25.ラウルとセファのほのぼのお茶会
ラグザル王国の王宮で、ラウルとセファは絵を見ながらお茶会をしている。ラウルの専属絵師ニコから絵の束が届いたのだ。
「ニコと赤ずきんは、まだ王都には来ないらしい。新しい村が落ち着くまで、もうしばらくかかるからとのことだ」
セファは、目を輝かせて絵を見ている。
「これは誰?」
「それは釣り竿拾いの精霊だ。余がハリーのミスリルの釣り竿を湖に落としたら、拾ってくれた上に、金と銀の釣り竿もくれたのだ」
「なんて気前のいい。精霊ってお金持ちなんだね」
「お礼と言ってはなんだが、森で出会った狐の妖怪と縁づかせてみた。幸せにしているといいのだが」
セファは次々と絵を見て、ラウルが説明する。
「これが人魚のウテと、テオ。灰かぶり姫に、レタス、白雪姫、赤ずきんちゃんとニコだな」
「きれいな女の人がいっぱい」
「そうであったか。そうかもしれない」
セファはうつむき気味に、ラウルは虚空を見つめて考える。
「私、こんな見た目だけど、婚約者は私でいいの?」
「それは、髪が短いことを気にしているのか? それとも顔?」
「う、両方」
セファはまだ、うつむいたままだ。
「うむ。ミリーお姉さま以外で素敵だなと思った女の人は、セファだけだ。ミリーお姉さまは、余を人間にしてくれた。いわば、母のような存在かもしれぬ。セファはそうだな」
ラウルはじっくり考え、ゆっくりと言葉を選んでいく。
「セファとハリーといるときの自分が好きだ。虚勢を張らなくてよい。だから、セファがどんな見た目でも、余は気にならない。それに、セファはとてもかわいらしいと思う」
ひえーっ、こっそり聞き耳を立てていたハリソンは、ひっくり返った。ラウル、ちゃんと口説けてる、すごいー。
「それに、趣味が合うといい夫婦になれるとルティアンナ姉上から聞いた。余とセファは読書が好きだ。ふたりで別々の本を読んで薦め合うのもよかったし。同じ本を読んで、感想を言い合うのも楽しかった」
おずおずと顔を上げたセファの目を、ラウルはまっすぐ見つめる。
「結婚したら、それがずっと続くのだ。素晴らしいではないか」
「そっか」
やっとセファは笑顔になる。ラウルとセファはほのぼのと微笑み合う。
ぐはあー、ハリソンは後ろでゴロゴロしている。ラウルとセファの邪魔をしないように、部屋の隅っこにいたのだが。甘い言葉の垂れ流しに、体がかゆくなった。
「ハリー、趣味はなんです?」
「趣味……。なんだろう」
ゴロゴロ転がっていたハリソンは、亀姫に問いかけられ、ピタリと止まる。そういえば、趣味らしい趣味のないハリソン。
「共に趣味を探しましょう。ふたりで楽しめる何かを」
「うん、そうだね」
ハリソンは、亀姫によって着実に外堀を埋められている。ハリソンは、もちろん気づいていない。
***
「ぐっ、セファ様から、ラウル様とのノロケ話が届いた」
「ついでに、ハリー様と亀姫様のも」
「クッ、将来性のある男は売れるのが早すぎる」
アッテルマン帝国の帝都で、三つ子の森の娘たちが歯ぎしりしている。
「ウカウカしていると、全員売れてしまう」
「ヒルダ様にお願いして、お見合い大パーティーを開催してもらいましょうよ」
「それか、まだ売れ残ってるミリー様の弟たちのどれかを狙うか」
三つ子は円陣を組んで策を練る。
「誰がどこにいるんだっけ?」
「ジェイムズって長男がゴンザーラ領よ。石投げれない女は嫁げない、修羅の地よ」
それは、ちょっと荷が重い。誰も口にはしないが、お互いの気持ちは手に取るように分かる。
「ダニエルっていう三男がゴンザーラ領かヴェルニュスのどっちかにいるはず」
「読書が趣味らしいわ」
「私、本読むと眠くなる」
「私も」
「じゃあ、ダニエルはボツね」
まったく頼んでも望んでもいないのに、勝手にボツにされたダニエル。
「ウィリアムっていう四男がヴェルニュス。オモチャ職人になるんだって」
「手に職があるのはいいわね」
「いざってときも、食いっぱぐれないわ」
三人の少女の目がキラッと光った。
「領主の妻としてあれこれ面倒なことをしなくていいのも、魅力ね」
「オモチャの使い勝手を調べればいいんでしょう」
「ずっと遊んでればいいってことね」
皆の目が合う。
「では、三人でウィリアムを狙うということで」
「誰が選ばれても、恨みっこなしね」
「では、ヴェルニュスに行かせてもらいましょうよ」
「ヒルダ様に相談ね」
相談されたヒルダは頭を抱えた。
「ミリー様とアル様とロバート様にご相談してからです」
でも、ダメとは言わなかった。ミュリエルの弟と、アッテルマン帝国の森の娘が縁づければ、それは願ってもないことだから。
一抹どころではない不安が山盛りだが。懐の深いローテンハウプト王国のお三方なら、大丈夫かもしれない。ヒルダは懸念点からそっと目を逸らした。
***
またところ戻ってラグザル王国の王宮。第一王女のガレールは、ラウルとセファの会話内容を報告書で読んだ。
「ふっ、なんてお花畑な」
いいわね、うらやましい。本音は心の奥底に隠した。女王になると目されていたガレール。結婚は王太女になってからと決めていた。そのとき、最も釣り合う男を召し上げるつもりだった。
よって、まっさらな独り身。
「趣味の合う相手、か」
趣味ねえ。首狩り。魔物狩り。殲滅。物騒だわねえ。
「趣味と、ついでに男も探すとするか」
それぞれの国で、男狩りが始まりそうだ。
酔人さま「ラウルは、いろんな人に会っても、セファが一番良かったのか」
一十八祐茂さま「ラウルとセファのほのぼのお茶会」「ラグザル第一王女、世界を知り乙女化」
3dicekさま「ラウルの婚約を知った三つ子の森の娘の話とかみてみたいです」
リクエストありがとうございます。




