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262.現地集合


 ラグザル王国の王都から、馬車で半日ぐらいのところにある、そこそこ大きな街。最近急に旅行者が増えている。


 身なりのいい、フクフクとした中年男性がまず着いた。その男、空からフワンと降り立ったのだ。


「空のお父さん、ありがとうございました。おかげであっという間に着きました」


 男は頭上に向かってお礼を言う。


 ミュリエルたちより後から出発したパッパ。一番乗りでラグザル王国に着いた。なぜなら、パッパには秘密兵器、巨人の空の雲がある。


 ミュリエルたちは、まさかパッパが行く気だと思っていなかった。パッパも、まさか自分が行くとは思っていなかった。


「お気をつけてー」


 そう言って、鼻高々な空飛ぶ犬に乗って飛び立った領主夫妻と護衛を見守ったのだ。ところが、なんだか急にソワソワと。ザワザワと。


「行かなければいけない。そんな気がする」


 パッパの勘が告げた。行け、と。そして、呼べ、と。


「空のお父さーん」

「はーい、陸のお父さーん」


 ふたりのお父さんは息の合ったところを見せた。護衛共々、雲の上から最短距離で、ラグザル王国にお邪魔します、ができた。川も森も湖も山もない、空の上。すぐ行ける。


「それでは、皆さんがいらっしゃるまでに、準備を整えておきましょうか」


 パッパはまず、街の代表者のところに行った。


「殿下の帰還に合わせて、色んなところから、たくさん人がいらっしゃいます。空き家を全て、宿泊できるように整えましょう。資金はお出しします。人手の手配をお願いできますか?」


 降って湧いた大きな話に、代表者は一瞬息を呑む。しかし、そこは王都に一番近い街で代表を任される男。すぐ乗って来た。


「やりましょう。噂はうっすらと聞いておりましたが。そうですか、人がここに。ええ、この街始まって以来のかきいれどきですね。分かります。一緒に儲けましょう」


 ふたりのできる男は、がっしりと手を組んだ。



 次にやってきたのは、たくさんのいかつい男女たち。ただものではない気配を漂わせたツワモノども。イヴァンの弟子たちだ。吸血鬼は気づいていなかったが、イヴァンはきちんと手配をしていた。丸腰で、ラウルを王都に入れるようなイヴァンではない。自身が育て、鍛え上げた一流の剣士たちに声をかけていた。


「師匠がついに」

「ムネアツだな」

「殿下の髪一本、触れさせはしない」

「おうっ」


 ギラギラと燃えている剣士たち。


 そして、王都には静かに怒っている女がひとり。ガレール第一王女だ。


「どいつもこいつも、手の平返しやがって」


 ガレールはひとり、自室で地図を眺める。


「ここも、そこも、あそこも。私が平定した。ラグザル王国の繁栄を築いたフリーデリカ女王の生まれ変わり。女王の治世よ再び、そう持ち上げたくせに」


 次期女王の地位は安泰だったと思っていた。ところが、女王の冠は、今ガレールの指の隙間からこぼれ落ちようとしている。


「父上、なぜです」


 殲滅した反乱部族を斬首し、生首の束を父王の玉座に捧げた。そのときの父王の目を思い出す。


「よくやった。お前は私の誇りだ。そうおっしゃったではありませんか」


 ガレールはビリビリと地図を破り、壁からはずす。


「もう私の王国でないのなら、いっそ」


 滅ぼしてしまおうか。薄暗い思いがガレールの胸に忍びこむ。


 ラウルの思い出はほとんどない。静かで寂しい、ひとりぼっちの小さな男の子。ガレールの敵に回れるほどの器量ではない。誰もがそう思っていた。


「ずっと本を読んでいた、頭でっかちの生真面目やろう。寂しがりやの子ども。いつから男になった。いつ、私に、この私に牙をむこうと決めた、ラウル」


 ガレールは地図を暖炉に放り込む。酒精の強い酒を、瓶ごとゴクゴク飲んだ。酒を口に含み、暖炉に向かって吹き出しながら、ロウソクで火をつける。さながら、火を吐く龍のごとし。暖炉の中の地図が、ボッと燃え上がった。


 ガレールは酒瓶も暖炉に投げ込む。獲物に飛びかかるヘビのように、炎が立ち上がる。


 ガレールは腰から双剣を抜いた。部屋の真ん中に立っている人型に、剣で切りかかる。腹、胸、足。両手の剣で次々と叩き切る。最後に両腕を交差させ、そして開く。


 ゴトリ 人型の首が落ちる。

 

「ラウル、首を洗って待っていなさい」



***



 クシュン 空飛ぶ犬の上で、アルフレッドがくしゃみをした。アルフレッドは、ミュリエルが編んでくれたマフラーに顔を埋める。


 ブルリ アルフレッドは震えた。すっかり記憶の彼方に追いやっていたが、ラグザル王国には、アルフレッドが大嫌いなレイチェル第三王女がいるのだった。


「会いたくない。会わなくてすむことを祈ろう」


 アルフレッドは隣で飛んでいるミュリエルに目を向けた。意気揚々と誇らしげなアカにまたがったミュリエル。空の上なのに、とてもくつろいでいる。


「いざとなったら、石投げて気絶させるか」


 すっかり嫁に毒されているアルフレッド。他国で、その国の王女に石を投げたら、戦争が始まるぞ。気をつけろ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石のパッパ!! 終わっちゃうのは悲しいですけど 子供世代や何年後の話とかは是非みたいです!
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