表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
258/308

257.最強の生物


 我はネコ様である。名前はまだない。人間たちは、ネコちゃん、おネコ様、ぬこ様、などと我らを呼ぶ。ぬこってなんぞ。人は我らを見ると、身もだえておかしなことを口走る。


 それも仕方あるまい。我ら、生まれつきたいそう愛らしい。一挙手一投足が神がかっている、かわいさの権化と言われる存在だから。


「かわいいって罪よねー。みんなすーぐアタシに夢中になるんだから」


 そう言って許される唯一の生き物、ネコ様だ。人のオナゴがそんなことを口にしようものなら、笑止千万。アタオカなヤツがおるでと、末代までヒソヒソされるであろう。


「人の子、哀れなり」


 我が失笑していると、下僕たちがひざまずく。


「ぬこ様、ご機嫌でいらっしゃいますね。今日もかわいいですねー」


 下僕たちが毛づくろいを邪魔するが、しばらく触らせてやる。人はなぜか、我らが人を小馬鹿にすると喜ぶ性質がある。


「ああ、踏んでくださいませえ。フミフミしてくださいませえ」


 寝ている人を踏むと、挙動が怪しくなる。アホなのかな。頭に乗ってやったり、首の上に寝そべってやると、さらに喜ぶ。


「俺、寝苦しくて目が覚めたら、ネコが首の上で寝ててさあ。窒息するかと思った」

「いいなあ、マジうらやま」


 なぜ窒息しかけることが、うらやましいのであろうか。死にたいのかな。人とは不可解な生き物だ。



 生まれながらに、人の上に位置する我らであるが、逆らえない人ももちろんいる。筆頭はご主人だ。ご主人、この地の生き物の頂点に君臨されておる。


 まず、犬は奴隷だ。これはなんの不思議もない。腹を見せて服従の仕草を見せる、誇りなき犬ども。ご主人と狩りにでかけ、せっせと獲物を献上しておる。


「今日は木を投げてくれるかな。石より木がいいな。木を投げてくれたら、さっと行って華麗に受け止めて、ご主人の足元に運ぶんだけどな。ご主人に俺たちのすごいとこ、見せてあげたい」


 犬どもの会話は大体そんなんだ。所詮、芸を見せねば愛されぬ、二流の生き物。ぷークスー。



 鳥は滅私奉公。あやつら、鳥便などと役割を与えられて、いい気になっておる。ふ、ふんだ。飛べるからってさあー。


「鳥は食べちゃダメだよ」


 ご主人に言われたから、食べはしない。ニワトリをちょーっと追いかけ回すぐらいだ。卵を踏み潰さなければ、ご主人も怒ったりはしない。


 ニワトリ、コケコケ言ってるだけで飛べない。鳥便もできない。でも、あいつら卵を産むからな。あなどれん。鳥もニワトリも、ネコ族の地位を脅かす潜在能力を持っておる。



 我らネコ族、夜の集会の議題は、鳥との最終戦争についてだ。


「フクロウがいる限り、我らに勝ち目はないぞ」

「しかもあいつら、増えやがった」

「ご主人を乗せて、調子に乗っておる」

「やはり、ネコ便を始めるべきではないか」

「いやだ、ここから出たくない」

「ゴロゴロだらだらするのがネコ族のつとめ」

「異議なし、賛成」

「我らのありようを曲げてまで、鳥と戦う必要はない」


 いつも、「ネコはネコですから。寝てればいいんですよ。かわいいは正義」って結論になる。むむむ。


「今まで通り、できることをできる範囲でね」

「小人を乗せて運んだり」

「小さいご主人をネズミから守ったり」

「怪しいヤツらをつけたり」

「のびをしたり、毛づくろいをしたり」

「丸まって寝たり、声を出さずにニャアの口をしたり」

「自然にそのまま、ありのままー」


 いつも通りにかわいくね、という方針だ。変わり映えはしないが、他に策はない。


 ネズミはちょいちょい狩る。そしてご主人に見せに行く。小さいご主人を襲おうとしたネズミは、いくらでもヤッテよしだ。


 新しくやってきた旅行者には、念入りにすりついておく。匂いをつけておけば、いざというとき犬どもが追いやすくなる。


 あいつちょっと怪しいなー。そんなよそ者がいたら、魔女に見せればいい。魔女は、小さい魔女のお世話をしながら、ネコの言葉も聞いてくれる。


「え、どの人ー? ああ、あれか。分かった。監視するから大丈夫。ありがと」


 これでひと安心。心置きなくゴロゴロできる。



 そんな穏やかでまったりとした、いつも通りの日々。我のしっぽがソワソワ動く。


「なんだろう。ぞわぞわ、ゾクゾク。落ち着かない」


 ネコ族は固まって、耳をピンとたてる。


「犬は普通だな。鳥は、怯えてるな。フクロウは落ち着いている。なんなんだ」


 我らはピッタリと身を寄せあったまま、ゆっくりと動き出した。


「ご主人、ご主人」


 怖いときは、ご主人のそばにいるに限る。


「ご主人、いたー」

「ギャッ、なんなのあんたたち。どうしたのよ。そんなにすり寄られると、歩けない」


「ご主人、ご主人。なんか来る」

「怖いのがくる」


「どうしたんだろう。ニャーニャー言ってるけど。お腹すいたの?」


 ご主人の足にスリスリすると、怖いのが少しマシになった。


「変だねえ。犬たちは大丈夫なのに。シロも気にしてないね。あ、分かった」


 ご主人が身をかがめて、ネコ族のアゴ下をカリカリしてくれる。


「あんたたち、怖いんだね。大丈夫、私の父さんが来るんだと思うよ。父さん、強いから」


「なあんだ」

「あービックリした」


 我らネコ族は、ドキドキしながら、ご主人の父さんを待った。


「よう、ミリー、アル。元気そうだな。おっ、ルーカス。じいちゃんだぞー」

「父さん、ルーカスを投げないでよ」

「投げないから、抱っこさせろ。おっ、なんだこのネコたち。なんで腹見せてんだ」

「父さんが怖いんだと思うよ。ここ最近、ずっとソワソワしてたもん」

「ほーん」


 ピャッ 見つめられて、背筋がヒヤッとする。腹を、腹をお見せしますー。


「まあ、かわいいネコちゃんたち」


 ご主人の母さんがお腹をワシワシしてくれる。そうすると、ご主人の父さんの怖い気配が少しやわらいだ。


 ご主人の母さんにひっつくことにしよう。我らネコ族の生存戦略が決まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫、いい…。 宇宙人から見たらきっと人間はこの小さい毛だらけの動物に隷属していると思われているのだろうな。異議なし。 猫って何故あんなに美しいのかな…??
[一言] 猫ちゃん達の会議が可愛い 猫ちゃん達は小人さん達を乗せるとか旅行客の監視や警備言う立派な役目を果たして居るのだから鳥達に対抗心を持たなくても……て思ったけどミリーの寵愛を受けたいのね 可愛い…
[一言] ネコ族の皆様は正しい選択をした。
2023/05/05 07:20 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ