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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第2章 魔法学院幼年部の冒険者

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第35話 魔法学院幼年部の開始




 土の月が終わり、水の月に替わった。

 今日は水の1の月、1の週の月の日。

 元の世界でいうところの新年度、最初の平日といったところか。

 暦の上では昨日から春ということになっている。


 ミカが入寮してから数日が経ち、ついに待ちに待った魔法学院が始まる日である。

 やはり平屋の建物が学院の校舎だったようで、今日は朝食を食べたらすぐに校舎に行くことになっていた。


 長すぎるローブの袖とズボンの裾を折り返し、メサーライトに授業で必要になると教えてもらったペンとインク、紙の束を入れた雑嚢を手に部屋を出る。

 ちなみに雑嚢も含めてすべて街で買ってきた物だ。

 同室のメサーライトがサーベンジールの街のことにも詳しく、教えてもらった店を周って必要な物を揃えておいた。

 インクが意外に高くて一瓶で三千ラーツ(銀貨三枚)、紙はA4用紙5枚で二百ラーツ(大銅貨二枚)、小さめの雑嚢が千五百ラーツ(銀貨一枚と大銅貨五枚)。

 合計で四千七百ラーツの出費。

 ニネティアナが言っていた通り、新生活にはそれなりにお金がかかるようだ。


「お、準備できたみたいだね。 それじゃ行こうか。」


 廊下に出ると、ミカの支度が終わるのを待っていたメサーライトと階段を下りた。

 寮の玄関に着くと、寮母のトリレンスが「いってらっしゃい。 頑張るんだよ。」と声をかけてくる。

 トリレンスに見送られ、メサーライトと並んで校舎に向かった。

 とはいっても、魔法学院の校舎は目と鼻の先だ。

 寮の玄関から校舎の入り口まで50メートルほどでしかない。


 今年、魔法学院に入学する子供は七人いて、みんな入寮してから何となくの顔合わせだけはした。

 寮の廊下で顔を合わせたらちょっと挨拶する程度のことで、ちゃんとした自己紹介みたいなのはなかった。

 ミカも、「そんなもんか」とそのままでいた。

 どうせこれから学院が始めれば、嫌でも毎日顔を合わせるのだ。

 ちなみに入学者の内訳は、男の子がミカを入れて四人。女の子が三人だった。


 ミカたちの教室は校舎に入って右側、いくつか並んだ扉の2番目だった。

 どうやら、その奥の部屋は2年が使っているらしい。

 教室には女の子三人がすでに来ていた。

 残りの男の子二人はまだのようだ。

 制服は男女の違いはほとんどなく、違いといえばズボンかスカートかくらいだった。


 しばらくすると残りの二人も来て、それに続いて教師らしき男女もやって来た。


「私はダグニー、こちらがナポロ先生。 これからの2年間、皆さんの指導をする先生です。 何かあれば、私たちに相談してください。」


 教卓の前に立って二人の教師が軽く挨拶をする。

 ダグニーは50代前半、焦げ茶色の髪をした神経質そうな女性。

 ナポロは40代半ば、青い髪をした優しそうな男性。

 この二人がこれから2年間、ミカたちに【神の奇跡】を教える教師らしい。


 ダグニーがナポロに目配せすると、ナポロが子供たちにブレスレットを渡していく。


「このブレスレットは魔法学院の学院生である証です。 肌身離さず身に着けておくように。 外すのは、魔法学院を修了した時だと思ってください。」


 そう言って、その場でブレスレットを着けさせる。

 ブレスレットはプラチナのような美しい光沢があり、プレートに「レーヴタイン 魔法学院(マジックアカデミー)」と書かれていた。


 全員にブレスレットを着けさせると、教室を出て隣の部屋に移るように指示をされる。

 次は学院生の自己紹介か?と勝手にどきどきしていたが、そんなものはなかった。


 その部屋は教室と同じぐらいの広さがあった。

 ただ、椅子の数は多いが、机は少ない。

 部屋の後ろに前後で五個ずつ二列に椅子が並び、部屋の前の方に机が2つ、少し離して置かれていた。

 ミカたちは後ろの席に座らされ、先生たちが手袋をして机の上に何かを準備し始めた。

 机に準備されたのは、ミカにも何となく見覚えがある物だった。

 薄汚れた緑色の(かなえ)のような物の上に、メロン大の水晶が置かれた。


(魔力量の測定に使う水晶だっけ?)


 よく考えるまでもなく、ミカは魔力量の測定で使う水晶が、どういう風に使われるのか分かっていない。

 水晶に手を触れるのは知っているが、それでどうなるのかを見たことがないのだ。


(1年前は反応なし。 半年前は目隠しされてたからな。)


 水晶を使って、どんな反応が出るのかちょっと楽しみになった。


「はい、それではポルナード君、前に来て。」


 最初の一人が名前を呼ばれて前に出る。

 ポルナードと呼ばれた男の子は、何やらオドオドしている。

 何となくの印象で、そのオドオドした姿がネズミなどの小動物を思わせる。


「皆さん魔力量の測定は1年振りですね。 これから数か月に一度測定しますから、自分の魔力がどのように変化していくか憶えておくように。」


 ダグニーは部屋にいる全員に聞こえる様に伝え、ポルナードに水晶の上に手を置くように指示する。

 ポルナードが自信なさげに恐るおそる水晶に手を置くと、水晶の色が赤く変わった。

 赤くはあるが、トマトのような鮮やかな赤というよりは、もう少し黒ずんだ赤。

 魔力の測定というのは、色で量るのだろうか?

 若しくは光量か?

 ダグニーとナポロが揃って水晶を確認し、何やらメモを取っている。


 ミカはそんな様子を黙って見ていると、次にメサーライトが呼ばれた。

 メサーライトが水晶に触れると、再び赤く色が変わる。

 ただし、今度は先程よりも明るい赤をしている。


 次に、ムールトという身体の大きいガキ大将みたいな男の子が呼ばれた。

 結果はポルナードと同じような黒ずんだ赤だった。


 男子の最後にミカが呼ばれたが、ミカは少し不安を感じていた。

 ミカは自分がこの水晶を反応させたところを見たことがない。

 一応半年前に測定され、その結果で学院に呼ばれたのだから規定量を超えているだろうと予想はできるのだが、それはあくまで予想だ。

 これで水晶が反応しなかったらどんなことになるのか、考えたくもなかった。


(頼むぞ、おい。)


 緊張しいのミカは内心ハラハラドキドキしながらも、表情だけは興味なさげに素知らぬ顔を決め込んでいた。

 ミカが左手を水晶に置くと、水晶は薄い黄色に色が変わった。


「まあ……。」

「ほぅ……これは。」


 ダグニーとナポロが揃って声を上げた。

 ミカもこれまでと色が違うことに驚くが、あくまで無表情を貫く。


(何で色が違うんだよ! 良いのか悪いのか判断つかないんだから、みんなと一緒にしてくれよ!)


 ミカが手を引っ込めると、ダグニーがにっこりとミカに笑いかける。


「入学時でこれだけの魔力を持ってるなんて素晴らしいわミカ君。 なかなか多い魔力を持っているようですね。」


 ミカは返事の代わりに軽く会釈して席に戻る。


「すごいじゃないか、ミカ。」


 メサーライトが小声で話しかけてくる。


「あくまで”今は”ってだけだろ?」


 余裕ぶって答えるが、ミカは内心ガッツポーズを作り雄叫びをあげていた。


(よぉぉぉーーーーし! 何とかなったっ!!!)


 ミカにとって、魔力の規定量をクリアすることは悲願だった。

 先に学院入学の方が決まってしまったが、元々はこれを目標に様々な試行錯誤を繰り返したのだ。

 ゲロを吐き、ぶっ倒れ、火傷も負った。

 今では魔法の習得も実現したが、やはり目標を達成したことは素直に喜びたい。


(……でも、なかなか多いってのもちょっと微妙だな。 ここ半年は魔法使いまくって、かなり魔力量が増えてるはずなんだが。)


 ミカは学院の入学が決定してから、村で伐採作業の手伝いをしていた。

 切り株を取り除くために”土壁(アースウォール)”を使い、魔力が減れば”吸収(アブソーブ)”で回復。

 そんなことを繰り返し、すでに”土壁(アースウォール)”すら一日に10回以上が使える。”吸収(アブソーブ)”での回復なしで、だ。

 そんなミカですら「なかなか多い」程度の評価ということは、もしかしたら半年前の測定では本当にギリギリだったのかもしれない。


(これ、魔力球だったら本当に1万個作っても合格ラインに到達しなかった可能性が高いんじゃないか? どんだけ要求レベル高いんだよ。)


 安堵と同時に冷や汗が出る。

 もしも工場の火災がなく、ちまちま魔法を使っていただけなら、9歳の測定でも落とされていたかもしれない。

 ミカがそんなことを考えているうちに、魔力量の測定は女の子に変わった。


 チャールと呼ばれた長い髪の、前髪で鼻まで隠れた女の子は黒っぽい赤。

 気の強そうな、ツェシーリアという子が明るい赤だった。


 最後にリムリーシェが呼ばれ、俯き気味に前に出る。

 ボサボサ頭は最初に見た時よりは少しマシにはなったが、前に出ることすら緊張するのか、心なしか青い顔をしている。


(……大丈夫か、この子?)


 なんか、このまま倒れるんじゃないかと、見ている方がハラハラする。

 リムリーシェはダグニーに促されて、水晶に手を置く。


「っ……!?」

「なっ!」


 ダグニーとナポロが絶句していた。

 驚きに目を見開き、その美しい澄んだ青に染まった水晶を見ていた。

 しばらくしても二人は水晶を凝視したまま動かない。

 その様子に、部屋にいた子供たちが少し騒めき出す。


「青だ……。」

「あの子、青いんだ。」

「……青ってすごいの?」


 状況がよく分からない子供たちは、何だろう?と小声で話を始める。


「……どうしたんだろうね?」

「さあ?」


 メサーライトに聞かれるが、当然ミカにもよく分からない。

 良くて絶句しているのか、悪くて絶句しているのか。

 リムリーシェは、教師二人が固まってしまったために動けずにいた。

 何も言われないので手を引っ込めることもできず、俯いていた姿勢が更に縮こまる。


「リ、リムリーシェさん。 ありがとう、もう大丈夫ですよ。 あなたはとても多くの魔力に恵まれたのね。 大変素晴らしいわ。」


 子供たちの騒めきに気づき、ダグニーがリムリーシェに声をかける。

 リムリーシェは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして席に戻って行った。


「今日測った結果を、みんなよく憶えておいてください。 これはあくまで今のあなたたちの魔力量です。 これからの2年間で、どんどん変わっていく子もいますからね。 特に、ミカ君。」


 急にミカの名前が呼ばれ、どきりとする。


「今の時点でミカ君くらい魔力量の多い子は稀です。 ですが、それに慢心せずに修行に励んでください。 とても優れた魔法士となれる可能性がありますが、それもミカ君の頑張り次第ですからね。」


 ミカは黙って頷く。


「……それと、リムリーシェさん。」


 リムリーシェはダグニーに名前を呼ばれ、ピクリと身体を震わせる。


「あなたほど魔力に恵まれた子は初めて見ました。 とても素晴らしい才能です。 あなたは頑張れば、王国で随一の魔法士になれるかもしれませんよ。 よく励んでくださいね。 先生たちも、あなたへの支援を惜しみません。」


 リムリーシェはみんなに注目されたことが恥ずかしいのか、ますます赤くなる。

 だが、ダグニーに褒められたことが嬉しかったのか、口元が少し綻んでいるようだった。







 魔力量の測定は、赤から黄を経由して青になる。

 7人の子供の結果から、そう見当をつけた。

 赤よりも黄色の方が魔力量が多く、黄色よりも青の方が魔力量が多い。

 ダグニーの話を総合すると、どうやらそういうことのようだ。


(つーか、そういう情報は先に教えろよな……。)


 学院が始まってすぐに測定をすることになったが、予め基礎知識を与えておいて欲しいと思う。


 そして、一通り魔力量の測定が終わったら、今度は魔力を感じる力を試すことになった。

 おそらく教会でラディにやってもらった”あれ”だ。

 手を重ねて魔力を送るやつ。


 ナポロが測定の水晶を片付け、その間にダグニーが別の水晶を準備する。


(学院では、水晶を使って試すんだ?)


 ラディは自分の魔力を送って試していたが、学院(ここ)ではそのための水晶があるようだ。

 箱の上にビリヤードの球ほどの水晶を6個置き、その水晶の上にメロンくらいの水晶を置く。


「それではポルナード君、こっちに来て。」


 ダグニーに呼ばれたポルナードが前に出る。


「この水晶に手を置いて、魔力を感じたら反対の手を挙げてください。」


 そうして魔力を感じる力を試すことになったが、結果は芳しくなかった。

 ポルナードも含め、ミカの前の3人は全滅。

 誰も手を挙げなかった。


(そんなに難しいのか……?)


 ついにミカの番がやってきたが、ミカも不安になってきた。

 ラディに似たようなことをしてもらってはいるが、ラディのテストが簡単だった可能性がある。

 ラディがミカに送った魔力よりも遥かに少ない魔力だった場合、ミカに感知することができるだろうか?


「…………”制限解除(リミッターオフ)”。」


 魔力を感じる力を計るのなら、自分の中の魔力は動きやすくしておいた方がいいだろう。

 ミカは誰にも聞こえないように、小さく呟いた。


「はい、それでは水晶に手を置いてください。」


 ダグニーに言われ、ミカはメロン大の水晶に左手を置く。

 ダグニーは水晶を置いた箱の中に手を入れた。

 おそらく、中で何か操作ができるのだろう。


「魔力を感じたら、水晶に置いた手の反対の手を挙げてください。」


 そうダグニーが言ったと同時に、ミカの耳に微かにキィーー……ンという澄んだ音が聞こえた。

 左手からも弱い波紋のような魔力の揺らぎを感じ、ミカはすぐに右手を挙げる。


「? どうしました? 何か質問?」


 ダグニーがミカに聞く。

 その間も、音も波紋も続いていた。


「いえ、魔力を感じたので。」

「え?」


 ダグニーがぽかんとした顔をする。

 そんなダグニーを見て、今度はミカがぽかんとする。


(感知する力を試してるんだろ? なんでそこで呆けるんだよ。)


 意味が分からない。

 自分で試しておいて何を言ってるのだろうか。


「ちょ、ちょっと待ってね。 一度手を離してもらえる?」


 言われた通り、水晶から手を離す。

 それからダグニーは箱の中で何かをごそごそやり、再び手を置くように指示する。


「はい、それじゃ行きますよ。」


 そうダグニーは言うが、中々魔力を感じない。

 10秒ほど待って、ようやく音と波紋を感じた。

 ミカが手を挙げると、ダグニーはやっぱり驚いた顔をする。

 そして、すぐに魔力を感じなくなった。

 魔力を感じなくなったので、ミカは右手を下す。

 すると、ダグニーはナポロの下に行って、何やら耳打ちする。


「…………ぃ……ぅ……。」

「……ぇぇ……。」

「…………ょ…………ぃぃ……。」


 何やら、教師二人でこそこそ話をしている。


(……おい、不安になるんだからそういうのを子供の前でやるんじゃないよ! ほんとにお前ら教師か!?)


 何というか、教師のレベルが低すぎる。

 教育に対して考え方が根本的に違うのだろう。

 果たして、この世界に教育学や教育論というものは存在するのだろうか?

 文化水準の差が、こんな所にも表れるとは思いもしなかった。


 教師二人の話が終わったのか、ダグニーと一緒にナポロもやって来た。


「何度も悪いねミカ君。今度は私が操作するので、もう一度いいかな?」


 そう言って、今度はナポロが箱の中でごそごそやりだした。


「はい、いいよ。 手を置いて。」


 ミカは素直に手を置く。

 ナポロはそれ以上何も言わず、そのままたっぷり30秒は待たされた。

 そして、魔力を感じたので右手を挙げると、ナポロが「ふぅー……。」と溜息をつく。


(……お前ら、ほんと、教師辞めろ。)


 ミカは、ちょっとキレかけていた。

 いくら何でも、この二人の態度はちょっと酷すぎる。

 ミカは自分の中で怒りが膨らんでいくのを感じて、落ち着け……落ち着け……と自分に言い聞かせる。


「ミカ君の魔力を感じる力は、ちょっとここでは測定できないね。」


 ナポロがそんなこと言った。


(あ!?)


 何を言い出すのかと、ミカは冷めた目でナポロを見る。


(測定できないも何も、今やっただろうが。)


 何を言っているのだろうか。

 せっかく鎮めた怒りが、再び膨らみそうになる。


「魔法具を起動したら、その魔力を感じてしまうなんて聞いたこともないよ。 君は本当に感じる力が高いね。」


 ナポロが苦笑する。


(ん? どゆこと?)


 ちょっと風向きが変わって来た。


「この魔法具を動かすのにも、魔力が使われているんだけどね。 どうやら、君はその魔力すら感じ取ってしまうようなんだ。 確かにこの魔法具は多めに魔力を必要とするけど、普通は感じられるようなものではないんだけど。」


 そう言ってナポロはダグニーの方を見る。


「先生の言う通り、彼については最小の魔力を感知することができたとして扱いましょう。」


 ナポロの言葉に、ダグニーが頷く。


「はい、それではミカ君は戻っていいよ。 お待たせ。 次はチャールさんかな。」


 ミカは首を捻り、頭の中に「?」を沢山浮かべながら席に戻った。

 子供たちの視線が、ミカに集中しているのを感じる。


「ミカ、魔力を感じたって本当?」

「ん? ああ、感じたよ。」


 メサーライトが小声で話しかけてくる。


「魔力ってどんな感じなんだい?」

「え?」


 メサーライトは魔力を感じたことがないのだろうか?

 教会で試してもらった時には感じられなかったのか?

 そこまで考えて、ようやくミカは気づいた。


(そうか、ここにいる子供は7歳の測定での確定組だから、教会の儀式をやってないんだ。)


 教会の求める”癒し手候補”は7歳の測定で漏れた子供だ。

 魔法学院入りが確定していたここの子供たちは、そもそも条件から外れている。

 ミカのように教会の儀式を受けながら、領地の魔法学院に来る方が特殊だった。


「ちょっと説明は難しいけど……、僕は楽しいと思うよ。」

「……楽しい?」


 よく分からないような顔をしたメサーライトに、ミカは笑ってみせる。


(あの高揚感は是非、前知識なしで味わってもらいたいね。)


 ネタバレ容認派のミカではあるが、だからといってそれを人に押し付けたりはしない。

 メサーライトがどんな反応を示すか、ちょっと楽しみになってきたミカだった。







 結局ミカの後は誰も魔力を感知できた子はおらず、魔力を感知できたのはミカ一人だけという結果に終わった。

 ただ、これが普通らしくて、初日から魔力を感知できる子というのはいなくて当たり前なのだそうだ。


 その後は教室に戻って今後の授業の簡単な説明を聞き、昼休みになった。

 寮に戻って昼食を食べ、自室に戻ると運動着に着替える。

 どうやら、魔法学院では午前が座学や魔法の訓練、午後は運動という流れらしい。


(毎日体育があるのかよ……。)


 学生の頃、別に体育が嫌いだったわけではないが、さすがに毎日はちょっとつらい。

 だが、学院(ここ)教育計画(カリキュラム)ではそう定められているらしい。

 諦めてミカは運動着に着替える。


「上はどうする?」


 メサーライトに長袖長ズボンをどうするか聞く。

 春になったばかりだが、最近は結構温かい。


「着てくよ。 暑ければ脱げばいいんだし。」


 ミカもそうすることにした。

 水袋も持ってくるように指示されているので肩に提げ、部屋を出る。

 寮を出るとみんな長袖長ズボンを着ていた。


 グラウンドには1周800メートルはありそうな大きなトラックがあり、午後はそこに集合となった。

 少し離れた所に学院の2年生も集合している。

 どうやら、午後に運動するのは2年になっても変わらないらしい。


 そして、そこから何をしたかというと…………、歩いた。

 少し早めにだが、ただ歩いただけだった。

 とにかくグラウンドのトラックをぐるぐるぐるぐる、ひたすら歩く。

 2年生はどこかに行ってしまい何をしているのか分からないが、ミカたちは延々と歩かされた、

 列を乱すなとかの煩いことは言われないが、とにかく歩く。

 喉が渇けば持ってきた水袋でいつでも水分補給をしてもいいのだが、止まることだけは許されなかった。

 一定のペースで3時間。先頭をナポロ、最後尾にダグニーがついてノンストップで歩かされる。


 暑ければ後で脱げばいいやと長袖長ズボンを着てきたことを心底後悔した。

 脱ごうとすると最後尾を歩くダグニーから注意を受け、脱ぐことが許されなかったのだ。


 だらだらと流れ落ちる汗を拭いながら、ミカはこの世界に来たばかりのことを思い出した。

 どっちに進めば良いのか分からず、ひたすら歩き続けた死の行進(デスマーチ)


 3時間後、ナポロの「ここまで!」という声と同時に全員がその場にぶっ倒れた。


「夕食は疲れて食欲がなくても、無理矢理にでも食べなさい。 明日が余計につらくなる。 以上だ、解散。」


 死屍累々のような7人の子供たちを残し、ダグニーとナポロは無情にも校舎に戻って行く。

 介抱したり、励ましたりもしない。


(…………なるほど、……だから軍所属なのか……。)


 兵の仕事は歩くこと。

 歩けない兵は役に立たない。

 そんな言葉があるくらい、兵士というのは長距離を歩く。

 魔法学院に入ると領主軍の準軍属になる意味を、何となく理解した気がする。


 ミカは大の字になったまま、そんなことを考えていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 普通を学ぶんじゃなかったか?自重しろ
[一言] ワタクシもマッサージ機を起動させると振動を感じるの。これってm(ry
[良い点] 人を殺すかもしれないって事もちゃんと気づいてるのかな⁇
感想一覧
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