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06 従士 シンシア

七歳になって少し経った頃、私は見習い戦士から従士に昇格した。

「「おめでとう、シンディ」」

騎士と従士たちに囲まれた簡単な儀式の後、私は両親から寿がれていた…が。

「これからは魔物討伐への参加もあるから今まで以上にしっかり訓練するのよ」

「そうだな、足手纏いになってはいけないからな」

…そうである、私、7歳なのに初陣が迫っており、その為の装備一式もきっちり貸与されている。

その装備、硬化処理した皮鎧一式に鉄で補強した木製のラウンジシールドが防具、それに武器として短槍に歩兵剣であるが…まあ、従士の装備としては立派なものである。自衛できる騎士の助手、位の地位であるし。


「追いつかれてしまいましたね、シンシアさん」

そう声をかけてくるのは友人のアラン。この度、めでたく同僚となった従士でもある。

「シンシアちゃんに負けないように、私も頑張らないと、です」

そう言うのは友人のシャーロット。同じく同僚となった従士である。

「そうですね、正式に同僚になったからには…誰が一番先に聖騎士養成所に進めるか競争ですかね」

次は、戦士レベルを7以上に、神官レベルと騎兵レベルを5以上にして司祭様以上の聖職者の推薦を受けて聖騎士養成所という司教座都市にある施設で(この世界基準では)高等学問を最低1年は学ぶ必要がある。その後、司教様による叙任儀式を受けて、正式に聖騎士となれる。まあ、予習しておく事は自由なのでライタウン神殿では有志の聖騎士様が希望する聖騎士養成所への進学が近い従士相手に授業を行っているが。

「フフ…負けませんよ」

「そうだね!私も負けないです!」

そう言って、私達は笑い合った。


さて、7歳になりかつ従士になった事で、私は帯剣を条件に大人の引率なしに町に出かけ、また城壁の外周に出る事を許可された。と、言う事で従士になってから迎えた初めての休息日、丁度休みが重なったシャーロットと共に町に繰り出し…冒険者ギルド(正式名称は魔物狩猟者同業者組合であるが、公文書でさえも大体は冒険者ギルドと呼ばれる)にやってきていた。と、言うのも小遣いを稼ぐためである。とは言っても、お手軽に登録して日帰りの仕事を…と言う事ではない。

前世で古典派ナーロッパ文学と呼ばれる分野ではそう言う事も出来ていたが、この世界ではできない。というか、曲がりなりにもギルド(同業者組合)であるのにできる訳がない。見習い登録をする場合でも戦士又は魔導師の技能レベル3が求められ、最大戦闘技能レベルが5になるまでは見習いとして扱われ続ける。見習いはギルドの斡旋で熟練(最大技能レベル9以上が目安)の冒険者がリーダーを務めるPTの雑用として働きながら訓練を受けてレベルを上げる。レベル5になったら卒業だが、リーダーに求められた場合、そのPTに、最大の技能レベルが7になる、レベルの合計が5上がる、免除金を支払う、3年間経過する、のいずれかを満たすまで所属し続ける必要がある。当然、その間、分け前というか給料は割引である。

では、何をしに来たのかというと、教練師としての登録の為である。既に述べたとおり、見習いは熟練者のPTに所属し、訓練を受ける。この訓練というのは実地訓練のみならず、戦闘訓練も含むのだが、PTの休息日にPTメンバーから訓練を受ける事が基本…と言う事にはなっているのだが、まあ、休みの日はしっかり休みたいというのが人情というものである。他にも、見習いにギルドで訓練させるという名目で町に残し、足手纏いなしに仕事をしたい時だってあるし、そもそも斡旋先のPTが見つからない待機期間だってある。

そんな時に利用されるのが教練師というシステムである。要するに、戦闘訓練の外部委託なのだが、コレは『身元が確か』でさえあれば誰でも受託できるのだ。例えば、引退した冒険者や神殿騎士団の関係者、軍関係者など。従士に昇格した私は神殿騎士団関係者に当たるので、コレで小遣い稼ぎができるのだ…とは言え、戦士レベル5である私の報酬相場は1時間の1対1レッスンで小銀貨1枚である…まあ、この町の技能レベル5程度の労働者の日当相場が小銀貨6枚であるらしい事を考えれば言うほど安いわけではないが。

「おはよう、シャーロットちゃん。今日は早いわね、教練師の仕事の時間まではもう少しあるわよ…ってそっちの子は?」

冒険者ギルドで雇われている事務のおばさんがシャーロットにそう言って声をかける。

「おはようございます、アンナさん。この子は同僚のシンシアちゃんです」

「初めまして、神殿騎士団従士のシンシア・オータムムーンと申します。本日は教練師登録をしたくてやってきました…こちら、紹介状です」

そう言って私は挨拶して、蝋印で封印された羊皮紙の手紙を差し出す。

「シンシア・オータムムーンと言うと、オータムムーン高司祭様の娘の?あんたーお客さんだよ!」

アンナさんがそう叫ぶと奥の部屋から40代後半くらいの中年男性が現れた。

「…客ってシャーロット嬢ちゃんの隣の嬢ちゃんか?…帯剣しているって事は教練師登録しに来た従士って所か…俺はこの町の冒険者ギルドを任されているマイケル・バークだ」

「初めまして、バークギルド長。ご明察の通り、私はライタウン神殿、神殿騎士団従士のシンシア・オータムムーンと申します。本日は教練師登録をしたく、伺いました」

そう述べて、私は神殿式の礼をする。

「フム…礼儀はきちんとしているな…さすがはオータムムーン高司祭様の娘、って所か。で、紹介状は…それか」

そう言ってアンナさんから紹介状を受け取ったバークギルド長はナイフで封印を解き、その内容を確認した。

「フム…確認した。問題ないぜ、冒険者ギルドはあんたを歓迎する…うちのヒヨコたちを鍛えてやってくれ、未来の英雄様!」

「はい…って未来の英雄様…ですか?」

「ん?知らんのか?あんたの才能調べの儀の時の内容が町中に広まって、未来の英雄だって一時期大騒ぎしていたものだが?」

「…そうなんですね、私、殆ど神殿から出ないので」

「あーそういや、そうらしいな…まあ、期待しているって事だよ、聖騎士様になるのは確定だろうし、遍歴の旅で活躍してくれると嬉しい」

「はい、ご期待に応えられるよう、誠心誠意鍛錬を積みます」

「おう、がんばれよ。じゃあアンナ、後はまかせたぜ」

そう言ってバークギルド長は奥の部屋に戻っていった。

「さて、じゃあ教練師登録の手続きをするよ」

そう言って、アンナさんは教練師の仕事の仕組みを説明してくれた。基本的にはレベル5未満の見習い相手に剣や槍を主とする武器の稽古をつけるのが仕事であるが、もっと上級の冒険者が鍛錬相手を求める事もある事。お互いの都合の良い日時に応じてギルドが斡旋するが教練師の名簿を元に相手が選ぶ事もある事。訓練は城壁外に整備されている訓練所で行う事。報酬の相場について…などである。

「以上をまとめた書類がコレだよ。内容を確認して署名しておくれ…あ、文字は読めるね?」

「はい、読めます。ええっと…」

内容に問題が無い事を確認して羊皮紙に署名をする。

「よし、これで登録は終わりだよ…ちょっと待っていておくれ、旦那に登録証のサイン貰うから」

そう言ってアンナさんは奥の部屋…ギルド長の執務室に入っていき、少しすると出てきた。

「はい、コレが教練師の登録証、それが無いと教練師の仕事はできないから、無くさないようにね。無くしたら紹介状の再提出と罰金小銀貨10枚の支払いが済むまで再発行はできないよ」

そう言ってアンナさんは羊皮紙の書類をくれた。そこには私の外見的特徴が列挙されており、それと共に私の名前が書かれ、上記の者がライタウンで教練師として働く事を認める旨の一文とバークギルド長の署名がされていた。

「ありがとうございます、次の休息日は6日後ですが、今日は仕事できないですよね?」

「次は6日後だね、了解だよ。後、今日は仕事は斡旋できないけど、訓練場で自主トレーニングをしている連中を捕まえて教練をしても良いよ。ただし、その前にギルドに連れてきておくれ」

「はい、わかりました」

「じゃあ、一度訓練所で呼び込みしてみようか、シンシアちゃん」

「はい、シャーロットさん」

と、言う事で私は城門をくぐり、シャーロットと共にギルドの訓練場に向かった。


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