第98話 侯爵との面談
火の3の月、3の週の陽の日。
そろそろ夏も終わりのはずだが、連日暑い日が続いている。
だが、森の中は日光が遮られて結構涼しい。
「ふぅ、ただいまっと。」
ミカは森の中に着地すると、一息つく。
先程まで少し離れた村で簡単な魔獣討伐のクエストを行い、飛んで戻って来たところだ。
最近のミカは本当に忙しい。
平日は毎日、放課後に王都内の”呪い系”の探索に出掛けている。
そして、呪いの原因が見つかれば陽の日に解呪を行う。
だが、平日のうちに原因が見つからないことも度々あった。
そういう時は陽の日に魔獣討伐のクエストを受ける。
ほとんどが小型の魔獣を相手にするものだが、Cランクのクエストなので報酬はまあまあ。
”呪い系”の依頼が一件金貨四枚以上なのを考えると、魔獣討伐のクエストのほとんどがそれ以下の報酬になる。
報酬のことだけを考えれば”呪い系”に絞るべきだが、そっちは出てくる魔物がほとんど”幽霊”だ。
ぶっちゃけ楽しくない。
なので、稼ぐのは”呪い系”で。
残りの陽の日を、魔獣討伐のクエストにあてるという感じで、何となく落ち着いて来た。
元々”呪い系”は新たな”呪物”の入手先のつもりで始めたのだが、最近は暇潰し自体をあまり必要としなくなった。
平日も呪いの原因探しに出掛けているので、帰ってくると結構疲れている。
防具の手入れも頻繁に行う必要があり、むしろ夜はゆっくりしていたいという気分になっていた。
それでも月に二件の”呪い系”を達成し、残りの陽の日を魔獣討伐にあてれば、月の報酬が大金貨一枚を超える。
毎月百万ラーツを稼げるのだ。
他の冒険者が手を出しにくい”呪い系”をほぼ独占しているので、稼ぎがとんでもないことになってしまった。
家族へ二カ月に一度送ってる仕送りも十万ラーツに増額し、それでもお金がどんどん増える。
正直ほくほく顔が止まらないが、ミカにも懸念がないでもない。
「このまま行ければ、早くて来月。 遅くても再来月には六百万ラーツは超えそうだな。」
そう。
ミカには六百万ラーツという大金が必要だった。
実際に必要になるのはまだ五年半くらい先の話だが、六百万ラーツ以上貯金して、初めてそれが手元に残るお金なのだ。
「兵役を逃れるためとはいえ……、やっぱ痛すぎる。」
絶対ぼったくってやがる、と文句を言いたいところだが、言ったところで何が変わるわけでもない。
そういう制度だと言われれば、それに従うしかない。
そして、もう一つの懸念。
「でも、今のペースで稼げるのも今のうちだけだよなあ……。」
森の出口に向かい、考え事をしながらてくてく歩く。
今、ミカが受けている”呪い系”の依頼は、ある一つの条件で絞り込んでいる。
それは、学院からの距離だ。
平日に動けるのは、学院が終わった後から寮の門限まで。
凡その目安で、二時間半くらいで移動と探索の時間を確保できるものだけに絞っている。
飛んで行ければ王都の横断など大した問題ではないが、さすがに街中で使う訳にはいかない。
そうなると、走っていくしかなくなるわけだ。
人のいない荒野ならば全力で走ることもできるが、大勢の人が行き来する王都内をそんな速さで走ることはできない。
そのため、受けられる依頼の場所が限られてくるのだ。
そして、その学院から近いという依頼がもうすぐ無くなる。
そうなるともう少し範囲を広げる必要が出てくるが、移動の時間を増やし、探索の時間を減らすという必要に迫られる。
これまでと同じペースでは稼げなくなる可能性が高い。
「まあ、ここまでが稼ぎすぎって話だけどな。」
多少ペースが落ちたところで、それどころか半分に減ったところで、一般的なCランクの冒険者の稼ぎに相当するくらいだ。
「……俺も随分贅沢言うようになったもんだ。」
思わず苦笑する。
以前は週に一~二万ラーツ。
月に十万ラーツも稼げば、「今月は随分頑張ったなあ。」と自分を褒めてやりたいくらいだったのに。
「ミカく~ん。」
ミカがしみじみと昔を思い出していると、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはプラチナブロンドのふんわりした髪の女の子が、ミカに向かって手を振っている。
「こんにちは、キスティルさん。」
「こんにちは、ミカくん。 また森に遊びに来ていたの?」
キスティルは肩に雑嚢を提げ、早足でミカの所にやって来た。
以前、ミカが森に着陸したところを見られてしまった女の子。
小さな子供を放っておけないと思ったのか、手を繋いで第三街区まで歩いて帰った。
ミカも「どうせこの場限りのことだし」と特に何も言わずに従っていたのだが、実はその後度々遭遇している。
そして、遭遇するたびに「お姉ちゃんと一緒に帰りましょう。」と手を繋いでくる。
さすがにこれは、誤解されたままではやりにくいな、と自己紹介をした。
「まあ、男の子だったの?」
とても驚いているとは思えない、ふんわりした口調でそんなことを言われた。
「それに、十歳? うちの弟よりも大きかったのね。」
そう目を丸くするが、結局キスティルの態度は変わらなかった。
「お姉ちゃんもお家に帰るところなのよ。 一緒に帰りましょう。」
ふんわりした”お姉ちゃんオーラ”にやられ、結局は従うしかないミカなのだった。
キスティルがミカの横に並ぶ。
「あら?」
そう呟き、雑嚢を地面に降ろす。
そうして中に入っていた何かの草を両手で揉み潰した。
「動かないでね。」
キスティルがミカの横にしゃがみ込むと、右肘を少し上げさせる。
肘の外側に傷ができ、少し血が出ていた。
「あ……、いや、大丈夫です。」
「ほら、動かないの。」
めっ、と言われ、ミカは抵抗する意思を根こそぎ奪い取られた。
(めっ、とか生まれて初めて言われた気がする……。 こんなに破壊力があるのか。)
正直、こんなのは【癒し】でも癒しの魔法でもすぐに治せる。
だが、ミカの手当てをするために躊躇いなく薬草?を潰し、自分の手が汚れることも厭わないキスティルの行為を無下にすることもできず、大人しくすることにした。
キスティルは薬草を傷に塗ると、雑嚢の中に入っていた少し汚れた布で自分の手を拭く。
そして、ミカの傷はまだ汚れていない布で縛ってくれた。
「はい、もう大丈夫よ。」
「あの……ありがとうございます。」
「いいのよ。」
キスティルがふんわりと微笑む。
(本当に年下の子供の扱いに慣れているんだな、この子は。)
弟がいるらしいので、こうして傷の手当てを何回もしてきたのだろう。
「でも、すいません。 大事な売り物を……。」
「ふふ、そんなこと気にしないでいいのよ。」
そう言ってキスティルは立ち上がると、ミカと手を繋ぐ。
「さあ、帰りましょう。」
キスティルはミカに笑いかけ、歩き出すのだった。
キスティルは、この森に薬草などの採集に来ている。
前に冒険者登録をしているのか聞いたのだが、どうやら冒険者登録はしていないらしい。
「近所のお薬屋さんに持って行って、買い取ってもらってるのよ。」
冒険者ギルドの定額クエストにも載っている採集物だが、キスティルは薬屋に直接買い取ってもらっているようだ。
そもそもギルドがなぜ定額クエストで採集物を買い取っているかといえば、それは勿論売るためだ。
薬屋の例でいえば、薬草などの薬の材料を、薬屋はギルドから仕入れる。
勿論ギルドから仕入れるだけではないが、薬屋としてはある程度の纏まった量と、一定の品質の保証された物をギルドから仕入れているのだ。
ただし、ギルドから仕入れる場合には、当然中間マージンがかかる。
ギルドだって在庫を抱え、買取、保管、販売と、単純に考えてもこれだけの手がかかっているのだ。
そりゃ、買取価格にいくらか上乗せして卸すに決まっている。
薬屋としては少しでも安く仕入れたいが、個人から買い取るのは手間がかかる。
何より、変な物を混ぜられたら大損だし、間違ってそれを使えば信用問題だ。
そのため、品質を保証してくれるギルドの物を仕入れるのが普通だった。
「お祖母さんのお友達のお店なの。 そこだと、ギルドよりもちょっとだけ高く買ってもらえるのよ。」
普通はいきなり持ち込んでも、足元を見られて安く買い叩かれることが多い。
安く買い叩くのも別に阿漕な商売ということではなく、一定のリスクを見込んでだ。
いきなり持ち込まれる物には、品質の良くない物が紛れている可能性がある。
品質に問題がないなら、なぜギルドに持ち込まないんだ?って話だからだ。
なので、そうしたリスクを負うことを嫌がり、そもそも個人からの買い取りを一切やっていない薬屋もある。
だが、個人的な繋がりがあったりで、きちんと品質の良い物を集めてくれると分かっている相手なら、正規の値段で買い取ってくれる薬屋もあるらしい。
ギルドの買取価格よりは高く、ギルドの卸値よりは安く、だ。
キスティルの家はあまり裕福ではないようだ。
病気がちの母親の内職と、キスティルのこの薬草の採集で生計を立てている。
キスティルはミカより二つ年上の十二歳。
弟が一人いて、ミカの一つ下らしい。
(なんだか、ノイスハイム家みたいな家族構成だな。)
アマーリアは病気がちではなかったが、ロレッタと二人で働いて家計を支えていた。
下が男の子というのもノイスハイム家と同じ。
薬屋の友達だったというお祖母さんは、どうやら一年くらい前に亡くなったようだ。
そして、一つ違うところ。
どうやら、父親が中々のろくでなしらしい。
自分の稼ぎは酒代に消え、ほとんど家には帰って来ないで、たまに帰って来てはキスティルと母親が貯めた僅かなお金に手を出す始末。
年齢の割に、キスティルは随分と苦労しているようだった。
(助けてあげたいとは思うけど、他人の家のことだしなぁ……。)
不幸な身の上など、世間にはごろごろいるだろう。
家族が居て、励まし合い、支え合って暮らしているだけまだマシなくらいだ。
ミカの家も裕福ではなかったが、アマーリアとロレッタで支え合っていた。
ミカは年齢もあり穀潰しだったが、今では少しずつ仕送りをしている。
キスティルの家も、弟が働くようになれば少しずつ生活は良くなっていく。
そうなることを願うしかないだろう。
■■■■■■
翌週の、火の3の月、4の週の陽の日。
ミカは豪華なソファに座り、カチコチに固まっていた。
テーブルなどの調度品のみならず、壁に掛けられた絵画も、置かれた花瓶や壺も相当に値の張る物だろう。
目の前に紅茶を淹れたティーカップなども置かれているが、とてもじゃないが怖くて手が出せない。
部屋の隅には二人、メイド服を着た女中さんがいる。
確か、客間女中と言ったか。
”雑役女中の呪い”の件でトリュスに講義され、ミカも随分とメイドさんに詳しくなったものだ。
(……はぁ……落ち着かねえ。)
それもそのはずである。
ここはレーヴタイン侯爵家の、別邸の応接室。
それも、以前ミカが事情聴取で通された応接室とは別の、明らかにVIP用の応接室だった。
以前の部屋も豪華だったが、こっちは更にとんでもない。
緊張しいのミカは、これからこの部屋であの侯爵と面談を、と思うだけでどきどきしてくる。
以前クレイリアに「お父様が王都に来たら、ミカにお会いしたいそうです。」ということを言われた。
で、最近到着したらしく、クレイリアが「いつが都合いいか。」と聞くので「いつでもどうぞ。」と答えたら、即行で予定が組まれた。
それはいいのだが、なぜこんな部屋に通されたのか意味が分からない。
(たぶん、これも心理的揺さ振りか……?)
それ以外に、ここまでもてなす理由がない。
もしもミカがどこぞの国の使者なら、本当に歓迎されているのか、それとも無能だと思われているのかと悩むところだ。
とある兵法書に「交渉する国の使者が有能なら何一つ与えず、返せ。 無能なら大いに与え、歓待せよ。」というのがある。
有能な者に何も成果を与えず、無能な者に大きく手柄を与えて、無能が出世するようにするのだ。
そうすれば、無能が舵取りするその国は勝手に滅ぶ、という訳だ。
実際はそこまで単純ではないだろうが、言いたいことは分かる。
さて、このミカへの分不相応なもてなしには、どんな意味が籠められているのか。
コンコン。
ミカがそんなことを考えていると、扉がノックされる。
まず護衛騎士が部屋に入り、続いてレーヴタイン侯爵が護衛騎士を引き連れて入って来た。
ミカはソファから立ち上がって侯爵を出迎える。
侯爵はミカの前のソファにどっかと座ると、すぐに客間女中が紅茶を淹れた。
ミカにも着席を勧め、客間女中がミカの紅茶を淹れかえるのを確認してから人払いをする。
そうして、扉が閉まったのを確認してから口を開いた。
「久しいな、ミカ・ノイスハイム君。」
相変わらずの深い彫り、深い皺の目立つ、おっかない顔。
低い声も、まるで怒りを抑えているように響く。
実際にアグ・ベアとの戦闘を経験したからだろうか。
さて、この侯爵とアグ・ベア、どっちがおっかないかな、などと下らない考えが思わず浮かんだ。
「ご無沙汰しておりました。」
ミカがぺこりと頭を下げると、侯爵が軽く手で制する。
「ヴィローネの件では迷惑をかけたようだな。」
「いえ……。」
ミカは呼び出された用件が分からないので、様子を窺いながら心の準備だけはしておく。
一体、何を言われるのやら、と。
レーヴタイン侯爵は紅茶を一口含むと、鋭い視線でミカを見る。
「なぜヴィローネの助命嘆願などした?」
その声に怒気をはらんでいるように感じ、どきりとする。
だが、侯爵の声が怒っているように聞こえるのは通常状態だ。
ここで罪と罰が釣り合っていないなどと言っても、侯爵は納得しないだろう。
それはあくまで、ミカの個人的な意見だ。
そして、本来ならば斬首とするところを、ミカの意見を容れて裁定を下した。
ミカには、それなりに侯爵を納得させる義務があるだろう。
「手紙にも書いた通りです。 クレイリア様と強い絆があるようでしたので。 命の使い方を覚えれば、きっとクレイリア様のお役に立つと思います。」
侯爵家の人間のために命を捨てられる者は、きっと何人もいる。
だが、絆で結ばれた者は少ないだろう。
心の支えになれる者は、そう簡単には見つけられないし、作れない。
「あくまで、将来のクレイリアのためか?」
「はい。」
「ふーむ……。」
侯爵は腕を組み、眉間の皺を深めて考え込む。
どうやら、いまいち納得していないようだ。
「まあ、よい。 それより、君はヴィローネの労役が半年だというのは聞いているかね?」
「はい。 クレイリア様がサーベンジールから戻られて、すぐに教えていただきました。」
「そうか。 だが、あれは延長になる。」
「え?」
どうして?
まさか、ヴィローネ何かやらかした?
「初めからそのつもりだったのだ。 適当な理由をつけて、まず三カ月延長する。 その後に、更に三カ月。 合計で一年の労役だ。」
どうしてわざわざそんなことを……、とは思わない。
これも、ヴィローネの心を鍛える一環なのだろう。
希望を持たせて奪い、また希望を持たせて奪う。
侯爵としては、刑期が五年でも十年でも構わないのだ。
だが……。
「一年、なんですね?」
「ああ、そうだ。 この程度で自棄を起こさなければ、だがな。」
ヴィローネが、この程度の理不尽で自棄を起こすくらいならば、生かしておく必要もない。
が、まあ斬首だけを許してやったのだから、労役で使い潰してやろうくらいに考えているのだろう。
「クレイリア様との絆が本物なら、きっと泥水を啜り、石を噛んででも耐え忍んでくれるでしょう。」
「そう願いたいものだ。 この程度で音を上げるようでは、生かしてやった意味がない。」
軍隊では、理不尽な命令にも従うように、ただの意地悪としか思えないような訓練を取り入れる例がある。
究極的には、「死んで来い。」という最高に理不尽な命令をされることもあるからだ。
戦況によっては死ぬと分かっていて命令を下さなければならないし、従ってもらわないと全軍が危機に陥る。
そして、それは国が滅ぶことにも繋がりかねない。
意味や理由などは説明されず、納得などさせてもらえず、それで敵軍のど真ん中に突っ込まされることだってあり得る。
納得いかないからと勝手な振る舞いをする兵など、敵以上に厄介な存在でしかない。
ミカとしても、頼むから堪えてくれよ、と願うしかなかった。
「君は婚約者はいるのかね?」
「ごふっ!? なっ……ごほっごほっ……!」
侯爵がとんでもないことを言い出した。
侯爵に勧められ、できれば触りたくなかったティーカップを持ち、紅茶を口に含んだ瞬間だ。
絶対狙っただろ、これ。
侯爵はテーブルベルを鳴らして客間女中を呼ぶと綺麗に片付けさせ、また紅茶を淹れ直させる。
(もう、絶対に手をつけないぞ……。)
そう心に固く誓うミカだった。
「それほど驚くことでもないだろう?」
「そ、そうかもしれませんが、僕にはそんな相手はいません。」
そう。
実はこの世界、多少裕福な家庭なら許嫁がいるとか別に普通らしい。
いる方が多いとか、そこまでの話ではないようだが。
ただ、それはあくまで裕福な家庭なら、だ。
中流の上の方の家なら、そういう話もよくあるよ、というだけのこと。
冬を越すのもやっとだったノイスハイム家には関係のない話である。
まあ、中には然程裕福でなくても、親同士が仲良くて、そういうお相手に恵まれる人もいるようだけど。
ふ、ふん、羨ましくなんてないんだからね!
ちくしょう……。
「……いくつから結婚できるのかも知りませんし、考えたこともありません。」
「そうなのかね? 確か、年頃の姉がいるのではなかったか?」
さすが侯爵。ばっちり家族構成まで把握してますね。
というか、誘拐事件の際にミカのことを調べたのだ。
その程度は基本の情報として押さえているだろう。
そして、そこからなぜか、俺は侯爵に結婚についての講義をしてもらうことになった。
何でだよ……。
この国の結婚可能年齢は十六歳。これは男女ともに同じらしい。
ただし、魔法学院、騎士学院のどちらかを修了した者は、その翌日から結婚が可能だ。
一人前として認められる、ということのようだ。
(……なるほど。 そうなると、確かにロレッタはお年頃だね。 もう相手っているのかね?)
ふと、「貴様のようなどこの馬の骨とも知れん奴に、大切な娘をやれるか!」という頑固親父の姿が脳裏に浮かんだ。
(父のいないノイスハイム家。 ならば、その役は俺が引き受けるべきか?)
あんな働き者の器量好し、絶対に嫁になんかやりたくないからな!
などと、ミカがアホなことを考えていた時、侯爵が爆弾を放って来た。
「妻は何人娶っても良い。 まあ、それなりの税金を納めることになるがな。」
「はい……?」
なんと、税金を納めれば、何人でも奥さんを持てるらしい。
まとまった金額を一括で支払う必要があるし、増やす度に金額が増えるが、裕福な家では平民でも妻が二~三人いるのは珍しくないのだとか。
勿論、いくら裕福でも妻は一人だけという家も普通にあるが。
この制度は五十年くらい前から始まったようだ。
(戦争で男が死に過ぎたからか……?)
五十年前といえば、五十年戦争が終わって少し経った頃だ。
お金を持っている男に未亡人を娶らせ、国は臨時の収入を得る。
人口を回復させる意味合いもあるか……?
学院に通っていて、男女どちらかに偏っている印象は受けない。
確か前に、メサーライトも魔法士の男女比はほぼ半々と言っていた気がする。
今はこんな制度を残しておく意味はほとんどないだろうが、この臨時収入が案外馬鹿にならないのかもしれない。
そんな有意義?な話をしつつ、侯爵との話し合いは終了した。
いまいち何のために呼ばれたのか分からなかったが、無理難題を吹っ掛けられるよりは遥かにましだ。
学院まで送ってくれるというので馬車に乗り込み、ミカはほっと胸を撫で下ろした。




