248.モモキン
さて、モモキンだ。
「力が強いってどれぐらい強いんだろう」
そうミュリエルが言うので、モモキンはミュリエルに言われるがままに、力をみせる。
「このジャムの瓶詰め、コルクが硬すぎて開けられないだよね」
ミュリエルがリンゴジャムの瓶詰めを見せる。モモキンは固まった。仕方なく、そーっと受け取り、そろーりと指でコルクを持つ。冷や汗を垂らし、ブルブル震えながらコルクを外した。
はあー、重責を果たし、モモキンは安堵のため息を吐いた。
グシャッ 瓶が粉々に潰れ、モモキンの手がデロデロに。
「ああああーー」
モモキンは悲鳴をあげ、ミュリエルは慌てた。
「ごめん、今のは私が悪かった。もっと頑丈なもので試せばよかった」
ミュリエルとモモキンは謝りあう。
「じゃ、じゃあさ。畑を広げたいから、木を切って、根っこを引っこ抜こうと思ってるんだけど」
「抜けばいいんですね」
大きな木が一瞬で根っこから抜けた。領民たちは尻もちをついた。モモキンは次々と、ネギを抜くように木を引き抜く。
ブシャーッ 木の根っこと共に、大きな石が転がり出て、穴から水が噴き出す。
「ああああーー」
モモキンは慌てて石を穴に戻し、グイグイ押す。
ふうぅー、モモキンは額を袖で拭った。
「いやあ、すごいわ。助かった、ありがとう」
ミュリエルも領民も満面の笑みだ。木を切るのはともかく、根っこを引き抜くのは重労働だ。穴を掘り、色んな方面に伸びた根も除去しなければならない。それが、芋掘りより簡単に、楽々と抜かれていった。
「すげー」
「マジすげー」
「モモキンあにぃと呼ばせてもらいます」
モモキンは男たちに大人気。
「この下に水があるって分かったのもありがたい。水やりが楽になるね」
井戸を掘るのか、水路を作るのか。ミュリエルは領民たちと話し合う。
モモキンの怪力をまざまざと見せつけられた職人たち。顔を寄せ合って、どうすればいいか議論する。
「拘束具みたいな物で腕の動きを制限するのはどうかな」
幅の広い革のヒモで、モモキンの腕から胸と肩にわたって巻きつけた。
モモキンはそっと岩を手に持った。神妙な顔つきで、やわやわと岩を持つ。モモキンは少し笑顔を見せた。
「いけるかもしれない」
職人たちが喜んだとき、ハチがブーンと飛んでくる。
グシャッ 岩が粉々になり、モモキンの手が真っ赤になる。
「ああああーー」
モモキンはガッカリしているが、ユーラは笑顔を見せる。
「助かる。この調子で、ドンドン粉々にしてくれよ」
ユーラはモモキンの手の中にある、岩絵具の粉を瓶に詰める。ユーラはモモキンの手をキレイに拭くと、別の岩を渡した。
「革では弱いなら、鎖か」
モモキンは鎖でグルグル巻きにされる。
グシャッ、ああああーが続いた。岩絵具の粉が増えて、ユーラはホクホク顔だ。
「上半身を拘束しても意味はないということだな」
職人たちは拘束具は諦めた。
「やはりガラス玉か。効能がいまいち分からないけど、色々試してみよう」
両腕にガラス玉の腕輪をつけてみたり。両手にガラス玉の指輪をはめてみたり。
「拳ツバっていう武器がある。握りこぶしにはめる帯状の金属武器だ。それをはめると指の動きが制限されるから、いいかもしれない」
ダンの案がうまくいった。連なった四つの指輪のような拳ツバ。四本の指の上にガラス玉をのせてみる。
「できた。できたけど」
「ダセー」
「品がない」
「モモキンあにぃ、覇王みたいっす」
一部の男には大ウケだ。モモキンは、そうっと岩絵具の岩を持ってみる。グシャッとはならなかった。モモキンは笑顔になった。
「でもさあ、これさあ」
「夜はどうすんだよ」
「これつけてやるわけ?」
男たちは顔を見合わせる。女性たちも微妙な顔だ。ミュリエルはパンッと手を叩く。
「改良は続けるとして。もうね。あれだよ」
ミュリエルは少し顔を赤らめる。
「もうさ、女性はさ、抱きしめるの諦めなよ。抱きしめてもらいなさい。モモキンは常にダラーンとしてるの。そのー、ベッドの上でね。大丈夫、そういうのひっくるめて、モモキンを愛してくれる人が見つかるよ」
「そうでしょうか」
モモキンは自信がない。なんせオーガの島で長年、女っ気なく暮らしてきたのだ。ヴェルニュスに来て初めて、人の女性と接するようになった。ワタワタするし、甘い言葉のひとつも言えないし、抱きしめられない。そんな男を受け入れてくれる女性がいるだろうか。
「大丈夫」
ミュリエルは力強く言い、女性たちも頷いた。
「大丈夫ですよ、きっと。ヴェルニュスに住むなら、私がお相手したいぐらいです」
クフフフと女性たちは含み笑いをする。
「大丈夫っすよ、モモキンあにぃ。ゴンザーラ領の女性たちは、強い男が大好物。根っからの肉食系。ドーンと受け止めてもらってくだせえ」
ゴンザーラ領出身のイカつい男たちが請け負った。モモキンにようやく春が訪れるかもしれない。




