1.伝説の先輩ミリー(クリス先生)
クリス・フェントレスだ。ヤバイ。人気がエグい。しかも自分の実力じゃないってところが、もう、なんか。
「クリス先生、ミリー先輩のお話、聞かせてください」
学園の新入生から、ミリー話をねだられる。
「クリス先生、うちの子の担任になってくださいませね」
高位貴族から頼まれる。いや、俺の一存で決められることではないんだが。
仕方ないから、ミリーに手紙を書いた。
『ミリー、元気か? 元担任のクリス・フェントレスだ。ミリーの話を聞きたがる生徒が多くてな。どこまで話していいか、殿下と相談して決めてくれないか?』
俺の話せるミリーおもしろ話を箇条書きにして、ヴェルニュスに送った。すぐに返事がきた。
『クリス先生。お久しぶりです。アルと相談しました。どれも事実なので、話して大丈夫ですよー。ミリー』
「まじかよ」
あいつ、相変わらず適当だな。まあ、殿下がいいなら、いいってことで。それで、たまに生徒にミリーネタを披露してるわけだが。どうしてこうなった。
「この木、こちらの木が恋愛成就の木なのですわ」
ミリーが教室の窓から鳥を仕留めて、昇り降りした木。なぜだか恋愛成就の木になってる。恋に恋する若い女生徒たちが、木の根元にお菓子や肉を置いて祈りを捧げてる。なぜだ。
「父なる太陽、母なる大地、我ら大地の子。ミリー先輩のように、素敵な旦那様と結婚できますように」
祈りを捧げたあと、晴れやかな顔をして立ち去る生徒たち。俺は教室からこっそり見ては、頭を抱える。
「効くか? 効くわけなくないか?」
それが、意外と効いてるらしい。幸せそうな女生徒が増えた。意味が分からん。
お次は、泉だ。ミリーのやつ、「お昼ごはんは現地調達です」とかなんとか言って、泉で魚とってたんだよな。しかも釣り竿じゃなく、石で。
「魚がはねるところを狙うんです。ほらっ」
ビューン 豪速の石が魚を的確に撃ち抜く。
「で、どうやって取るんだ。泳ぐのか?」
「あっ」
ウカツなミリー。獲ったはいいものの、どう回収するかを考えてなかった。そういうところだぞ。
イローナが、長い棒つき網を作って持ってきた。あいつも頭おかしい。
「わーい、イローナありがとう。大好き」
「ウフフ。でも、次からは事前に相談してくれないかな」
「はーい」
ミリーが魚を獲って、男子生徒が網で回収し、ミリーが作った焚き火で焼いて皆で食べる。無茶苦茶だ。ほとんどの生徒が貴族だぞ。おかしいだろ。
その話をしたら、男子生徒が燃えた。
「石で魚を仕留められてこそ、一人前の男ってことですよね」
そう言って、せっせと泉に石を投げ始める男子生徒たち。もちろん、魚なんて獲れるわけがない。イタズラに泉に水しぶきが立つだけ。そして、校長から怒られた、俺が。
「いやあ、そんなこと、ひと言も言ってないんですけどねえ。なぜか生徒たちが曲解するんですよね」
「気をつけてくれたまえよ。君は影響力が強い。君の一挙手一投足が注目されていると思いなさい」
そんなこと言われましてもね。勘弁してほしい。とりあえず、泉での石投げは校則で禁止になった。
裏庭での焼肉は、もはや伝統として残っている。騎士専攻の授業に、狩猟という項目が入った。しかも、石投げ狩猟だ。
「追加予算なしで新しい授業が始まりました。画期的です」
校長はウキウキだ。なぜだか本気で分からないが、俺が教師だ。
「いや、あの、剣術の教師なんですけど、一応」
俺の抗議の声は黙殺された。ひでえ。やりますよ、ええやりますとも。生徒連れて、森に行って、獲物を石で狩る。狩れるか。狩れるかよ。ミリーーーー。
見かねて、石投げ部隊の隊員が、助っ人として同行してくれるようになった。ありがたい。少しずつ、石で狩りができるようになってきている。
「解体して、おいしく食べるまでが狩りです」
ミリーはえらそうに言ってたな。確かにその通りだがな。貴族のお坊ちゃんたちだからな。大変なんだぜー、ミリーよう。解体も、石投げ隊員が教えてくれる。
「理にかなってるんですよ。魔物討伐で遠征するとき、持っていく食糧を減らせると移動距離が稼げますからね。軽装で行って、討伐して、それを食う。実に合理的です」
「あ、ああ。その通りですね」
すげーな。石投げ部隊、いつからこんなにたくましくなったんだ。王都も安泰だな。
ミリーのおかげで、王都は安全に、そして学園の風通しはよくなった。魔牛お姉さんたちの次代が、学園の秩序維持に目を光らせてくれている。
「身分をひけらかしてはなりませんわ」
「平民だからと見下すのは美しくありません」
「身分に関わらず、協力して王国を盛り立てるのです」
「そうすれば、わたくしたちにもきっと素敵な殿方が」
結局そこかよ。脱力するが、それで学園の雰囲気がよくなるならいいことだ。
男爵令嬢から奇跡の立身出世を成し遂げたミリー。王弟殿下の寵愛を一身に受けている、まさに全てを持つ女性。そりゃあ、女生徒が憧れるのも無理はない。だが、俺は言いたい。
「あいつは特別だ。普通の人間には真似できない。無理するな」
言えないけどな。水を差すのもな。夢見るのは悪いことじゃないしな。
生温かく見守っていくか。もしかしたら、第二のミリーが出るかもしれないし。
ミリー、ありがとうな。ミリーのおかげで、この国はよくなってきたぞ。そろそろネタ切れになりそうだから、たまには母校に遊びに来てくれ。頼むわ。
3dicekさまから「学園の後輩達が語る、伝説の先輩ミリー」リクエストいただきました。
ありがとうございます。
クリス先生視点になってしまいましたが。




