264.そんな未来 <完>
これにて完結です。ポイントいいねブクマをなにとぞよろしくお願いいたします。
今後は、いただいたリクエストネタを、外伝として少しずつ書いていくつもりです。
短編から始まり、あんまりプロットも考えないまま書き始め、よく分からないところに行っておりました。
10万文字を目標に書き始め、75万文字まできました。
これもひとえに、読者の皆様のおかげです。もう書くことねーとのたうち回る日々でしたが、皆さんからの暖かい感想で、なんとか完結までこれました。
本当にありがとうございます!
今後は、気楽に色んな短編を書き、需要が出れば長編に挑戦してみます。
ボロボロのラウル、一瞬で元通りになった。
「その海ブドウ、ヤバイね」
ミュリエルはじめ、皆、ポカーンである。
「ていうか、そんな医者いらずの食べ物あるなら、教えておいてよ。すっごいハラハラしたんだけど」
ミュリエルはハリソンのこめかみを両手でグリグリする。
「ラウル、よくがんばったね。もう、魔剣投げちゃおっかなーって思ってたよ。ガレールさんに」
ミュリエルはベッドに放り込まれているラウルの頭をもしゃくしゃにする。
「ミリーお姉さまは、魔剣を空中から取り出せるようになったんですね。すごいです」
「気合い入れないと出ないけどねー」
大体なんでも気合いでなんとかなる、ミュリエルと犬たちであった。
「その海ブドウ、レイチェルさんにあげる?」
「え、ラウルがいいなら、いいけど。でも、あれ、もうダメじゃないかなあ」
ハリソンが小声でコソコソ言った。
レイチェルの毛根は、コラーによって完全に石化させられた。もう毛が生える余地はなさそうだ。若い女性なのに。でも、まあ、仕方ないよねーでなんとなく流されている。日頃の行いだろうか。
コラーは終始ドヤ顔で、治す気もなさそうだし。石にしたものは治せないだろうし。レイチェルは自室で呆然としているそうだ。自業自得だ。
ラウルは、目いっぱい皆に甘やかされている。
「ラウル、おめでとう。これからは私と魔女たちでラウルを守るわね」
ルティアンナとサマンサが目を合わせてニヤリと笑う。ルイーゼの庇護下にある魔女たち。ルイーゼから使ってヨシと許可をもらっている。
「まさか、セファと婚約するとはねー。ビックリした」
ミュリエルの言葉に、枕元に座っていたセファが少し赤くなった。
「私は、そうなるんじゃないかなーって、思っていました」
フェリハが言う。
「間に合ってよかったです。イシパさんとデイヴィッドさんがいらっしゃらなければ、間に合わなかったかもしれません」
フェリハとセファは、ランプの精ジーンによって運ばれて来た。ランプに入れてもらい、空をひとっ飛びだ。とても便利なランプ、人もごはんも運べる仕様である。
「ラグザル王国の料理をたくさんヴェルニュスに届けてもらわなければ。母さんが楽しみにしている」
デイヴィッドの言葉に、ジーンはお安い御用と請け負う。
「ラグザル王国の料理をたくさん用意しておりますから、ご期待くださいませ」
ルティアンナの言葉に、ミュリエルは満面の笑みを浮かべた。
晩餐会には王族がズラリと揃った。
「家族全員と食事を取るなんて。初めてです」
ラウルが顔を綻ばせた。
「ヴェルニュスではそうしていると聞いたのでな。ヴェルニュス流に合わせたのだ」
ダビド王の言葉に、他の王族はとまどい気味だ。
「ごはんはみんなで食べる方がおいしいですよね。ラグザル王国の料理、とってもおいしいです。少しずつ色んな料理が食べられるって贅沢ですね。私の故郷では、大皿料理がドーンでした。肉焼いただけとか」
「そうか」
臆することなく食べまくっているミュリエルに、ダビド王はヒゲをピクピクさせる。
「ミュリエル様は、どうやってアルフレッド殿下とお知り合いになったのですか?」
年若い王女が、目をキラキラさせてミュリエルとアルフレッドを交互に見つめる。
「ヨアヒムが血迷ったのを、ミリーがガラス玉で止めてくれましてね。それで興味を持ったのですが。僕が森でイノシシに襲われかけたとき、ミリーが石で仕留めてくれました。そのとき僕の心も奪われたのですよ」
アルフレッドがさらりとのろけ、席につく女性たちはウットリとした目をする。
「あのレイチェルがああなったガラス玉ですね。興味深いです。私にも教えていただけませんか?」
ガレールが身を乗り出してミュリエルに問いかける。
「分かりました。石投げを伝授しますよ。あ、でも、攻めてこないって約束してくれるなら、ですけど」
「約束しよう。不可侵条約をさらに強固なものに変更すればいい」
ダビド王が、軽く請け負う。
「天馬を手懐け、亀姫に慕われる弟がいて、魔剣をどこからともなく取り出す領主。天犬に、魔人と魔女もついてる。戦いたいとは思わないな」
ダビド王は少し笑みを見せる。
「よかったです。仲良くしましょうね」
ミュリエルはニコニコしながら、次の料理をせっせと食べる。魔剣出せるようになっててよかった。持ち運びが便利だし、脅すのに最高じゃん。ホクホク顔のミュリエルである。
***
「ううう、もう食べられない」
「もう食べなくていいから」
ミュリエルは、客室のベッドの上でうなっている。どう考えても食べすぎだ。
「ああやって小皿でチョコチョコ出てくるとさあ。いつがやめどきかさっぱり分からない。ずっと食べちゃうよね。やっぱり大皿ドーンが安心だよ」
根っから庶民派のミュリエル。アルフレッドに背中を撫でられフウフウ言っている。
「ルーカス大丈夫かなあ。明日には帰ろうね」
「そうだな。お義母さんがいるから大丈夫だとは思うが」
「よく考えると、領主夫妻が不在がちな領地って危ないよね。早く帰らないとね」
「まあな。でも、大丈夫ではないかな」
今や皆が石投げができる領地ヴェルニュス。たいていのことはなんとかできる布陣だ。
その夜、ミュリエルは夢を見た。犬やフクロウに乗って飛び回る元気な子どもたち。
みんな元気だなあ。夢の中でミュリエルは幸せ気分にひたる。子どもが元気なら、それが一番だよねえ。それにしても、みんなよく飛ぶなあ。すごいなあ。小さいときから飛ぶ動物と育つと、怖さが麻痺するんだろうな。
シロから犬に、空中で乗り換える子どもたち。
ん? 子どもたち?
子どもがいち、に、さん、し、ご、ろく。
「ええー、私、あと五人も産むのー」
真夜中、ラグザル王国の王宮に、ミュリエルの叫び声が響いた。
「ちょっとはアルが産んでよー」
寝ぼけながらミュリエルはアルフレッドに詰め寄る。
「ぜ、善処する」
なんのことだが分からないが、ミュリエルの頼みなら全力で叶えたいアルフレッド。眠い目をこじあけて、神に祈った。
「父なる太陽、母なる大地、我ら大地の子。我が妻、ミュリエルの願いを叶えたまえ」
さすがの神様でも、それは無理だと思うぞ。




