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03 誕生から幼児前期

さて、次に意識が戻った時、私は液体に浮かんでいた…赤ん坊からと聞いていたが胎児かららしい。

そう思った直後、液体の流れを感じ、少しすると押し出されるような力を感じた…ああ、誕生の瞬間に意識が宿ったわけか。

そう思考しているとグイグイと押し出され、産道を通り…私は生まれた。

「オギャーオギャー」

本能のままに泣き叫んでいると私を抱き上げる者がいた。

「がんばりましたね、マーガレット殿…元気な女の子ですよ。ジルベスタ殿、もう入って大丈夫ですよ」

「おお、よくやった、マリー。エリオット様もありがとうございます。」

「いえ、当然のことです。娘の出産のときはマーガレット殿に助けられましたからね…さ、そんな事より子を抱いてあげてください、マーガレット殿」

そう言って、私は母らしき人物に渡された…ようだ。

「ああ、可愛い私達の娘…女の子だからシンシア…シンディね」

「そうだな、マリー。よろしく、シンディ、生まれてきてくれてありがとう…早速だけど、マリー、生誕の祈りはできるかい?」

「ええ、もちろん…主神メシス神、我が主、戦神グラディア神…新たに生まれた命、シンシア・オータムムーンにどうか加護をお与え下さい」

母らしき人物がそう唱えると、急に暖かな神気が私を包んだ。

私はその心地よい神気に再び意識を飛ばし、眠りに落ちるのであった。




そうして本能のまま母乳を貪り、眠り、排泄し、泣く生活を(たぶん)半年ほど続けている間に受動的に情報収集した結果、私はグラスラントと呼ばれる大国に従属する町、ライタウン(ライ麦の町)の共同神殿の女高司祭にして街に屯するライタウン神殿共同騎士団の隊長の一人である母とその部下であり神殿の警備兵を兼務している俗人騎士の父の間に生まれた娘であるとわかった。これは非常に運が良い生まれであると言える。この世界における町とは一部例外を除けば人口数千人程度を目安とする中小の城壁都市を指し、その防衛力は余程の事が無い限り抜かれる事と考えられ、街道の中継村や衛星農村に比べればずっと安心である。(とはいえ、その余程の事が時々起こるのがこの世界、プライムアースという剣と魔法の世界なのだが)

しかも、両親が神殿所属という事は、万一孤児になっても割と手厚く育てられる立場であるし、母は大半の国で貴族扱いを受ける高司祭である。さらに、神殿所属で神官戦士という事は私の想定針路である聖騎士ルートを応援してくれる可能性が非常に高い。まあ、これに関しては才能調べの儀式の結果を見れば大体の親は応援してくれると思うが。




で、首が座ってハイハイをしながら神殿の両親に与えられた部屋の中を這いずり回り離乳食を食べ…両親や当番制でやってくる司祭である母のお手伝いの見習い神官たちと片言でお話をしているとあっという間に2歳の誕生日を迎えた。その間、両親は何度も遠征らしき半月位の不在を繰り返していたが、共に大怪我を負う事もなく、五体満足で帰って来てくれている。

「「誕生月おめでとう、シンディ」」

昼食後に共同食堂でそう両親に誕生月を寿がれてご機嫌モードな私の前にはドライフルーツをたっぷり使ったはちみつ入りの甘くて柔らかい小ぶりのパンがおかれていた。母たちが差配するこの神殿では贅沢品に分類される菓子パンである。自力でお小遣いを稼げない私がこれを食べられるのは年に三回、父の誕生月と母の誕生月に一口だけ分けてもらえるのと、私自身の誕生月の各々の生誕を祝う月例日である今日である。まあ、同じく贅沢品である肉に関しては戦士階級である両親は、特権として毎日のように食べているが…肉の中ではほぼ最安である硬い干し肉…大体は動物系の魔物や老いた家畜の肉、それも一度保存食として蓄えられていた古いモノらしい…とは言え。

「さ、シンディ、食べる前に感謝のお祈りしましょうね、お母さんに続いて」

「アイ!」

「神々の皆さま、今年も加護を頂きありがとうございました」

「かみがみのみなしゃま、ことしもかごをいただきありがとうごじゃいました」

「これからも加護を頂けますよう、改めてお祈りを捧げます」

「これからもかごをいただけますよう、あらためておいのりをささげましゅ!」

そう、母に続いて世俗者のする誕生日祝いの好物を食べる前の祈りを捧げる…まあ、誕生日ケーキのようなもので、一般には好物を前に一年間の感謝をささげる祈りを神々に捧げ、今後も加護を頂けるように祈る儀式である。神殿に住む世俗の者は大体この祈りを捧げてこの菓子パンを食する。母を含めた聖職者は普段より長い礼拝をおこなっているらしいが。

「さ、シンディ、食べていいわよ」

そう言われ、私はパンに手を伸ばし…少しずつちぎって両親に差し出した。

「アイ、かあしゃま、とうしゃま、あげりゅ。おれい」

よくわかっていない幼児は食べていいよと言われるとそのまま全部自分で食べてしまうのだが、この儀式を共にした家族や婚約者とは分け合うのが正式な作法である。逆に、家族以外にコレを行うのはプロポーズと同義になる地域さえあるくらいだとハスタ様から習った。

「ふふ、ありがとう、シンディ。シンディは賢いわね」

「ありがとう、シンディ、ありがたく頂く」

そして、菓子パンの残りは美味しく頂いた。その様子を神殿の大人たちは微笑ましく眺めていた。




二歳の誕生月祝いの後、教会関係者用の託児所に預けられるようになり、絵本などを読んで貰うというヒマつぶしが増えてあっという間に一年が経ち…3歳の誕生月を祝う月例日がやってきた。この日はとても特別な日で…神殿で各々が生まれ持った才能(ギフト)を調べる日である。なお、町中の誕生月が今月である三歳児が集まる為、人口数千人のこの街でも毎月ざっと十数人くらい集まる。

「では、最後にライタウン共同神殿、神殿騎士団俗人騎士ジルベスタ・オータムムーンの娘、シンシア・オータムムーン!」

高司祭様…なんと担当は母である、当番は町にいる高司祭様と司祭様の中から籤で決めるらしいので、偶然だが…に呼ばれ、父に手を引かれ、壇上へと昇る。

「我が主、戦神グラディアよ、どうか主神メシスに代わってシンシア・オータムムーンの魂に刻まれし才能を我らに示したまえ!」

母の祈りに伴って壇上が光に包まれ、ゆっくりとした威厳のある声が降ってくる。

『告げる。この者、シンシア・オータムムーンが持つギフトは7つである』

この時点で、場が騒めく…個人情報保護なんて概念はないので礼拝堂全体に丸聞こえなのである、コレ。

『1つ、大いなる戦士の才能、

1つ、大いなる神官の才能、

1つ、大いなる同時処理の才能、

1つ、中程度の騎兵の才能、

1つ、中程度の斥候の才能、

1つ、中程度の錬体師の才能、

1つ、わずかな官吏の才能、

以上である。ギフトは魂の過去の旅路を表し、この者の助けになる物ではあれど、道を定める物ではない事、努力無くして花開く事のない事、努々忘れる事無かれ』

そして声と光が収まると場が爆発した。曰く、私はどんな大英雄の生まれ変わりなのだろうか、と。もっとも、私と同格の、それも大多数が何らかの天賦の才を持った三歳児たち(同時に生まれていれば)が各地にいる筈なのであるが…具体的には私を含めて10人ほど。





新登場人物

シンディ(シンシア)・オータムムーン

ヒロイン。元、秋月真琴さん。前世は最低でもVRホスピスに入所する(老化で体がほとんど動かなくなる)までは長生きし、VRMMOをやりながらポックリ逝った。本人曰く、無個性なゲーマーで、特徴を強いて言えばレズビアンである事くらい。万能細胞技術と人工子宮技術の一般化に伴い、21世紀初頭の日本においてメガネをかけている、位の個性であると本人は認識している。が、実際は社会生活を維持しながらメジャータイトルの上位ランカーに食い込める程度には優れたゲーマー。その気があればeスポーツで食べていけた。


ジル(ジルベスタ)・オータムムーン

ヒロインの父、元冒険者で現在は神殿所属の俗人騎士、元騎士家の3男。

戦闘技能は騎士(戦士・騎兵)・斥候・錬体師


マリー(マーガレット)・オータムムーン(旧姓ガードナー)

ヒロインの母、高司祭位の聖職者、ジルベスタとは冒険者(遍歴)時代のPT仲間。

ライタウンの高司祭は彼女とハリス高司祭の二人のみ。

戦闘技能は聖騎士(神聖魔法使い、戦士、騎兵、マルチタスク)で指揮者。


エリオット・ハリス

主神メシスに使える高司祭様。マーガレットの出産の指揮を執っていた。


戦神 グラディア

マーガレットが仕える戦いを司る女神の一柱。日頃の危機への備えを重視する。

飢饉に備えての備蓄などについても推奨している。神話では主神メシスの近衛である戦神ハスタの恋人として描かれている。

『脅威に備えよ、戦は手元にある手札で戦うしかないのだから』


具体的には私を含めて10人程。

 プライムアースには無数の並行世界が存在し、通常、一世界に異世界の記憶持ちの転生者は一人だけなのだが、今回は世界が足りない為、特例で1つのプライムアースに10人程転生している…と、ハスタ様から習った。

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