09 侍祭 シンシア
教練師の仕事…エマさん達、漆黒の番犬のスケジュールと私の休息日が重なる事が多い…と言うか、重ねてきている様で半分くらいはハリー君の相手である…を休息日にこなしながら冬を越して年が明け、春になった頃…私は神聖魔法使いレベル、神官としての技量がレベル5となっている事が発覚し、侍祭の資格を得られることになった。
その為の儀式として、朝の集いでハリス高司祭様初め、司祭様達の立会いの下、母から祝福を受けた。儀式はそれで終わり。至極あっさりとしたものである。
「さすがは大いなる才能の持ち主…才能に胡坐をかかずに努力されると追いつかれてしまうなぁ…」
「私も、おいて行かれないように頑張る…がんばらなきゃ…負けないよ!シンシアちゃん!」
アランとシャーロットからは儀式の後、そんな言葉で祝われた。
新しい神官服を仕立ててもらい、医療奉仕では下働きではなく神聖魔法を用いての治療を行うようになった…まあ、侍祭が使える程度の神聖魔法で出来る治療は(衛生状態と栄養状態がさほど悪くなければ)数日寝ていれば自然に治るような風邪を半日程度で治したり、ちょっとした傷を治したり、深い傷を祝福(消毒)して治りを早めたり、基本戦闘用ではあるが急性疲労を回復させたり、位である。その治療の相場は各自の経済状況に応じて神殿に寄進を小銀貨2枚、から。それでも長々と仕事を休むよりは収支としてはプラスになる為、結構利用者は多く、神殿の重要な収入源である。
他にも、いくつか日常業務の神聖魔法行使の一部を任されるようになってはいるのであるが、面食らったのは、堆肥の祝福、である。この世界において、病気の人や家畜の糞尿は灰にされ、健康な人と家畜の糞尿は堆肥にされる。堆肥にされるのではあるが…まあ、神様の…農耕神であるソリス神の言葉に『糞尿から作った肥料は神聖魔法による祝福で消毒してから畑に施肥せよ、特に生で食べる野菜に与える場合は絶対に(意訳)』というのがある。当然、それ(糞尿から作る肥料の祝福)は習慣というか義務と化しているのだが、まあ臭う。いや、正しく発酵した堆肥自体はそこまで臭わないのだが、複数のロットを近くで同時に処理しているため、その場所自体が非常に臭い。したがって、あまり好かれる仕事ではないため…基本的に村の駐在聖職者が司祭様で関連業務を全部お一人でこなしている、とかでもなければ侍祭・助祭の仕事となっている。と、いう訳で私にも城壁外の耕作地で使用される堆肥への祝福の仕事をする日がやってきた。
「神官様、あちらです」
案内役の農夫に先導され、私は城壁外の耕作地の外れにある屋根と柱だけの小屋がいくつか並ぶ場所にやってきた。そして、その中の一つの小屋を指し示された。なお、その農夫も私も分厚い布を鼻と口を覆うように巻いてマスクにしている。
「確認ですが、あの小屋の堆肥を祝福すればいいのですね?」
「はい、あちらの小屋は発酵が終わっていますので」
「では早速済ませてしまいましょう…」
私はそう言って、指し示された小屋に入り、息を吸い込み、祈った。
「我が主、戦神グラディアよ、どうか農耕神ソリスに代わって我が前にある一山の土塊に祝福を与えたまえ!」
そんな祈りと共に聖印に魔力を注ぐと堆肥の山が薄っすらと光った。それを確認した私はそそくさと小屋から距離を取り農夫の元に戻る。
「終わりました、コレであの小屋の堆肥は畑に施肥しても大丈夫です」
「ありがとうございます、神官様。確かに見届けさせていただきました。こちら、既定の奉納金です」
そう言って農夫は私に小銀貨4枚を支払った。
「はい、確かに預かりました。それでは、失礼いたします」
こうして、私は神殿に還り、奉納金をすべて会計係に渡し、水浴びに向かった。
そんなこんなで過ごしている初夏の頃の私の技能はこんな感じである。
戦士5、神官5、騎兵4、マルチタスク3、錬体師3、斥候2
大いなる才能があるとはいえ、流石にレベル5に至った技能の上りは悪い。初陣を経験すれば一つ殻を破れるのであろうが、何だかんだ、適切な規模の出撃が無いとの事で未だ初陣は果たしていない。ダンジョンへの討伐出撃への随伴という手もあるのではあるが、表層付近で魔物の掃討を仕事にしている冒険者がそこそこおり、神殿騎士団という実力者が活動する場としては深く潜る事が求められるのではあるが、高位の魔物が出現する深い階層に潜るときに従士という足手まといは避けたいと言う事情もあるらしい。まあ、警備任務や街道の巡回などに随行する程度の遠征任務はこなしてはいるが。
そして9の月を迎えて私は8歳になりその数カ月後…アルの、私の弟であるアルバート・オータムムーンの才能調べの儀式の日がやってきた。
「では、最後にライタウン共同神殿、神殿騎士団騎士隊長にして高司祭たる聖騎士マーガレット・オータムムーンの息子、アルバート・オータムムーン!」
今日の担当は契約神であるリブラ神に仕える司祭様である。なお、付き添いは非番の母である。
「我が主、契約神リブラよ、どうか主神メシスに代わってアルバート・オータムムーンの魂に刻まれし才能を我らに示したまえ!」
司祭様の祈りに伴って壇上が光に包まれ、ゆっくりとした威厳のある声が降ってくる。
『告げる。この者、アルバート・オータムムーンが持つギフトは5つである。
1つ、大いなる程度の神官の才能、
1つ、わずかな戦士の才能、
1つ、わずかな同時処理の才能、
1つ、わずかな騎兵の才能、
1つ、わずかな錬体師の才能、
以上である。ギフトは魂の過去の旅路を表し、この者の助けになる者ではあれど、道を定める物ではない事、努力無くして花開く事のない事、努々忘れる事無かれ』
告げられた才能は、大いなる才能を含むものであり通常ではライタウンくらいの規模の町では数年に一人の大当たりである…が、私という前例に比べればかすんでしまう…とは言え、私という例外と比べるような声と同じくらいさすがは高司祭様の子である、という声が聞こえてくるのであった。
神聖魔法における壁
1)信仰の壁。いずれかの神を信仰しなければならない。信仰が神又は御使いに認められると神聖魔法レベル1を習得する。
2)御使いによる承認の壁。神聖魔法レベルを5にして、かつ神又は御使いに認められる。一般に、御使いが『汝の信仰を認め、より多くの主の力を振るう事を承認せん』と宣言する為、御使いの承認と言われる。神聖魔法を習得して数年で到達できる事が多い。この宣言を受けてレベル6以上になる事が神官(侍祭)の初めの目標とされる。
3)神との謁見の壁。神聖魔法レベルを10にして、かつ神又はその従属神・御使いに神との謁見が認められ、謁見を果たす。この壁を越えると使用できる神聖魔法の幅が一気に広がり、神聖魔法を11以上に出来る。高司祭以上になるにはこれを達成する必要があるが、コレを生涯の目標とする聖職者も多く、大いなる名誉とされる。
・聖職者の階位と神聖魔法使いレベル(神殿所属)
信者、入門者: レベル1
見習い神官: レベル3以上
侍祭:レベル5。これ以降、神官と名乗る事が許される。魔力溜まりを散らす事ができる。在野のレベル5以上の神聖魔法使いは、一般に侍祭として遇される。(これはあくまでも神殿組織の階級の為)
助祭:レベル6に加えて侍祭として3年以上の経験を積んでいる事。村や砦などに設置される礼拝所の責任者になる事ができる。
司祭:レベル9に加えて助祭として5年以上の経験を積んでいる事。神殿の責任者になる事ができる。なお、赴任地が特定の神の信仰が特に強い場合を除いて共同で神殿を運営する為、神殿の運営会議の議員になる、と認識される。
高司祭:レベル11以上の司祭。神に謁見し、暫く修業を積んでなれる地位。一代貴族として扱われる。
司教:その地域の神殿の取りまとめ役。高司祭に被選挙権が、司祭以上に選挙権が与えられる。任期は原則5年で再選制限なし。