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39.わらしべ商人


 大きな肉食獣には、お前おいしそうだなという目で見られるパッパではあるが。小動物からは割と人気がある。特に、鳥便の小鳥たちはパッパが大好きだ。パッパ、上質な上着のポケットに、いつもパンを隠し持っていて、小鳥たちにパンくずを投げてくれるから。


 穏やかでおっとりとしていて、お世辞にも敏捷には見えないパッパ。小鳥たちは安心してパッパの周りでパンくずをついばむ。


 あるとき、海辺の小さな町で、パッパがワラを馬に手ずから食べさせてあげているとき、小鳥がワラを一本、器用に足で掴んだ。


「こらこら、このワラは馬のごはんだよ。離しなさい」


 パッパが優しく言うと、スズメはチュンチュン楽しそうにさえずって、ワラを掴んだままパッパの周りをグルグル飛ぶ。とても和やかで心温まる光景。


 それを見ていた通りすがりの高貴な女性。遣いの者をパッパに寄越した。


「もし、そこのあなた。そのワラとスズメを譲っていただけないでしょうか」


 浅黒い肌に大きなヒゲを蓄えている男は、丁寧にパッパに乞うた。パッパは困った顔で首を振る。


「申し訳ないのですが、ワラはともかく、このスズメはお譲りできません。大事な我が社の社員ですから」


「それは、なんと、困りました。実は、若君がどうしてもそのスズメが欲しいと仰せなのです。これから船で国に帰るのですが、若君はいつも船酔いがひどいのです。スズメがいれば、気が紛れていいのではないかと、奥様も強くお望みで」


 男がチラリと視線をやった先には、見るからにどこぞの王族のお忍び感がダダ漏れしまくった女性とお坊ちゃま。色んな無理難題を華麗にさばいてきた、経験豊かなパッパ。すぐさま代案を出した。


「私も一緒に船に乗ってもいいですか? スズメも連れて行きます。貴国につきましたら、私は少し商売をして、スズメと共に次の商売先に移動します。いかがでしょう」


「それは、大変ありがたいお申し出です。念のため、主人に確認して参ります」


 パッパの案は、大歓迎で受け入れられた。パッパは護衛と共に、商売の品をたくさん積み込み、ワラとスズメと船に乗り込んだ。


 王子らしきお坊ちゃんは、お転婆で愛らしいスズメを見て、船酔いせずに船旅を終えることができた。


「パッパのおかげです。お礼に、我が国のオレンジをパッパにお任せしたいのです。今まで色んな国の商人の依頼を断ってきたのです。でも、パッパになら大切なオレンジを託せます。ご検討くださいな」


 すっかり仲良くなった王妃と王子から頼まれ、パッパは貴重なオレンジの御用商人となった。


「貴国の大事なオレンジ。価値を落とさないよう、大事に広めて参ります」


 パッパは、オレンジとワラとスズメと、色んな品々を詰め込み、船で次の国へと旅立った。



 パッパが港の近くに座って、海を見ながらオレンジを味わっていると、ひとりの老婆に声をかけられた。


「もし、そこのあなた。そのオレンジをぜひ譲っていただけませんか。主人がツワリがひどいのです。オレンジなら食べられるかもしれないと仰っているのです」


「そういうことでしたら、お譲りいたしましょう。ただ、できればひとつお願いが。オレンジを食べた感想を、ご主人様のご友人にお伝えいただきたいのです」


「もちろんですとも。念のため、主人に確認して参ります」


 老婆はしっかりとオレンジを受け取ると、雅な馬車に入り、すぐにまた戻ってきた。


「奥様が、奥様が……。オレンジが大層お気に召したご様子です。すっかり顔色も良くおなりになりました。できれば、あるだけのオレンジを買わせていただけませんか。奥様が、ツワリ仲間にも分けたいと」


「そうですか、そういうことでしたら、お売りいたしましょう」


 パッパはあっという間に、全てのオレンジを売った。高値はつけていない。適正価格である。パッパは、暴利をむさぼったりはしない。高貴なツワリ仲間にどんどん広まれば、無料の広告になるのだから。


「素晴らしいオレンジのおかげで、奥様がすっかりお元気になられました。お礼に、我が国の宝、黒王馬をお贈りいたします。覇王の愛馬の子孫でございます」


「そのような貴重な馬を。ありがとうございます」


 馬が大好きなパッパだが、連れて来られた黒王馬を見て腰を抜かしそうになった。


「これが、馬? ゾウの間違いでは?」


 食費がすごくかかりそう。パッパは大金持ちだけど、無駄遣いは好きではない。この巨体を維持するために、普通の馬の何頭分のワラが必要だろうか。パッパは頭の中で試算を始める。


「あのオレンジをひとつ食べれば、あとは普通の馬と同じ量のワラで大丈夫ですよ」


 老婆は、パッパの不安をすぐに取り除いた。


「オレンジにそのような効果がありましたか?」

「驚きました。ツワリにも効き、巨馬の食費問題まで解決。パッパのおかげです」

「私のおかげではないですが。不思議な巡り合わせもあるものですね」


 こうして、ワラからオレンジ、そして黒王馬を、パッパは得たのであった。


 

一十八祐茂さま「そのうちミリーなら黒王号のような魔馬をパッパに授けて下さる(笑)」

ネタをありがとうございます!


今日、2巻の発売日です!

しつこくてすみません。

皆さま、なにとぞ、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] わらしべ長者 パッパにピッタリ! ナイスなチョイスです 小さい頃あまり読書をしてこなかった私には引き出しがなさすぎて お願いしたい物語はないですが いつも楽しく読ませて頂いてます ありがと…
[一言]  2巻ちゃんと買ってますよ。 アマゾンなので15配送ですけれど。  それにしても、パッパの話は和みますね~ その後のスズメとお馬が気になります。世紀末覇者に パッパが成ったりして。。。なら…
[一言] 感想欄読んで “やっぱり!!”と思いました。 黒王馬 ≒ 黒王号でしたね さすが、パッパ。 しかし、この老婆は何者? そして奥様とご主人は? 奥様はユ◯アでしょうが、ご主人はラ◯ウかケ◯シ◯…
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