240.適材適所
モモオがオーガの島に来て、約四十年が過ぎた。人生のほとんどをこの島で過ごしている。
モモオは桃から産まれて、すぐ大きくなった。一年ほどで十歳ぐらいの少年になったらしい。とにかく、ずっとお腹が空いていたように思う。幸か不幸か、モモオは動物に好かれた。いつもどこからか、動物が現れ、モモオにまとわりつく。
仕方ないことだ。モモオの食欲を満たすには、懐く動物を殺して食べるしかなかった。貧しい村だ。他に道はなかった。
最初は、桃から産まれた男の子ということで、大切にされた。だが、一年で十歳ぐらいの見た目に成長したこと。異常な食欲。不気味なほどに動物に懐かれる。モモオが村の人に恐れられるのも、無理もないことだ。
「オーガの島があるらしい」
「金銀財宝がため込まれているらしい」
「食い物もいっぱいあるらしいぞ」
らしいらしいが連発される村人たちの会話。モモオは正しくその意味合いを理解した。
「俺、オーガ退治に行ってくるよ」
モモオの言葉に村人たちは、ホッとしたような様子を見せた。
せめてものはなむけに、村人たちはモモオに芋だんごを持たせてくれた。芋だんごを使わなくても、共をする動物はどんどん増える。
オーガの島が見えたとき、大半の動物は恐れをなして、逃げて行った。残ったのは、犬と猿とキジ。やぶれかぶれで舟を漕ぎ、島につき、城門を叩いた。
オーガにめっちゃ懐かれた。
「お前、動物使いだろう。ヤバい」
「全然逆らえねえ。やべえ」
「お前、ここに住め。大事にしてやる」
オーガの気配を恐れてか、犬猿キジ以外の動物はモモオに近寄ってこなくなった。でも海に潜れば、いくらでも魚がいる。お腹が減ることも、懐く動物を殺すこともない。モモオは幸せだ。
数年後、また桃から産まれた少年が、オーガ退治にやってきた。
「モモキンです。桃から産まれたとき、桃が金色に光ったからだって」
モモキンは赤い前かけをして、おかっぱ頭の、ひょうきんな少年だった。とにかく力が強く、オーガと組み合ってもひょーいと投げ飛ばす。
「色んなもの壊しちゃって。もう村には置いておけないって言われたんで来ました」
モモオの兄弟分ということで、オーガはモモキンを受け入れた。
どうも、桃の木は数年おきに、桃を川に流しているらしい。また新しい桃の子が来た。目がまん丸なかわいい子。
「目が大きいから、モモメっていう名前です」
段々、村人たちの名付けが適当になっている。いや、最初から適当だったか。
「遠くまで見えるの。ずーっと遠くまで。だから、気味が悪いって言われた」
そして、足の速いモモハが来て、そのあと心の声が聞こえるモモア。モモアはたいてい海に浮かんでいた。海の上なら、心の声があまり聞こえなくて落ち着くらしい。
さて、あの三人、そろそろヴェルニュスに着いただろうか。
***
桃の子三人は、ロバートにつかまっていた。サイフリッド商会が、気を利かせて三人をゴンザーラ領に連れて行ったのだ。ロバートとシャルロッテと共に、ヴェルニュスに行けば護衛の効率がいいではないか。
ロバートは三人の得意なことを聞いて、目を輝かせた。
「お前ら、使えるな」
「あなた」
あまりの言いように、シャルロッテがたしなめる。三人は気にしなかった。陰でヒソヒソ言われるよりは、よっぽど爽やかだ。
力自慢のモモキンは、城壁を高く厚く補強するのを手伝った。まるでパンでも運んでいるかのように、ヒョイヒョイと。
「すっげー。モモキンさん、パネーっす。あざーっす。モモキンあにぃと呼ばせていただきます」
モモキンはゴンザーラ領のいかつい男たちに崇めたてられる。これほど簡単に城壁が強化できたことなどなかった。
モモキンは新しい井戸づくりや、屋敷の増改築なども、進んで協力する。来たばかりなのに、イヤな顔ひとつせずに力仕事をやってくれるモモキン。男だけでなく、女たちからも熱い視線を注がれている。
モモメとモモハも手放しで賛美された。モモメが見つけた遠くの獲物。モモハがすさまじい速さで背後に回り込み、後ろから追い立てる。そこを待ち構えた領民が狩るのだ。
「犬並みに使える。クロがいなくて困ってたからなあ」
「アハルテケ並みに足が速い」
「モモアハルテケって名前にしては」
領民たちもたいがいな褒め方だが、モモハは笑って受け入れた。ロバートがガシッとモモメとモモハの肩を抱いた。ばあさんがモモキンの腕にしがみつく。
「お前ら、うちの子になれ。なっ」
ロバートとばあさんが、逃がさないぞと気迫をこめて三人を見つめた。
「たまにオーガの島に里帰りさせてもらえるなら」
「よっしゃ。絶対戻ってくると誓うなら、いいぞ」
三人はゴンザーラ領に住むことに決まった。
「お前ら、先にヴェルニュスに行って、ちょっと遊んでから、ジェイと一緒に戻ってこい。俺が領地から離れると色々起こるから。ジェイを助けてやってくれ。なっ」
三人は、ジェイムズを連れて帰る役目を与えられた。ロバートはいい領主だ。領民をこき使うことに長けている。たとえそれが新入りでも。




