表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/308

212.KYな女

 

 クロが森の中で行き倒れている男を見つけた。


「おじさん、どうしたの?」

「ううー、バラー、バラー」

「お腹空いてるのかな? 腹ー腹ーって言ってるみたい」


 ジェイムズは男の口元に耳を寄せる。モゴモゴ言っていて、よく聞き取れない。


 そのとき、急に空がくもり、ゴロゴロゴロゴロと鳴り始めた。デイヴィッドは空を見上げる。


「雨が降りそうだ。どこかで雨宿りしよう」

「あそこにお城があるよ」

「見るからに怪しいな」


 イシパは顔をしかめる。


「いざとなったら、私が潰すけど、油断するなよ」

「はーい」


 行き倒れの男を、気をつけて荷馬車に乗せる。雨を気にしつつ、男をあまり揺らさないよう、ゆっくりと城に向かった。


 そびえたつ陰気な城。ジェイムズは門についている獅子の門環を、ガイーンと鳴らした。


「すみませーん。旅の者でーす。雨宿りさせてくださーい」


 ジェイムズは大声を張り上げた。門環のガイーンとジェイムズの声が、城の中で反響しているのが聞こえる。


 しばらく待ったが、誰も答えない。


「留守かなー」

「罠かも。何か、どんよりとした雰囲気を感じる」

 

 イシパは言った。


「とりあえず、雨宿りだけさせてもらおうよ」

「そうだな。滞在費を置いていけばいいだろう」


 ジェイムズとデイヴィッドの言葉に、イシパは渋々頷いた。行き倒れの男を中に運びこむと、急に部屋のロウソクが次々と灯る。


「うわー、どなたか知らないけど、ありがとう」

「滞在費はきちんと払います」


 ジェイムズとデイヴィッドは、見えない誰かにきっちりお礼を言う。


 そうこうしているうちに、行き倒れの男が目を覚ました。


「バラー、はっ、ここはどこだ」

「おじさん、大丈夫? 森で倒れてたんだよ。雨が降りそうだから、お城に入れてもらったところ」


 バターン 突然奥の扉が開き、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。


 グウゥゥゥゥ 男の腹が鳴る。


 行ってみると、大きな机にたくさんのご馳走が。


「うわー、ご馳走だね。食べていいのかなあ? 食べてもいいですかー?」


 ジェイムズは叫ぶが、誰からも返事はない。


「食費はきちんと払います」


 デイヴィッドもキリッと言った。


「返事はないけど、毒の気配はないから、いただこうか」


 イシパが言ったので、みんなイソイソと食べ始める。


「おいしいね」

「不法侵入、無銭飲食なのが、気がかりだが。とりあえず、金貨を置いておこう」


 デイヴィッドは金貨の袋を暖炉の上に置く。


「おじさん、もう元気になった? 腹ー腹ーって言ってたけど。お腹減ってたんだよね?」


 行き倒れの男は、しばらくジェイムズを見つめていたが、ああ、という表情になった。


「バラです。花のバラを探し求めて、さまよっていたのです」


 ウォルターというその男は、話を始めた。話を聞いて、イシパは不思議そうにしている。


「つまりあれか。ウォルターは商人で、難破したと思っていた商会の船が見つかったから、荷物を引き取りに行ったと」


「はい、おかげさまで破産を免れました。荷物は街で金に換えました」


「それで子どもたちにお土産を買ったと。ドレスや帽子はすぐ買えたけど、末娘の望んだバラの花だけ見つからないと」


「はい、微妙にバラの季節ではなかったようで」


 困り顔のウォルターに、イシパが少し呆れたように言う。


「そうだろうな。というか、バラを土産に頼むって難易度が高すぎないか? 街で買ったら、帰るまでにしおれるだろう? かといって、家の近所で買ったら、お土産にならない。その末娘、少し頭が悪いのでは?」


「うっ。ベラは気立のいい優しい子なのです。確かに、少し、空気を読めないところはありますが。花が好きな、純粋な子なのです」


「まあなあ。バカな子ほどカワイイとも言うしなあ。でも、バラは難しいと思うぞ」


 そのとき、机の上の花瓶にバラが咲いた。


「こ、これは。バラをいただいても、よろしいでしょうか?」


 ウォルターは大きな声で問いかける。やはり何の反応もない。


「代金を払えばいいのではないか?」


 デイヴィッドの言葉に、ウォルターは銀貨を一枚、花瓶の隣に置く。


「では、バラが枯れる前に急いで家に向かいます。よければ皆さんもぜひ」

「では、そうしますか。お城のご主人、お世話になりました。暖炉の上に食費と滞在費を置いています。ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 一同全員、大きな声で言い、現れない主人に頭を下げる。


 スッキリした気分で、一行が出口に向かうと、一陣の風と共に、ロウソクの火が消えた。


「ちょっと待てーい。勝手に入って、ご馳走を食べた上に、バラを持っていくと言うのか」


 小山のような巨大な何かが現れ、地の底から響くような声を出す。


「ええー、何回も聞いたじゃーん」

「お金も払ったが」


 ジェイムズとデイヴィッドは驚きながらも、言い返す。ウォルターは真っ青になって、ジェイムズの後ろに隠れた。


「ええーい、やかましい。娘を差し出せば、許してやる」

「まさかとは思うが、私のことか?」


 イシパがすごむと、小山は少したじろいだ。


「おま、あなたではありません。ウォルターのベラ。美人で純粋と評判なベラ」

「お断りだ」


 イシパが小山の首をガッとつかみ、持ち上げる。


「ううううう、嫁が嫁が欲しい。俺を愛してくれる嫁がー」


 小山はブラブラされながら、泣き出した。


「だったら、最初から正々堂々とそう言えばいいだろう。騙し討ちみたいな真似はやめろ、卑怯だぞ」

「だって、俺は醜い野獣。誰も俺なんかを好きになってくれっこない」


 パサリ 小山の頭からマントが落ち、獅子の顔が現れる。


「あ、大丈夫かもしれません。ベラは大の動物好きなので」

 

 ウォルターがポンっと手を打つ。


「マージー」


 ジェイムズと野獣が叫んだ。


 割と、マジだった。可憐で清らかで、ちょっと空気の読めないベラは、そのままの野獣を愛した。


「呪いがとければ、結構いい顔なのだが」

「いいの、そのままがいいの」

「ホントー」


 野獣とジェイムズがのけぞる。


「本気の本当です。獅子と結婚できるなんて、夢みたい」


 ベラはウットリと、野獣のたてがみをなでる。ベラと野獣はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。



「できすぎー」


 目をむくジェイムズの頭を、イシパとデイヴィッドがポンポンと叩いた。


「人の好みは様々だ。そのうちジェイにも、そういう相手が現れるよ」

「うーん」


 にわかには信じられないジェイムズであった。




気分を害された方がいらっしゃったら、ごめんなさい。

最近フランス版、レア・セドゥ主演のを見ました。

強くて、割とずっと仏頂面のヒロインが素敵でした。

エマ・ワトソン版は未見なのですが、アマプラで無料になったら見ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんとお金を払う所 流石商人ですね [一言] バラとうわ言で良いお城が出てきて魔法でもあるかのように灯りが付き食事と「娘がバラを」で美女と野獣だと確信しました 私が最初に知ったのはある漫…
[良い点] わかるぞ!!美女と野獣、わりと多くの方々が『なぜ獅子の頭のままじゃないのだ!?そっちの方がいいじゃん!!!』と思ってるのでこの結末いいですね!! 私もイケメンよりライオンの顔の方がいいな~…
[一言] 某アニメ映画しか観たことないのですが、野獣から人間になるところはいいシーンのはずなのにショックでしたね···(笑)
2023/03/21 11:55 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ