01 神様転生準備中 1
「お集りの皆様、この度はご愁傷さまでした…心からお悔やみ申し上げます」
気づけば私はそんな言葉をかけられていた。そこは21世紀頃の日本製映像作品に出てくる教室の様な場所で、教壇には神聖な感じのする女性が二人立っていた。片方は貴婦人といった感じでもう一人は軍人っぽい感じである
「はい、全員目覚めましたね。状況説明が終わるまで一切行動できない様になっていますのでちゃんと話を聞いてください」
2人の内、貴婦人っぽい方がそう喋り出した。
「まず、この場所ですが…わかりやすく言うと死後の世界です。死因はそれぞれですが、皆さんはお亡くなりになられました。念のため言っておきますが我々神やその眷族の手違いなどによる死亡ではありません」
そう言われて必死に記憶をたどると、最後の記憶はVRホスピス(生命維持装置を兼ねたポット式VR機器に繋がれて体が死ぬまでをVR空間で過ごす施設)に入所して、VRMMOをプレイしている記憶だった…まあ、恐らく老衰で天寿を全うしたのだろう。
「そして皆さんには剣と魔法の世界へ記憶を保って異世界転生をして頂きます。
その転生に先立って皆様には皆さんの暦で3年の準備期間が与えられます。あ、特別な能力とかの授与はありません。しいて言えば準備期間に学んだ事が特殊能力ですね」
ほう…異世界転生とな?ある程度の期間を開けて流行する分野である…私の学生時代、そしてVRホスピスに入る数年前にもブームが来ていたはずである。かくいう私も好きな文学ジャンルである。
「私は転生先の世界の主神でもある豊穣神です、必要があればメシスと呼んでください。
転生までの3年強の間は私の眷族が皆様のお世話と教練を担当します。
そして、そのカリキュラムですが、最初の一週間で転生先の世界について簡単に学んでもらい、それに基づいて皆様が何をやりたいかを決めてもらいます。
その後の3年間でそれに基づいて訓練を積み、身につけた技能の才能を持って転生する事となります。
私からの説明は以上です。
では、皆さんが鍛錬に励むことを期待いたします。ではハスタ、後は任せます」
そう一方的に告げたメシス様はすっと消えていった。
「さて、もう動けるようになったはずだ。私はメシス様の眷族の一柱であるハスタ、諸君らの初期教育を担当する。質問がある物は挙手を」
そう言われて私はぐるりと周囲を観察する…この殺風景な教室には私を含めて40名の若者が集められている様に『見える』…若者?私は老衰するような老婆である筈だが…
「ハイ」
窓際に座っていた『生徒』の一人がそんな声と共に挙手をした。
「君は…橋本 久美子 殿だったか、質問を許可する」
「あの、私はもう婆ちゃんと言う年だった筈なのですが…若い頃の姿なのはどうしてでしょう?」
「ああ、それか。皆には基本的には武芸を身に着けてもらう予定なのでな…老人の姿より若い頃の姿の方が精神的にやりやすかろうという事だ。実体は魂だけの存在なので、強く念じればどの年代の姿でも取れるはずだ」
「わかりました…本当ですね…」
橋本さんは姿を老婆に変え、窓に映る姿を見てそういった。
「まあ、どの年代の姿でいるかは各人の好きにするといいが、場所の雰囲気に合わせるなら若者の姿を推奨する。他に質問のある者は」
無言で幾つか手が上がる。
「では、高橋 隆 殿」
「随分と古風な教室なのですが、なぜでしょうか」
「あーそれについては、特に意味はない。しいて言えば、諸君らが地球系文明の日本出身であるからだ。幾つもの並行世界から徴募されている都合、出身時代が異なるので、一番古い時代から来た者の学生時代に合わせた」
「わかりました」
「うむ、では次…近藤 千尋 殿」
「一応聞いておきますが、転生への拒否権はありますか?あと、スローライフ系や生産職系は希望できますか?」
「転生自体の拒否はできない。とはいえ、記憶保持の拒否に関しては認められているので実質ある、ともいえる。スローライフ系…と言うと君達の概念で言う第一次産業の生産職を指すのだと解釈するが、生産職専業はやめて欲しい。最低でも三年の期間の内最初の一年分は武芸を学んでほしい。とは言え、それは転生前の教練の話で、転生後にどう生きるかは諸君らの自由だ…とはいえ、生前の性格に関する書類審査からして純粋な生産職を望むような者はいないと思うが…な」
「一応の選択の自由があるという事はわかりました、ありがとうございます」
「他は…秋月 真琴 殿」
最後まで挙手していた私が指名される。
「メシス様は身に着けた技能ではなく、その才能を持って転生する、とおっしゃっていたかと思いますがその意味をお教えいただけますか?」
「それは、諸君らが魂だけの存在で、転生後の身体の経験を積めるわけではないからだ。例えば戦士としての訓練を受けたとして、転生後の身体でその技能を発揮するには経験を積み、技術を体と一致させなければならないし、身体能力自体の鍛錬も必要だからな。魔法・魔術についても同様である」
「他は…ないようだな、では授業を始める」
そう言ってハスタ様が始めた授業は、時々質問タイムと小休止的な話が挟まるものの、一週間ぶっ続けで行われた…そう、睡眠も排泄も食事もなし、である…その必要はないし、脳が疲れる、という概念すらないのでついていけたのだが…と言うかコレ、VR技術の応用の強制学習と同類の技術のような気がする。
で、初日に学んだことは転生予定の箱庭世界プライムアースについての大まかな地理・歴史・社会制度・社会風俗について、プライムアースに存在する戦闘技能体系について、である。
一言で雑に説明すると中世ナーロッパ系世界である。
ただし、色々な社会制度を神様に依存している為、そして魔物の脅威の為、停滞世界と呼ぶのが相応しい感じであるな、と私は印象を受けた。
地理はざっと言って多少の凹凸はあるが、楕円形に近いオーストラリア大陸サイズの大陸が一つの平面世界である事、その中央に大きめの湖、ヴァルハラ湖が存在し、その中央が不可侵の女神の聖域とされている事、その湖から大陸周囲に向かって東西南北に大河が流れ出ており、大陸を四等分している事、くらいか。他のこまごまとした事もざっとは学んだ。
歴史については人類が創造されてから五千年がたっている事、時々魔物に生存領域を脅かされる暗黒時代が訪れる事、国家間の大事件について少し…くらいか。
社会制度はナーロッパお約束の冒険者制度が存在する事、基本的に平均的な『国』は中核となる(人口が1万人を超える様な)城塞都市が1つとそれに従属する町(人口数千程度の城塞都市)、それらに庇護される農村で構成されている事、『大国』と呼ばれる国でも人口が1万を超える都市は10を超える事はまずない事、それらをまたぐ神殿連合という勢力について。
社会風俗については、ナーロッパそのままでかなり衛生的であるようで助かった…私からしても耐えられなくはないという感じで…ここまでの説明で丸一日の時間を要した。というか、詳しくは転生後に学べ、とざっと流された感じか。
で、その次の日は戦闘関係技能についての説明と神様・精霊・魔力・魔法・魔術について。
戦闘関係技能は大まかに分けて戦士系技能と魔導師系技能と補助技能に分けられる。戦士系技能はさらに戦士・軽戦士・格闘家・射手に分けられ、魔導師系技能は神聖魔法使い・精霊魔法使い・召喚魔法使い・魔術師に分けられ、補助技能は…色々あったがメジャーなものとしては斥候・救護師・騎兵・錬体師・指揮者・魔導具使いである。
戦士は文字通り武器を持って戦う者で、どちらかというと重戦士的な技能で投擲もこなす。
軽戦士は比較的軽い武具のみを使用して機敏に動いて戦う戦士の事である。
格闘家は俗にいうモンク、格闘武器と言われる武器しか使用せずに剛柔問わず格闘技を用いて戦う。
射手は投擲・弓系の武器を専門に用いる技能で、ボウガンや後述する魔導具使いの武器であるガンもこの技能を用いて戦う。
神聖魔法使いは俗にいう神官で、回復・治療・自陣へのバフ・不浄系魔物へのデバフなどを使える。
精霊魔法使いは精霊の力を借りて魔法を行使する魔法使いで一般的なファンタジー魔法使いが該当する。
召喚魔法使いは霊魂や動物系の魔物の力を借り、というか呼び寄せて戦う技能である。
魔術師は魔術を扱う者の総称…魔法と魔術の違いは後述…で、魔法使いより威力に劣るが自身の力の身で魔導を発現する為、気軽に使えるらしい。生活魔術とかは非戦闘員でも身に着けている場合が割とある。
斥候は俗にスカウトやシーフ等と呼ばれる技能である。
救護師は戦場での応急手当や薬草・薬品の使い方に詳しい技能である。
騎兵は文字通り動物や乗り物(非常に高価だがそう言う魔導具もあるらしい)に騎乗して戦う技能である。
錬体師は戦士系技能保持者なら大なり小なり行っている魔力による身体強化をより強力に実施する為の技能である。
指揮者は人心掌握術を含めた小部隊指揮官として必要な技能を身に着けたものを指す。
魔導具使いは魔力を用いて使用する道具を使って戦う者で、魔武具と呼ばれる特殊な武具を用いたり、魔石で作られた爆弾なんか投げたり、ガンと呼ばれる銃のような魔導攻撃を行える武器を使ったりする。
で、神様について。プライムアースの人類には多神教の統一宗教が存在し、メシス様を頂点に多数の神様が信仰されている。個々の神様についての言及は必要に応じて行うが、太陽神・月神・精霊神なんかの自然系の神様、各技能の神様等々多種多様である。
精霊も同様で、色々な自然現象を司る精霊が存在し、精霊神を頂点に、各属性の精霊長、大精霊、精霊という序列があるらしい。
で、神様から小動物にまで宿る不思議な力が魔力であり、一定以上の知能がある存在はこれを用いて超常現象を発現させる事ができる。
その内、他の存在の力を借りる術を魔法、自身の魔力の身で発現させる術を魔術と呼ぶ。基本的に魔法の方が強力ではあるが、他の存在の力を借りる術であり、どうしても定型的になる。一方魔術は自身で世界に干渉する術である為、技量さえあれば自由度が格段に上がる。
そして最後の一日は、現在どういった技能を習得しているかを調べ、三年間の準備期間でどういった技能を習得し、プライムアースでどう生きるか、という計画を立てる日であった。その際に条件として出されたのは
・準備期間の最初の一年は戦闘関連技能の習得に当てる事。
・最低でも、戦士系技能又は魔導師系技能の才能・大を1つまたは中を二つ以上習得する事、特段の事情が無ければメインとなる戦闘技能の天才を取得しておく事を強く推奨する。
・どういった職業についてどう生きるつもりかも併せて考える事
の3つである。ちなみに、才能や天才、というのは技能の習得段階の事であり、選抜された私達であれば個人差はあるだろうが、よほど不向きな技能でもなければ与えられる環境で鍛錬を積めば、個人差はあるにせよ、才能・小は1か月、才能・中は累計4か月(小+3か月)、才能・大は累計1年(中+8カ月)、天才は累計2年(大+1年)くらいあればその段階に至れるだろう、との事であった。
で、私の元々の才能は、と言うと
戦士の才能・小
神聖魔法使いの才能・小
マルチタスクの才能・中
事務員の才能・小
であった。私は、現代を生きるごく普通の元OLであったが、よくやっていたVRMMOで神官戦士として戦っていた事などが影響したらしい。ちなみに、マルチタスクというのは文字通り複数の事を同時に処理する技能で、複数の魔導を同時行使したり、激しく剣戟を交わしながら魔導を使ったりするのに必要な補助技能である。そして、私が立てた計画は以下の通り。
戦士の才能・小→大(11カ月)
神聖魔法使いの才能・小→大(11カ月)
マルチタスクの才能・中→大(8カ月)
騎兵の才能・中(4か月)
事務員の才能・小
予備期間2カ月、上記技能の習得後、残り期間で修業中に不足と判断した点を補えるように技能を取得予定。
人生の計画
就学前はメシス様に祈りを捧げながら仕える神様を決めつつ、戦士としての鍛錬を積む。神聖魔法使いの才能・中以上があれば(将来の奉仕と引き換えに)無料で学べる神殿の学校で初等・中等教育を受け、神聖魔法を習得。その後、聖騎士候補の従士として神殿に入り、いずれは聖騎士養成所に進学、聖騎士になる。その後、遍歴聖騎士として冒険者となって数年は世の中を見て回る。その後は冒険者として生きるか、神殿の騎士団で生きる。その間も鍛錬を積み、可能であれば神への謁見を果たして現役引退後はどこかの街の神殿で穏やかに治癒を行いながら暮らす。
この計画を見たハスタ様は堅実で良い計画だと褒めてくださり、一発OKが出た。
はい、前作ぶん投げて早数年、二次創作とかやりながら久しぶりにオリジナル出力できたので投稿しました。一応、一度の転生を中長編で纏めての連作形式になるかと思います。