表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/305

55.同居が効率的


 ミリー様はものすごく働き者です。領地の誰よりも早く起き、薪割り、卵集め、朝ごはんを作って、犬やフクロウたちの獲ってきた獣をさばきます。


 私も精一杯早起きしてお城に向かいますが、いつもミリー様は既に起きて働いていらっしゃいます。


 きちんと眠れていらっしゃるのでしょうか? 洗濯を担当しているミネルヴァによると、シーツは毎朝ややアレな状態らしいですから、ええ。おふたりが仲睦まじくていらっしゃることは、私たち領民にとっては願ってもないことですわ。


 アルフレッド様はさすがに朝は起きられないようです。無理もありませんけれど。ねえ。



「燻製にすると長持ちするからね。燻製小屋を作ろう。余ってるものは有効活用しなきゃ」


 そう言って、ミリー様は領地のはずれの方にある小さな木の小屋を、燻製小屋に作り替えられました。屋根に煙突をつけ、上部の壁にいくつか隙間を作ります。床板は全てはがし、土と石を敷き詰めます。床の少し上あたりの壁をぶち抜き、小さな扉をつけ、薪を入れる入り口もできました。


 肉や魚は内臓を抜き、一週間塩水に漬けたものを水で洗って乾燥させて、糸で巻きます。小屋の中にいくつも長い棒を渡し、洗濯物を干すように肉や魚を吊るすのです。


 薪に火を入れ白い煙が煙突からモウモウと上がり、しばらくすると煙が透明になります。そうすると、次はヒッコリーの小枝の削りカスを加えます。薪とヒッコリーを適宜入れながら一日半かけて燻製させます。



 薪とヒッコリーをくべるのは、日中はおばあさんや子どもたちの役割です。夜は男性たちが交代で火を見守ります。これで冬の間も肉が食べられるのです。


 ウサギや鶏をしめ、飢えをしのいでいた幾たびもの冬を思い出すと、信じられません。幸い、領地には高価なモノがたくさん埋もれています。ラグザル王国が攻めて来たと分かったとき、各貴族家が貴金属や宝石類を屋敷のあちこちに隠したのです。



 亡くなってしまった貴族たちの家に入り、貴金属を探りあて、商人からわずかな食糧を買いました。あまり多く買うとウワサになります。怪しまれない程度、飢えない程度を皆が少しずつ仕入れて、祈るように冬を過ごしてきました。



 それがどうでしょう、今は十分な食糧が自分たちの手で賄えるのです。



「今日は畑を耕すよ」


 そう言うとミリー様は、犬に馬鍬をつけて広大な農地をあっという間に耕されました。私たちには使い方も分からなかった農耕道具を、ミリー様はなんなく使われます。犬たちはどれだけミリー様に酷使されても、気にしていないようです。



「次は畝立てだね。これは人手がたくさんいる」


 ミリー様の号令で子どもたちが二人ひと組で長いヒモの両端を持ちます。畑の端から端までまっすぐヒモを張り、両端を土に刺した長い木の棒に結びます。


 そうやって畑中にヒモが張られました。ヒモの外側の土を鍬で掘り、内側に盛ります。それを子どもたちがトンボで均します。



「いよいよ種まきだよ。二、三粒ずつパラパラっと一ヶ所に落としてね。そしたら次は、大人の手の平の幅ぐらい間隔をあけてまいて。子どもたちは種の上に少しだけ土をかぶせるんだよ」


 子どもたちはキャイキャイはしゃぎ回っていますが、私たち大人は必死です。目を凝らして丁寧にライ麦を落とします。



「お姉ちゃんすごいよー」


 子どもが叫びます。子どもの指差す方を見ると、確かにすごいです。ミリー様は種をつかむとおもむろに腕を横に振って、一気にいくつもの畝に種を落とすのです。ミリー様の周りの子どもたちは鬼気迫る形相です。


「神業だわ……」

「すごすぎる」

「私たちも十年ぐらいやれば、できるようになるかもしれないけど」

「今は地道に丁寧にコツコツとよ」


 私たちには神の御業はできません。ゆっくりと確実に種をまきます。


 一日働いた後のごはんは最高です。毎日肉が食べられます。もうすっかり、お城での食事が普通になりました。



「みんなさあ、冬になるまでにここに引っ越しておいでよ」

「ここと言いますと?」


「ん? この城塞。空き部屋がいっぱいあるでしょう。領民全員が十分に住めるよ」

「そ、それはさすがにできません」


 私は皆を代表して辞退します。


「だってダイヴァの家はあそこで、ミネルヴァの家はあっちでしょう。すっごい離れてるじゃない。みんなの家がバラバラだと、魔物が来た時に守れない。ここなら堅牢な建物だし、高いところにあるから、石を投げるにも弓や槍を使うにも簡単」


 皆が顔を見合わせます。


「これから冬が来る。薪のことも考えて。皆が同じ建物にいたら、すごく効率がいいんだよ。数ヶ所を暖めるだけで済むじゃない。ごはんだって、まとめてみんなの分作る方が手っ取り早いし」


 どうしましょう。私は思わずアルフレッド様を見つめました。


「僕はミリーがいいならそれでいいけど」


 そうでした、アルフレッド様は普通の王族ではありません。


「護衛の観点からは反対です」


 ケヴィン様がおっしゃいました。


「どうして?」

「それは、その……。皆を信じていない訳ではないが、おふたりに何かあったらと思うと……」


「ケヴィン、領民の中に私より強い人はいないよ」


 確かに。そう言われてみればそうでした。誰もミリー様には敵いません。小指でひとひねりでしょう。



「ケヴィンの気持ちが済むなら、犬とフクロウにも見張らせる。どうかな?」


「それならば。分かりました。出過ぎた真似をいたしました」

「やだ、謝らないでよ。それがケヴィンの仕事じゃない」


 ミリー様が必死でケヴィン様を労います。



「じゃあ、みんなで後で部屋決めようね。ケンカしないように決めなきゃね」


 なんだかよく分からないうちに、領民全員がお城に住むことになりました。いいのでしょうか……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 確かに理にはかなってますね。 光熱費も安くつく。
[一言] 更新ありがとうございます。 ミリーの新天地、どんな風になっていくのかワクワクします。楽しみです。
[一言] 冬場にお城の中に領民が籠もって冬越しするってありそう。何かの時のために領民(労働力)を確保するってのは基本ですもんね。 そして二人ともイチャイチャしまくってんのか…アルフレッドは絞り尽くされ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ