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151.便利な真珠


 パッパは珍しく困っている。商隊のひとつが、連絡を絶ったのだ。


「盗賊にやられたか、はたまた競合の商隊に邪魔されているのか。うむむ」


 こういうことは滅多にない。一流の元冒険者を高給で雇い、商隊の護衛についてもらっているのだ。


 給料がよく、休みや怪我をしたときの保障もきっちりしている。旅に出る場合は、距離に応じて手当てがもらえる。その上、置いて行く家族の面倒を見てもらえるのだ。小さい子どものいる冒険者とその妻にとって、何よりありがたい。


 冒険者としてしばらく働き、腕を上げたら結婚し、サイフリッド商会に雇ってもらおう。そういう将来設計を立てる若者も多い。


 よりどりみどりの応募者から、選りすぐりの護衛を雇っているのだ。商隊の護衛としては破格の強さを持つ者ばかりだ。


「最後に連絡があったのは、ラグザル王国とアッテルマン帝国のはざまの未開の地か。やはり私が行ってみるべきだな」


 パッパは嘆息した。愛娘イローナの結婚式に出席できなくなりそうだ。しかし、従業員の命は愛娘の結婚式より優先に決まっている。


「父さん、俺が行ってくる」


 デイヴィッドがパッパの背中をポンポンと叩く。


「いいのか? イローナの結婚式に間に合わないかもしれないぞ」

「イローナの結婚式は、父さんと母さんで盛大に祝っておいて。間に合うようにがんばるけど」


「ありがとう、デイヴィッド。気をつけるんだぞ。ダメだと思ったら、金で命を買え。いくらでも出す」

「分かってる。必ず皆を連れ帰るよ」


 ついでに売りたい商品を荷馬車に積み込み、最強の護衛を揃え、出発することになった。


「デイヴィッド、鳥と犬も連れていって」

「……鳥はともかくとして、犬はどうなんでしょう。ミリー様の守りが薄くなりませんか」

「大丈夫、今はクロもいるし、ね」


 ミュリエルに強く言われ、デイヴィッドはありがたく犬を一匹借りることにした。不測の事態でも、犬がいれば安心だ。


「兄さん、素敵なお土産をよろしくね」


 イローナは心配を押し隠し、笑ってデイヴィッドを抱きしめた。


「ああ、新婚夫婦にピッタリの何かを見繕ってくるよ」


 デイヴィッドは少しだけ微笑んで、旅立った。



***



 ラウルたちはまだ巨人のお城で過ごしている。毎日ハリソンが湖に潜り、少しずつ真珠を取るのだ。湖の水が半分ぐらいにまで減り、島とお城をつなぐ道が出てきた。


「久しぶりに城に戻れるな」


 巨人はニカっと笑うと、そろりそろり、湖を揺らさないように気をつけながら歩いてくる。初めて立っている巨人を見て、四人は首が痛くなった。


 城に入ると、巨人はキョロキョロとあたりを見回す。


「あいつら、まだ帰ってきてないんだな」

「どいつら?」


「俺の妻と娘。ちょっと下界で遊んでくるって出かけて行った」

「巨人族が下界に降りると、大騒ぎになるんじゃないの?」


 ハリソンが心配すると、巨人はワハハと笑った。


「下界ではちょっと大きいぐらいの人間に化けるから大丈夫だ。人を踏み潰したりしない」

「あ、そうなの。ならよかった」


「お前たち、下界に降りたら俺の妻と娘を探してくれんか。そろそろ帰ってこいって伝えてほしい」

「うむ、分かった。どこを探せばよいのだろう? 下界は広いのだが」

「真珠を持っていけ。迷ったら転がせば、正しい道が分かる」


 なんて便利。ラウルとハリソンは真珠をつまんで見ながら、ほうっと感心する。


「雨が降らなくて困ってる村があったら、真珠をあげればいい。真珠に祈れば雨が降る」


「それは本当にとてもありがたい。ところで、祈るとき、女装しなければならないのだろうか?」


 ラウルは思い出した。あれはできれば勘弁してほしい。


「女装? いや、別になんでも構わんけど」


 巨人は不思議そうな顔をする。


「かわいい子どもの旅人が祈るっていうのは?」


 ハリソンの問いに、巨人はキョトンとした表情を見せた。


「下界の人間は、妙なことを思いつくな。なんでもいい、真剣に祈ればいい」

「はーい」


 ラウルとハリソンはいい笑顔で返事をする。巨人が、ふたりの笑顔を見て、あっと口を開けた。


「ああ、分かった。前に、お前たちに似た子どもが来たとき、そいつらが女装しておったわ。敵の目を欺くために、変装したとか言っておった。それでじゃないか」


「へー、そんなことがあったんだね」


 ハリソンとラウルはホッとする。女装しなくても、旅人の子どもでなくても、真剣に祈ればいいなら簡単だ。


「じゃあ、色んな村を巡って、祈り方を教えながら、奥さんと娘さんを探してくるね」


「ああ、頼む。また遊びに来るんだぞ。湖がいっぱいになる前に来るんだぞ」


「分かった。村の人に、登って真珠を取るように行っておくね」

「泳ぎが得意な人間にしてくれ」

「はーい」


 巨人はそうっと人差し指を伸ばして、ハリソンとラウルの頭を優しくなでた。



***



 色んな村に寄って、真珠を渡して、祈って。ラウルたちはのんびり進む。道が二手に分かれていたら真珠を転がせばいい。真珠に導かれて、ラウルたちは大きな森の前に着いた。


「なにこの森、イバラだらけ。この中に入るの、大変だよ」


 ハリソンはトゲに刺さらないよう気をつけながら、森の外から道を探す。


 ワオーン 突然、犬たちが遠吠えをする。


 ワオーン 遠くから返事が聞こえた。


「うわー、デイヴィッドが来るよー」


 ハリソンが目を丸くしながら、大きく手を振った。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだろう、ラブラブの予感(笑) [一言] デイヴィッドさんに恋の予感する。
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