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190.小さき人たち


 しばらくして、親指姫の母親と、親指小僧の両親が荷馬車に乗ってやってきた。親指さんたちもたくさん連れている。



「鳥から聞いたって言う親指さんたちがたくさん来まして。一緒にヴェルニュスに行きたいって頼まれたのです」


「人間の家の床下で暮らしていたけど、大変だったそうで。いじめられたり、見せ物に売り飛ばされたりしない、理想の場所がヴェルニュスだと。鳥たちがこっそり広めているらしいです」


 ミュリエルは驚いて鳥たちを見る。鳥たちは全く悪びれた様子もなく、褒めてほしそうにミュリエルを見返す。


「そっかあ。ここなら安心だもんね。分かった。親指さんたちの家をヨハンに作ってもらえるか、聞いてみるね」


 ヨハンはふたつ返事で引き受けた。


「人形の家を本当に使ってもらえるんですね。ワクワクしますね。細かい作業は、親指さんたちにも手伝ってもらいたいですが」


 親指たちは、もちろんです、と喜んでいる。ヨハンを中心に、色んな職人が協力し、小さな家が次々とできていく。


 住みやすく、あらゆるところまで工夫が凝らされた小さな家。パッパはそれを見て、満面の笑みを浮かべる。


「この家、人形の家としても売り出しましょう。絶対に売れますよ。富裕層の子どもたちや、ご婦人方が夢中になるでしょう」



 ヴェルニュスの職人たちの技術の粋を結集した人形の家。ヴェルニュスの目玉商品となりそうだ。



 まずは親指たち用の、工具類、ろくろ、針、筆などが作られた。それから、小さな家具、食器類、服など、様々なものが、共同作業で作られる。大枠は人の職人が作り、細かい装飾や微調整は親指たち。


 精緻な模様が描かれた小さな皿。繊細な透かしが彫られた家具。目を凝らさないと見えないほど細かな刺繍が施された衣装。今までは売り物にならなかったクズ宝石も、小さな装飾品に使われた。


 ユーラの指導の元、小さな絵や壁紙も描かれた。


「今まで、人形の家に飾る絵は、大味なものばかりでした。今は本格的な絵が飾れますね。壁紙も、色んな模様が描ける。隅々まで、まさに本物だ」


 ユーラは満足そうに確認している。パッパもホクホク顔だ。


「小さな家具や食器なんかは、単品売りしてもいいかもしれない。お客様に、自分で好きな家具を組み合わせてもらって、好みの人形の家を作っていただく。季節の模様替え需要もありそうです。一回売って、はい終わりではなく、継続して売り続けられる」


 パッパはせっせと利益の試算をし始めた。


「人形の家と同じ家具や食器を、お揃いで使いたいというお客様も出てくるはずだ。ヴェルニュスの手工芸品を、人形の家用にも作れば、相乗効果で両方売れる」


 パッパは目を輝かせ、職人たちはやる気をみなぎらせた。


 親指たちも、顔を見合わせて口々に言った。


「人や動物の目を恐れて、ビクビクしながら生きてきたのに。堂々とお日様の下に出られる」


「今まで、木の実を取ったり、大きな人の食べ物をくすねたり。その日暮らしでした。仕事ができるなんて、夢のようです」


「物作りって楽しい」


 職人たちは、「ちゃんと給料は出すからな」と約束する。


「せこい話をするけど、食費なんかほとんどかからないだろ。給料ほぼ全部、手元に残るんじゃないか。よかったな」


 職人たちの言葉に、親指たちは、驚きを隠せない。


「お金を持ったことがないので、どうやって使えばいいのか」

「老後の蓄えにためておきなよ」

「私、もう老後ですけど」


 シーンとする職人たち。


「じゃあ、ぱあーっと使っちまえよ。酒とかさあ」

「こらっ、変なこと教えないのよ。こんなに小さいんだから、お酒すぐ回っちゃうでしょう。危ないわよ」


 女性たちが必死で止める。


「お金の使い道はゆっくり考えなよ。まずは、新しい生活に慣れないとね」

「歩くだけでも大変だろう。毎日長旅だもん」


 お城と職人街の移動は、職人が親指たちを運んでいる。城の中の移動は、通りかかった人や猫に乗せてもらうのだ。


「城内に、親指さんたちの移動用のヒモをはわせるか」


 ミュリエルの許可を得て、城の通路に親指用のヒモがぐるりとつけられた。通路の右側には右から左に下がっていくヒモ。左側の壁には左から右に下がっていくヒモ。柱を区切りとして、高低差のあるヒモが壁のごく下の方についている。


 親指たちは城内では常に綱を持つことになった。綱をヒョイっと壁のヒモにかけ、結び目を作って、そこに座る。勢いをつけて台を蹴れば、グングン進めるのだ。逆方向に行く時は、通路の向こう側のヒモを使えばいい。


 その移動姿はとても楽しげで、皆がうらやましがった。


「いいなー、私もやりたい」


 ミュリエルが一番うらやましそうだ。


「それは難しいけど。ミュリエルの人形の家に、ヒモをつけてあげよう」


 アルフレッドは、ミュリエルに贈った人形の家を、せっせと増改築する。割と負けず嫌いなアルフレッド。ミュリエルには最高の人形の家を持っていてもらいたいのだ。ミュリエルの人形の家は、もはや城と言ってもいい域に達している。

 

 豪華なミュリエルの人形の家。親指たちは、アルフレッドとミュリエルの許しを得て、その中を探索する。それを見ているミュリエルの笑顔。そのミュリエルを見るアルフレッド。ヴェルニュスには幸せが満ちている。



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