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嵐の予感

こちらは、本編「第13話 ニネティアナ1」の別視点のお話です。

前日譚のような位置付けとなります。




「あ。ディーゴさん!」

「げっ、坊主……。」


 ディーゴが森から戻ってくると、一人の子供が駆け寄った。

 その子供が何かを言う前に、ディーゴはがりがりと頭を掻き、先手を打つ。


「あー……これから村長んとこ行って、相談しなきゃなんねえ。」

「…………その後は?」


 ややしょんぼりした様子で、その子供が食い下がる。


「また森に戻って伐採作業の続きだ。……作業場の奴に、これから三本持って行くから、準備するように言っておいてくれ。」

「……はい。」


 ディーゴの言いつけに、子供は素直に従う。

 そうして駆け出した子供の後ろ姿を見て、ディーゴは溜息をついた。







 西の空が赤く染まり、東の空が紫に変わり始める。


「じゃあ、また明日も頼むぜ。」

「おう、飲み過ぎて遅れんなよ。」

「おやすみ、ディーゴ。」


 自警団の男たちと挨拶を交わし、ディーゴは鉈を手に家路についた。

 魔獣(アグ・ベア)がリッシュ村を襲撃して、二日が経った。

 村の南にある門が壊され、再建のためにディーゴたちは森へ伐採に行っていたのだ。


 古傷のある右膝がズキズキと痛むが、それを何とか隠し、普通に歩く。

 アグ・ベアとの戦闘で古傷が痛み出し、安静にしていれば痛みは引くが、動けばすぐに再発しだす。

 それもしばらく経てば落ち着き、普段の畑仕事くらいであれば、古傷がうずくこともなくなるのだが……。


「……怪我も痛みの、友達(ダチ)みたいなもんか。」


 この程度の痛み、現役で冒険者をしていた頃は日常茶飯事だった。

 ディーゴはこの右膝が原因で冒険者を引退することにしたが、それは別に痛みが理由ではない。

 一番の問題は、踏ん張りが利かないことだ。

 痛みうんぬんはどうでもいいが、踏ん張ろうとしても力が入らないことがあるのだ。

 自分の身体が、思ったように動かない。

 魔物や魔獣との戦闘中にそんなことになれば、失うのは自分の生命(いのち)だけでは済まない。

 信じて任せてくれる仲間(パーティー)の生命まで、危険に晒すことになる。

 そのことを悟り、引退することを決めた。


 家に着き、玄関のドアを開く。

 一歩踏み出したところで、手に鉈を持ったままだったことを思い出す。


 ディーゴは軽く身体を逸らし、外に上半身だけを出す。

 そうして、少し離れた場所に置かれた、割る前の薪が積まれた山に、鉈を投げた。


 カコンッ!


 小気味良い音を立て、狙い通りの薪に鉈が刺さる。

 その結果に満足し、ディーゴは家の中に入ると、ドアを閉めた。


「ただいま、と……。」


 ディーゴは腰に佩いていた(ソード)を外し、壁に立てかけると、妻のニネティアナに声をかけた。

 ニネティアナはスープを作っているところのようだ。


「おかえり。あれ…………どしたの? 随分と疲れてるみたいだけど。」


 振り向いたニネティアナにそう聞かれ、ディーゴは答えに窮する。

 然程、疲れているわけではない。

 足は痛いが。


「あー……膝がな。」

痛い(そんな)のは慣れっこでしょう。そうじゃないわよ。」


 古傷の痛みのことかと思ったら、どうやら違うようだ。

 ニネティアナは眉間に皺を寄せ、指先でトントンと叩く。

 どうやら、いつの間にか眉間に皺を寄せていたらしい。


 ディーゴは苦笑し、眉間を揉んだ。

 ニネティアナは、異常に鋭い。

 普段のちょっとした仕草の変化からも、いろいろと勘づく。

 そのため、隠し事など上手くいった試しがない。


 さすがに内容までバレるわけではないが、隠し事をしていることは即バレる。

 そうして数日泳がせ、内容まで把握される。

 そう後ろ暗いことがあるわけではないが、後からさらっと嫌味を言われたりするので、さっさと白状するのが吉だ。

 バレてないと思っていたことを、忘れた頃にさらっと言われると、まじで心臓に悪い。

 とはいえ、今日は本当に疲れるようなことはないのだが……。


「別に、何もないんだが……。」

「……ふーん。」


 ニネティアナは気のない返事をするが、目がスッと冷えた。

 探るような、目。

 すでにニネティアナも冒険者を引退して数年経つのに、こういうところは本当に変わらない。


「本当に何もねえよ。デュールゥ……聞いてくれよぉ、ニネティアナが――――。」

「ちょっと、ディーゴ。寝かしつけたばっかりなんだから、起こさないでよ。あと、汚い手で触らない。先に身体洗ってきて。」


 子供用のベッドで寝ているデュールに近づくと、ニネティアナに怒られた。

 ディーゴは肩を竦め、大人しく汗を流しに行くのだった。







「伐採作業の方はどう?」


 汗を流してくると、丁度夕食の支度が終わったところだった。

 ディーゴとニネティアナが食事を摂っていると、自然と今日の作業の話になった。

 燻製肉と野菜のスープを飲み干したディーゴに、ニネティアナが尋ねる。


「まあ、順調なんじゃねーか? 慣れてない奴も多いが、それなりに何とかなってる。」


 今回の伐採では、今後のために木材を多く確保しておこうという話になった。

 アグ・ベアの襲撃で、村の門だけでなく、家屋への被害も多少あった。

 しかし、それらを修繕するための材料がない。

 今後もこうしたことは起こるだろうと考え、木材を確保しておくことになったのだ。


 森で木を切り倒し、運搬の邪魔になる枝を、大雑把に斧や鉈で落とす。

 それらの木を村の中に運び込み、乾かすために積んでいく。

 元々門に使われていた材木を再加工し、とりあえず家屋の修繕に回す。

 これらを、村の自警団が中心になって行っているのだ。


「俺もやったことがないわけじゃないが……、それを言っても仕方ないしな。自分たちでやるしかねえんだからよ。」

「そうね。」


 辺境の開拓村では、基本的には自分たちで何でもやることになる。

 傷んだ家屋の修繕なんかも、それは同じだ。

 そういうのが得意な者もいるにはいるが、多くはない。

 自警団で役割分担をして、得意な奴に指示をさせたりして、何とかこなしている感じだった。


 それでも、少しやっていれば慣れてくるものだ。

 とにかく急いで伐採作業(こちら)の目途を立てないと、綿花畑の仕事が滞ってしまう。


 不意にディーゴが溜息をつき、ニネティアナが怪訝そうな顔になる。


「どうしたのよ?」

「いや……何でもないんだけどな。はぁー……。」


 何でもないと言いながら、再び溜息をつくディーゴ。

 手に取ったパンを千切りながら、ニネティアナは呆れるように言う


「ちょっとぉ、辛気臭くなるからやめてよね。」

「ああ、悪い……。ちょっとな。」

「ちょっと、何よ。」


 ニネティアナに促され、ディーゴは今日あったことを伝えた。

 千切ったパンを食べながら、話を聞いていたニネティアナが大笑いする。


「あははは、子供に付きまとわれてるの? 良かったじゃない。怖がられることはあっても、好かれることなんてなかったでしょ。」

「笑い事じゃねえよ。森にまでついて来ようとするし、危なっかしくて気が気じゃねえぜ。」


 子供は危ないことを、その危険さを理解せずにやってしまうことがある。

 痛い目を見れば、それも経験となって、二度とやらなくはなるだろうが。

 ディーゴ自身、子供はそうした無茶をするもんだ、と思ってはいる。

 だが、それも「痛い目」で済めば、だ。

 取り返しのつかない大怪我や、生命(いのち)に関わることだってある。


 再びディーゴが溜息をついた。


「ノイスハイムさん(とこ)の子だよ。あの()()()()のが、なんか自警団の連中にも話を聞いて回ってるみたいでな。」

「ノイスハイムさん……?」


 ニネティアナが首を傾げ、考え込む。

 ニネティアナは綿花畑の仕事に従事していたので、工場の方で働いている人については、あまり詳しくはなかった。


「憶えてねえか? ほら、少し前にコトンテッセの方まで一人で歩いて行こうとして、行き倒れた。」

「ああー……。確か、工場長が見つけて保護したって言う、あれ?」

「そう。ミカって言うんだけどな。あの子が伐採作業について来ようとしたり、材木の加工してる所をうろちょろしててよぉ……。」


 怪我をしたりしないか、少々心配になると言う。


「どうも、この間のアグ・ベアのことを聞いて回ってるみたいで、また何かやらかすんじゃねえかってな。」

「アグ・ベアの? 何でまた、あんな魔獣のことなんか。」

「知らねえよ。一応、森の方にまでついて来ようとした時は注意したんだが……。適当な言いつけをして追っ払ってんだけど、正直作業の邪魔だし、危なっかしいしで、どうしたもんかって……。」

「ふーん。」


 ニネティアナの目が、少しだけ細められ、鋭さを増す。


「その子さ、どんな子だったかしら?」

「どんな? あー……年齢(とし)は七つだって話だけど、もっと幼く見えるな。……そうだ、あとどう見ても女の子にしか見えない。」

「見えない? ってことは、男の子?」

「ああ。」


 ニネティアナの目が、昔の冒険者をしていた頃を彷彿とさせるほどに鋭くなった。


「この間の、アグ・ベアの時さ…………集会場に避難してた?」

「そりゃしてるさ。……そういや、集会場(あそこ)でアグ・ベアを見ているはずなのに、その後も割と普通にしてたな。他の子供たちは、みんなしばらくは怯えてたみてえなのに。」


 自警団員の中には、小さな子供を持つ親もいる。

 そうした自警団員たちが、襲撃から二日経った今でも、子供が怯えていると話をしていたのを耳にした。


「…………あの子、かしらね。」


 ニネティアナが、ぽつりと呟く。


「ん? どうした?」


 ディーゴが尋ねると、ニネティアナが表情を和らげ、首を振る。


「ううん……何でもないわ。そう言えば、リッシュ(この)村では魔獣とか魔物のことって、子供には教えないんだったかしら。」

「ああ、ほとんど出ないんでな。……この村の数少ない、いいところさ。魔獣の類が滅多に出ないなんてよ。他の土地じゃ、子供が犠牲になったなんて話も、時々耳にしたからな。」

「そうね。」


 この環境は、本当に恵まれていると言っていいだろう。

 魔物や魔獣による、痛ましい被害がほとんどないなんて。


 そんな話をしながら、夕食を終える。

 ディーゴはニネティアナに気を遣い、あまりお酒を飲まないようにしていた。

 授乳中で飲みたくても飲めない、ニネティアナに合わせているのだ。


 その後、泣き出したデュールをディーゴがあやすのに苦労し、ニネティアナは微笑みながら、慌てふためくディーゴを眺めていた。

 そんな、いつも通りの団欒の時間が過ぎていった。







■■■■■■







 翌日、ニネティアナはデュールを連れて、村の中を散歩していた。

 この散歩自体は、日課のようなものだ。

 デュールは様々な物を見ては、「あー……」とか「だぁー……」と言って手を伸ばす。

 好奇心の強さは血のせいか、子供なら誰でもこうなのか。

 そんなことを思いながら、村の東の端まで足を延ばす。


 冒険者をしていたニネティアナからすれば、村の中を歩き回るくらい、何でもない。

 まあ、散歩の目的はデュールに外を見せることなので、ゆっくりと歩くことになるが。


「確か、こっちだったかしら……。」


 以前、行き倒れた子供の話を聞いた時、その子の家がどの辺りなのか聞いた憶えがあった。

 ニネティアナは東の柵に着くと、今度は南に向かって歩く。

 聞いた話では、ノイスハイムさんの家は南東の外れの方だったはずだ。


「だぁー……。」


 咲いていた花を一つ取って、デュールに持たせると、口に入れようとした。

 ひょいっと取り上げると、必死に手を伸ばしてくる。

 再び口に入れないように注意しながら、デュールに持たせてやる。


 南東の外れの方に着くと、いくつかの家が点在していた。

 一軒一軒が五十メートル以上も離れているが、ニネティアナはその辺りをぐるっと回ってみた。


「いないわね。」


 ニネティアナは、気配を察知することが得意だ。

 わざわざその家のドアをノックして声をかけて、なんてことをしなくても、近くまで行けば在宅か不在かくらいは分かる。


「んー……っ。」

「よしよし、いい子ね。」


 少しむずがり始めたデュールをあやし、軽く揺すってやる。

 この気配を探るというのは、意外と子育てにも役立っていた。

 軽く揺すってやる時、それを心地よいと感じているか、却って落ち着かなくさせているか、気配で分かるのだ。

 おしめやお腹が空いたなど、明らかな原因がある時は別だが、ちょっとむずがるくらいは簡単に寝かしつけることができた。


「……作業している所を、うろちょろしてるって言ってたわね。」


 腕の中でデュールが眠り始めたのを確認し、ニネティアナはディーゴから聞いていた作業場に向かった。







 ニネティアナは、最近ディーゴに付きまとい始めたという子供に、少し興味があった。

 それは、アグ・ベア襲撃の時に集会場で見かけた、ある一人の子供のことかもしれないと思ったからだ。


 魔獣、アグ・ベア。

 冒険者のような、戦うことを生業にする者でも、逃げ出したくなるレベルの魔獣だ。

 勿論、勝てない相手ではない。

 一対一では難しくとも、パーティーを組んだ冒険者なら、それなりの腕があれば問題ない。

 だが、油断できるような魔獣ではなかった。


 アグ・ベアの咆哮は心身を竦ませ、立ち向かおうとする意志を砕く。

 鋭い爪や牙も脅威だが、何より恐ろしいのは、その馬鹿げた腕力と生命力だ。

 一体二体のアグ・ベアによって、壊滅した村もある。

 アグ・ベアとは、それほどまでに恐ろしい魔獣だった。


 そんな魔獣が、このリッシュ村に現れた。

 ごく普通に暮らす人々からすれば、あの魔獣の姿を目にするだけでも、震えが止まらないだろう。

 それが普通だ。


 魔獣の襲撃を予見し、ニネティアナもデュールを連れて避難することになった。

 村の自警団に任せることには大いに不安があったが、我が子(デュール)を命懸けで守れるのは(ニネティアナ)しかいない。

 仕方なく、ニネティアナも集会場に避難することにした。


 集会場の窓が破られ、アグ・ベアが姿を見せた時、大人も子供も関係なく泣き叫んだ。

 建物を揺らすほどの咆哮に、怯えない者などいない。

 …………普通なら。


 遠くからアグ・ベアの咆哮が聞こえるだけで、多くの人が怯えていた。

 そんな中、一人だけ変な子供がいた。


 その子供は周りの人が怯える様子を、()()していたのだ。

 不安に押しつぶされそうになっている人々を見て、まるで()()()()()()ような感じだった。

 そりゃ怖いよね、と。


 それは、ニネティアナと同じ心情だ。

 アグ・ベアや、もっと恐ろしい魔物や魔獣と対峙してきた経験のあるニネティアナと、同じ心情なのだ。


 その子供のことが気になり、じっと見ていると、不意に目が合った。

 その子の目に、怯えが無いわけではない。

 しかし、それ以上に()()()()()()


 残念ながら、それが何なのかまでは分からない。

 ニネティアナも、不穏さを感じ取りむずがり始めたデュールをあやさなくてはならなかったから。


 そうしてアグ・ベアが集会場の周辺にまでやってきて、窓ガラスが割られた。

 アグ・ベアの姿、その咆哮に集会場内はパニックになった。

 ニネティアナも、必死にデュールをあやしながら、自分がどう動くべきか考えた。

 もはや、集会場は安全ではなくなった。

 ならば、逃げるか、立ち向かうか。

 選択しなくてはならない。


 そうして考えている時、ふと目に入ったのだ。

 母親らしき女性に覆い被さられながらも、必死な形相でアグ・ベアを睨みつける子供を。

 右手を伸ばし、懸命に何かを掴もうとする子供。

 ニネティアナには、それが何をやっているのかまでは分からなかったが、普通ではない。

 覆い被さる女性を振り払い、魔獣に飛びかかるのではないかと心配になったほどだ。


 大人も子供も関係なく、泣き叫ぶパニック状態の中、あの子供だけが異質だった。

 その時の様子を、ニネティアナははっきりと憶えていた。







 ニネティアナが作業場の方に歩いていると、一人の子供を見つけた。

 作業している自警団員たちからは少し離れ、地面に座り込んで眺めている。


(やっぱり、あの時の子ね……。)


 横顔に見覚えがあった。

 確かに、集会場でアグ・ベアを睨みつけていた子供だ。


 一人で、何の準備もなく十数キロメートルも離れたコトンテッセに行こうとした。

 アグ・ベアの咆哮にも怯まず、睨みつけていた。


(……………………。)


 正直に言えば、他人(よそ)の家の子供がどうなろうと、知ったことではない。

 それでも、元冒険者として魔物や魔獣の怖さを知らないまま子供が被害に遭うようなことは見逃すべきではない、という思いがあった。

 教えて、それでも魔物や魔獣に近づくなら、そんな馬鹿のことは放っておけばいい。

 この村の方針も理解できなくはないが、すでに知らない方が危険な子供がいる。

 ならば、それを教えてやるのは元冒険者としての義務のようなものだ。


 ニネティアナは、その子供の横に立った。

 だが、その子は考え事でもしているのか、ニネティアナに気づかない。


(…………確か、ミカって言ってたっけ。)


 昨夜、ディーゴがそう呼んでいたような気がする。


「こんにちは、ミカ君。」

「え?」


 ニネティアナが声をかけると、その子供はびっくりした表情で振り返る。


(こうして見ると、本当に女の子みたいな顔ね。)


 そんなことを思う。

 集会場で見かけた時は、あまり男の子か女の子か気にしていなかった。







「…………なるほどぉ。そうなると、見た目は似ていても、生物としての構造は丸っきり違いそうですね。もしかしたら体内にあるっていう魔石は、魔獣にとっては生命活動で何か役割を持っているのかもしれないですね。」


 ニネティアナの説明に、その子供は腕を組んで真剣に考え始めた。


「…………ガス交換を行う、肺みたいな機能を持っていたりするのかな……? 不要な物質を取り込み、必要な物質を分泌してたり?」


 何やら、ぶつぶつと呟いている。

 少し話をしただけだが、やはり普通の子供とは物事の捉え方が違うような気がした。


 それは最初から言えたことで、会ってすぐに足音に探りを入れる辺り、「同業者か?」とついおかしくなってしまったくらいだ。

 そんな子供が、この子の他にどこにいるというのか。


 始めのうちは警戒してか、必死に何かを隠そうとしていたが、慣れた者ならそうした意図自体を隠す。

 やはり、丸っきり素人ではあるのだが、どうにもアンバランスな子だ。


 ある程度予想はしていたが、その子供は冒険者や魔獣に興味があると言った。

 だが、どうにもしっくりこない。

 隠された意図がありそうだった。

 目の輝かせ具合から、冒険者や魔獣に興味があると言うのも、嘘ではなさそうだが。

 とはいえ、そこまでを探るには、ここで少し話をするだけでは難しい。


 しかし、話をしてみて収穫もあった。

 この子は好奇心が強い。――――それも、異常に。

 ある程度その欲求を満たしてやらないと、自力で何とかしようとしてしまうのではないだろうか。

 誰にも言わず、何の準備もせず、コトンテッセに向かったように。

 ニネティアナは、そう結論付けた。


 しばらくいろいろと話をしてあげると、デュールが目を覚まし、むずがり始める。

 ニネティアナは、これはお腹が空いたのかな、と話を打ち切った。


「また話してあげるから、もう自警団の人たちの邪魔しちゃだめよ?」


 そうしてその子と別れると、すぐにニネティアナを探るような気配がしてきた。

 どうやら、足音をさせない斥候(スカウト)だった頃の癖が、気になるようだ。

 立ち止まって振り返ると、その子はびっくりしたような顔で固まった。

 その様子がおかしくなり、ニネティアナはつい微笑んでしまう。


(……子供らしからぬ、物事の捉え方。かと思えば、丸っきり子供のような好奇心。)


 そもそも、ニネティアナの説明に、なぜ普通についてこれたのか。

 理解力が、尋常ではない。

 たびたび飛んできた質問も、的を射ていた。


 だが、話をしていて、面白味も感じてしまった。

 それはまるで、『駆け出しの冒険者』に先輩としていろいろ教えてあげている。

 そんな気分になってくるのだ。

 相手はまだ、たった七歳の子供なのに。


(これは、とんでもない子供を見つけちゃったかも……。)


 嵐の予感、とでも言えばいいのだろうか。

 ニネティアナの勘が囁いていた。


 ――――この子はきっと、とんでもないことをやらかす。


 ディーゴが言っていたように、確かにこの子は、いつか絶対に何かやらかすだろう。

 そんな気がする。


 帰り道、デュールをあやしながら、そんなことを思うニネティアナだった。





【後書き】


 いかがだったでしょうか。

 本編でも匂わせたり、ミカに予想させていましたが、ニネティアナがミカという子供に興味を持ったきっかけのお話でした。


 もう一つ書きたいお話があり、次回はキフロドとシスター・ラディのSSを予定しています。

 こちらは本編でも軽く触れるだけで、詳細が出なかった内容です。

 気長にお待ちいただけると有難いです。


 最後に宣伝を。

 書籍版「神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す」の第一巻が現在発売中です。

 書き下ろしエピソードあり、追加要素ありの内容となっております。


 こちらは、アース・スターノベル様の特集ページのURLです。

 桜河ゆう先生による、綺麗なイラストもご覧になれます。

 https://www.es-novel.jp/bookdetail/168kaminokiseki.php


 書店様によっては特典SSがありますので、特集ページをご確認の上、ご購入いただけると嬉しいです。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。


 それでは皆様、またお会いしましょう。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう周りからミカを見た話はいいですね
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