23.鳥の楽園
鳥が続々とヴェルニュスに集まってくる。食べ物が豊富で、安全な水場があり、様々な鳥が過ごしているらしい。噂が噂を呼び、鳥が増えているのだ。
初めて飛んできた鳥は、猫の多さと、犬なのに翼がある謎の生き物におののく。でもすぐに、何も心配することはないと分かる。犬も猫も、鳥を襲わないからだ。
それに、巨大なフクロウが秩序を保ち、鳥を守ってくれる。
「やる気があるなら、働くように」
フクロウが重々しく告げる。
「遠くまで飛べるなら、手紙を運ぶといい。特別おいしいごはんをもらえる。ひまわりの種とか、ナツメヤシ、りんご、干しぶどう」
チュッチュ、ピチピチ、ケケーッ 色んな鳥が、様々にさえずる。
「遠くまで飛ぶのがイヤなら、領地で警備。怪しい人がいたら、かわいく近づき、監視。何かあったら、大きい鳥に報告。これも果物など特別なごはんがもらえる」
鳥たちはまだ心を決めかねているようだ。
「森の娘が手ずから投げてくださる。それは、格別の味。そして、体に力がみなぎる」
やりますやりますやります。鳥たちが一斉に鳴く。
鳥の生態を知り尽くし、統率力のあるシロ。なんなく烏合の衆を、まとめ上げる。
フッ ニャーニャー甘ったれなあやつらや、鳥に嫉妬して羽を生やした腹見せ族とは違うのです。真にご主人様の役にたっているのは、鳥族。フハハハ。
シロは鼻高々だ。
「シロさま、シロさま、たいへんたいへん」
「アヒルのおっかさんが泣いてるー」
「お話し聞いてあげてくださーい」
「やれやれ、これから気持ちよく羽繕いして寝ようと思っていたのに」
頼られるとイヤとは言えないシロ。ファサアッと飛び立って、先導する鳥たちを追い越さないよう、ゆうゆうと舞う。
シクシクシク 確かにアヒルのおっかさんが泣いている。周りでは、アヒルやヒヨコがピヨピヨガーガー大騒ぎ。
「何事ですか」
「うっ、シロさま。ううう、わたし、わたしの子が、わたしの子が。こんなに、みにくく」
ヨヨヨとアヒルのおっかさんは泣き崩れた。おっかさんの後ろから、灰色のムクムクしたヒナがひょっこり顔を出した。
ヒイィィッ アヒルたちは恐慌に陥る。
「黄色のフワフワで愛くるしいヒヨコじゃないわ」
「か、かわいくない」
「なんだか、妙におっきいし」
「ヒョロッとしてあんまり丸っこくないわ」
「や、やだー」
アヒルのおっかさんは、仲間の容赦ない言葉に、頭を胸の中に隠す。
「や、やっぱり。あれでしょうか。わたしの卵の温め方が悪かったからでしょうか」
「い、いや、そんなことは」
「それとも、わたしがカエルばっかり食べたのがダメだったのでしょうか」
「でも、みんなカエル食べるし」
「も、もしや、大地の神への祈りが足りなかったのでしょうか」
「大地の神は、それほど狭量ではない」
シロがアワアワと困り果てたとき、手をつないだ領主夫妻がやってきた。
「どうしたの、何騒いでるの?」
「いえね、ご主人様。アヒルのおっかさんが、生まれたヒナがかわいくないって。自分を責めてましてね。どうしましょう」
シロは必死で訴えた。
「シロが慌ててるなんて、珍しいね。なんだろね」
ミュリエルはシロの言葉は分からないが、鳥たちの困ってる雰囲気は感じとれる。よくよく鳥を観察し、ミュリエルはパッと顔を輝かせた。
「白鳥のヒナがいるじゃないの。どうしたの? 母親はどこ?」
ミュリエルは、かわいいなあという表情で、灰色のムクムクを見つめる。
え、これ白鳥? 白くて優雅な白鳥? 灰色のこれが? アヒルたちはびっくり仰天。シロは、言われてみれば白鳥だと、呆気に取られ。アヒルのおっかさんは、あまりのことにひっくり返った。
パリン さっきまで温めていた卵の殻が粉々に砕ける。
「あれ、アヒルがこの卵あっためたの? え、托卵? おかしいな。白鳥もアヒルも、托卵はしないはずなんだけど」
ミュリエルはしきりと首をひねっている。
「この辺りで白鳥は見たことないけどね。不思議だねえ。でも、無事に孵ってよかったね。よく他の鳥の卵を温めたね、ありがとう」
ミュリエルはポケットからクルミをふたつ取り出すと、ガリッと割って実をアヒルのおっかさんにあげた。
お、おお。アヒルのおっかさん、感激のあまり変な声が出た。ミュリエルの耳にはガーガーとしか聞こえないのだが。
アヒルのおっかさん、ミュリエルの手の平から恐る恐るクルミを食べ、ペカーっと輝いた。
「え、光った」
フンッ アヒルは金のたまごを生み落とす。
「金の卵ー。デイヴィッドがなんか手紙に書いてたやつー」
ミュリエルはひっくり返りそうになり、アルフレッドに受け止められた。
みにくいアヒルの子として虐げられる瀬戸際だった白鳥の子。アヒルのおっかさんたちにかわいがられ、スクスク育った。
「白鳥に共感した途端、白鳥のヒナが現れるとは。神の采配に違いない」
アルフレッドは感激し、毎日、白鳥の様子を見にくるようになる。
人にも鳥にも優しいヴェルニュス。おまけに、定期的に金の卵が生まれるようになった。金が金を呼ぶのかもしれない。すっかり豊かな領地である。
一十八祐茂さま「醜いアヒルの子」
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