甘露
ーいったいどのくらい経ったのだろかろう
この空間には時計はない
太陽や月や星もない
ただ真っ白な空間
外は今、朝なのだろうか、それとも夜なのだろうか
唯一時間が分かる物は自身の空腹感と疲労感…だった
だがそれもさっき奪われた
何も無い真っ白な部屋に閉じ込められると人は頭がおかしくなると聞いたことがある
今ならそいつの気持ちが少しだけ分かる
俺もこの空間にもし一人でいたら多分頭がおかしくなると思う
でも幸いに俺の目の前にはフェルンっていう奴がいる
俺は今こいつに色々教わってる
正直、こいつには感謝すべきだと思う
でも……精神的な疲労って…知ってるかな……?
いくら…身体的な疲労を一切感じ無い設定にしたからといって……違うじゃん……
……何日(体感)もぶっ続けでやるのは…
ギィン!
振り下ろした刀を弾かれる
(小僧……こいつ……やはり刀の実力だけずば抜けている!)
ユーリが斬り掛かってくる
一文字斬りで応戦するが…
構えをそのまま利用して刀で下にいなされる
そして本人は体勢をほとんど変えることなく斬り掛かってくる
(水帝流も形になっている…)
スカッ
地に背がつくぐらいのけぞって避ける
「……」
ダンっ!
(……魔力で足を強化して宙に飛び姿勢を整えつつカウンターを警戒する…また、同時に次の攻撃も組み立てるか…)
(次段の攻撃の組み立て方も物になっておる…)
(が…)
「!」
飛んでいるユーリに向かって突きをくり出す
「っ…」
ユーリは攻撃の形を崩して避けようとしたが空中にいたので体勢を変えられない
ドシュッ!
「カハッ…」
刀が喉に突き刺さる
(空中では体勢を変えられない無い事がどうも抜けている)
カラン!カラン!
「カハッ…ガ…ゲボ…」
(こいつの前世は風魔法使いかなんかか…?いや…ないか…こいつは黒の魔力しか持っていない…)
「うむ、水帝流に関してはかなり完璧じゃな。だが、空中戦闘に対する意識が欠けている、自分より強い相手に対して空中から仕掛けるのはわりと悪手だぞ。」
パチン!
指を鳴らすと同時に喉の傷が癒える
「よし!もう一回!」
「……」
「ほら立たんか!もう一回!」
「ハ………ハ……ハハ……ハハ俺は最強…」
「……?」
「ハ………ハ俺は最強!……ハ俺は最強!ハ……俺は最強!…ハ…俺は最強!ハ………俺は最強!ハ……ハハ俺は最強!……ハハハ……俺は最強!………俺は最強!…俺は最強!……俺は最強!俺は最強、俺最強!…俺最強!俺最強!最強!最強!最強最強…
バキィ
頬を思いっきり殴る
「……?…………………………………………………はっ……俺は今……」
「はぁ…お主…今、完全にイカれておった。」
「……………………………………………………………………そうか……」
(…あんまり驚いていないな……)
「………………」
「……………次か…」
淡々と刀を拾おうとする
「……いや…」
「…?」
(ここが小僧の精神の限界かもな…)
「現実世界に戻るぞ。少し休憩を挟む」
「!?」
驚いた様子でこっちを見てくる
その表情にはこころなしか喜びが入っている様に思える
「すまんな…、人間の精神の脆弱性を見誤っていた…もう少し休憩を挟むべきだった」
「脆弱性…って…馬鹿にしてません…?」
「当たり前じゃ。わしならこの程度でイカれたりせん」
「く……」
「だが、お主はこの10日間…
「10日間!?」
「ハ………ハハ……10日は頭おかしくなるって…」
苦笑いが溢れている
「まぁ安心せい。」
「ハハ………何が?」
「もう当分精神世界には入らんぞ」
「!?」
「精神世界に慣れすぎると肉体の疲労や魔力の使用を考慮して戦闘出来なくなるからな。」
「…………いや……でも……少し悔しいかな…」
「いや…その件は気にしてくて良い。元々出来るつもりで言って無いからな」
「はぁ!?」
「わしを誰だと思っている。邪神だぞ」
「いや…じゃあいつ終わるつもりだったんだよ」
「わしの気分」
「えぇ?」
ここまでに来て気分って言うのは流石に困惑する
「……てかまずくね、人って水飲まなかったら4日ぐらいで死ぬんじゃ無かったっけ?俺、…大丈夫?」
「ああその件に関してはわしが勝手にお主の体を夢遊させてるから大丈夫だぞ」
「え、えぇ?」
(サラッととんでもないこと言ったぞコイツ…)
「で、他に何か気になることあるか?」
「いや…別にここ出てもお前は側に居るし特に無いけど…っていうのは嘘で…一つだけある」
「ん?」
「今回俺は千回近くお前に負けたけどよぉ……いつか必ず勝ってみせるからな!」
「……」
フェルンがポカンとした顔をする
(ん〜〜〜?あれ……割と決め台詞言ったつもりだったんだけどな………リアクションが………)
「フッ…」
(?………今……少し笑ったのか…………?)
「…………期待しているよ…」
パチン!




