表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/305

160.こじらせ


「ひゃっはー、イイ男がいるぜー」

「おい、お前たち、ちょっと顔かしな」


 突然、森の中から数人の男たちが飛び出してきた。ラウルたち一行はポカーンとしている。犬もコラーも、チラっと男たちを見て、すぐ横を向いてアクビをした。


「おじさんたち、すっごい震えてるけど、大丈夫?」


 ハリソンが心配そうに声をかけた。ボロボロの服を着た貧相な男たち。必死で棒を構えて威嚇しているが、棒の先がプルプル震えている。


「お腹が減っておるのか? パンを食べるか? 魚もあるぞ。卵もあるぞ」


 ラウルが優しい声を出す。


「うああああーーん、お願いしまーす」


 男たちは泣きながらむさぼり食った。ラウルは辛抱強く話を聞く。


「ふむ、急に魔物が現れて、村の女と子どもたちがさらわれたのか」


「へ、へえ。恐ろしい妖気を放つ黒いグニャグニャした何かなんでやす」

「助けに行ったら、イイ男を連れてきたら、みんな返してくれるって」

「それで、旅人が通るのをずっと待ってて」

「食べるものも無くなって」


 男たちがグシグシ泣きながら、必死で言い募る。ラウルたちは顔を見合わせた。


「イイ男……。一番顔がキレイなのはラウルだね」

「十二歳はイイ男という枠に入るであろうか。イヴァンとガイの方が無難では」


 ハリソンとラウルは腕組みをして考える。


「とにかく行ってみようではないか。無理だと思えば撤収して考えよう」


 ラウルの言葉にイヴァンとガイは渋々頷く。


「犬とコラーが不穏な雰囲気になったら、すぐに逃げましょう」

「分かった。よろしく頼んだぞ」


 ラウルは犬とコラーに頼む。犬もコラーもボヘーッとしているので、今のところ大丈夫そうだ。



 男たちに案内され、ラウルたちは森の奥にある洞窟の前まで来た。犬とコラーの様子を見て、ラウルはいけると判断した。


「たのもー、少年と中年のイイ男が来たぞ。村人たちを返してくれぬか」


 しばらくして、びょうびょうとした声が響く。


「年下はもうイヤじゃー」

「うむ、振られてしもうた」


 ラウルは首を振りながら小さくこぼす。


「たくましい大人の男がふたりおるぞ。剣聖と護衛だ。腕利きだ」


 イヴァンとガイは、強くカッコよく見えるように、剣を抜き、すきのない構えを見せる。


「中へ入ってまいれ」

「村人と交換だ」


 ラウルは一歩も引かない。


 しばらくすると、女や子どもたちがゾロゾロと出てくる。皆、ゲッソリしているが、自力で歩けるようだ。男たちはヨロヨロと駆け寄ると、女房と子どもを抱えてオイオイ泣く。



「俺が行ってくる」


 ガイが決死の覚悟で中に入って行った。ラウルは心配そうにガイの背中を見つめる。


「あの、助けに来てくれて、ありがとうございます」

「もう、大変でした」

「話が長くて」


 女たちは辛そうに眉と口を下げる。


「ん? 痛い目には合わされておらぬのか?」

「耳と心は痛いですけど、体は大丈夫です」


 女たちは、はあーっとため息を吐く。


「気持ちは分かるし、かわいそうだなーって思うけど、ねー」

「引きずりすぎ」

「こじらせすぎ」

「話ながすぎ」


 びょうーと風が吹いた。


「聞こえておるぞー」


 ヒッ 女は青ざめ、子どもたちはワーンと泣いた。


「あのオバサン、怖いー」

「こらっ、しっ」


「誰じゃー、オバサンと言った悪い子は誰じゃー」


 黒いグニャグニャしたものが、ブワッと飛び出してくる。ハリソンはすかさず、真珠を投げつける。


 ギャー グニャグニャは、断末魔をあげると、小さな狐になって地面に落ちた。


「狐だ。かわいい」

「本当か? わらわはカワイイか?」

「うむ、大変かわいらしい」


 狐は照れて、クネクネする。


「そなた、いくつじゃ」

「十二歳だ。ラグザル王国第一王子のラウル・ラグザルだ」

「ギャー、年下の皇子ー」


 コーン 小さくひと声鳴いて、狐は気絶した。


「また、俺の出番なかった」


 洞窟から走って出てきたガイが、ガックリと地面に膝をつく。



 寝ている狐を横目で見ながら、皆で焚き火を囲む。犬とコラーが狩ってきた鹿の肉を食べながら、ラウルは根気よく女たちから話を聞いた。


「なんかよく分からんのですけど」

「昔、若い恋人がいたんだって」

「光の君って呼ばれる美形の王子様らしい」


 女たちは肉をガツガツ食べながら説明する。


「男も若いうちは、年上のキレイなお姉さんが好きじゃないですかー」

「でも、キレイなお姉さんが、こぎれいなオバサンになったらねえ」

「結局若い女に行っちゃうよねえ」


「う」


 村の男たちは一斉にあらぬ方向に目をそらす。


「しかも、その光の君? 正妻がいたらしいの」

「最低じゃね」

「クソ野郎だな」


「う」


 男たちは地面の石を無意味にほじくる。


「ツンツンしてさ、可愛げがないからさ」

「捨てないでって素直に言えなかったらしいのよね」

「だからって、正妻と他の愛人を次々呪い殺さんでも」

「可愛さ余って憎さ百倍らしいですわ」


 話を聞いて、男たちは青ざめた。思ってたより、ドロドロだった。


「やりすぎて、その土地の神さまに怒られたんだって」

「そんで、気づいたら狐になってここにいたんだって」

「でもまだ、キレイな男が好きなんだって」


「でも、もう、年下はイヤじゃー」


 起き上がった狐がウジウジ泣き始めた。


「今度は、わらわだけを愛してくれる、年上の男がよいのじゃー」


 狐は丸い涙をポロポロ流す。ラウルは狐を優しく撫でてあげる。


「うむ、うってつけの男を知っておるぞ」

「まことか?」


 ラウルはウルウルと見上げてくる狐に重々しく頷く。おもむろに銀の釣り竿を取り出すと、ビュッと振った。



 ヒューーン 糸はどこまでもどこまでも伸びていく。


「泉にひとりで長年暮らしておる、釣り竿拾いの精霊がおる。お似合いだと思う」


 え、そうかな! 押しつけじゃない? イヴァンとガイは固まるが、賢明にも言葉には出さなかった。


「この糸をたどって行けば、良き男に出会えるであろう」

「分かった。行ってみる。そなた、何か望みはあるか?」


 狐の問いかけに、ラウルはうーんと考えた。


「村人たちに怖い思いをさせた詫びとして、これからは村人たちを守ってやってほしい」

「分かった。そしたら、釣り竿はここに置いていてくれぬか? そうすれば行ったりきたりできる」

「うむ、よいぞ」


 狐はクルリと宙返りをすると、たおやかな美しい女性に変わる。袖の長い不思議で優美な衣。艶やかな黒髪が、扇のように足元の地面にまで広がっている。


 ほえー 村人たちは目を丸くして見惚れる。


「ありがとう。では行ってくる。そなたらが女で苦労せぬよう、加護を授けてやろう」


 えいっ 断る間もなく、何かキラキラしたものが、そこにいる全員に降りかかる。


 げえー、これ大丈夫なヤツー? 声なき声が皆の心を通り過ぎる。


「大丈夫じゃ。多分」


 全く安心できない言葉を残し、狐は糸をたどって飛び去った。


「余は、ただひとりの妻を、生涯愛そうと思う」


 ラウルの言葉に、女たち全員が拍手した。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラウル‥ いきあたりばったりな発言がミリーに似てきた?(笑) でも良い結果は呼び寄せるから良いかもしれませんね
[一言] 「女で苦労」っていろんな意味がありそう
[一言] 葵と夕顔かわいそうですもんねー 女の恨みは男ではなく女に向くのだと習いました( ˘ω˘ ) てっきり狐さんとイケオジの恋が始まるかと思ったのにまた出番なかったー
2023/01/28 06:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ