14 予兆
本日まで毎日投稿させて頂きましたが、ストックが少なくなりつつありますので、ストックが溜まるまでは週1(日曜12時)の投稿とさせていただきます。
1章の終わりくらいまでは間に合うはずだったんですが、第2作(神様転生2回目!)の方の筆が乗ってしまって…ごめんなさい。
さて、なりたての騎士様くらいには強くなった私は従士身分のまま、時々ダンジョンへの遠征に参加できるようになった。両親の様に精鋭部隊に加わってダンジョンコアへアタックするような事は出来ないが、初陣の時は時間稼ぎで精いっぱいだったオーガの通常個体を相手に楽に勝利できるようになっており、神殿騎士団の戦力として数えられるようになっていた。
また、ハリー君への教練だが、相変わらず、月に2回程度、午前2時間、午後2時間の計4時間行っており、毎回小銀貨6枚の支払いを受けている…そのおかげと増えた実戦経験のおかげか、ハリー君もグンと成長している…私が遠征に参加して実力を伸ばしていなければ時々負ける事もあるであろう、と言うほどには。なお、生活費を除いた自分の分け前を殆どつぎ込んで毎週みっちり鍛錬を入れようとしたハリー君は武具の更新費用としてある程度は貯めておけ、とエマさんに叱られていた。
ほかにも、助祭に昇進した事で仕事内容も変わり、割と忙しく過ごし…時は流れて私が12歳になった9月の例月祭の頃…ダンジョンに異変が起こった。
それは私の初陣の時にあったような奥の階層から魔物が上がってくるいわゆるお上りさんが多発しているのだ。これは最低でも千を超える魔物の軍勢がダンジョンから出撃し、ダンジョンが株分けを目論む氾濫の兆しであった。とはいえ、本来、それは特に問題のない事、いや望ましい事である筈だった。なぜなら、氾濫を起こすにはダンジョンはため込んだ魔力を大量に消費する必要があり、また相当古いダンジョンとはいえ、この辺りの人類の軍事力は一個のダンジョンの氾濫程度であれば十分に対処できるからである。しかし、氾濫の兆しが前線の町フォート・アントンと接する魔境…人類が駆逐された領域…の複数のダンジョンでも観察されているとなれば話は変わる。その対処の為には、このグラスラント東部辺境の総力を結集させる必要があり…正直、それでも手が足りない。
この報告を受けた辺境伯閣下…東部辺境全てを封土としている…は直ちに王都に対して騎士団の出撃を要請したらしい。とはいえ、このライタウン(ライタウンの西方向に王都への続く街道がある)から王都まで通常の旅程で1週間、替え馬を使って急使を出しても3日かかる。よって、王都への第一報には緊急の通信手段が使用される事になった…神様の力を借りた通信である。これはレベル11以上の神聖魔法使い、聖職者の階位で言えば高司祭以上になる資格がある者が使用できる神聖魔法である。まあ、要するに神様に司教様宛の伝言を頼むのだが、そんな畏れ多い事を気軽にできる訳もなく、町1つ、場合によっては都市・地域が滅びかねない事態の伝達に使用される。
と、いう訳でハリス様が王都の司教様宛に『複数のダンジョンが同時に氾濫する兆しがあり、辺境伯閣下が王陛下に騎士団の派遣を要請する』旨の伝言をメシス様にお願いした。これで王都側の出陣準備は通常より二日早くから始められる為、辺境伯閣下の書状が届き次第騎士団が出発すると仮定して、早ければ10日後には騎士団の先遣隊がライタウンまで到着する事になるだろう。
とは言え、状況は予断を許さない。逆に言えば、短くとも十日間は辺境の兵力だけで対応をしなければならず、かつ王都の騎士団がいかに精兵といえども数の上では寡兵にすぎず、その想定運用は城塞都市を包囲する魔物の軍を打撃したり、徴募軍を数的主力として敵と対陣している時に暴れまわったりする機動軍である為、現地兵力が健在でなければならず、騎士団だけで全てをひっくり返せるわけではない。
辺境伯閣下は国境都市ヨーク・ウォールからライタウンの館に移動し、全体の指揮を執る運びとなった。また、ライタウンとフォート・アントンの庇護下にある全ての村に避難命令と動員令が発令されて村人たちは各城塞都市に避難を開始、ヨーク・ウォールにも念の為、避難準備命令と動員令が発令している。
半日に及ぶ会議の後に辺境伯閣下と母(神殿騎士団の団長)とその幕僚の任に当たる騎士たちは次のような防衛作戦を作成した。それを説明する前に東部辺境の位置関係を確認しておく。
ライタウンを中心とみると、まず、西に広がる森林地帯を貫くようにグラスラント中央部を経由して王都に繋がる街道が伸びている。この街道はライタウン付近で南東と北東に分岐しており、南東に街道を二日行くと隣国との国境都市である辺境最大の都市、ヨーク・ウォールがある。街道を北東に一日行くとライタウン北方から東方に位置する山脈・丘陵地帯にたどり着き、その山脈地帯の切れ目…とは言え小高い丘くらいの高さはある…を塞ぐように魔境からの魔物の侵入を防ぐ守備砦がある。その砦からさらに北東に一日進むと魔境と接するフォート・アントンにたどり着く。最後に、ライタウンから東に半日行くと古いダンジョンがあり、その境界付近に監視砦が建てられている。
さて、まずそれに基づく状況判断であるが、位置関係からして、ライタウン東のダンジョンから現れる軍勢…魔物軍Aと呼称する…の矛先は本命がライタウン、対抗でライタウンとヨーク・ウォールを結ぶ街道の中継村であり、ヨーク・ウォールは今回の氾濫の矛先が向く可能性は低い。
よって、ヨーク・ウォール市の守備はヨーク・ウォール市周辺から徴募される徴募兵が担当し、平時は国境警備を担当している常備兵の一部とヨーク・ウォール神殿の神殿騎士団と冒険者たちを抽出し、中継村に配置する。
次に、ライタウンには辺境伯配下の騎士団を含む常備兵と徴募兵をもって正面戦力だけで500を超える規模の辺境軍を組織する。神殿の半兵士である弓兵の訓練を受けている面々はこの辺境軍に加わる。
ライタウンの冒険者たちは守備砦に移動し、フォート・アントンを支援する。
そして、フォート・アントンの全兵力は魔境から襲来するであろう魔物軍Bに備えて籠城して救援(随時増強する予定だが、主力は魔物軍Aを撃破した後になる予定)を待つ事となった。
魔物軍Aは従来通りであれば最寄りかつ人口密集地のライタウンを襲撃するとみられているが、既に述べたように南進して中継村を襲撃する可能性も残る。その場合は中継村に配置された兵力をもって防御、辺境軍でその背面を攻撃する。想定通り魔物軍Aがライタウンに進撃してきた際は辺境軍を展開して魔物軍Aの遅延・漸減を試みると共にその側面を中継村に配した兵力で打撃した後、ライタウンへ退却、王都からの救援が来るまで籠城戦に移る。
で、だ。我々ライタウン神殿の神殿騎士団は何をするかというと…斥候・遊撃隊である。まず、ダンジョンの監視砦迄前進し、監視砦の守備兵と共に魔物軍Aを監視する。魔物軍Aの出撃を確認し、狼煙を上げたら包囲される前に監視砦の守備隊は撤退、辺境軍に合流する。私たち神殿騎士団も監視砦を放棄して出撃、魔物軍Aを監視し、その進撃先を見極める。その後は伝令を中継村の部隊に出し、一度辺境軍に合流する予定である。そして、魔物軍Aとの会戦では辺境軍の左翼騎兵として野戦への参戦を予定している。その後は辺境軍と共にライタウンに籠城…せず、北進し、一度、峠の守備砦に移動、休養・補給後、ライタウンを包囲する魔物軍Aまたはフォート・アントンを攻囲しているであろう魔物軍Bに随時襲撃を仕掛ける…予定である。
と、いう訳で私達、ライタウン神殿の神殿騎士団は武装を固め、従士を含めて全員騎乗で監視砦に進出した。
その二日後の明朝…ダンジョン表層に集結、増強を続けていた魔物軍Aはその総兵力を概算で5千としてダンジョン境界を踏み越えた。