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【完結】石投げ令嬢〜婚約破棄してる王子を気絶させたら、王弟殿下が婿入りすることになった〜【書籍①②発売中&コミカライズ予定】  作者: みねバイヤーン(断罪ハピエン発売中)
【第六部】石投げ領主と子育て

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201/305

200.期間限定の歌声


 クルトとニーナはたまに街角で人形劇をしている。ヨハンとユーラが、持ち運びできる小さな、人形劇用の箱を作ってくれたのだ。やる演目によって背景は変えるが、上演中は背景は変えない。ニーナは劇が始まる前に背景を設置して、その後はずっと人形操作に集中だ。


 人形は太陽の神を模した男の子と、大地の神の女の子の二体だけ。これならニーナひとりでもなんとかなる。


 人形はそこはかとなく、アルフレッドとミュリエルに似ている。クルトが歌い、ニーナが人形を操る。初日は遠巻きに見ている通行人も、二日目からはわれ先に集まり、かぶりついて見るようになった。終わったあと、地面に置いたカゴに、思い思いのお金を投げ入れてくれる。



 ふたりとも、お金には困っていない。クルトはヴェルニュスでたっぷり給金をもらった。ニーナはあまりお金は持っていないが、クルトが保護者として払ってくれる。それに、宿泊費などはいつもデイヴィッド持ちだ。


「自分の分は自分で払う」


 クルトとジェイムズは何度もデイヴィッドに言ったが、デイヴィッドは聞き入れなかった。


「歌う聖人と森の息子と森の娘に、サイフリッド商会が同行しているんだ。この上もない宣伝だ。気にしなくていい」


 そうは言っても気になるので、ジェイムズは狩りをして食糧を調達し、クルトとニーナは人形劇で小銭稼ぎをするのだ。



 無事、劇が終わり、拍手喝采を受けた後、クルトとニーナは片づけをする。


「おじさん」


 急に声をかけられて、クルトは片づけの手を止めた。振り返ると、十歳ぐらいの少年が緊張した様子で立っている。


「なんだい?」


 クルトは大人なので、おじさんと呼ばれても、ムッとしたりはしない。この年齢の子どもから見たら、おじさん以外の何者でもないよなあとも思う。少年はモジモジしていたが、ためらったあと、口を開いた。


「僕、僕もね、教会で歌ってるの。でもね、大きくなったらもう歌えなくなるって言われたの。僕、おじさんみたいに、大人になっても歌いたい」


 クルトは少年の様子を見ながら首をひねる。


「大人になっても歌えばいいじゃないか。誰が歌えないなんて言ったんだい?」


「牧師さん。歌の先生もしてるんだ。僕の声は、あと何年かしたら出なくなるんだって」


「ああ。分かった。変声期が来ると、高い声が出なくなるからかな。なるほどなあ。教会の聖歌隊は、変声期前の少年少女で構成されることが多いよなあ」


「僕、男じゃなくなれば、ずっと歌い続けられるって言われてたの。でも、おじさんは男なのに歌えるでしょう。どうやったら僕もおじさんみたいになれる?」


 クルトの顔色が変わった。素早く辺りを見回すと、何気ない口調で話しかける。


「どうだい、これから宿に戻るから。そこで話を聞かせてくれないかい?」


 少年はコクリと頷いた。クルトとニーナは手早く荷物を箱の中に詰める。クルトはさっと箱を肩にかつぐと、少年を促して歩き出した。


 宿に戻ると、街の代表者と会っていたデイヴィッドたちもちょうど帰ってきた。


 人数が増えて、気後れしている様子の少年を椅子に座らせる。ニーナがお茶を入れ、ジェイムズがお菓子を少年にすすめた。



「えーっと、それで、男じゃなくなればって誰が言ったのかな?」


 クルトはお菓子をつまみながら、何気ない調子で聞く。


「牧師さんだよ。僕の声は短い間だけの奇跡なんだって。それをもっと長引かせられるんだって」


 少年は嬉しそうに告げる。


「どれぐらい?」

「大人になっても大丈夫だって。でも男じゃなくなるんだって。よく分からないけど」


 パリン イシパの持っていた茶器が粉々に砕ける。


「うあっちい。やってしまった」


 デイヴィッドが慌ててイシパの手をハンカチで拭き、ジェイムズが茶器のカケラを気をつけて拾う。イシパのこめかみがピクピクしているのを見て、デイヴィッドが両肩に手を置く。


「こらえて」

「うん」


 イシパは深呼吸をして、椅子に座り直した。クルトはお茶をゴクリと飲むと、少し微笑みながら問いかける。


「君のご両親はなんて?」


「僕、親はいないの。牧師さんが親代わりだよ。教会に住ませてもらってるんだ。歌えなくなったら、教会から出て行かなきゃいけないんだ」


 クルトは真顔になって、目をギュッとつぶってまた開いた。


「男じゃなくなって、大人になっても歌っている人っている?」


「いない。難しいんだって。神様に選ばれた人しか許されないんだって。選ばれなかった人は、神様のおそばに行くの」


 バキッ イシパの椅子のひじかけが折れた。イシパは慌てて、ひじかけを後ろに隠す。


「もう一度、代表者と話し合うか」


 デイヴィッドがポツリとつぶやく。クルトはゆっくりと少年に言い聞かせる。


「その話、誰にも言わないで。それから、男じゃなくなるってやつ、まだやっちゃダメだよ。ちょっとおじさんたちが、他に方法がないか調べるからね。いいね、約束だ」


「約束守ったら、歌い方を教えてくれる? 僕、低い声があまり上手に出せないの」


「いいよ、約束する」


 少年は嬉しそうに笑った。クルトは立ち上がり、少年を教会まで送り届けるために宿を出た。


「カストラートだな」


 少年とクルトが出ていった後、デイヴィッドは深いため息を吐く。ジェイムズはよく分からないようで、デイヴィッドとイシパを見る。


「そのーあれだ。玉取りだ」


 イシパがニーナを気にしながら、コソコソっと言う。ジェイムズは息を呑み、内股になった。


「えー、そんな、無茶苦茶じゃない」


「成功すると、不思議な魅力のある声になるらしい。体は成長するが、声変わりはしない。力強く、そのくせ甘く官能的な歌声だそうだ。ウワサには聞いたことがあるが、まさかこんなところで」


 デイヴィッドはふうーっと息を吐く。


「証拠を得られるだろうか。闇に葬られている気がする。どうしたものか」


「牧師を吊し上げればいい」


 イシパが指の骨をポキポキいわせる。


「うーん。ちょっと考えさせて。最終的に吊し上げるとしても、そこまでの過程がね」


 デイヴィッドは熟考し始める。一難去ってまた一難。虐げられる子どもが多すぎる。さて、どう救えばいいものか。



200話まで来ました。七転八倒しながらも、なんとか更新しております。ありがとうございます。

記念すべき200話目を、ちょっとエゲツない話にしてしまいました……。

少年少女を搾取する大人がいなくなりますように。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝200話執筆! 導入は不穏でも、ハッピーエンドになると信じていますから。私事で恐縮ですが、メンタルを病んだ身としては、登場人物の救いは、私の癒しにもなっております。本当に有難うございます…
[一言]  わーい200話\(^o^)/ こんなに楽しくいつも読ませて頂いてありがとうございます。 エゲツない話とか仰ってますが、イシパが代わりに怒ってくれるので、ストレスは感じません。  もう、何時…
[良い点] 毎日楽しく読ませていただいています。楽しいお話しの中に生々しい人間の残酷さが描かれていて、それをただ救うのではなく、いつも被害者が自立できる様に働きかけるところが最高に好き。 人間の持つ善…
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