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192.かわいいの最上級


「かわいいねえ」

「かわいい」

「世界中のかわいいの頂点にいる。どの親もそう思ってるんだろうけどね」


 親バカ街道をまっすぐ進んでいる、ミュリエルとアルフレッド。


 産まれた直後は赤くてグンニャリして、目もぼんやりしていたルーカス。ミュリエルとアルフレッドを、じっと見つめるようになった。親のひいき目を差し引いても、愛くるしい赤子だ。そう、ふたりは確信している。


 最初はこわごわと息子に接していたアルフレッド。今では、母乳以外は対応できるようになった。母乳を飲んだルーカスを、ゲップさせるため縦抱きで背中をトントンするのは、とても上手。


 長身でスラリとした美貌のアルフレッド。小さな赤ちゃんを抱っこしている姿は、その意外性にギュンギュンくると、評判だ。オムツも替えられる王弟はそうそういないはず。領民たちは鼻高々。


 ユーラはアルフレッドの許可を取って、父子の姿絵も描いている。いずれ税収に貢献するであろう。


 


「寝返りし始めたら大変ですけど、今は寝てるだけですから。お世話が簡単です。今のうちに体を休めてくださいね」


 ダイヴァは以前言っていた通り、産後もミュリエルのことを第一優先で動いてくれる。ルーカスのお世話をしたい人は、無限にいるので、ミュリエルものんびりしている。


「産むのも大変だったけど、産んでからも大変とは思わなかった」


 産んだ後数日間、後陣痛にのたうち回った。その後、突然足が三倍ぐらいの大きさになった。


「ギャー、足首が消えたー」


 ミュリエルの叫びにナディアが慌ててやってくる。


「ミリー様、ただのむくみです。水はきちんと飲んで、足を上にして横になれば、治ります」


 ナディアの言う通り、足はすぐ元に戻った。戻ったけれど、伸びた皮が縮んで、むけてきてかゆい。


「びっくりしたー」

「異国では、ゾウ足と言うそうです。ゾウという、巨大な生き物がいるんですって。耳が大きくて、鼻が長くて、足が太くて、灰色でゴツゴツしてるそうです。荷馬車より大きいとか」


「それはもはや、魔物では」

「大人しくて優しくてかわいいそうですよ」


 ミュリエルには全くかわいさが想像できない。



 次に抜け毛がミュリエルの心をえぐった。子犬のぬいぐるみができそうなぐらい。ゴッソリ抜けた。


 ヒー ミュリエルは両手にこんもり乗った髪の毛に泣き声を上げる。


「妊娠中に抜けなかった分が、今抜けてるのです。しばらくしたら生えてきますよ」


 ダイヴァがなぐさめる。


 少し寂しくなったミュリエルの前髪近辺。しばらくすると、ホヤホヤした毛が生えてきて、ホッとする。


「ヒヨコみたい」

 

 ミュリエルはピョンピョンはねる前髪を押さえつけようとして、諦めた。



 ありがたいことに、母乳は出る。すっごい出る。毎日、服の胸元がビチャビチャになる。仕方なく、サラシを巻いた。


 食欲旺盛なルーカスも、とても飲み切れない。


「この胸の大きさを維持したい」


 ミュリエル史上最大である。盛り盛りだ。


「維持。……できるといいですね」


 優しいダイヴァ。儚い、つかの間の盛りとは知っているが。ミュリエルが喜んでいるのだ、水を差す必要はあるまい。


「母乳が出るのは助かるけど。もうすっごい。ずっとお腹減ってる」

「たくさん食べてください。赤ちゃんに栄養を吸い取られるのですもの。ただ。授乳期間が終わると、食べた分だけ太りますから、注意が必要です」


 ミュリエルは神妙な顔で頷く。


「故郷でたくさん妊婦さんいたのに、こんなに色々あるって知らなかったよ」


「母親同士では話しますけれど。若い女性にはあまり言わないようにしてる人も多いと思いますよ。怖がらせたくないですもの」


「そっかー、みんなすごいことを乗り越えてきたんだね。私はみんなが助けてくれるからいいけど。アルとふたりだけだったら泣いてたね、きっと」


「子育ては周りが助けないと無理です。母親が寝れなくなります」


 ダイヴァはとことんミュリエルを労る。産後に無理をすると、長年不調が続くとナディアに聞いた。


「私は寝て、母乳あげて、ごはん食べて。その繰り返しだけど」


「それでいいんです。ミリー様のお腹の中はズタズタなんです。出産は荷馬車にひかれるぐらいの衝撃らしいですよ。ナディア先生が仰ってました」


「それなら、堂々とダラダラするね」


 こんなに寝てばかりでいいのか、少し気が引けていたミュリエル。気にせず、のんびりすることにした。



 幸い、ルーカスはよく寝る、育てやすい赤ちゃんらしい。


「私の息子、寝たなと思ってベッドに置いたら目を覚まして。だからずっと抱っこでしたよ。おかげで腕がすごくたくましくなりました」


「私は母乳が全然出なくて、ヤギのお乳をあげてました。あのときは、すごく辛かったです。自分が役立たずみたいで。今思うと、子どもが元気ならそれでいいのに」


「うちの子は、ずーっとグズグズして寝てくれなくて。気が狂うかと思いましたよ。寝れない日が続くと、もう何もかもイヤになります。ミリー様は、寝れるときに寝てくださいね」


 お母さんたちの苦労話は、とても重みがある。



「みんな、色んなことを乗り越えてきたんだね。すごいね。お母さんってすごいよ」


「子どもが何歳になっても、悩みごとはつきないんですよ。離乳食を全然食べてくれないとか。いつまでも乳離れしないとか」


「そうそう。歩き始めが他の子より遅いとかね。言葉が出てこないとか。とにかくずーっと悩んでました。子どもによって成長の早さは違うんです。比べたらダメです」


「その子が準備できたら、自然とできるようになりますから。ちょっとほったらかすぐらいで、ちょうどいいですよ」


「そうだね。元気に生きていれば、それで十分だよね」


 ミュリエルは、あまり気にしすぎないようにしようと決めた。楽観的なミュリエルも、初めての育児で不安ばかりだ。経験豊富なお母さんたちの言葉は、とても心が軽くなる。



 そんなヴェルニュス、妊娠の報告が増えてきた。


「できたみたい」


 照れるイローナと、普段の冷静さを失っているブラッド。パッパは嬉し泣きしすぎて、少しやつれた。ミランダはいつも通り、落ち着いている。母は強しである。

 

 魔牛お姉さんたちも、顔をほころばせて吉報を告げる。


「ウフフ、計画通りですわ。妊娠中は移動できませんもの。このままヴェルニュスに住みますわ」


 魔牛お姉さんたちの夫は、ヨアヒムの側近だ。どうするヨアヒム。側近が王都に戻らないかもしれないぞ。



きりがいいので、ここから第六部にします。

まさか、子育て編を書くことになるとは、思ってもいませんでした。

長らくおつきあいいただいて、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遅ればせながら一気読み中です。 「かわE」の最上級・・・ 「かわZ(かわずぃー)」ですかねw
[一言] 確かにここで出産した方が安心だけど…… 問題は側近のお兄さん達…… 大丈夫か?ヨアヒム……
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