241.サマンサ
「アナレナが腑抜けになり、カトレアがのらりくらりか」
「ふっ所詮、やつらは二流。やはり四天王最強は」
ということで、四天王最強を目指し、魔女サマンサはやってきた。ラグザル王国の辺境の地へ。狙うはラウル第一王子殿下。次期王と名高く、既に名君の片鱗を見せていると聞く。
「王都はまだ早い。まずは、辺境の地から足掛かりをつかもう」
魅了の力や、書類偽造の技術をいかんなく発揮し、サマンサはするりと男爵家の令嬢におさまった。
没落一歩手前で、家族に先立たれた老人。昔々、誘拐された孫娘という設定でいけた。ちょろい。
ひっひっひっ サマンサはこっそりと魔女笑いをした。これをやると、元気が出るのだ。
男爵家は、没落寸前ということだけあって、ボロボロだった。召使は通いの料理人ひとりというありさま。魔女の森育ちのサマンサ。どんな過酷な状況でも大丈夫だが、屋敷の汚さは目に余った。
「おじいさま、お掃除しますね」
まずはじいさんの寝室から掃除する。
「うわー、ベッドの下、掃除したのいつよ。ホコリがすごいんですけどー」
サマンサはこんもりと積もったホコリにドン引きだ。床を掃き清め、外で絨毯を棒で叩く。大吹雪かってぐらい、絨毯からホコリが出た。
「あんな部屋で寝てたら、そりゃ病気になるわ」
じいさんは、ずっとゴホゴホしているのだ。
「シーツもカーテンも洗おう」
一日たっぷり働いて、やっとじいさんの寝室がきれいになった。
「おじいさま、ウサギ肉入りスープとパンです。今日は私が作りました」
サマンサは魅了の力が強く、目を合わせれば、小さな動物を金縛りにできる。うまい具合に、洗濯の途中でウサギがやってきたので、仕留めた。
サマンサはがっつり働いて腹ペコなので、せっせと食べる。行儀は適度に悪い方がいい。男は教えたがりだから、貴族の常識や礼儀にうといふりをすれば喜ぶのだ。
じいさんは手が震えてなかなか食べられないようだ。サマンサは適当にくっちゃべりながら、じいさんが食べるのをじっと見守る。食べさせてもいいけれど、自分で食べられなくなると途端に老人は退化する。時間がかかっても、自力で食べさせる方がいい。
ようやく、じいさんが食べ終わる。サマンサはじいさんを寝室に連れていくと、ベッドに押し込んだ。
「今日からは、きれいな部屋で寝られるからね、おじいさま」
じいさんは、ぼんやりサマンサを見て、目を閉じた。
サマンサは、全部の部屋を掃除するのはやめた。
「まずは、使う部屋だけでいいでしょう。どうせ誰も来ないんだし」
サマンサの部屋、じいさんの書斎、ふたりがごはんを食べる食堂、台所、客室。それで十分とサマンサは決めた。掃除が終わってもやることはいっぱいある。
「さあ、畑でも作るか」
どうせ庭園でのお茶会なんてものはないだろう。余ってる土地は全て畑にすればいい。サマンサは近くの農家に行って、ヤギを買ってきた。サマンサのなけなしの金が残り少なくなったが、仕方がない。必要な投資だ。
「さあヤギよ。お前の力を見せておくれ」
ヤギは、ヤギたるゆえんを見せた。草ぼうぼうだった庭は、すっきりきれいになった。
「ヤギの乳は栄養たっぷり。じいさんも少しは元気になるだろう」
サマンサは搾りたてのヤギの乳をゴクゴクと飲み干すと、じいさんにも持っていく。
「おじいさま、ヤギのお乳です。これを飲んで元気になってください」
じいさんは、力のない目でサマンサを見る。サマンサは無言でじいさんの口にコップを近づけ、圧をかけて飲ませた。
じいさんは少しむせていたが、なんとか飲み切った。
「ヤギのお乳はにおいが独特なので、最初はオエッとなるかもしれません。でも、体にいいですからね。これから毎日飲んでくださいね」
じいさんの答えを待たず、サマンサは部屋を出ていく。やることは山ほどあるのだ。落とす必要のないじいさんに、おべっかを使っている時間はない。
サマンサは、ヤギの首にヒモをつけて散歩に出る。庭の草が伸びている家を見つけると、家の人と交渉してヤギに食べさせる。そして、お駄賃をもらう。ヤギのお腹が膨れ、サマンサはお金が手に入る。一挙両得である。
農家の近くに行くと、キジがいるのをみつけた。目を合わせ、硬直したところを、やる。キジを抱えて、ヤギを買った農家を訪れる。
「おばさん、ヤギをありがとう。あの、お願いがあるんだけど。牛を貸してもらえないかしら。畑を耕すのに、私だけだと時間がかかるでしょう」
サマンサがキジを差し出すと、おばさんは快く牛を貸してくれると言う。
「明日の朝早くに、牛を借りに来ますね」
帰る途中で、野良のニワトリを見つけたので、魅了でつかまえた。
「しめしめ。これで明日から卵が食べられる」
ひっひっひっ サマンサは元気に笑った。
「とりあえず、飢え死にしないぐらいまではきたわ。でも、現金収入がいるわねえ。どうしよう」
サマンサがヤギとニワトリを連れて、思案しながら歩いていると、通りかかった家の窓から、泣き声が聞こえる。サマンサはさりげなく歩みをゆるめて、聞き耳をたてた。
「ディエゴが浮気してるみたいなの」
「またー? 姉さん、いい加減にあんな男と別れなよ」
「だって、結婚の約束したのよ」
「他にもっといい男いるじゃない。ディエゴと結婚したって、どうせまた浮気されたって泣くよ」
姉妹の会話を盗み聞いて、サマンサはいいことを思いついた。恋愛相談だ。サマンサは恋愛の経験はないが、知識はバッチリある。
サマンサは急ぎ足で屋敷に帰ると、ヤギとニワトリを庭に放す。手早く身なりを整え、少し美人な街娘になる。街をしばらくブラブラして、サマンサはよさそうなカフェをみつけた。適度なオシャレさ。気後れするほどではないが、貧乏人は入りにくい。
サマンサは店主と話した。
「私、仕事を探してるんです」
「ああ、給仕の仕事ならちょうど空きがあるけど、どうだい?」
「給仕の仕事より、占いをしたくて。私、占いが得意なんです」
事実だ。だって魔女だもん。
サマンサは魅了の力をちょこっと使って、店主を納得させた。カフェの奥に占い席を作らせてもらうことになった。占いの売上の半分を、店に渡すことで手を打った。
「さあーガッポリ儲けるわよー」
ひっひっひっ 金の匂いにサマンサは有頂天だ。
新しい短編を投稿しました。読んでいただけると嬉しいです。
「ヤサグレ聖女〜勇者パーティー派遣ギルドを作って皆を幸せにします。もう搾取なんてさせませんから〜」
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