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「金田―何点だったー?」


 と友人に声をかけられ、金田は「ほれ」と返ってきた自分の答案用紙を見せる。


「ぶっ! また赤点じゃねえかおめー! てかついに一桁!」


「ははは! 俺バカだからさ~!」


 金田正一(かねだしょういち)はいつものようにいかにもバカっぽくヘラヘラ笑って返す。目立つ金髪のボサボサ髪。その頭に手を当て呑気に大口を開けている。そんな様子に周囲のクラスメイトなどは「またあいつらか」などといった様子で視線をやる。いつもうるさくて、いつも笑ってワイワイやっていて、つるんでいて、やたら堂々としていて、やたら目立つ存在。いわゆる「イケて」るグループ。「陽キャ」で「DQN」であるようなやつら。金田はその象徴のような存在であった。


「ほんっとバカだよなおめー。名前の通り頭小一で」


「まあなー。つか全然勉強してねーしよー」


「したってお前はバカだろ。お、ユウカ! こいつまた赤点だってよー!」


「えーマジー? 金田ほんとやばー」


「まあなー。でも別にバカでも困んねえしー。毎日楽しいならそれでよくね?」


「金田はそれでいいかもねー」


「でもこんだけ全教科赤点とかだとさすがに留年すんじゃね?」


「金田が後輩になったらマジウケる」


 などと言って笑う友人たち。


「いやいやねーって。さすがにそこまでひどーじゃないでしょ。バカだけど毎日ガッコーちゃんと来てんだしさー。大目に見てくれるっしょ」


 などと呑気にヘラヘラ笑っていた金田であったが――



     *



「このままじゃお前留年だ」


 担任に生徒指導室に呼び出され、大真面目に言われる。


「はぁ。マジっすか」


「大マジに決まってんだろこの野郎。ナメてんのかお前? バカだとは思ってたが救いようがねえバカじゃねえか。全教科赤点ってふざけてんのか? これまでもずっと赤点ばっかで。補習追試は当然だがそれだけじゃもうどうにもならねえぞ」


「はぁ。マジっすか」


「はあじゃねえんだよバカ野郎。なに他人事みたいに言ってんだお前。ほんとにわかってんのか?」


「そっすねー。一応は」


「一応じゃねえんだよ。ほんと救いようねえなお前は。自分とこから留年生出しゃこっちにも色々とばっちりくんだっつうの。ほんといい加減にしろよお前」


「はぁ」


「ったく。とにかく追試と補習は当然だ。けどもうそれだけじゃどうにもならねえ。が、さすがに留年させるのは忍びねえからな。お前だってさすがに友達の後輩になんのは嫌だろ」


「そっすねー」


「俺もよくよく考えてな、特別になんとか口添えしてお前の留年を回避してやってもいい。特例だ」


「え、マジっすか?」


「けどもちろんタダじゃねえぞ。やることやって、その功績を認めて特例で、って話だ。お前桧原(ひばら)は知ってっか?」


「なんすかそれ?」


「人の名前だよ。同じクラスだ。まあずっと来てないけどな。不登校だよ。そいつの家行って来い」


「はあ? なんで俺がっすか?」


「だから自分の留年取り消すためだろ。プリントだの色々届けなきゃいけねえもんもあんだよ。様子見てこなきゃいけねえし。けど俺だって忙しいんだ。お前が代わりに行ってこい」


「ああ、そういう」


「ついでに桧原を学校連れてこい。不登校の対応ってのも大変なんだよ。責任こっちに来るしな。それお前が解決したら留年くらいはなんとかなんだろ。まあ連れてこれなくてもとりあえず対応だけはしてこい。わかったな?」


 早い話が自分は面倒くさいから適当に俺にやらせとこうってわけかー、と金田は思うが口には出さない。


「わかりました。いいっすけどほんとに留年取り消してくれるんすか?」


「お前がちゃんと結果出せばな。人に聞く前に自分の心配して言われた通り行動しろよ。どのみちお前に選択権なんてないんだしよ」


 担任はそう言って書類などを差し出す。


「んじゃ任せたぞ。どうするかは自由だがせめてプリントだけは渡してこいよ。ポストに入れてくるだけでもいい。じゃねえと俺の責任になっちまうからな」


「はぁ。んじゃ行ってきます」


 金田はそれだけ言い、生徒指導室を出て教室に戻る。教室ではいつもの「友人」たちが金田を待っていた。


「お、帰ってきた。なんだったのよ金田。直々に生徒指導室まで呼び出し食らってさ」


 と笑う友人。


「あー? まーちょっとなー。全教科赤点とかナメてんじゃねーってキレられたわ」


 とヘラヘラ笑って答える金田。


「マジかよ。ウケるw」


「まあヨシザキの言うことなんか関係ないしさ、どっか遊び行ってパーッと気分晴らそうよ」


 とグループの女子も言う。


「いや、俺ちょっと用あるからパスだわ」


「は? 用ってなんだよ。今日バイトだっけ」


「いやー? なんかヨシザキにさー、留年したくなかったら俺の代わりに不登校のやつのとこ行ってプリント渡してこいとか言われてよー」


「マジで? パシリじゃんw」


 と言って笑う男子。


「なー。まーでも留年はしてらんねーからよー、めんどくせーけど行ってくるわー。なんか学校連れてきたらチャラだとか言ってるし。実際どーなっか知らねーけどやるしかねーかんなー」


「ハハハ、マジウケる。金田でもさすがに留年はきちーよな。けど不登校とかどうでもよくね? 好きでガッコー来ねーんだからさ。ほっときゃいいじゃん」


「知らねーよ。俺だって好きで行くわけじゃねーし。まー来てくれたほうが俺の留年なくなっからありがてーけどなー」


 金田はそう言い、ひらひらと手を振り一人教室を後にするのであった。



     *



 金田は一人電車に乗り、知らない町に降り立った。そうしてスマートフォンに住所を入力して表示された地図を頼りに、件の不登校生の家へ向かう。


 道中、ボケーっと見知らぬ街を眺める金田。


(なーんでセンコーってか大人ってああいう感じなんだろうなー。子供を自分の都合のいい道具としか考えてねーっつうか。どいつもこいつも同じだよなーほんと。こっちだって好きでバカやってんじゃねーって感じだし。勉強なんてしたってわかんねーししょうがねーじゃん。自分がサボる口実に人の留年使って脅してよー。ったく、けど従うしかねーんだからバカはつれーよなー)


 などと考えていると、目的の住所に着く。付近の家の表札を頼りに相手の家を探す。


(桧原……ここか)


 とある一軒家の前に立ち、見上げる。


(ふつーにいいとこ住んでんなー。こんなんなら不登校やっててもなんも言われねーのかなー)


 などと思いながら、インターホンを押す。しかし反応はない。もう一度押すが反応はない。


(いねーのかー? けど不登校なら家にいるよなー普通。居留守かー? どーすっかなー。会えねーならしょうがねーしプリントだけ置いてくかー)


 などと家を見上げていると、すぐ近くで誰かが足を止めた。


「――人の家の前で何やってんの?」


「あー?」


 見ると、そこには同い年くらいの女子が立っていた。部屋着とさほど変わらぬラフな格好で、キャップを被り、ビニール袋を手から下げている。背は女子の平均よりは高めでかなり細い。容姿端麗であり、どこか西洋的な雰囲気を感じさせる。長めの髪もすこし色が薄く茶色がかっていた。


「それ、西高の制服でしょ」


「そうだけど。てかもしかしてお前あれ? なんだっけ、桧原なんとかっつう不登校の」


 金田がそう言うと彼女――桧原伊織(ひばらいおり)はぴくりと顔を険しくする。


「てかふつーに家出てんじゃん」


「なに? 出ちゃ悪い?」


「悪くねーけどさー、不登校っつうからてっきりなー」


「別に引きこもりじゃないし。で、なに? てかあんた誰?」


「あー俺金田ー。一応同じクラスらしいけど」


「そう。見覚えはある。去年は別のクラスだったけど、うるさいし目立ってたし」


 と桧原は金田の金髪を指差す。


「あーそう? わりーけど俺はそっちのこと全然知らなくてさー」


「でしょうね。それであんたがなんでうちに来てんの?」


「なんかさー、ヨシザキに俺の代わりに桧原んとこ行ってこねーと留年にすっぞとか言われてよー。ヨシザキわかる? 俺らの担任。お前のことガッコーに連れてったら留年取り消してやるとか言われてさー。とりあえずなんか渡さなきゃ行けないプリント持ってきたわー」


 と金田はプリントの束を差し出す。


「ああそう……あんたそんな頭なのに素直に教師のいうこと聞くんだ」


「別にー? 俺も留年は嫌だしよー。つっても補習や追試もきついかんなー。俺バカだし。まーそんなんだからさ、桧原ガッコー行かねー?」


「行かない」


「だよなー」


「だよなーって」


「だってフツーに考えたらそうじゃね? いきなり知らねーやつ来てガッコー行こうぜとか言われてもさー。てか桧原なんでガッコー行かねえの?」


「……あんたには関係ないでしょ」


「かもなー。でも俺も桧原にガッコー来てもらわねーと留年やべーしさー。さすがにダブんのはきちーよなー。まーとりあえず考えといてくれよー」


 と言って歩き出す金田であったが、


「あれ、それもしかして今週の『チャンプ』?」


 と桧原が手に下げているビニール袋を指差す。有名な週刊漫画誌の表紙がビニール袋から透けて見えていた。


「そうだけど」


「マジ? 今週まだ読んでねーわー。うわー、ちょっと読ませてくんない?」


「私もまだ読んでないし」


「待つ待つ。桧原読んだ後でいいからさ」


「は? いや待つって……」


「読み終わんの待つからさ。マジ楽しみだよなー『チャンプ』。先週の『バンピ』の引きやばかったじゃん? もう一週間マジで続き気になってよー。違法サイト見ちまうかって思っちまったよなー。もちろん俺は見ねーけどさ」


「そう……『バンピ』好きなの?」


「好き好きー。てか漫画好きだかんな。『チャンプ』全部毎週読んでるし。桧原それ毎週紙で買ってんの?」


「そうだけど」


「すげー。でもそっちのがいいよなーやっぱ。俺も買いてーけどさー、やっぱ金かかるし、かさばるしよー。わりーとは思いつつも立ち読みなんだよなー。単行本とかはちゃんと買うやつは買ってっけどさー、それもきちーから漫喫とかレンタルだし」


「そう……まあ私読んだ後なら別にいいけど、貸しはしないからね」


「そりゃそうだろー。同じガッコーつったって初めて会ったやつにいきなり貸すやつはいねーからなー」


 金田はそう言ってヘラヘラ笑いながら突っ立っている。


「……言っとくけど家には入れないからね」


「マジ? まあ初対面だししかたねーかー。んじゃここで読むの?」


「んなわけないでしょ」


 桧原はそう言い、歩き出した。


「どっか行くの?」


「公園。そこならベンチあるし読めるでしょ」


「あーそうだなー。桧原ってさー、いつもそんな感じー?」


「なにが?」


「つっけんどん? だっけ。ツンツンしてるっつーかさー。なんか棘あってよ。俺なんかした? なんかわりーことしてたら謝っからさー」


「……何もしてないけど、普通そういうこと言う?」


「あー、俺バカだからなー。あんま考えねえし思ったことそのまま言っちまうんだよなー。嫌な気分させてたらほんとごめんな」


「別にいいけど」


「ならよかったわー。俺バカだけどやっぱ人不快にさせんのとかは嫌だからさー。まあなら喋るなって話だけど」


「……どうでもいいけど。でもあんま自分のことバカバカ言わないほうがいいんじゃない? そういうの聞いてる方も気分良くないだろうし、あんま自分でバカバカ言ってるとほんとにバカになっちゃうから」


「そう? なるほどねー。桧原は頭いいな!」


 そう言って笑う金田。それを見て桧原は「なんなんだろうこいつ。ていうかなんでこんなやつと……」とため息をつくほかなかった。



 少し歩いてやってきた近所の公園。二人はベンチに腰を下ろす。桧原はビニール袋から『チャンプ』を取り出し開く。金田はその紙面を横から覗いていた。


「――どうせ後で読むならそんな横から見なくてもよくない?」


「いやーこれがおもしれえんじゃん。子供の頃とかさー、誰かが読んでんのみんなで囲んで読んだりしなかった? あれがいいんだよなー。ちゃんと読めねーからさ、絵とかだけで想像っつうかどうなってんだもっとちゃんと読ませてくれ話ちゃんと読みてーってさー。情報が限られてるからこそ想像力刺激される感じ? おもしれーじゃん」


「そう……でも気が散るんだけど」


「そう? ならしゃあねーかー」


 と金田は視線を外しボケっと公園で遊ぶ子どもたちの方を眺めている。そうしてしばらく経った後。


「――終わった」


 と桧原が『チャンプ』を差し出す。


「お、やりー。ほんとあんがとな。てか待たせると悪いから急いで読むわ」


 金田はそう言って受け取り、ページをめくる。そうして『チャンプ』を読む金田の表情は、実に多彩であった。人は漫画を読む時こんなにも多彩に表情が変化するのか、と思うほど。真剣に、眉間にしわを寄せ、口を開き目を見開き、顔を歪め、そして笑う。桧原は隣でそれを見て「こいつほんとに漫画好きなんだな……」と思うのであった。


「――終わったー! マジであんがとな! 今週も面白かったなー! 桧原どれ一番よかった!」


「え? ……『ロウキュー!』?」


「やっぱ!? ヤベーよなーローキュー! 毎回熱くてよー、てか全国入ってからめっちゃヤバくね? 毎回おもしいし熱いしよー、なんか絵とかもめちゃくちゃうまくなってね? 見せ方っつうかさー」


「あーそれはわかる。全国入ってから明らかにネーム変わった。演出がすごいうまくなって」


「だよなー!? やっぱ毎回見てるやつはわかるよなー。桧原は何一番好きなん?」


「……『ニンジャー×ニンジャー』」


「なー! ヤベーよなあれ! ほんと面白すぎっつうか、ガトシマジ天才すぎてよー。しゃーねーけどもう少しちゃんと連載してほしいよなー。ぜってーガトシ生きてるうちに終わらねーってあれ」

「そうね。まあ腰だからしょうがないと思うけど。『バーサーカー』のウラミ先生みたいなこともあるし。亡くなって未完で終わっても他の人で続きとか描いてもらえれば読者としてはほんとにありがたいけどね。そっちのほうが刊行早いなんてことになりそうだし」


「そうだなー。でもやっぱニンジャはガトシので読みーてーよなー。ていうかよ、桧原もしかしてめっちゃ漫画好き? 他に何読んでんの? 『チャンプ』以外の雑誌」


「……『マンガジン』、『スイデー』、『カンピオン』……」


「週刊少年誌全部買ってんの!? ヤベーじゃん! てか最近コンビニにスイデーとカンピオンなくね? 全然見かけねーから立ち読みできねえんだけどよー」


「あーないよね実際。なんか部数めっちゃ減ってるみたいだし。私もその二つは電子にしてる。さすがに全部紙だとかさばるから」


「マジかー。てかそれ雑誌で読んでるとかガチすぎんじゃん。え、他に何読んでんの?」


「まあ、読んでるって言っても一応だけど、週スピにヤンチャン、ファーストとか」


「週刊全制覇じゃん! あ、ヤンマンは読んでねえの?」


「最近のヤンマンはちょっとね……一部のは読んでるけど雑誌としてはやめた」


「あー。なんか最近のヤンマンただのエロ漫画ばっかだからなー。女子だとなおさら嫌か。んじゃ一番好きな雑誌何よ」


「……『シエスタ』」


「だよなー! やっぱシエスタだよな!? うわー、わかってるわー。え、てかめっちゃ趣味合うじゃん! シエスタ最高だよな!?」


「うん、そうだけど、てかあんたほんとにシエスタ読んでんの?」


「読んでるよ! あの分厚いのもたまんねーよなー! え、なに? 何好き? やっぱ『オリンピアン』!? てかオリンピアンヤバすぎじゃね?」


「……ヤバい」


「だよなー! 『鉱石の街』もさー、もう終わりそうだけどよー、ずっとやばかったよなマジで! あとはさー、やっぱ『ヴァイキングサーガ』だよなあ。あれぜってー世界で一番面白くね? ヤバすぎるしよー。俺はなー、『プラネット』もすげー好きだけどよー、やっぱムラユキは天才だよなー。あとはよー、シエスタつったらやっぱシモシバイチリだよなー。俺『謎かけ』から入ったんだけどさー、デスコミとか夢んちゅとかマージでヤバくてよー、ほんとああいうのがいかにもザ・シエスタって感じだよなー」


「そこまで読んでんの? あんたマジで漫画好きっていうか、意外にめっちゃ読んでんのね……」


「そう?」


「そうでしょ。見かけによらないっていうか、シエスタなんか漫画好きの入門みたいな感じだけど、そんな昔のまで読んでてさ」


「まあなー。まあ他にやることねーしよー、漫喫でバイトしてっから読めるし、つかやっぱ漫画好きだからなー俺。あんま人には言ってねーけどよー」


「そっか……まあでも、別にあんたのことなんか全然知らなかったけどさ、ほんと意外っていうか、びっくりしたけどでもそんなの人の勝手だしね。何が好きなんて他人がどうこういうことじゃないし。だいたい漫画好きなら一緒だし」


「だよなー。俺も漫画好きなやつ会えてうれしーわー。しかも趣味合うしよー。桧原はシエスタなら何よ」


「まあ、私もシモシバイチリは好きだけど。あとは『けもっ』とか、『理性銃』は当然だし、『おおフル』に、あとは『タルタル』とか、シエスタはあんまりだけダイオウイカの漫画はすごく」


「おー、桧原もなかなかだなー。通っつうか。いいよなーマジで。昔のとかも読みたいんだけどよー、満喫にもなかなかねえしなー。レンタルも古いのはねえしよー、中古で買うにも金がねえしなー。マジ読みたいの一杯あんだけどよー」


「そう……うち色々あるけど」


「え?」


「親のだけど、漫画、いっぱいあるから」


「マジで!? うわー、いいなー。すげー羨ましいわー。うち親漫画とか全然読まねーからさー。そもそも狭くてんな置くスペースねーしよー。俺も読みたくて買ったのとか場所なくて仕方なく売ったりしてっからなー。場所もだけど金もねーしよー」


「バイトしてるのにそんな金ないの?」


「まあなー。遊び行ったりっていうか、ダチに付き合ってっとどうしてもなー」


「ふーん……まあ別に、読んでもいいけど」


「え?」


「うちの。親のだけど、別に読むくらいなら構わないし。もちろん親のだから貸せないし、絶対汚さないで丁寧に扱ってもらわないと困るけど」


「えー!? マジでいいのかよ桧原!?」


「うん、まあ読むだけなら。読みたいんでしょ? 漫画」


「そりゃよー、読みてーけど読めてねー漫画なんて山ほどあっからなー! 何度違法サイトに手を出しそうになったかって話でさー」


「見てないよね?」


「見てない見てない。マジでギリギリ踏みとどまってっから」


「そ、ならいいけど。まああんたが読みたいのがあるかはわからないけど、でも別に知らなかったやつでも読んでみたら面白かったとかはあるだろうし」


「そうだなー。実際漫画読めりゃなんでもいいしよー。さすがにあんまつまんねーのはあれだけど、でもコミックなってる時点でそんなつまんねーのはねーからなー」


「そうね……時間あれだけど、見るだけ見に来る?」


「いいの!? ぜってー行くわ! マジあんがとーな桧原!」


「別に。あんたの話聞いてたらさすがに相当漫画好きっていうのはわかったから」


「マジ熱く語ってよかったわー。いやー俺もまさか桧原とこんな漫画の話できるとは思わなかったからよー、こういう話できてめちゃくちゃうれしいわ。ダチには漫画のこと話せねーからなー」


「そうなの? なんでよ」


「まーあいつらはなー、そういうタイプじゃねーっつうかよー、漫画とかアニメとかそういうのオタクだキモいってバカにして見下してる感じだからなー。『バンプ』とか『ハキ』とかは別だけどよー。まー俺も好きなもんバカにされんのはさすがに嫌だからなー。あいつらには話さねーわー」


「ふーん……あんたのことなんかさ、あんたたちのことなんかよく知らないけど、でも学校で少しくらいは見たことあるけど、なんかバカそうに笑って騒いでるように見えたけどあんたもあんたで色々あんのね」


「どうだかなー。まー俺バカだからさー、なんも考えずバカみてーに騒いでんのが一番楽だからよー。てか桧原俺のことそんな知ってたんだな」


「別に。目立つから嫌でも目に入るし。そんないかにもバカっぽくてうるさい金髪は」


「やっぱー? まーバカなのは事実だけどな。ていうかよー、桧原はなんでガッコーこねーの?」


「……あんたには関係ないでしょ」


「いやー、でもこんなふうに話しちまったらよ、やっぱ俺は桧原にガッコー来て欲しいとか思っちまうけどなー。したらいっぱい漫画の話できんじゃん」


「は? ……いいの? 学校でそんな話してて」


「別に良くね? こっちはこっちあっちはあっちなんだしよー。俺が誰と何話そうが勝手じゃねー? 俺もこっちのほうが楽しいしよー」


「そう……まあ学校は行かないけどね」


「まあ無理強いはしねーけどよー。でも桧原がいたほうがぜってー楽しそうだけどなー。俺も留年取り消してもらえっかもしんねーしよー」


「それがメインじゃないの」


「なことねーけどデカくねーか? 俺バカだけどさすがに留年はしたくねーからよー。したらマジでバカになっちまうじゃねえか」


「今はマジのバカじゃないの?」


「どうだろうなー。まーバカを期待されてっからバカやってる部分はあっけどさー。まーそれなくてもバカなんだけどな」


 金田はそう言って笑う。


「そう……まあじゃあ、うち来るなら来ていいけど」


 桧原はそう言って立ち上がり、もと来た道を自宅まで戻る。そうして戻ってきた家の中に金田を案内する。金田が通された一室にはすべての壁一面に本棚があり、ところせましと漫画が詰め込まれていた。


「うおー! なんだこれすげー! やばっ、本屋じゃん!」


「本屋のほうがさすがに多いでしょ」


「かもしんないけど人んちじゃないってこれ! うわ、マジでこれ読んでいいの全部?」


「うん。でも言った通り気をつけて読んでね。中には結構古いのとかあるし」


「大丈夫大丈夫。俺バカだけど漫画はマジで大事にすっからよー。うお、手塚めっちゃある! 知らねーなんだこれ! 読んでる以前に知らねーのめっちゃあんじゃん! やっぱ火の鳥ブラックジャックは鉄板だよなー!」


「手塚まで読んでんだ。ほんと意外っていうか」


「いやさー、俺バカだからやっぱ本とか読めねーじゃん? だと図書室とか言っても漫画読むしかねーしよー。手塚なら図書室とか図書館にも置いてあっからなー。うわー、てか多すぎてまず選べねー。なんでこんなあんの?」


「親が好きだから。というより祖父からだけど。古いのなんかは元々祖父のだし」


「へー、すげーなー。漫画なんかバカにされんのにちゃんとじーちゃんとーちゃんが読んでんだなー。悩むぜー……」


「はは……でも不思議。というか変」


「なにが?」


「いや、金田のことなんかよく知らなかったけどまさか家に入れることになるなんて思ってなかったし。さっきだって、会った時はさ、そんなの全然」


「だよなー。俺は入れてもらわねーと学校連れてくなんて無理だとは思ってたけどよー。でも桧原がこんな漫画好きで漫画持ってるとは思ってなかったわー。そもそも俺全然桧原のこと知らなかったしよー」


「そうね……ちなみに別の場所に昔から買ってる『シエスタ』全部あるんだけど、見る?」


「は? え、全部って全部?」


「全部。一番最初から先月号まで」


「はー!? なんだよそれ宝の山じゃん! やばっ! んなの絶対見るやつだよ! つかそんな国宝読んじゃっていいのかよ!?」


「いいに決まってんじゃん。漫画は読まれないと意味ないんだし。うちの家族しか読まないんじゃもったいないしね」


「読む読むぜってー読む!」


 金田はそう言いルンルン気分で桧原についていき地下室へと向かう。


「すげー! 地下室あるだけでもすげーのにマジでシエスタめっちゃあるわー!」


「はは、なんかあんた相手だと見せがいあるね」


「そう? てかミセガイって?」


「見せたかい。そんだけ毎回本気で驚かれるとさ。やっぱりこれだって全然漫画読まない人からすればただのごみの山だろうし」


「いやいや超お宝だろこれー! 鑑定団に出たら百万つくぞー!?」


「どうだろうね。まあでも、ほんとに漫画好きだってわかるしそれ共有できるのは嬉しいかな」


「だよなー。やっぱ好きは共有してなんぼでよー。てか桧原って友達とかいんの?」


「は? なにいきなり」


「いやーだってフトーコーなわけじゃん? ほとんど一日中家いんだろ? だったら友達とかもいねーだろうし漫画のこと話す相手もいねーんじゃねーかって思ってさ。それって宝の持ち腐れじゃね?」


「かもね……まあでも今はネットとかあるし」


「ネットなー。けどやっぱ直接会って話す方がぜってー楽しいしよー。息づかいっつーの? こうやって話しててもさ、お互いの顔見えっからやっぱ相手がどんだけ好きかとかもすげー伝わんじゃん?」


「まあね。というか金田のは伝わりすぎ」


「やっぱ? 溢れちまうからなー。まーでもいいわ。んじゃ俺桧原の新しい友達な」


「は?」


「もー友達じゃん? 漫画好き仲間でよー、こんな意気投合してよー、お宝まで見せてもらってよー。ダチダチ」


 金田はそう言ってケラケラと笑う。


「……かもね。じゃ、好きに読んでいいから」


「うおーマジ興奮してきた! 最初のなんて全部新連載なんだろ? うわーすげータイムトラベルじゃん!」


 金田はそんな事を言いつつ、早速創刊号から読んでいくのであった。



 数時間後。


「没頭してるとこ悪いけどあんた時間大丈夫? こっちもそろそろ親帰ってくるし」


「あー? ――うお、いつの間にこんな時間経ってんだよ! やっぱ漫画読んでっと時間あっという間だよな」


 金田はそう言って立ち上がる。


「ほんと。永久に時間潰せるし」


「だよなー。何も考えなくていいから楽だしよー。ずっといてーけどさすがに帰るわ。てか明日も来ていい?」


「は? ……まあ、別にいいけど」


「マジ!? あんがとー! めっちゃ優しいな桧原は!」


「こういうの優しいっていう?」


「そうじゃね? いやーでもよー、あれだな。桧原は実はすげー萌えキャラだったんだな」


「はあ!?」


「すげーツンデレじゃん。最初あんな尖ってたのによー。やっぱギャップだよなーギャップ。萌えの基本」


「……あんた漫画の読みすぎでバカになってんじゃないの? てか今更萌えって」


「んだよ萌えに賞味期限なんかねーぞ。俺もよー、やっぱラブコメ好きだかんなー。女の子がかわいーってのはマジ大事だよな! アニメも見るけどよー、ゲームのプレイ動画とか。基本の基だろやっぱー」


「……あんた意外ともろにオタクだったのね」


「そうかー? 別にそういう意識はねーけどよー。好きなもんが好きってそれだけじゃね?」


「まあいいけど……さすがにイメージというか見た目とかと違いすぎてね」


「あー、かもなー。まあこれもダチに言われて染めただけだからなー」


 と金田は金髪頭をかりかりと掻く。


「けどよー、俺周りにゃ言ってねーけど実はメガネなんだぜー? 漫画の読みすぎで目ー悪くなってよー。バカのくせにメガネしてるわーってバカにされっからコンタクトにしてっけど」


「そうなんだ……そんな秘密会ったばっかの私に言っちゃっていいの?」


「いーじゃん全然。仲間なんだからさー。別に桧原に喋ったって誰かに言われるわけじゃねーしなー。まー言われたって話した俺が悪いだけなんだから別にいーけどよー」


「言うわけないじゃん。言う相手なんかいないし」


「ハハ! だよなー。けどガッコー来たらそういうわけにもいかねーだろ。まー俺も諦めるわけにはいかねーしよー、そもそも一回で説得できるなんても思ってねーからなー。まーまた明日来っからよろしくなー!」


「……わかった。まあいない可能性もゼロじゃないけど」


「あー引きこもりではなかったもんなー。んじゃLINEだ。教えてよ。LINEくらいはやってんでしょ?」


「アカウントくらいはね。親と連絡しないとだし」


「だよなー。まーでも桧原がお前みたいなのでよかったわ」


「は?」


「いやフトーコーとか聞いてたからよー、やっぱ引きこもりであんま喋れなくて暗いやつなのかもなーとか思ってたからなー。こんなめっちゃ話せてよかったわ。やっぱ会って話さねーとわかんねーよなー」


「……そうね。こっちもあんたがこんなんだと思ってなかったし」


「だよなー。んじゃまた明日なー! できたらでいいけどガッコー来いよ!」


 金田はそれだけ言い、ブンブンと手を振って桧原の家を出るのであった。



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