思うねー。ただまーやっぱり絵はまだまだだよね。すごいこのキャラ好きで描いてるんだなーとも思うしキャラのかわいさ出したいっていうのは伝わっては来るけどまだまだ表現力はついてきてない感じで」
「なんですよねー。なんで今は毎日めっちゃ絵の練習してます。美術部も入って」
「美術部? ますます以外だなー。君その頭で浮いてない?」
「最初はまー浮いてたっていうか結構拒否られてた感じはあったんすけどー、でも今はもう全然っすねー。やっぱ漫画好きなのは一緒なんでー、漫画の話すりゃもう友達っすから。それもチャンプのおかげっすねー。やっぱチャンプは女子も読んでるんでー、マジでチャンプのおかげでめっちゃ話できたんで」
「はは、なるほどねー。そりゃなによりです。金田くんはどれくらい漫画描いてるの?」
「一応マジでやり始めたのは七月頃からっすねー」
「七月!? てことはまだ、せいぜい四ヶ月くらい?」
「そっすねー」
「え、じゃあもしかしてこれ初めて描いた漫画?」
「そっす」
「へー、マジかー……なるほどねー。だからこその勢いだなこりゃ。あーうんなるほど、すごくいい。初めてだからこそのさ、とにかく描きたいもの好きなものだけ描いた感じ。まーもちろんだからこそ荒いけどさ」
田中はそう言って笑う。
「えーとんじゃ桧原さん。桧原さんにも色々聞きたいことあるんだけどいいかな」
「あ、はい、大丈夫です」
「えーっとですね、そもそもなんでこの二人で共作っていうか、一緒に漫画描くことになったの?」
「え、っと、その……こう、全部ちゃんと話さないとダメでしょうか……?」
「いや、もちろん話したくない部分は話さなくてもいいけどさ」
「あ、はい……その、元々私も漫画描いてて、それ読んだ金田、くんも自分で漫画描きたくなって描いたとかで。それがその今持ってらっしゃるものの原案なんですけど、それを金田くんがもっとちゃんと漫画にして賞に出したいって言って、それでまあ、一応色々教えつつサポートして、それでまあ環境とか技術とか考えてトーンとか背景は私の方でやったほうがいいかなって、みたいな感じです……」
「そっか……いやーでもそこの二人の出会いとかなんかそういうのもすごい物語ありそうでいつか聞いてみたいけどね。知らないで言うのもあれだけど、見ただけじゃすごい意外な組み合わせだからさ。これ背景とかトーンはデジタルだよね?」
「そうですね……私はその、一応フルデジタルで描くので」
「なるほどねー。いやーこっちでも調べたし金田くんから話も聞いてさ、桧原さんも自分一人で描いたの送ってるっていうから読ませてもらったけど、絵はもう十分うまいよねー」
「あ、そうですか?」
「うん。もちろん粗は探せばあるし今すぐ連載できるってほどでもないけど、高二でこれだけ描けてればかなりのもんっていうかさ。このまま続けてば順調に画力伸びてって絵で勝負できるくらいにはなるでしょ。金田くんの漫画もネームは桧原さんがやってるらしいけどさ、ネームできるのはやっぱり強みだよね。そういう意味で絵だけじゃなくて漫画はうまかったし。うまくできてるっていうか。ただまーまだ若干、見せ方が足りないっていうのかな。もっとこう表現力っていうかさ、表現の幅。まだうまいだけでインパクトっていうか引力みたいなのが足りないから」
「そうですか……わかりました」
「うん。それでさ、まー二人の漫画読んでちょっと思ったっていうか提案なんだけど、今後は本格的に二人で共作っていうか、原作と作画に分かれてやってみる気はない?」
「――といいますと」
「金田くんが原作やって桧原さんが作画。お互いのいいところ、強み活かしてさ。金田くんの良さはやっぱり話の面白さだからね。ストーリーとキャラ。原作に集中することでそこ伸ばすっていうかさ、そこで勝負して。やっぱり今のままだとどうしても絵の部分で勝負にならないからさ。もちろん今練習しててこれからうまくなるかもしれないけど、でも今の時点ではこの絵じゃこれ以上っていうのはなかなか厳しいからねー。よっぽど面白い話作れれば佳作くらいまではいくだろうけど、でも目指してるのはそこじゃないでしょ? 連載はさすがに無理だからさ。でまー桧原さんもだけど、絵も漫画もうまいけどストーリーとかキャラの部分が今の段階ではネックだからさ。でも桧原さんもキャラの顔とかはかなりしっかり描けてるし、女の子も可愛く描けてるからさ、この絵なら金田くんのキャラ、ヒロインをもっと可愛く描いて活かせるんじゃないかと思って。二人ならもう気心しれてるだろうし一から他の人と組むより断然いいじゃん? どうかな」
「そっすねー。どうよ桧原?」
「……あの、一応お聞きしますけど、それは私は絵、漫画以外の部分では、ストーリーとか作る部分では漫画家として失格ということでしょうか……?」
「いやーそんなことないよ。こっちも言い方悪かったかもしれないけどさ、そんな大げさなことじゃなくて。そりゃこれから他も伸びてってすごい面白い漫画描けるようになるかもしれないし。まだ高校生なんだしさ、可能性はいくらでもあるでしょ。ただそういうのとは別にさ、単純に今のうちから自分の得意な方、できる方に集中しといたほうがうまく伸びるだろうしね。それと一番は単純に速度の話かな。今から組んで互いの得意なことに集中したほうが確実性は上がると思うし、なによりそっちのほうが連載までいくスピードが断然違うと思うから。どれくらいわかってるか知らないけどさ、ほんと連載までいける漫画家なんてごく一部だし、そこまで行くのだってすごい時間かかるからね。何年もアシスタントしてその間の時間でなんとか自分の作品描いてさ。それで年に数本描けたらいいほうで、でもそれも賞落ちたり連載会議通らなかったり。そうするとほんと心折れる人たくさんいる
しさ、生活も大変だし。二人だってどうせならなるべく楽な方、確実な方のほうがいいでしょ?」
「それはまーそうっすけどねー。でも別に諦めろってことじゃないっすもんね?」
「もちろん。各自の作業やりながら自分の漫画描くのは当然自由だし、それももちろん読むし。練習だっていくらでもやってもらっていいし。こっちだってさ、描ける漫画家売れる漫画家は一人より二人のほうが断然いいからね」
「そっすかー。まー俺としてはしょーじき自分の漫画は自分で描きたいってのはありますけど、でもまだ自分が絵下手くそでそのレベルじゃないってのもわかってるんで。桧原に描いてもらうなら問題ないっていうかむしろ桧原以外ありえねーって感じですからねー」
「そうだよね。まー普通ほとんどの漫画家は自分で描きたいもんだからさ。やっぱりそのほうがモチベーションも違うだろうし。最初から原作一本でっていう人は少ないかな。よっぽど絵が描けないけどどうしても漫画がいいって人くらいで。まー君らも高校生だからこっちもそんな可能性狭めること言うつもりはないし絶対ってわけじゃなくてあくまで提案だからさ。とりあえず気が向いたら一回やってみてよくらいで。やっぱり今回こうして努力賞って形で賞はとれたわけだからね、そうするとこれからっていうのはどうしても考えないとじゃん。まー高校生だとどれくらい時間あるかはわからないけどできれば年に三、四本はさ、描いて。三、四ヶ月に一本くらいで。最低でも年二本。そういう感じでどんどん描いてって見せてもらって、それで賞に出したりして、ってできればいいんだけど。基本その先にしか連載はないし。というか今更だけどさ、二人は本気でプロの漫画家になりたいと思って描いてるんだよね」
「あー、まー正直に言いますけど、俺は最初はそういうのは全然なかったですねー。描き始めたのもすげー最近ですし、その前は勉強やりたくねーから逃げるための落書きとかでー、漫画もそういう感じで。もちろん読むのはめっちゃ好きでしたけど自分も描こうとか漫画家なろうとかは全然考えてなかったんでー」
「今はどうなの?」
「まー、正直言うとそこまで実感ないっていうか真剣に考えてるわけじゃないですけどー、でもなれるもんならなりたいっすねーやっぱ。好きなことして生きてけたらめっちゃいいですしそれで金もらえたら最高っすからねー。俺も他にしたいこととかないですしバカなんで勉強の方でどうこうってのは無理なんで。なんでそういう意味では仕事としては漫画家なれるようがんばろーっては思ってますねー」
「なるほどねー。まーでも四ヶ月ならまだそういうもんか。桧原さんはどうかな。さっきの共作の話も含めてだけどさ」
「……私は、その……私もやっぱり、他の漫画家と、自分が好きな漫画家と同じように、自分で話作って自分で描いて、一人でやるって、そうなりたいって思ってずっと描いてきたんで……だからその、正直今はまだその作画だけとかそういう話は、ちょっと……」
「そっか……桧原さんはどれくらい漫画描いてきた?」
「……ほんとにちゃんと、賞とかプロとか目指すために、意識してっていうのは今年入ってからですけど、漫画は、ずっと描いてきました。二次創作とか、オリジナルももちろんですけど。小学生の頃からは、一応描き続けてます」
「じゃあもう結構長いね。それだけ描いてればあれだけうまくなるか。てことはもちろんプロの漫画家目指してるんだよね」
「……はい。私は、正直それしか考えてません」
「そっか。ちなみに桧原さんは目的のためなら手段選ばない方?」
「……といいますと」
「どういう形でもいいから、何がなんでも漫画で食ってこう、って考えてるかどうか」
「……正直いいますと、まだそこまで考える段階じゃないといいますか、そこまで追い詰められてるっていうか、そうじゃないのでちょっとまだ答えられないです」
「はは、だよね。高校生なんてまだまだ現実じゃなくて夢の段階だろうし現実考えるほどでもないだろうし。とはいえ進路は、あと一年もしたら本気で考えるところか。まーとにかくさ、何か描けたら教えてよ。今何描いてるかとかも。こっちも全然読むから。ただまーもちろん学業優先でね。学校を一番で。漫画のせいで、こっちのせいで逆行に支障きたして卒業できないとかなったらこっちも困るし悪いからさ」
「そっすねー。でも俺すでに留年やばかったんでそっちのせいにはならないんで大丈夫ですよー」
「え? え、留年しそうなの?」
「しそうだったですねー。俺バカすぎて全然勉強できなかったんで。でも漫画もあるんでー、ぜってー留年とかできないし今は桧原にも見てもらってるんでもう留年は大丈夫っすよ。マジで勉強もがんばってるんで。やっぱちゃんと目標あると勉強の方もがんばれっからいいっすねー」
「ははは、そうだね……なんていうか君はほんとに気持ちのいい性格してるなー」
「はははー、よく言われますー」
「ははは、いやーほんと、こういうタイプ初めてかなー。なんかめちゃくちゃ人柄作品に表れてる気がするわー」
「そっすかー? やっぱそういうもんなんすねー。一応聞いときたいんですけどー、そちらとしてはなんか注文っていうかこういうの描けーみたいなのとかあります? その通りになんかできないと思いますけどー」
「いやー君はまだ始めたばっかりなんだし今はとにかく自分の描きたいもの好きなもの描くのが一番だと思うよ。しいていうならやっぱりラブコメかなー。ラブコメ向いてると思うし、ラブコメっていうのは常にどこであっても需要があるからね。まーこっちとしては他でなんて話はしたくないけどさ、やっぱりうちじゃどうしても伸び悩んで他に応募するとかいうこともあるかもしれないし、そういうのも止められないし仕方ないと思うけど、そういう時でもラブコメっていうのはほんとにどこでも通用するし需要あるから。それに関連してだけど女の子かわいく描けるっていうのもね。絵としてもそうだけどキャラクターとしても。だからそこはバリバリ伸ばしてってほしいかな」
「わかりましたー。桧原はなんかある?」
「……あの、事前にお話してましたけど、今日は私の方でもその、持ち込みといいますか、見てもらいたくて原稿を持ってきたんですけど、読んでいただけますでしょうか……?」
「もちろん。その話はちゃんと聞いてたからね。持ち込みの対応もこっちの仕事だし」
「ありがとうございます。じゃあその、原稿なんですけど……」
桧原はそう言いリュックから原稿を取り出す。
「……それでその、金田悪いんだけど、ちょっと席外してくれない?」
「あー? どっか行ってろってこと?」
「そうだけどそうじゃないっていうか……その、私のわがままだけどこれはちゃんと私一人の作品として、私一人で評価とか聞いて、話したいっていうか」
「まーいいけど。けど席外すって言ってもなー。田中さん会社の中探検してたりしてもいいっすか?」
「それはさすがにダメ」
と田中は苦笑する。
「すよねー。どっか待ってていいとことかあります? できれば机とかあるとこがいいんすけどー」
「そこ出ると階段の前に椅子とか机あるスペースあるからそこ使ってていいよ。もしなんかあったら田中待ってますとか言ってもらっていいから。名刺見せて」
「わかりましたー。んじゃ俺そこで絵の練習してっからさー。終わったら呼んでなー」
金田はそう言って立ち上がる。
「ほんと向上心あるねー。出先でも練習なんて」
「時間ないっすからねー。学校にバイトで大変なんすよー。一秒も無駄にできないんでいつも紙とペンは持ち歩いてるんで」
金田はそう言って笑い、その場をあとにする。




