10.魔剣と石と星座
魔剣はただそこにあった。民の祈りで大地が満たされると、魔剣がなる。祈る力の強い者が、魔剣を得る。
神は大体眠っている。民の祈りが気持ちいいのだ。国が荒れ、祈りがおかしくなると、神は動くこともある。が、大概は、魔剣を使える森の子どもに任せている。魔剣には神の力が宿っている。魔剣を正しく使えば、問題は解決するはずだから。
石の民は、気持ちのいい民だ。自分たちのできることを精一杯やり、一生懸命生きている。神を呪ったり、いじけたり、そういう後ろ向きなことは滅多にしない。割と単純なのかもしれない。
「ウェーイ、イノシシの群れが来たぜー」
「ヒャッハー、今日は焼き肉だー」
ものすごい勢いで城壁に登り、石を投げまくる。石は、喜んで投げられる。「お任せください、ご主人さまー」ってなもんだ。
見事、獣を撃ち抜いた石は、場合によっては粉々になる。でも、何も悲観する必要はない。大地の神に抱かれ、清められ、また石になって戻ってくる。石を大事にする石の民の元に。
最初の頃は、城壁も、石垣って感じだった。魔物がすぐ飛び越えてしまう高さだ。人が死ぬ。いくら魔剣があっても、全員は助けられない。皆が泣き、死者は大地に還る。
石の民は、せっせと石垣に石を積む。石も、がんばって強くなる。重なり合い、くっつき合い、石の民を守るのだ。
狩った魔物や獣、亡くなった石の民の血が石塚を満たし、魔剣がなる。森の子どもが引き抜き、使う。
そういえば、昔々、破天荒な石の民がいたな。現れた魔剣をグイッと引き抜いて「旅に出てくるわー」と言って、犬にまたがって出て行った。あの子には、石の民の地は小さすぎたのだろう。
仕方なく、また新しい魔剣ができた。石の民を守る魔剣が必要だから。
魔剣と共に旅するあの子。どこぞの少年と意気投合して、ふたりで旅をしながら好き放題。色んな魔物を手なずけ、天馬や双頭のワシも乗りこなしていた。あの森の息子は、聖典を巡るゴタゴタも適当なことを言って収めていた。
片割れの少年が頭の回る子で、入れ知恵をしたのだった。確か、ギデオン・ラグザルといったか。
「聖典は燃やしてしまおう。あれは凡人の手には余る。聖典の権威を笠に、権力争いをしているだけだ。信仰なんてない。そう思わないか?」
「ん? んー、よく分からん。ギデオンが言うなら、そうなんじゃね」
「双頭のワシに乗って、魔剣を掲げながら、戦地の真ん中に飛び降りろ。そして、これを言え」
ギデオンがスラスラと文言を紙に書く。
「なっが。長いし危なくね? 俺、死ぬんじゃね?」
まあまあ、ギデオンがなだめすかし、何度も言葉を繰り返して覚えさせ、森の息子を送り出した。森の息子はうまくやった。
「人の子よ。神の名を使って戦をするな。今教会にある聖典を破棄し、今後は口伝のみにしろ。市井に広まってる聖典はそのままでいいが、聖典に優劣をつけるな。他者の信仰に口を出すな」
棒読みだったが、双頭のワシと魔剣の魔力で威厳はバッチリだった。聖典もなくなり、世の中は平穏になったのだ。
そのギデオンと森の息子で、ラグザル王国を建てた。因果は巡る。ラウルと、森の子どもの血を引くハリソン。似たようなことをしている。森の子どもは王にはならない。政治は嫌いだから。王の周りでプラプラしているのが向いている。
森の子どもは動物を自然と従えるが、ギデオンはそうでもなかった。力が強くて、よくウッカリ魔物を踏み潰していたような。確か、空にいるカニも──。
***
「初代ラグザル王、ギデオン・ラグザルの宝物だぞ」
ラウルが宝物庫で目を輝かせている。手には、大きな獅子の皮。ラウルは嬉しそうにそれを頭にかぶる。
ぶーっ ハリソンが吹き出した。
「ラウルが獅子に食べられてるみたいになってるー」
ラウルの頭に、獅子の頭が乗っかり、カプッとかじられているように見える。
「この獅子はな、人を食って暴れておったらしい。初代王がこらしめるつもりで、ちょーっと首を絞めたら、死んでしまって……」
ラウルは悲しそうに頭の上の獅子の顔を撫でる。
「獅子は空にのぼって、獅子座になったそうだ」
「うそー」
ハリソンが叫んだ。セファはへえーという顔をし、亀姫は「ああ、そういえばそうだった」と頷く。
ラウルは次に、九つの頭のあるヘビの抜け殻をそうっと指差す。
「これも、初代王がウッカリ殺してしまった、ヒドラだ。暴れておったので、コラっと怒ったら死んでしまったらしい。空にのぼって、うみへび座になったそうだ」
「またー」
「コケーッ」
ハリソンとコラーは動揺している。セファと亀姫は知っていたようだ。
ラウルは最後に、粉々の赤い砂が入った瓶を手に取る。
「これは、哀れなカニ。ヒドラを助けようとウロウロしていたのを、初代王がウッカリ踏んでしまって。カニは空にのぼってカニ座に」
「初代王、ウッカリしすぎー。みんな、かわいそう」
ハリソンが叫び、コラーがプンプンしている。
「確かに、気の毒かもしれない。ちょっとやってみましょうか」
亀姫が海ブドウを握りしめ、汁を獅子とヘビとカニにかける。
ムク ムクムクムク
小さな獅子とヘビとカニが生まれてきた。
「今世は、ラウルとハリーの元で幸せに暮らしなさい」
わーい、と言ってはいないが。獅子とヘビとカニは、嬉しそうにラウルとハリソンと亀姫にまとわりつく。
「破天荒ー」
セファが目を丸くした。
金城たけすさまから「魔剣の成り立ちとか投げられてる石の気持ちが知りたいです」
ねこさまから「黄道12宮星座の神話とかですかね?ミリー達なら蟹座とかあんな扱いにならずに済むと思うんですよね。蠍座も地味だし…」
リクエストをいただきました。
星座、おもしろネタがいっぱいでしたが、どう書いたものかずっと悩んでおりました。金城たけすさまからのリクエストで、やっと思いつきました!
おふたりとも、ありがとうございます。




