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7.アルフレッドの日常


 ヴェルニュスはにぎやかだ。王都にいたときとは比べものにならない。王宮は大きな声を出す人はいない。皆、静かだし、動きは洗練されている。王族がいるときはなおさらだ。直答の許される者しか、口を開かない。


 王宮に住んでいたとき、僕は無口だった。学園にはいかなかったから、友人といえる存在もいない。学園は、どうしてもイヤだった。社交で会う少女たちでもウンザリだったのに、不特定多数の学生の中に入ったら。考えるだけで、ゾッと寒気がする。


 一流の教師をつけてもらい、ひとりきりで勉強する日々。会話するのは、ジャックと護衛と教師。晩餐は家族が揃うことも滅多になく、揃ったとしても、会話は少ない。



 ヴェルニュスでは、朝から寝るまでにぎやかだ。


「んんっ。えーゴホン」


 朝はわざとらしい咳払いで起こされる。お義父さんが、早くルーカスを寄越せと、扉の向こうから圧をかけているのだ。


「もー父さん。毎朝やめてよね」


 ミリーはプリプリしながら、ルーカスをお義父さんに渡す。


「ここにいる間ぐらい、いいじゃねえか」


 お義父さんもお義母さんも、ルーカスを溺愛している。常に、どちらかがルーカスを抱っこしている。


「シツケとか気にしなくていいから、気楽だな」

「ただかわいがるだけでいい孫は、格別ね」


 ふたりとも、ずっとデレデレしている。あのふたりを見ていると、少し心配になってくる。


「ジャック、正直に言ってくれないか? 僕のミリーに対する態度は、あのふたりがルーカスに見せているようなものか?」


 ジャックは一瞬言葉に詰まり、にこやかに笑った。


「殿下、そんなことをお気になさる必要はございません」


「それは、肯定と受け止めていいのだろうか」


「殿下、何を心配なさっているのでしょう? 殿下とミリー様は相思相愛。しかもここはヴェルニュス。思う存分イチャイチャしてくださいませ」


 その方が私の筆もはかどります。ジャックの心の声が手に取るように分かった。もういいか。考えないことにする。




 お義父さんが来てから、領内がより一層さわが、いや、活気がある。なんだろう、お義父さん、とても声が大きい。アッテルマン帝国ではそれほど大きくなかったのに。


 ゴンザーラ領では、声が大きかったかもしれない。緊張していたから、よく覚えていないが。ヴェルニュスでは、お義父さん、どこにいても居場所が分かる。今は台所だ。


「あんた、料理がうまいな。今日の肉焼いたのあんただって? どうだろう、ゴンザーラ領で働いてもらえたりしないかな?」


 上の階にいる僕とミリーにも話の内容が分かる。ミリーはハアーッとため息を吐いて、全速力で台所に駆けていく。僕も慌ててあとを追った。


「父さん、みんなを脅さないでよねー。ごめんね、みんな。聞き流していいから」


 料理人たちは戸惑った顔をしている。


「ミリー、お前。ケチなこと言うなよ。こんなに料理人いるんだ。ひとりぐらい譲ってくれ。うちの領民たちにも、都会の料理を少しは食わせたい」


 うむむ、ミリーは腕を組んで眉を寄せる。領民思いのミリー。故郷の民を思い浮かべているのだろう。


「お義父さん、貸し出しということでどうでしょう? ゴンザーラ領に何人か行ってもらい、料理が好きな人に教える。しばらくしたら帰ってきてもらう。それなら、行ってもいいという料理人もいるのでは」


 チラリと見ると、何人か頷いている。


「アル、やっぱり頼りになるな。頭がいい。さすがだ。じゃあ、そういうことで。よろしく頼むわ」


 お義父さんは上機嫌で出て行った。


「出張費を出すから。護衛もつける。期限がきたら、きっちりこちらに連れて帰る」


「あ、では、私。行きたいです。ミリー様の故郷、気になります」

「私も行きます。見たことのない魔獣を料理できるかもしれないですし」


「みんな、ありがとうね」


 ミリーと料理人たちは、ニコニコ笑い合っている。




 ミリーとふたりで上に戻りながら、気になっていたことを聞いてみる。


「お義父さん、あんなに声大きかったかな?」

「父さん? 父さんはいつも大声だよね。なんでだろう。気合い入れてんのかな?」


「今は慣れたみたいだけど、ルーカスが最初の頃、耳に手を当てていた」

「そうなの? 父さんに注意するね。ゴンザーラ領だと、みんな怒鳴りあってるみたいな感じだからさあ」


「なぜ?」

「なぜだろう。騒がしいと魔獣がやってこないからかな」


 ミリーがしきりと首をひねっている。そうか、あの大声は威嚇だったのか。


「確かに、鳥たちもすっかり静かになっているね」


 いつもはかしましくさえずっている鳥たち。お義父さんが来てから、妙に行儀がよくなった。ネコたちも、あまりグネグネしていない。犬も馬も牛もニワトリも、ピシッとしている。そうか、みな、怖いのだな。大丈夫、お義父さんは君たちを食べたりしないよ。多分。


 

「ミリーに会えてよかった」

「どうしたの、突然」


 階段の途中で、思わずミリーを抱きしめてしまう。


「どこにいても、誰かの笑い声が聞こえる。空気が温かい。王宮はいつも静かだったからね。ミリーと出会ってから、毎日温泉に浸かっているみたいな感じだよ」


「そうなの? ふたりで温泉に入りに行く?」

「行く」


 お義父さんとお義母さんがいる間に、ミリーとふたりだけの時間を満喫しよう。これから更に五人産まれるみたいだから。今のうちに、ミリーを独り占めしないと。


 ミリーと手をつなぎ、のんびり温泉に向かって歩く。なんて幸せなんだろう。ヨアヒム、でかした。


 やらかした甥っ子に、心の中で感謝した。



ひろろんさま「アル目線で、ひたすらミリーにデレデレなお話が読みたいです♪」


ロンロンさま「強いロバート父さんが、孫のルーカス相手だとどんな感じなのかも見たいです。メロメロなのか、石投げ教えるのかとか」


リクエストありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] リクエストにお応えいただきありがとうございます(*^^*) ヤバい。お父さんのインパクトが強すぎて、アルが頭に入ってこない(笑) 「大丈夫、お義父さんは君たちを食べたりしないよ。多分。」で…
[良い点] いつも楽しく読んでます! 最後の一文のやらかしがなければこの物語なかったんだものね~ ほめられてるけど、本人聞いたら複雑だろうな〜
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