17.パッパが美少年だった頃
今では、聖人君子並みに崇め立てられているパッパ。平民はもちろん、貴族や王族からまで信頼を集めている。
そんなパッパにも、若気の至りはいっぱいあった。誰だって、産まれたときから、聖人なわけがない。
裕福な商会の息子、レオナルド・サイフリッド。上質な服を着させられ、かしずかれて育ってきた。文字通り、銀の匙をくわえて生まれてきたのだ。
そんなレオ、心は清いが、世間知らずな少年であった。幼い頃、街でボロボロの服を着る同年代の子どもに、自分の上着を差し出した。
「それでは寒いよね。これあげる。僕はまだ家にたくさんあるから」
上着を差し出された少年は、複雑な顔をして受け取った。
家に帰って、召使いに聞かれ、貧しい子にあげたことを告げると、父に呼び出された。
「レオ、見知らぬ人に、ものをあげてはいけない」
「どうして? だって、僕にはたくさん服があるのに」
「気をつけないと、受け取った人の誇りを傷つけるかもしれない」
父は色々説明してくれたけど、レオはいまいちよく分からなかった。余っているものを、持ってない人にあげることが、なぜダメなのだろう。
その夜、衛兵が家を訪れた。上着をあげた少年と、父親らしき男性も一緒だ。
「サイフリッドさん。この少年が、ご子息の上着を持っていました。もしや、盗まれたのでは?」
階段の踊り場から見守っていたレオは、慌てて玄関まで走る。
「違います。僕があげたんです。だって、僕はたくさん持ってるから」
「ああ、そうだったのですね。似つかわしくない上着を着ていたので、確認したのですよ。そしたら、刺繍で名前が入っていたので、念のため」
少年の父親らしき男性が、震えながら上着をレオの父に返す。
「これはいりません。俺たちには似合わないですから」
「はい、私の息子が考えなしにしたことで、ご迷惑をおかけしました」
父がすまなさそうな顔で、頭を下げる。少年の父親は慌てた。
「やめてください。本当に。もう、これで」
少年と父親は慌てて敷地内から出て行く。レオは、チラリと自分を見た少年の目が気になった。あれは、なんだったんだろう。
それ以来、レオはものをあげるのはやめた。その代わり、父と共に教会に寄付するようにした。なぜ教会からあげるのはよくて、レオがあげるのはダメなのか、まだはっきりとは分からなかったが。
レオはもう少し大きくなると、少しずつ商取引を学んだ。売上、仕入れ、利益、送料、税金、給与、諸経費などなど。色んな数字を実地で学ぶ。
十三歳になったとき、初めて、ゼロから商品開発することを許された。もちろん、父や古参の従業員がつきっきりで教えてくれる。
「何をやりたい?」
父の問いに、レオはすぐさま答える。
「安くて丈夫な上着」
父はレオをじっと見つめると、ポンっと肩に手を置いた。
「よし、やってみなさい」
レオは、すぐさま紙とペンを持って、護衛と共に下町に行く。彼の、あの少年の家は知っている。ずっとずっと気になって、人づてに情報を集めていた。この時間、昼休みなら家にいるはずだ。
レオは緊張しながら、小さな古い家の扉を叩く。しばらくすると、あの子が出てきた。もう、青年に近い、レオより背の高い彼。
「こんにちは。サイフリッド商会のレオナルドです。今日は、お仕事の話がしたくて来ました」
彼は、一瞬目を見開くと、クイッとアゴを外に向かってしゃくる。
「母さんが病気だから、外で話していいか」
「もちろんです」
ふたりは、少し離れた通りにあるベンチに腰掛けた。
「安くて丈夫な上着を作って、体を動かす仕事をしている人向けに売り出したいと思っています。どうか、あなたに商品の着心地や耐久性を調べてもらいたいのです」
「なんだそりゃ。俺は何すればいいんだ」
「これから上着を開発します。色んな上着です。一定期間、同じ上着を着て、働いているときに違和感がないか教えてほしいのです。そして、どこがどう弱くなるかなども」
「ふーん、なんだ。そんなことなら、いいぜ」
彼はニヤッと笑った。レオはホッとして、はあーっと息を吐いた。そして、深く息を吸うと、ガバッと頭を下げる。
「あのときは、ごめんなさい。あなたの誇りを傷つけました。やっと分かりました。一方的にものをあげた時点で、対等ではなくなると」
「まあ、商会の息子と、大工の息子じゃな。対等じゃねえけど」
彼は肩をすくめて、なんでもないことのように言う。
「そんなことはありません。たまたま、私が金持ちの家に生まれただけです。苦労知らずのただのボンボンです。その、仕事を引き受けてもらうのです。対等と言ってもいいのでは」
「いや、ちげーだろ。雇い主と従業員じゃねえか」
「うっ、でも」
「俺が仕事をして、あんたが金をくれる。対等じゃなくても、十分だ。施しじゃないからな」
「はい」
レオは少し涙ぐみ、彼はまたニヤッと笑った。
彼は、細かく、熱心に着心地や耐久性を報告してくれるようになった。
「肩が上がりにくいんだよな。もうちょい、肩から肘にかけて、ブワッとできないかな」
「分かりました」
「やっぱさ、肘と袖口がすり切れんだよ。なんとかなんないかな」
「肘のところにかっこいい肘当てをつけましょう。袖口も二重か三重にしましょう。肘も袖口も、敢えて違う色で補強しましょう。オシャレで丈夫、そういう方向性で」
彼だけでは間に合わなくなってきたので、彼の仲間とも契約した。
「丈夫なズボンがほしい。膝を曲げ伸ばししやすいように、太ももから膝はボワッと。でも膝下は邪魔にならないように絞ってほしい。どうかな?」
「いいですね」
安くて丈夫、その上オシャレな作業服が商品化される。
彼は、ずっと、レオに遠慮のない意見を言ってくれる。
「私はすっかりポッチャリなのに。あなたは変わりませんね、ペーター」
「いいもん食いすぎだろ。たまには馬車じゃなくて歩けよ、レオ」
ペーターと知り合って、かれこれ三十年が経った。
友だちではない。でも、ただの従業員ではない。ペーターの本業は大工、レオからの仕事はあくまでも副業だ。だからこそ、いいのだ。ペーターとなら、本音で語り合い、いいものを開発できる。
ペーターは、レオにとって羅針盤のような存在なのかもしれない。あのとき、間違ってよかった。レオはペーターの顔を見ながら、こっそり思う。ペーターに言ったら、頭をはたかれるかもしれないが。
リョウさま「美形の頃のパッパの話とか見てみたいです」
リクエストありがとうございます。
パッパはレオナルド・ディカプリオをモデルにしています。
超絶美少年の頃から第一線で活躍し続ける俳優で。あらゆる巨匠に愛され。クリスチャン・ベールに「僕はレオナルド・ディカプリオが断った役しかもらえない」と言わしめる天才。
なのに、オフのときはポッチャリになり。つきあうのは25歳以下のスーパモデルのみという。(おもしろすぎ)
そして、リンク先の写真2と8が最高なのです。パッパっぽいなーと思いました。
https://www.esquire.com/jp/entertainment/celebrity/g191607/entertainment-celebrity-esq17-0613celeb/




